第364話 √3-16 気になる彼女は○○○で×××で。
生徒会打ち上げ終了後のこと。
約一時間でお開きになったというのも、役員の疲れがピークに達していたからだ。
会長すやすや、ユイは俯いているかと思ったら睡眠。チサさんもぼんやりとパソコンの画面を見つめて、福島は突っ伏。クランナもこっくりと船をこいでいて、何故か元気……まあ一応起きてるからそうとも言えるけども、俺と姉貴だけが生き残っていた。
「みんなお疲れだね」
「だな」
この会話はお開き五分前のこと。
「じゃあな、クランナ」
「……はい」
……え? 今までシカトだったのに……返して来た? そう思って俺がクランナを見ているのに気づいたか、
「こ、これは特に意味はないですわ! ……一応下もそれなりに頑張っていましたし、ごくわずかですが態度を軟化させようと思っただけで、意図などありません!」
手を胸の前で振って否定のジェスチャー。まあ分かってるさ。
「ああ、そう? まあ、明日は休みだからゆっくり休んでな」
「……分かっていますわ」
会長やチサさんが帰り、福島も帰り、クランナを見送ると。副会長こと姉貴が生徒会室に戸締りをする。
職員室までついて行き、既に寝歩きしているユイと肩を組んで移動させる。なんてーか、二人三脚で慣れたからユイと肩を組むのもすっげえ自然な気がするな。
「お疲れ、姉貴」
それは昇降口を出て、少し暗くなり始めた空の下で俺はユイに肩を貸しながら、隣を歩く姉貴にそんな言葉をかける。
「ユウくんこそお疲れさま。アナウンス大変だったでしょ?」
「声が枯れた」
「ちょっと掠れ気味かもね……家に帰ったらのど飴なめましょ?」
「そうすっかなー」
皆疲れていたり、生徒も気遣って指摘しなかったがアナウンスの終盤は声がかすれ始めていた。
今はもっとひどいものの、生徒会役員全滅でツッコム気力もなかったと解釈しておく。
「ユウくんの雄姿はしっかり録音してあるから、楽しみだよー」
「げ、録ってあるのかよ」
「もちろん! 大事な弟のユウくんの晴れ舞台だもんね!」
姉貴って、放任主義で仕事一直線の母のせいで、やっぱり俺たちの母さんみたいな役割も持たざるを得ない。
こうして柔らかに言う姉貴は、母性に満ちていると言ってもいい。
「大好きなユウくんの生声でもあるんだけどね……ハァハァ」
……本当になあ。
「まあらしいし、いっか」
「ん? 何が?」
しっかりとした副会長としても、優等生としても、少し弟の俺に甘い姉貴としても――それが姉貴なのだろう。
そんなこと何年も前から知ってるけどな。
「ユウくん、どーゆーこと?」
「教えない」
「ユウくんお姉ちゃんに冷たいなあ……小さい頃は”ミナお姉ちゃんと結婚するー! って言ってたのに”」
「ば、ばか! 言ってたの姉貴じゃねえか!」
「もちろん言ってたよー」
そんな風に二人話すというのもなかなかに新鮮だった。
「もう……食べられないと見せかけて食べられるよぉ……」
一方のユイは一体何の夢を見てるんだろうな?
「ただいまー」
「ただいま!」
「…………すー」
三人での帰宅。そして玄関では、
「お帰りじゃ」
「お帰りなさい!」
桐とホニさんが出迎えてくれるのだった。
* *
『ミユさん、残念でしたね』
「な、何が……?」
私がパソコン画面に映るムービーを見終えたところで、画面内のポリゴンキャラクターにそう話しかけられる。
『もしミユさんが学校に行っていれば、下之ユウジと二人三脚で肌と肌が――』
「黙れぇ、変態プログラム!」
『それにしても下之ユウジはまたまた……さて今回はどんな女の子と付き合うのでしょうか』
「知らない! ユウ兄がどうなろうと、妹の私には関係ないもん」
『義妹や、年下容姿の神様とは付き合ってますけどね』
「うるさい! 音声ミュートにしてやる」
『え、それは――ぁ――』
「ったく……」
でも、やっぱり羨ましいのは確かで。ユウ兄も本当に元気に、変わったんだな、と思ってしまう。
分かってるけど、置いてかれてく……




