王の一撃 - 鬼塚 琉蓮③
2限目のチャイムが鳴って10分くらい経ったのかな?
今、僕はリングの上で全校生徒に見られている中……、
雲龍「悪口とか………不満とか………何でもかんでも………人のせいにするな!」
ブンッ
校長先生のパンチを必死に躱しまくっている。
この先生の身体、限界まで鍛え上げられている。一撃でも僕に当たれば、まずいことになるだろう。
どんな筋トレをしたら、こんな至高の肉体に辿り着けるのだろうか?
何度躱しても先生はバテることなく、怒声を放ちながら次々とパンチを繰り出してくる。
雲龍「暴力とか………脅迫とか…………するな!」
やってないって! 超特大ブーメラン発言だよ、それ!
1つのパンチにつき、1つの叱責が僕に襲いかかる。って言っても、理不尽な発言ばかりなんだけど…。
校長先生の年齢はぱっと見、50代前後。なのに、先生からは全くの疲労が感じられない。
はぁはぁ……ダメだ、僕の方がふらついてきた…。
雲龍「避けたり………逃げ回ったり………ちょこまかするな!」
息を整えようと両手を膝に置くや否や、すかさずパンチを放ってくる校長先生。
渾身の力を振り絞って、僕は後ろに飛び退いた。
クソッ、何て理不尽なんだ!
ふらつきながらも何とかパンチを躱し続けているけど、もう僕の身体は限界だ…。
多分、明日、絶対筋肉痛になる。こんなことになるなら普段から運動しておけば良かった。
…………いやいやいや。そもそも学校でリングに立たされることなんてないだろ!
雲龍「なぜ、儂の突きが当たらない?」
連続でパンチを放っていた先生の動きが止まった。
ようやくバテてきたのかな? ロープに電気が流れてなければ、とっくに逃げ出せているのに…。
文月「どうだ? 一方的に殴られる気持ちは?」
うわっ! びっくりした!
突然、後ろから文月くんが現れて僕は反射的に飛び退いた。
文月くん、ここに来たときから思ってたけど体調悪いのかな?
いつもより全身が青白い気がする。
水瀬「琉蓮! 後ろ!」
友紀くんの声を聞いて僕は咄嗟に振り返る。
背中を向けた僕に校長先生はここぞとばかりにパンチを放ってきていた。
彼のお陰でそれに気づき、咄嗟に避けようと身を捻ったんだけど…。
大して運動神経の良くない僕は足が絡まってバランスを崩し、ついロープにもたれかかってしまった。
高圧な電気が流れていると言われたロープにだ。
ビリビリビリッ!
水瀬「琉蓮! そんなぁ!」
僕に手を伸ばしながらそう叫ぶ友紀くん。
雲龍「儂の言うことを聞かない素行の悪い生徒め。当然の報いだな」
いや、これ……、
本当に電気流れてる?
雲龍「これが先生に逆らった生徒の末路だ。彼も黙って儂に殴られていればこうにはならなかったはずだ」
校長先生は皆の方に向いて僕を指さしながら、もっともらしいことを言い始めた。
黙って殴られろって…。当たり所悪かったら殴られても死ぬと思うんだけど。
水瀬「琉蓮、起きてくれ! 死なないでくれ!」
彼はロープにもたれかかったまま動かない僕を見て、目に涙を含んでいる。
僕は大丈夫だよ、友紀くん…。
これ……、
とっても気持ち良いんだ。
身体が適度にブルブル振動して、疲労した僕の筋肉をほぐしてくれている。
やっぱり、若干の電気は流れてるみたいだ。ちょうど肩も凝り気味だったから助かる。
猿渡「おかしいな……。おい、お前、黙って座ってろ」
文月くんに猿渡と呼ばれていた彼は首を傾げつつも、騒いでいる友紀くんに命令した。
水瀬「うるさい! 友達が……人が死にかけてるんだぞ!」
彼が普通に言い返すと、猿渡くんは更に首を傾げて怪訝な顔をする。
猿渡「どういうことだ? なんでこいつに効かない?」
彼の言ってる意味…。そして、友紀くんの言っていた能力を持った人の存在。
みんなが生徒会の恐れているのは多分、彼が能力で何かをしているから?
でも、友紀くんには何故か効かなくて疑問に思ってるって感じかな。
そろそろ起きないと…。
気持ち良すぎて、ずっともたれていたいけど、彼にこれ以上心配かけさせるわけにはいかない。
文月「やはり君には、大した電圧ではなかったようだな」
そう思った矢先、青白い文月くんは元気のない小さな声で話しかけてきた。
ちょうど立ち上がろうとしたタイミングで…。
これは、まだマッサージを受けてもいいという神のお告げだ。きっとそうに違いない。
それに僕は文月くんのことも心配だ。立ち上がるのは彼の体調を確認してからにしよう。
僕は猿渡くんと言い合っている彼を見つめる。
ごめんね、友紀くん…。後もうちょっとで肩凝りが治るかもしれないんだ。
校長先生に聞こえないように小声で話そう。僕が何やってもキレそうだから。
校長先生は既にリングから降りていて、御影先生と話をしている。
僕はそのままの姿勢で文月くんに話しかけた。
「文月くん、全身が青白いけど風邪引いたの?」
文月「下らない冗談はやめろ。これがホログラムってことくらいわかるだろ?」
ほ、ほろ…? な、何だろう? 重さの単位かな? まぁ、思ったより元気そうだし良いか…。
文月「少しはやられる側の痛みがわかったか? 見た感じ、無傷みたいだが…」
彼は右肩を抑えてそう言った。
やられる側の痛み?
文月『憶えてないのか? 君が僕にしたことを!』
僕をリングに連れてくるときに言った彼の言葉が頭をよぎる。
やっぱり、あのときのこと……怒ってるよね…。
文月「まぁ、そんなことはどっちでも良い。それより、さっさと校長を倒してくれ。君が校長から逃げ回るのは僕にとっては都合が悪い」
文月くん、今何て? 校長先生を倒せって?
「むむむむ無理だよ! 絶対無理!」
バレないように意識していたのに、僕は思わず声を上げてしまった。
僕の声が体育館に響き、全員こちらに注目する。
は、恥ずかしいな。し、視線がとても眩しいよ…。
御影先生や校長先生ももちろん僕のことを見ている。
声を上げたせいで、彼らにも生きていることがバレてしまったんだ。
水瀬「琉蓮! 良かった、生きてた!」
2代目文月くん2号の友紀くんは喜んでくれてるけど、元祖文月くんは大声を出した僕に対して小さな溜め息をつく。
御影「あら、雲龍校長…。彼、まだ生きてるじゃない。それに貴方の攻撃、1発も当たってなかったみたいだけど? どういう風の吹き回しかしら?」
それを聞いた校長先生は、わなわなと震えて再びリングに戻ってきた。
僕に向ける先生の顔は、殺意と怒りに満ちている。
どうやら、マッサージの時間はもう終わりみたい。だいぶ肩凝りも治った気がするし、そろそろ立とうか。
僕は立ち上がり、リングに上がってきた校長先生と対面した。
………顔こわっ。先生が生徒に向ける顔じゃない。お父さんに言いつけてやろうかな?
雲龍「儂の攻撃を全て躱すとは…。お前、ただ者じゃないだろ。お陰で儂は御影先生にお叱りを受けたわけだ」
なんで校長先生のほうが立場が下なのか疑問なんだけど、今は躱すことに集中しないと。
雲龍「こんな青二才に技を使うのは癪だが、当たらないのなら仕方ない」
先生は納得のいかないような顔をしながら、武術のような構えをとった。
右手は開いて角度は床と平行に、位置はお腹の前辺り。左手も開いた状態で角度は床に対して30°くらいかな? 胸辺りに置いている。
どこかで見たことあるような…。
文月「鬼塚、もう終わりだ。校長は本気。あの構えをとった校長の攻撃は1つも躱せない」
後ろから彼が囁くような声で話しかけてくる。
え、あの構えってそんなに強いの? それが本当だとしたら、マジでまずい…。
このロープの電気は大したことない。全力で走れば大丈夫かな?
文月「逃げるなよ? どうせ躱し続けるのは無理なんだ。君が奴をぶっ飛ばせばここにいる生徒が救われる。悪くないだろ?」
後ろのロープをチラッと見た僕に、文月くんはそう言う。
ダメだ……それだけは……。
僕が人に手を出すことは絶対にあってはいけないんだ。
もう誰も傷つけたくないから。
文月「………聞いてるのか?」
校長先生は構えた状態で深呼吸をした後、立ち尽くしている僕に向かって迫ってきた。
文月「奴を倒せ。ここで逃げたら、過去に君がしたことを僕は絶対に許さないからな」
過去に僕が彼にしたこと。
あの事件が起こってから僕は、自分のことが恐くなって、とても消極的で……とても臆病になってしまったんだ。




