第361話 √3-13 気になる彼女は○○○で×××で。
『体育祭午後の部開始です!』
俺のアナウンスを皮切りに拍手が沸き上がる。観客や生徒のノリが良いだけ助かるな。
見ているだけにお祭り好きな生徒アンドその親アンド町民だけはある。
『お昼ごはんを食べ過ぎていませんか? 少しだけ競技はお休みしての、初っ端は応援団となります! それでは各組応援団どぞー』
この応援団はクラスの有志が行うもので、参加しなくてはならない決まりは無い。
ただ、盛り上がる。応援団の方々はキツいかもしれないけども、これから始まる体を動かす走競技までの休憩延長分と思ってもらえればいい。
『一組応援団お疲れさんー、それでは二組応援団ドウゾ!』
二組は福島と男島の熱血系スポーツ組ツートップ。福島が学ランを、男島がチアリーダーという後者に至っては誰得なのだが、それなりにウケた。
もともとさっぱりとした性格と、髪もポニーテールにしての学ラン姿の福島は髪の長い美少年さながらだ。男島はもともとガタイが大きいのにチアリ――もう、いいや。
『お疲れさまでしたぁー、それでは飛んでの六組――』
こうして応援団合戦が終わり、第一競技の二人三脚が始まる。
* *
『下之ユウジ君の競技出場の為、アナウンス変わりまして下之ミナです』
ユイが今までは代替していたのだが、今回ばかりはユイと俺のペアなだけあって忙しいであろう姉貴に頼んだ。
やはり姉貴はこのような場ではキリリとして透き通る声で副会長になってくれる。
『――ちなみに下之ユウジ君は私の弟です。大好きです!』
…………なってくれなかった。やっぱり姉貴のままだった。
生徒待機席の方からは「名字同じだからまさかとは思ったが」「似てないな、あの姉弟」「仲がいいのなあ」「ユウジコロス」などと聞こえてくる。
まあ、姉貴もモテるしなあ。最後のセリフはそれからなのだろう、ものすっごく理不尽だけども。
『それでは二人三脚の出場者は集合場所に移動してください。ユウくん頑張って!』
いや、さ。このスタート地点から声を張り上げてもしょうがないけどよ。
……色々と止めてほしいわ。恥ずかしい以上に敵が増えるんだよな、その一言一言で。
「はぁ……」
「ユウジはお姉ちゃんッ子だからぬ」
「いや、姉貴が俺を溺愛してるだけだから」
「おおう……自覚があるのに驚きだ、まさか溺愛されていると自白するとわ」
さりげなく言ってしまったが、ユイが少し引いていた。
「……てかなんでお前がペアなんだろうな」
「厳選なるくじ引きの結果なのだの! アタシじゃ不服か?」
「いやー、ユキか姫城さんが良かったイテッ」
そう言った途端に、二人三脚の基本姿勢的な肩を組んでいるユイに肩をつねられた。
「なにすんだよ」
「……ばか」
そっぽを向いて何か呟いたが、聞こえないのはデフォ……じゃなかった。小さい声でいいやがるからいけない。
「ユウジ、とりあえず勝つぞ」
「俺も負けるのは好きじゃないからな」
負けず嫌いな方だとは思う。
「そういやユイって結構胸あるのな」
「ここで言うなよ!?」
素直な感想を述べてみた。実際練習の時も傍で見てると分かるし。
「てかユイって眼鏡外すと――」
「うるさい! とにかく勝つぞ!」
赤面がちのユイに押し切られると、言うのを諦める。
眼鏡を外すと――33みたいな感じになってるんじゃないかと思ったが、どうなんだろうな。
ちなみに、一位を取れた。
ユイとはなぜかペースが合うので、順調にゴール出来た。なんだろうな、ユイとは色々と波長が合うようだ。
まあ、
『ユウくん頑張ってえええええええええええええ』
というアナウンスからの偏り過ぎた応援のおかげ(主に恥辱を理由に指す)で速足になりがちだった。
そしてユキと姫城さんペアも一位。なかなかに好成績を叩きだす二組、で二人三脚終了のお知らせ。
* *
『お疲れ様ユウくん! 頑張ったね、流石だよユウ――』
『……いや、副会長マイク入ってるから』
『意図してた!』
『タチ悪いよ! とにかく、姉貴……副会長は戻って戻って』
『うん、わかったー』
姉貴が離脱すると同時に「はい、お茶」と手渡して来た。なんというか、過剰でさえなければ良い姉なのにと何度も思う。
『さあさ、三年生からの綱引き決勝戦! 予選は授業や事前練習で終了していて、その頂上をこの体育祭で決定されます! そして勝ち残ったのは――』
体育祭委員がぞろぞろと整えて、勝ち残ったクラスの生徒が集まる。
ちなみに俺たち一年二組は予選敗退済み。まあ、総じて体力はあまりないのかもしれん。
* *
『次は部活対抗リレー! 各それぞれの 部活の代表が運動部文化部問わず争います! ちなみにクラス点には入りませんが、良い成績を残すと生徒会からの予算追加のチャンス!』
「「おおお!」」
今回のサプライズで、会長や姉貴やチサには了解済み。およそ一割を向上する予定で、なにげに大きいことだ。
『運動部からは、陸上にサッカー、バスケや野球。卓球やテニスにバトミントン、ゲートボール――』
それぞれ部活動のユニフォームで行う為、ジャージこそ羽織るものの競泳水着装備の女子水泳部はそそられる。
もちろん、言いはしないが。
『文化部からは、美術部、合唱部、合奏部、文芸部、隣人部に料理研究部改めゲーム研究部に第一新聞部に第二新聞部とSOS――』
ということで、
『位置に付いて――!』
ちなみに皆ガチ走り。優勝は陸上部――ではなくまさかの茶道部だった。
* *
「ユウ、分かったわ」
「え、いきなり……」
いきなり現れてはそんなことを言うチサさんに驚きを隠せない。
「あのトラップ群の犯人よ。まさか奴らだったとは驚きだわ、妙にこだわっている上にお金もかかっているの」
確かに、謎クオリティに謎のこだわり。工学部も確かに有るにはあるが……何かが違う気もする。
それと誰にも気づかれずにトラップを設置する、という身のこなし。
「奴らって――」
するとマイクがオンにもなっていないのに、スピーカーに軽いノイズが走る――
『非公式新聞部プレゼンツ! エンターテイメント障害物リレェェェェェェェ!』
マジか。




