死の閃光 - 羽柴 徹②
男虎「うおおぉぉぉぉ!」
男虎先生は私に息をつく間も与えず、ヌンチャクを連続的に振り回してくる。
隙のない動きは変わらず、威力とスピードが増していますね。
何とか躱してはいるが、一撃でも喰らうとどうなることやら…。今の彼に私の打撃を加えるのは不可能でしょう。
私が勝つには、まず距離を取らねば…。ですが、重りを外した彼は格段に速くなっています。
距離を取ろうと後ろに退いても、すぐに間合いを詰められるため意味がない。
つまり、一撃でも良いので彼に攻撃を当てて後退させなければなりません。
まずは、その鬱陶しいヌンチャクを何とかしないと…。
この距離で紫死骸閃を撃つのは危険。近くのものに当てたとき、レーザーの熱で指を火傷することがしばしばあるのです。
そうなれば火傷が治るまで撃てなくなる。
しかし、ジャージを脱いだ彼の手からヌンチャクを離させる方法はそれしかない。
集中して彼の動きを見切り、狙ったところにしっかり当てる。
顔と腹を同時に狙ったヌンチャク捌き。その後、彼は私の脇腹を目がけて回し蹴りを繰り出した。
私はそれらを全て躱し、タイミングを見計らう。何のタイミングか…。
彼の動きを躱しながら、観察をしていてわかったことがあります。
技を出し切った彼は元の構えに戻った。
ここです!
私は両腕を交差させ、人差し指を彼の両手に向ける。
「紫死骸閃・両腕弐指」
そう、彼は技を出し切った後、必ず元の構えに戻るのです。
両手の人差し指から放たれる紫色の閃光、紫死骸閃。私は動きを見定めて彼の両手を撃ち抜いた。
男虎「痛い! この距離でも撃てるのか!」
彼の手から離れたヌンチャクは地面を転がる。紫死骸閃が貫通した彼の両手から少量とは言えない血が滴り落ちた。
貫かれた痛みでもうヌンチャクを握ることはできないでしょう。
そして、一瞬の動揺が僅かな隙を生み出す。私はその隙を見逃さなかった。
___輪廻転身脚。
先ほど繰り出したものと同じ後ろ蹴りで、彼のみぞおちを蹴り飛ばす。
男虎「ぐはぁっ!」
私は彼を再び後退させることに成功。先ほどの蹴りや突きに手応えがなかったのは、砂鉄で急所に響かなかったからですね。
ですが、もう彼の身体を守る重りはありません。今度こそ確実に仕留めますよ。
ドンッ!
………バカな。両手を貫かれ、急所に後ろ蹴りを喰らった状態なのに。指を向ける暇すら与えないというのか。
彼は人差し指を向ける僅かな時間で間合いを詰めてきた。
男虎「生徒たちは儂が守る! 龍風拳!」
手首を捻りながら拳を突き出す男虎先生。かなり変わった突きですね。
動揺したのは私もだった。
反応が少し遅れたせいで、この突きは避けられない。そう悟った私は咄嗟に彼の突きを右腕で上に払った。
彼の腕と接触した瞬間、私の右腕に激痛が走る。
「ぐうっ…! 受け流してもこの威力ですか…」
それと同時に彼と私の間に竜巻が発生。これは何でしょう? 龍風拳とやらによるものでしょうか。
捻りながら打ってきたのは竜巻を起こすため? 考えている余裕は全くもってなさそうですね。
彼は私との間に発生した竜巻を突っ切って攻撃を続ける。
傷を負っても変わらない速さと隙の無さ。そに加えて、受け流しても激痛が走る突きの威力。
さぁ、どうしましょう? 距離を空けられたとしても撃つ前に詰められる。
普通に戦うのはかなり分が悪いと言うことですね…。悔しいですが、男虎先生、貴方は私の実力を上回っている。
姑息な手はあまり使いたくないのですが、そうでもしないと勝てないでしょう。
手段を選ばないと決めた私は、反撃することなく彼の攻撃を移動しながら躱し続けた。
男虎「このまま…! このまま押し切る! 生徒の命は儂が絶対に守ってみせる!」
彼は何も知らずに絶え間なく攻撃を仕掛けてくる。私は為す術がなくただ退いているのでありません。
大体この位置でしょうか? 私は彼に問いかけた。
「ここからなら彼らを一度に貫けるのですが、良いんですね?」
男虎「………っ! やめろ!」
どうやら気づいたようですね。貴方は私を倒すことに集中しすぎました。
最初は的場君たちと私の間に入って戦っていたのに、気づけば都合の良い場所に移動する私を追い続け、彼らはガラ空き。
貴方を直接、倒さずとも彼らを葬ることは可能なのです。
私は両手の指先を彼らへ向けた。
「すみませんね___紫死骸閃・虚空拾指」
私が一度に出せる最大数の紫死骸閃。十の指、全てから発する紫の閃光。
男虎「よせえぇぇ!」
10の直線的閃光は彼らへ向かっていく。ですが、男虎先生の身体能力なら反応できるでしょう。
しかし、これを拳で打ち消すことは不可能。今、閃光の前に立てば間違いなく死にます。
そんなことは意に介さず、彼は生徒を守ろうと3人に迫っていく閃光の前に立ち塞がる。
案の定、10の閃光は彼の身体に命中して風穴をあけた。
わかっていましたよ。自分の命に代えてでも生徒を守ること。
それを見越して彼らに放ったのです。先に貴方を倒さないと彼らを殺すのは無理ですから。
男虎「…………。」
ドサッ
男虎先生の身体は地面に倒れ込んだ。致命傷です。死ぬのも時間の問題でしょう。
的場「勝院……」
まだ余力があるのか名前を呼ばれた男虎先生は、的場君のほうへ身体を傾ける。
そして、彼は右手の親指を立てて笑顔でこう言った。
男虎「あ……アイルビーバック……」
いいえ、貴方がこの世に帰ってくることはあり得ません。
サッカー部である的場君は監督の貴方に好感を抱いているはず。
過度な期待をさせるのは彼にとって良くはない。
的場君は目を潤わせながら、弱々しい声を発した。
的場「とりあえず……明日は部活、休みでいいですか?」
あぁ、残念です。貴方はそれほど慕われてはいなかったようですね。
男虎「いや……代わりの先生がくる。儂がいなくてもしっかり練習するんだぞ…。それと…………………ガクッ」
気になるところで力尽きましたね…。男虎先生、お悔やみを申し上げます。
私は仰向けに倒れた彼に歩み寄る。
貴方は最期まで、立派な先生としての務めを果たしました。
生徒のために命を擲つ姿。最大限に尊重いたします。
私は両手を合わせて彼を弔った。
新庄「お、おい…。てめぇ、自分がしたことわかってんのか?」
私はその声に反応し、目を開けて前を見る。
怒りと人が目の前で死んだ恐怖からでしょうか? 私に問いかける新庄君の声と身体は小刻みに震えている。
「私のすることを受け入れろとか理解しろとか、許してくれなんてことは言いません。ですが、誰かがしないといけないのです」
新庄「意味わかんねぇよ…。なんで俺たちが殺されなきゃならねぇんだよ!」
彼は目に涙を浮かべながら声を荒げた。
確かに…。訳もわからずに死ぬのは嫌でしょう。彼らは当事者です。
私が貴方たちのような生徒の命を奪う理由を知る権利がある。
もっとも、新庄君は神憑ではなさそうなので対象外ですが…。
私は男虎先生から離れて彼らに少しばかり近づいた。
警戒されるのはわかっていますが、遠く離れていては会話はできません。
「わかりました。手を下す前に教えましょう。貴方たちが死ななければならない理由を」




