特質 vs 多数 - 剣崎 怜①
ついに私も前線に出てしまった。
水瀬氏にはああ言ったものの、いざ大勢の敵を目の前にすると恐怖を感じてしまう。
私がグラウンドに続く校舎のドアを開けた瞬間、村川殿の愛車が爆発。
後一歩、遅かったのだ。水瀬氏たちは誰も死なせない想いで戦っていると言うのに。
もっと早く加勢していれば彼を守ることができたかもしれない。誠に不甲斐ない。
水瀬『村川先生……。うっ……うっ……ぐすん』
どこからともなく聞こえてくる彼のむせび泣く声。恐らく先ほど文月氏が撒いた小さなカメラからだろう。
文月氏の近くにいて水瀬氏の声をマイクが拾っているのだと思われる。
泣くのも無理はない。目の前で知っている者が残酷な死に方をしたのだ。
普段、様々なゲームで精神を鍛え上げている私でさえ動揺している。
水瀬『もう……僕は、怖い思いをしなくていいんだ! 先生は死んだ。僕たちはもう何も怯えることはない! バンザーイ! バンザーイ!』
………何? 人が死んで喜んでおるのか? 悲しくて泣いているのではなく嬉し泣きだと…?
私は思わず敵から目を離し、屋上を見上げた。無論、この場所から彼らを見ることはできないが。
水瀬氏、君はそんな者ではなかったはず。
こんな状況だ。きっと精神的に追い詰められているに違いない。
後日、私がカウンセリングするとしよう。
文月『おい、落ち着け。声が大きい。もし、生きていて聞かれたらどうする? 気持ちはわかるが、もう少し静かに喜べ』
今度は文月氏の声が聞こえてくる。
文月氏、君も……。いや、彼はいつも通りだ。
村川「水瀬ぇ! お前も後で職員室に来い!」
………何? 生きているだと?
村川殿は燃え盛る彼の愛車の中から真っ黒になりながら這い出てきた。
運が良かったのか? 汚れているだけで無傷で普通に歩いている。
それとも文月氏がよく言っている特質というものだろうか?
的場「ハッハッハ! 水瀬、終了のお知らせじゃ!」
的場氏は両手を腰に当て、豪快に大きく笑った。
何がそんなに面白いのかわからないが、どうやらツボにはまったようである。
だが、笑っている場合ではない。敵は目前なのだ。
「的場氏、集中するのだ。彼らはいつ殺しにかかってくるかわからない」
的場「ハハッ、すまんすまん…」
私が注意を促すと、彼は頭をぽりぽりと掻いて謝る。
的場「どうする? 二手に別れるか。俺はボールないと本領発揮できんけんのぅ」
確かに…。ボール云々ではないが、私も散らばった方が良いと考える。
彼らの隊列は見事な統率をとっていて中々崩れないだろう。そして強力な遠距離の武器も使ってくる。
まずは的を散らすこと。そして、朧月氏を含めた三方向から畳みかけて統率を乱れさせるとしようか。
亜和校長『人の死を喜ぶなんて何て残虐なんでしょう。でも、皆さん動揺してはいけませんよ。恐らくそれが狙いです』
亜和の校長はメガホンを使って指揮を取っている。
直に次の攻撃がやってくるだろう。
村川殿は買ったばかりの壊れた愛車を嘆きながら去っていった。
これで邪魔者……いや、戦闘に参加しない一般の者はグラウンドにいなくなった。
亜和校長『隊列変形・B、準備! 目標、校舎前の2人及び反対側の1人!』
彼はメガホンを使って生徒たちに指示を出した。
全てこちら側に向いていた隊列の後ろ半分は、ちょうど彼らの後方に距離をとって立っていた朧月氏の方向に振り返る。
半分はこちら、もう半分は反対側と背中合わせのようになった。
「的場氏、来るぞ! 私は右へ。君は体育館倉庫がある左へ行くのだ!」
的場「おう! じゃあの! 死ぬなよ!」
私と的場氏が二手に別れようと反対方向へ走りだそうとしたときに攻撃が繰り出された。
亜和校長『弓道陣形・行射』
隊列の前に出てきた弓道部員たち。彼らが放った数十本の弓矢が私たちに襲いかかる。
およそ3、40本ほどか。間違いなく本物の弓矢である。当たれば突き刺さり大怪我はおろか、当たり所が悪ければ死は免れないだろう。
私の動体視力なら捉えることはできるが、この木刀で全て叩き落とせるか…?
的場「32本…。あぁ、めんどくさい!__砂煙!」
彼は飛んでくる弓矢の本数を正確に数え、グラウンドの砂を弓矢に向かって蹴り上げる。
不思議なことに全ての弓矢は舞い上がった砂煙の前で完全に止まり、そのまま真下に落下した。
これはいったい、どんな特質なのだ?
的場「お前、1人で弓捌ける?」
私の前に立ち、全ての弓矢を砂で撃ち落とした的場氏は振り返る。
「目で捉えることはできるが、あの数全てを同時に打ち落とすのは不可能である。身体の反応が間に合わないだろう。だが、接近戦に関しては自信がある。この木刀で同時に複数相手することは容易い」
普段ヘラヘラしてそうな的場氏だったが、このときだけは真剣な表情で私の話を聞いていた。
的場「じゃ、一緒に体育館倉庫まで行くぞ! 弓矢とか飛んでくる奴は俺が何とかしたる! お前は奴らが接近してきたら対応してくれ!」
つまり、近距離戦は私、遠距離で飛んでくるものは的場氏が対応するということか。
亜和校長『もう一度! 弓道陣形・行射』
彼の指示で再び数十本の弓矢が放たれるが…。
的場「ほい、砂煙。なんべんやっても同じことじゃ」
的場氏は欠伸をしながらそれらを撃ち落とした。
弓矢を打ち落としながら私たちは体育館倉庫へ徐々に近づいていく。
朧月氏が心配だ。
彼は先陣を切って1人で戦っている。それに私たちとは距離が遠く援護ができない。
疲労が溜まった隙をついて殺されるかもしれない。
早いところ、彼とも合流して共に闘うか三方向に分かれて仕掛けたいところである。
亜和校長『チッ! 闘球部隊と剣道部隊は奴らに近接戦を仕掛けなさい! そして引き続き、弓道陣形・行射』
変わらず放たれ続ける弓矢。
それと共にトゲのついた鉄球を肩パット代わりに着けているラグビー部と真剣を持った剣道部がこちらを向かってきた。
ようやく……私の出番であるな。正直、安心している。
弓矢しか飛んでこないのならば、私はただの足手まといだったからだ。
「的場氏は変わらず弓矢を頼む。私は彼ら全員を片付ける」
的場「了解じゃ。ほい、砂煙」
もう弓矢に慣れてしまったのか、的場氏はポケットに手を入れ、私と話をしながら弓矢を撃ち落とした。
私たちの元へ向かってきているのは武装したラグビー部と剣道部。
ざっと50人くらいであるか。これは少しばかり多い…。
10人程度ならば余裕だと思っていたのだが仕方ない。少しだけならバレないだろう。
ラグビー部と剣道部、共に走ってきているが、まだ距離はある。
私はその場に、頭を腕で抱えて屈み込んだ。口元が周りから見えないように…。
的場「おい! 何しとんじゃ! 敵、来よるぞ!」
突然、座り込んだ私に焦った様子の的場氏。
そう焦るでない。よし、これで良いだろう。
私は自分の頭の影で暗くなった足元に唾液を数滴ほど垂らした。
闘球・剣道部隊「うおおおおぉぉ! あの砂かけ野郎をぶっ殺せぇ」
頭を上げて立ち上がると、殺意に満ちた剣道部とラグビー部が目に入る。
今の私の………特質は………
格ゲーで鍛えた動体視力と___唾液滑走。
唾液滑走は体感およそ時速100km/h。
私は彼らの元へ滑って接近。
「君たちの相手は彼ではなく私だ」
闘球・剣道部隊「は、早い…!」
あまりの速さに動揺を隠しきれない様子だ。
私は木刀を左の腰に添えて身構える。
粘縛唾液も唾液滑走もそうだが、今回の技名も今考えた。
「喰らえ___尾蛇剣舞」




