第9話
午後。
控室に戻ったカタリナは、いつものように背筋を伸ばして座っていた。
だが、どこか落ち着かない空気を纏っている。
「……あの、セシル?」
カタリナの声は、ほんの少し震えていた。
廊下の影から現れたセシルは、深呼吸ひとつ。
そして彼女の前に丁寧に跪く。
「お嬢様。……大事なお知らせがあります」
「な、何ですか……?」
セシルは手に持つ書類と小さな魔導式水晶球を差し出す。
「カタリナ様を陥れた、全ての“証拠”を確認しました」
カタリナの瞳が揺れる。
息を呑む音まで、彼女の耳に届く。
「……私……本当に、無実なんですか……?」
「はい。
すべての魔力痕と映像を解析した結果、書類の改ざんはリリア嬢によるものです」
セシルが水晶球を淡く光らせると、昨夜の廊下でのリリアとニーナの動きが再現される。
カタリナは手を口に当て、思わず小さな声を漏らした。
「……っ……そ、そう……なの……」
セシルはそっと彼女の手を取り、握る。
背が大きい彼の手は、いつもよりずっと温かく、力強い。
「お嬢様、もう心配は無用です。
誰も、カタリナ様を責めません。私は……ずっと、守り続けます」
「……セシル……ありがとう……」
涙をこらえていたカタリナが、思わず肩を震わせた。
セシルはそっと膝に手を置き、彼女の背中を軽くさすりながら優しく微笑む。
「……もう泣かなくても大丈夫ですよ」
耳元で低く囁くその声に、カタリナの心はほぐれていく。
「……本当に……本当に、あなたがいてくれてよかった」
「お嬢様が無事でいてくださるなら、私は何もいりません」
背の高さで包み込むように座るセシル。
カタリナは思わず身を寄せ、頭を彼の肩にのせる。
二人だけの静かな時間。
事件の影はまだ消えないが、少なくともこの瞬間、カタリナの心は守られたのだ。
「……ねぇ、セシル」
カタリナが小さく呟く。
「はい、お嬢様?」
「……私……もう少し、甘えてもいい?」
「もちろんです。
お嬢様が望むなら、私は一生、傍にいます」
二人の距離が自然に縮まり、部屋には静かで温かい幸福感が漂った。
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