表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
人狼のフィーネ  作者: 真川紅美
終章
40/42

責任の一端

 それをあっけなく認めた先生は、私に肩をすくめて見せた。


「まあ、かつての仲間がやらかしたことだからな。俺もその責任の一端を担うことにしたんだ。拒否することもできたんだが、……王都から離れて地方のド田舎の教会の神父をすることになったんだ」

「え? 先生が?」

「すげえ、似合わねえけどな」


 けらけらと笑った兄さんの声が遠い。それじゃ、まるで、私、置いてかれるようなものじゃないか。


「フィーネ?」


 あ、と思った時にはもう遅かった。泣いていた。


「おいおい、どーしたんだよ。フィーネ?」

「せんせ、私は……?」


 聞かなきゃいいのに、聞いちゃった。


 その声にか、ショウさんはふっと笑って兄さんの首根っこをひっつかんで医院へと戻っていった。先生は、ばつの悪そうな顔をしている。


「いやな、別に黙ってたわけじゃないぞ? ……その、ただ」

「ただなんですかっ!」


 声をはね上げると、びくっと先生の体がはねた。そして、本当に気まずそうな顔をして私の前に膝をついて、そして手を取った。


「ここから遠い。でも、責任の一端を担う取引として、場所を指定させてもらったんだ」


 何が言いたいのかわからない。


 握られた手をぎゅっと握ると、同じだけの強さで握られる。


「ここから、見れば、北西の国境近くの村、ヴァレアの村に赴任することになった。……ここは、移民が多く、極端に人と混血児の境、垣根が低いことで有名な村だ」

「……え?」

「……だから、その……」


 先生の言葉に頭が追い付かない。極端に人と混血児の垣根が低いって、どういうこと。この国にそんなところがあるのだろうか。


「その村に、一緒にいかないか。王都より、快適なはずだよ。こそこそと隠れずに、のびのびと暮らせる。だから、ここを離れて、……。でも、その代わりに、君は、兄とお母上をこちらに残すことになる。……言ったんだが、お母上までは盛り込めなかった」


 すまん、と短く告げる言葉に、唖然として、そして、そろりとうかがうように先生の紅い瞳が私を見る。


「ここを離れて、俺とともに、来てくれるかい? フィーネ?」


 かみ砕いた言葉に、ようやく理解して、不安そうに揺れる紅い瞳に、本当なのだと実感できて、私は、泣き出していた。


「泣くなよ。どうすればいいかわかんなくなる。そんなにいやか?」


 先生も泣きそうだ。


 首を振って手で涙をぬぐおうとするが先生に捕まえられている。


「じゃあ……」


 どうしようとおたおたしている先生に膝をついて近づいてそのまま胸に飛び込んだ。


「フィーネ?」


 そのまま、抱き着いて、しゃくりあげていると、先生はふっとため息をついて抱きしめてくれた。


「どうして泣いてる? 嫌か?」


 首を横に振る。まだしゃべれそうにない。でも。


「うれし、泣きです……っ」


 それだけ言うと、先生ははっと息を吸いこんでそのままゆるく吐き出して、私をきつく抱きしめた。


「そうか」


 心底安心したような声に、私は、先生の腕の中で、泣きながらも笑みを浮かべていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ