ある団体の娘
ここは、私の住んでいる場所でもあり教徒たちが集う場所でもある。
美しく広大な日本庭園の中に大きく構える1軒のお寺。
時折ここに教徒たちが集まって、教祖が祖先である私のお父さんが教えを説いているわ。
みんな、温かい緑茶を飲み、“おむすびせんべい”や“ラッキーターン”、“おいもチップス”とかのお菓子を食べながら気楽にね。
でも、今日はいつもと違って私たちの表情は深刻だった。
「教主様、どうします? やはり、あの類いのものは私たちが対応するべきでは?」
1人の教徒が現教主である私のお父さんに問いかける。
今日、報道されたあのニュース…。あのニュースがこの話し合いを開くきっかけになったの。
私たちが信仰している祀神教は、とてもマイナーな宗教。
多分、この庭園の辺りに住んでいる近所の人たちも知らないんじゃない?
一応この場所は、宗教の名にちなんで祀神苑て名前があるんだけどね。
そして、祀神教を信仰する人は皆、ある力を持っている。
霊や思念が視えたり、肉眼では見えないくらい遠方で起こっていることを理解したり…。後、予知や予言、正夢を見る人だっているわ。
みんながみんな、そうじゃないけど自分の力に悩んでここに来ている人が多いの。
こういった霊力を持つ人たちを募って悩みを解消したり、力の制御ができるように支援するのが私たちの目的の1つ。
自分の霊力をコントロールできるようになると、視たくないときに幽霊とかを視なくてすむし、常に他人の未来で視界が覆われてまともに歩けないなんてこともなくなるわ。
私も小さいときは色んなものが視えて恐かった。墓参りとかほんとに地獄。
なんで血一滴も繋がってない幽霊が絡んでくるのよってずっと思ってた。先祖のお墓の隣だったから親近感でもあったのかしら…。
まぁ、今となっては完璧にコントロールできて墓参りも快適よ。大好きな先祖しか見ないようにしているわ。
死んでるクセに口うるさく言ってくるひいばあちゃんは大嫌い。死人に口なしって言葉、知らないのかしら。
ええと……は、話しを戻すわ!
ええと……そう、あのニュース。世間では、緑の災害と呼ばれているあのブロッコリーよ。
数日前……いや、もう1週間前くらいになるのかな? 私たちは人に取り憑き、悪行を働こうとする神の存在を政府に開示した。
だいぶ昔に、ある地域で学生同士の抗争が起きたの。喧嘩とかじゃなく本当の殺し合い…。
当時は世間を騒がせたらしいけど、今では知る人のほうが少ないと思う。
明確な原因や生徒たちの動機は不明。今回起きた緑の災害と同じようにね。
祟りとか神の怒りとか言う声もあったけど、それは割と当たっている。
あの殺し合いが起こってからよ。霊でも思念でもない……神が見えるようになったのは。
私が生まれたときには、それは当たり前になっていて見分け方をお父さんから教えられた。
霊は生前の姿をしているから一目でわかるけど神は違う。これと言った実体がないから分かりづらい。
黒い靄のようなものだったり、人や動物の姿をしていたり様々よ。
人や動物の姿をしている場合、見て判断するんじゃなく自分の霊力を高めて感じ取る必要があるの。
ただ、ある特定の場合だけは見るだけでわかる。
人に憑いている神のほとんどは、憑いている人間と同じ姿でぴったりとついて行っている。
人に憑いた神は悪行を働くの。昔起こった学生の抗争も、今回の災害もそう…。
憑かれた人間はその邪神に操られ、利用されると言われている。
最近、人に憑いた邪神を見かけることが多くなってきていた。
何か起こってからでは遅いと思い、政府にその存在をお父さんが報告したわけ。
『貴重な情報をご提供いただきありがとうございます。邪神の存在を重く受けとめ、対策を慎重に考えさせて頂きます』
みたいな返事をされたらしいけど、多分信じてないでしょうね。
結局、国は何もせず災害を引き起こさせてしまった。
説明長くなったけど、国が動かないなら私たちで何とかしようって話し合いしているところなの。
“こういう類いのものは私たちで対応するべき”か…。
確かにそうかもしれないけど、方法は? 浮遊霊や地縛霊を天界へ導いたり、残留思念を浄化したりするのとは訳が違う。
霊力が高く制御も上手くできる人の中で、悪霊を祓う霊能者や未来を予知する占い師とかはいるんだけど…。
相手が邪神となると話は変わってくるわ。
邪神は憑いた人間を通して強大な力を際限なく使うことができる。もし、邪神が暴れて抵抗すると私たちは無事じゃすまない。
なら、為す術はないのか。邪神が尽くす悪行の限りを指を咥えて見ていることしかできないのか。
いいえ、1つだけ邪神に対抗できる手段があるわ。
埒が明きそうにない話し合いが続く中、私は机に両手をついて立ち上がった。
「あの術を私が習得するわ。それで片っ端から邪神を祓っていく」
“あの術”という言葉に反応してみんながざわつき始める。
あの術とは…、強大な力を持つ神を祓う術のこと。
今からおよそ3000年前、私たちの教祖とその弟子たちはこの術を使って幾多の邪神と戦っていた。
この時の宗教名と今の宗教名は全く異なる意味を持つもの。
今は祀神教、“神を祀る”。
人と神、お互いに尊重し共栄を目指すといった考えがある。
あの時代は、これとは真逆で祓神教。“神を祓う”といった意味が込められている。
この時は邪神の存在しか認知されていなくて、基本的に神は悪いものとされていた。
だけど、私たちの教祖は戦っている内に、悪い神もいれば良い神もいるのではと考え始めたの。
ここではないどこか別の世界…、天界に善良の神がいると考えた教祖は天に向かってお願いをした。
神と人間との境界線を作ってほしい。神は天界に、人は人間界に…。
その願いを、善良の最高神はある条件をもって聞き入れた。
その条件とは…、人間たちだけで人間界を治め、秩序を保つこと。
そう約束したはずなのに、あの抗争以来邪神が目撃されているのよ。ついには実害までも…。
その時代のことを詳しくは知らないけど、間違いなく今の方が平和なはずよ。
私たちは約束を守っている。守ってないのは最高神、貴方のほうよ。
貴方が守らないのなら、こっちだって手段は選ばない。
みんながざわついているのは、乱暴だとか神との約束だとかじゃなくて…、
「そんなすぐには無理です。あれは大昔に使われた術…。それに習得自体かなり難しく、当時使いこなせていたのは教祖様と3人の弟子だけです」
すぐにできるものじゃないから。もしかすると、習得すらできないかもしれないと…。
そうこうしている間にも実害が相次いだらどうするんだという不安。
「半年……半年で必ず習得するわ。それまで平和であることを祈るしかないけど…」
「無茶です! 他に良い方法を考えましょう!」
私の言い分に悉く反発する教徒たち。
私はてきとうな理想論を言っているわけじゃない。私ならできるという自信が根底にあるの。
なぜなら…。
私は両手を腰に当てながら左足を机に上げ、自信のある笑顔を見せた。
父「こ、こら、行儀の悪…」
「私は教祖様の血を引いた直属の祖先、御門 伊織よ! 半年後、必ず習得して人間界に蔓延る邪神を一掃するわ!」
私ならできる。やってみせる。
私が生まれてから17年間、ずっと平和だったこの国の安寧を取り返してみせるわ!
【 新・生徒会編 ー 完結 ー 】




