着任式 - 水瀬 友紀③
陽が新しい先生2人を軽く紹介する。
1人は校長先生。年は50代くらいで鍛え上げられた体格をしている。
前の優しい校長先生とは違って強そうで威厳のある先生だ。
もう1人は、羽柴先生の代わりに来た先生。
30代くらいの女性で、少し目がギョロッとしていてちょっと不気味な感じがする。
見た目で判断するなと思われるかもしれないけど、こっちも色々あったんだ。
僕らに危害を加える神憑かもしれないと疑う自分がいる。
羽柴先生は歴史を教える先生だった。なのに、代わりに来たあの先生の担当教科は英語。
普段なら何も思わないけど…。歴史の先生が欠けてるのに、なんで英語の先生?
やっぱり僕ら特質持ちを処分するために送られてきた刺客なんじゃないかと勘ぐってしまう。
獅子王「次に新任の先生による着任のご挨拶です。先生方、お願いいたします」
陽は僕らにそう言ってから後ろに振り向き、新任の先生2人に一礼した。
先に立ち上がったのは、英語を担当する女性の先生だ。
彼女は、陽からマイクを受け取って演台に立った。
「みなさん、こんにちは! 改めて自己紹介させていただきます。御影 丸魅と申します。よろしくお願いいたします!」
彼女はハキハキとしたよく通る高めの声で挨拶してからお辞儀をする。
『よろしくお願いしま~す…』
対して僕らは、バラバラで元気のないいつも通りの声で返事をした。
御影「さっき、この学校を一通り見て回りました。良い雰囲気の学校ですね。活気が良くて皆、仲が良い。そんな学級を多く見受けられました」
確かに…。他のクラスのことはあまり知らないけど。
僕のクラスはそんな感じ。みんな賑やかで優しくて、お互いを尊重している。
喧嘩やイジメなんて絶対起こらないと言い切れるクラスだ。
御影「私は羽柴先生が受けもっていた生徒会をまとめるように言われてます。獅子王くんがいれば私なんて必要ないと思いますが。ねぇ、獅子王くん?」
獅子王「あはは! そ、そんなことないですよ。僕なんてまだまだ未熟です」
不意に褒められた陽が少し照れくさそうに頭を掻いた。
第一印象で警戒してたけど、普通の先生かな? そもそも、特質持ちや神憑ってそうそういるものじゃないか。
彼女は僕らの方に向いて、力強く握った拳を前に出した。
御影「私はこの素晴らしき学校を維持していきたいと思っています! そのためにはみなさん1人1人が毎日幸せに、楽しく学校生活を送ることが大前提です。何か困ったり辛いことがあったらいつでも相談してね。え、何? この長話が苦痛だって? 心の声が聞こえたわよ! 後で全員、職員室に来なさい。以上です」
体育館内にどっと笑い声が起こった後で、みんなの大きな拍手が響き渡る。
この先生、普通を通り越して大当たりじゃないか。これからの英語の授業は楽しくなりそうだ。
御影先生は後ろに座っている新しい校長先生にマイクを手渡した。
次は校長先生の挨拶だ。この人はどんな感じなのかな?
これから話が始まるのかと思いきや、校長先生は立ち上がって、受け取ったマイクを………
バキッ
へし折った…。
体育館内に響いていた笑い声は、一瞬にしてどこかに消えてしまう。
陽の紹介によると、校長先生の名前は、雲龍 武蔵。
マイクへし折るくらい屁でもなさそうな名前ではあるけど…。
雲龍校長は真っ二つに折れたマイクを両手に持ち、僕らを睨みつけた。
雲龍「イジメとか………暴力とか…………人を傷つけるようなことは…………するな!」
静まり返った体育館内に彼の怒声が何重にもなって反響する。
確かにこの声量ならマイクは必要なさそうだ。いや、そんな問題じゃない。
マイク、素手でへし折るって…。絶対、特質か何か持ってんじゃん。
後、なんでいきなり怒ったの?
御影「雲龍、やめなさい!」
………え? よ、呼び捨て?
御影「し、失礼…。雲龍校長、止めてくださるかしら?」
雲龍「す、すみません…」
御影先生が制止すると、彼は素直に謝った。
この2人、どういう関係なんだろうか。立場的には校長先生のほうが上なんだろうけど、御影先生に従ってる感が否めない。
普通に新しくやって来た先生たちじゃない気がする。もし、2人が先生のふりした何者かで、手を組んで何か企んでいるとしたら…。
御影先生も校長と同じく、何かしらの能力を持っている可能性が高い。
敵か味方か判断するのは早いけど、やっぱり警戒しておいたほうが良さそうだ。
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陽のフォローもあって、少しトラブルになりかけた着任式だったけど無事に終了した。
約束通り、僕は琉蓮とクラスの近くの廊下で合流。休み時間は少ししかないけど僕らは話せるだけ話した。
鬼塚「景川くんもその類いかもしれない」
彼が特質に興味を持っていたのはそのためだ。景川は突然クラスを移ってきて、能力らしき何かで不良を懲らしめたらしい。
その一件で、琉蓮のクラスメイトは彼に怯えて従っている。
「今日来た新しい先生なんだけど…」
僕は新任の先生を警戒していることを彼に伝えた。彼に伝えてどうにかなるということはない。
けど、友達の彼には無事でいてほしいんだ。特質や神憑の脅威を知っているに越したことはない。
羽柴先生のような殺意のある能力者と遭遇したとき、何も知らなかったら絶対ただではすまないと思うから。
御影「何を話してるの?」
いきなり背後から聞こえてきた低い女性の声に肩が竦んで、身体中に鳥肌が立つのを感じた。
ちょうど彼女について話していたところだったから。聞かれてないだろうか…。
僕は頑張って平然を装い、ゆっくりと振り返って笑顔を作った。
「鬼塚くん、ハワイ旅行に行ってたんです。それでどんな感じだったのかなって思って話してました!」
悟られないようにやり過ごそうとしていたのは琉蓮も同じだったんだけど…。
鬼塚「そ、そうなんですよ。めちゃくちゃ楽しかったなぁ………お父さんと………2人きりの……………ハワイ旅行」
彼は話している最中に、父親との気まずさを思い出したのか真顔になって俯いてしまった。
ある意味、誤魔化そうとしているのがバレた気がする。
御影「うふふ……」
ぎこちない僕らを見て、御影先生はおしとやかに笑う。そして、次に言った彼女の言葉に対し僕の身体は硬直した。
御影「あまり詮索しないほうが良いわよ」
気にしすぎだろうか?
俯いた琉蓮をフォローしているようにも感じるけど。もし、さっきの会話を聞かれていたとすると…。
御影先生は自然な笑顔で僕らを見ている。どっちにも取れる表情だ。
御影「琉蓮くん、久しぶりの学校で慣れないかもしれないけど頑張ってね! 何かあったらいつでも相談して」
彼女はそう言って、職員室の方に歩いていった。
緊張が解けた僕らは、一度大きく溜め息を吐く。
鬼塚「僕もスマホを持たないと…。こういう話を直接するのは危ないから」
スマホか…。ジミーズのみんなにもこのことは連絡しておかないとな。
「うん、あったほうが便利だと思う。他の特質を持っているみんなにも警戒するよう伝えておくよ」
僕はスマホをポケットから取り出して、グループチャットの画面を開く。
……………。
ジミーズって何か自分で言うの嫌だな。もっと良い名前はないのだろうか。
送信し終えると、ちょうど授業開始5分前を知らせる予鈴が鳴った。
もうすぐ、授業が始まる。
僕と琉蓮は一度解散し、お互い自分の教室へ向かった。
結局、この日は何事もなく終わった。まぁ、何もないのが普通だと思うけど。
でも、少し気になったことがある。
生徒会の人たちが放送で呼ばれていたこと。




