第8話
王城・王の私室。
重厚な扉が閉じられ、外の騒がしさが消える。
呼ばれて入ったセシルは、状況の深刻さにすぐ気づいた。
国王と王子ノエルが、険しい顔で机の上の箱を見ていたのだ。
「セシル。……つい先ほど、“見つかった”」
国王の声は低く、重かった。
ノエルが蓋を開けると、丁寧に封じられた一つの書類と、黒い水晶球が現れた。
「これは……?」
「リリア嬢が“隠したはずのもの”だ」
ノエルは水晶球を持ち上げた。
「王宮の記録庫の奥、何層もの防壁の裏に隠されていた。
──だが、父上と協力して探した結果、偶然……いや、必然的に見つけたと言える。」
国王は書類をセシルに手渡す。
「開いてみなさい。お前の疑いは正しかった」
セシルは深呼吸し、封を切る。
中には──
“カタリナが罪を犯した”とされる根拠になった書類。
しかし、それを裏付ける補足欄に、決定的な異変があった。
「……魔力の字体が、複数混ざっている……?
これは……明らかに作為的です」
「そうだ。」
ノエルが言葉を継ぐ。
「王家の魔導士が解析した。
この書類には“カタリナ嬢の魔力ではない魔力痕”が上書きされていた。
しかも──“リリア嬢の魔力”と一致した」
セシルの手が震える。
怒りではなく、確信が形になった瞬間の震えだった。
「殿下……。では、この書類は……」
「リリア嬢の“捏造”だ。
そして、それを裏付けるもう一つの証拠がこれだ」
ノエルは黒い水晶球──“魔導式監視装置”──に魔力を込めた。
すると、空中に淡い映像が浮かび上がる。
王宮の廊下。
夜。
人影がこそこそと歩き、扉の奥に消える。
そして──
映像の中心に立っていたのは、リリアと侍女ニーナ。
二人が何かをやり取りし、書類らしきものを棚の奥深くに押し込む姿が、鮮明に映っていた。
ニーナ〈「こんな奥に……絶対に気づきませんよ……」〉
リリア〈「いいのよ。誰も疑わないわ。
あの子が“転落”するなんて、当然のことなんだから」〉
その声が、まるで耳元で囁かれたように響く。
セシルの胸が、圧し潰されそうになる。
「……これが、決定的証拠だ。
カタリナ嬢は、何一つ悪くない」
ノエルははっきりと言い切った。
国王も頷く。
「処分の取り消しはすぐに行う。
だが──リリア嬢とニーナの処罰は慎重に進めねばならぬ。
王宮は“嘘を許さない”という姿勢を示す必要がある」
セシルは深く頭を下げた。
「ありがとうございます……!
これで、お嬢様の……カタリナ様の名誉が守られます……!」
普段決して涙を見せない彼の目が、微かに潤んだ。
ノエルは微笑む。
「君は本当に……彼女を大切にしているんだな」
セシルは少しだけ顔を伏せた。
「……はい。
あのお方が、傷つく必要などないのです」
拳を握る。
守る決意を、再び胸に抱いて。
「私が、必ずこの真実を伝えます。
カタリナ様に……“あなたは何も悪くない”と」
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それは、二人の未来を左右する大きな一歩だった。
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