責任の一端
それをあっけなく認めた先生は、私に肩をすくめて見せた。
「まあ、かつての仲間がやらかしたことだからな。俺もその責任の一端を担うことにしたんだ。拒否することもできたんだが、……王都から離れて地方のド田舎の教会の神父をすることになったんだ」
「え? 先生が?」
「すげえ、似合わねえけどな」
けらけらと笑った兄さんの声が遠い。それじゃ、まるで、私、置いてかれるようなものじゃないか。
「フィーネ?」
あ、と思った時にはもう遅かった。泣いていた。
「おいおい、どーしたんだよ。フィーネ?」
「せんせ、私は……?」
聞かなきゃいいのに、聞いちゃった。
その声にか、ショウさんはふっと笑って兄さんの首根っこをひっつかんで医院へと戻っていった。先生は、ばつの悪そうな顔をしている。
「いやな、別に黙ってたわけじゃないぞ? ……その、ただ」
「ただなんですかっ!」
声をはね上げると、びくっと先生の体がはねた。そして、本当に気まずそうな顔をして私の前に膝をついて、そして手を取った。
「ここから遠い。でも、責任の一端を担う取引として、場所を指定させてもらったんだ」
何が言いたいのかわからない。
握られた手をぎゅっと握ると、同じだけの強さで握られる。
「ここから、見れば、北西の国境近くの村、ヴァレアの村に赴任することになった。……ここは、移民が多く、極端に人と混血児の境、垣根が低いことで有名な村だ」
「……え?」
「……だから、その……」
先生の言葉に頭が追い付かない。極端に人と混血児の垣根が低いって、どういうこと。この国にそんなところがあるのだろうか。
「その村に、一緒にいかないか。王都より、快適なはずだよ。こそこそと隠れずに、のびのびと暮らせる。だから、ここを離れて、……。でも、その代わりに、君は、兄とお母上をこちらに残すことになる。……言ったんだが、お母上までは盛り込めなかった」
すまん、と短く告げる言葉に、唖然として、そして、そろりとうかがうように先生の紅い瞳が私を見る。
「ここを離れて、俺とともに、来てくれるかい? フィーネ?」
かみ砕いた言葉に、ようやく理解して、不安そうに揺れる紅い瞳に、本当なのだと実感できて、私は、泣き出していた。
「泣くなよ。どうすればいいかわかんなくなる。そんなにいやか?」
先生も泣きそうだ。
首を振って手で涙をぬぐおうとするが先生に捕まえられている。
「じゃあ……」
どうしようとおたおたしている先生に膝をついて近づいてそのまま胸に飛び込んだ。
「フィーネ?」
そのまま、抱き着いて、しゃくりあげていると、先生はふっとため息をついて抱きしめてくれた。
「どうして泣いてる? 嫌か?」
首を横に振る。まだしゃべれそうにない。でも。
「うれし、泣きです……っ」
それだけ言うと、先生ははっと息を吸いこんでそのままゆるく吐き出して、私をきつく抱きしめた。
「そうか」
心底安心したような声に、私は、先生の腕の中で、泣きながらも笑みを浮かべていた。




