第6話
翌朝。
カタリナがまだ眠っている時間、セシルは王城にいた。
理由はひとつ。
**“王子から呼び出しがかかった”**からだ。
王子ノエルは、セシルとは幼い頃からの友。
信頼できる人物だが──
彼の表情は、いつになく深刻だった。
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大広間に入ると、最初に口を開いたのはノエルだった。
「セシル。……カタリナ嬢の件で、気がかりな報告がある」
「殿下、何か掴まれたのですか?」
ノエルは頷き、周囲に誰もいないことを確認してから声を落とす。
「まず最初に、父上──国王が動いた。
今回の“処分”の裏に、どうも不自然な点があると気づかれた」
セシルの目が鋭く光った。
「やはり……」
「そして、王宮の記録庫を調べたところ……」
ノエルは一枚の書簡をセシルに渡す。
セシルは広げ、目を走らせ──息を呑む。
「……これ、は……!」
「そうだ。
カタリナ嬢に不利な“事件の証拠”は、本来そこに保管されていないはずの場所から出てきた。
しかも……誰かが意図的に置いた形跡がある」
セシルの拳が静かに震える。
「殿下……誰の仕業だと?」
ノエルは一瞬、言葉を躊躇った。
だが、はっきり告げる。
「……今のところ、最も怪しいのは──リリア嬢だ」
セシルの顔が険しくなる。
「やはり……!」
「ただし、まだ証拠にはならない。
ただ、ひとつ気になる話がある」
ノエルは歩きながら続ける。
「侍女のニーナが、事件の直前に“誰かと密会していた”という噂だ。
そしてその後、ニーナはリリア嬢の部屋に出入りする頻度が不自然に増えている」
セシルの背に怒りが走った。
しかし彼の声は低く、静かだった。
「殿下。私は冷静に調べます。
……ですが、もし本当にお嬢様を陥れたのなら──」
「わかっている、セシル。
あくまで“真実”を掴むまで、誰も動くな。
だが……君が一番、苦しんでいることも知っている」
ノエルは穏やかに言葉を添えた。
「カタリナ嬢は、ここ数日、君が支えているのだろう?
……その優しさは、彼女に必ず届いている」
セシルは思わず目を伏せる。
「……届いていてほしいです。
あの方は、自分が誰にも必要とされていないと……そう思い込みやすい方ですから」
ノエルは微笑む。
「そんな彼女の傍に“君”がいる。それが何より大きい」
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会話を終え、王城を出たセシルは、歩きながら深く息を吐いた。
リリアの部屋を訪れようとして止められた昨日。
そこに、“理由”があることがほぼ確信に変わっていた。
(……やはり、お嬢様を陥れたのは──)
胸の底で、静かな怒りが燃える。
だが同時に、カタリナの疲れた顔が脳裏をよぎる。
(……今日も、支えないと)
セシルは足を速めた。
彼女の元へ戻るために。
新たな情報を武器に。
そして、誰よりも強い想いを胸に。
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