襲来 - 文月 慶⑦
チッ……。3つのカプセルから出てくる彼らを見て思わず舌打ちをしてしまった。
カプセルから現れたのは案の定、3校の生徒たち。学生とは思えないほどの整った隊列をなして順に出てくる。
奴らもバカではない。日下部対策で全員、マスクを装着している。
面倒だな…。彼のオナラがマスクを貫通しなければ瞬殺は不可能だ。
後、樹神のブロッコリー対策かは微妙だが何人かは松明を持っている。
あいつはまたパチンコに行ってて不在。命拾いしたな。今ここにいればブロッコリーごと身体を燃やされて死んでいただろう。
ざっと見た感じ、500人くらいか。こちらの生徒の数の倍はいかない程度。
僕らの奇襲である程度の戦力を削れたのは間違いない。
3つの高校の全生徒を合わせるとよほど少なくない限り、千は超えるからな。
それでも疑問は残る。
日下部が昏睡屁で気絶させた亜和高校の生徒はまだ意識を失ったままだ。
石成高校は生徒こそ封じてはいないが、武器を全て破壊した。
再び造り直して今日に間に合わせるのは“BrainCreate”でも使わない限りは不可能だろう。
つまり、普通なら万全な状態で来れるのは樹神の緑花王国から無傷で解放された七葉高校の生徒のみ。
しかし、奴らは皆、完全に武装して3校の全生徒では無さそうだが揃っている。
果たしてどういったトリックを使ったのか。
『おっほん…。ええ、これより誠に勝手ながら亜和、七葉、石成が吉波高校に戦争を仕掛けさせて頂きます』
メガホンを持った校長らしき人物が隊列の前に出てきて律儀に話し始めた。
『ええ、まずは私、亜和高校の代表としてお話させて頂きます』
体育祭の開会式みたいなノリだな。僕の思っていた学生大戦のイメージとはかけ離れている。
代表ということは亜和の校長だろう。これに続いて後2校の校長も話しをするわけだ。
全校集会の永遠に終わらない“校長先生のお話”がこれから3回続くと考えると地獄だ。
日下部「向こうはこれから殺し合う気でいるのに律儀だね。そういう姿勢、僕は嫌いじゃない」
的場「おい、今のうちに仕掛けようぜ! 先手必勝じゃ」
僕から少し距離を取ったところのフェンスに近づき、グラウンドを見下ろす日下部と、ヘラヘラとした態度の的場。
これから死ぬかもしれないのに、よく平静でいられるな。
水瀬は変わらずテンション高めで、新庄は地面にあぐらを掻いて黙々とスマホのゲームに夢中な様子。
剣崎は持っている木刀をただただ見つめている。
朧月は…………いない? どこに行った? 屋上内をぐるっと見渡すが、彼の姿は見当たらない。
とりあえず、皆怖がっている様子はないようだ。
僕の鬼の脅威と比べれば対人間なんて大したことないのだろうか。
僕は的場の先制攻撃を仕掛けるという提案に対し、それが難しいことを説明した。
「不意打ちしたいのは山々だが、一撃で仕留められるような有効な手段がない。奴らがマスクさえしてなければ日下部の臭いオナラで確実に全滅させられるんだが…」
すると、日下部が少し不服そうな顔をして僕の方へ歩み寄ってくる。
く、来るな…。またあのオナラをかける気じゃないだろうな?
こいつが寄ってきた分だけ僕は後ろに退いた。
日下部「臭いオナラじゃないよ、劇臭屁。君にかけたのは更に威力のある昏倒劇臭屁だ。それに、たかがマスクにシリウス様の放屁が通用しないわけがない。これは人間を超常した力なんだ。マスクを着けてようがいまいが関係ないね」
オナラを喰らわせるのかと思いきや、丁寧に自身のオナラについて語る日下部。
それは朗報だ。シリウスっていうのはわからないが、それが本当なら今すぐこの戦いを終わらせられる。
「本当か? なら、今すぐ君の放屁とやらで彼らを沈めてくれ」
だが、一筋縄ではいかなかったんだ。
彼は少し気まずそうに、そして恥ずかしそうに身体をもじもじしながらこう答えた。
日下部「実は僕……今………便秘なんだ」
………は? その超常的な力はお前の身体の体調如きに左右されるのか?
全くどいつもこいつも融通の利かない奴らだ。
ちょっと待て。よくよく考えたら、かなり劣勢じゃないのか?
日下部「宙屁は出せるんだけどね。それ以外は今は無理」
彼は肩をすくめて申し訳なさそうに溜め息を吐く。
ちょっと黙れ。考えさせろ。今、お前の便秘のせいでヤバい状況かもしれないんだ。
てか普通、便秘なら悪玉菌みたいなのが溜まってもっと臭くなる気がするんだが…。
なんで無臭のオナラしか出なくなるんだ? 特質には謎が多い。
亜和校長『では、私の話はこれで終わります。次に石成高校の……』
石成校長『もう、始めても良いんじゃないですか? 私が話したいことは大体、先生がおっしゃってたので』
七葉校長『私の言いたいこともおっしゃってくださったので特に言うことはないですね』
“校長先生のお話”は思っていたよりも早く、それも1人分で終了してしまった。
まずいな…。頼むから、もう少し話していてくれ。
日下部は便秘で使えない。
新庄の金属バットは強すぎて殺してしまう。
的場は、ただの陽キャラサッカー少年。
そう言えば、剣崎! でも、確かあいつの唾液は……。
僕は後ろで木刀を眺める剣崎の方へ振り返った。
「剣崎、お前の唾え……」
すると、彼はすかさず木刀の先端を僕へ向けてくる。
剣崎「それ以上言うと君の命はない。私の社会的名誉を奪いたいなら己の命と引き換えだ」
だろうな…。でも、唾液を使わないでどう戦う気だ?
大して期待してないが、消去法で1番可能性のある朧月もどこかへ消えてしまった。
もう打つ手がない。なら新庄を…。
万が一、僕らが追い込まれたときの超最終手段だったが。
だが…、いくら暴力脳筋の不良とは言え人を殺させるのは気が引ける。
亜和校長『では始めましょうか。ところで吉波高校の生徒は屋上に6人ほどしかいないようですね』
彼らの目的は勝つことではなく復讐すること。
一般生徒が避難して校舎内にいないのがバレたらそちらに向かうだろう。
時間稼ぎも兼ねて何とか誤魔化したいが、こちらにメガホンはない。
亜和校長『返答がないですね。言葉が出ないほど怖いのですか?』
ガチャッ……
返答する手段がなく、ただただフェンス越しにグラウンドを見つめていると、屋上のドアが開いた。
ドアの向こう側から現れたのは皇 尚人。
何しに来た? 右脇にスーパーに売ってある特大サイズのポップコーンと2Lのコーラを抱えている。
そして左手にはちょうど今、僕が欲しかったもの。メガホンを持っていた。
皇「もう始まるかぁ? 買い出し行ってて遅くなったぜ」
いや、マジで何しに来たんだ? まるで映画を見にきたみたいな感じだが…。
彼はこちらに来てフェンスの近くにあるベンチに腰を掛け、メガホンを渡してきた。
皇「これ、いるだろ? 来る途中にあいつらがメガホンで何か言ってるの見えたからな。こっちも何か決めセリフ的なの言ってやろうぜぇ♪」
ただの偶然か彼特有の勘なのかはわからないが助かる。
これも特質なんじゃないかと思うこともあるが、恐らく違うだろう。
「ちょうど欲しかったところだ」
亜和校長『まさかその人数で…』
僕は皇からメガホンを受け取り、校長に返答。
『そうだ。お前らとの戦争如きに全校生徒の授業を割く訳には行かない。うちは進学校だ。校舎内で皆、授業をしている。殺したければ僕らの攻撃を掻い潜って殺しに行けばいい』
亜和校長『傲慢で失礼極まりない態度。礼儀と言うものを知らない。まぁ、社会に出たことのない高校生なんてそんなものでしょうか。貴方たちには妙な芸があるようですが、流石にこの数を…。まぁ、良いでしょう。貴方たち6人を殺すまでは校舎に手を出しません。精々、頑張ってくださいね』
これだけ距離があると表情を読み取ることはできないが、声の抑揚から苛立ちを感じる。
何とか誤魔化せたが、ここからどうする? 新庄のバットを使わないと絶対に瞬殺される。
あいつさえ、ここにいれば…。
水瀬「もうすぐ始まる。慶、これに勝って学校を救えば僕らにもようやくモテ期が来るんだ!」
今日はずっとこの調子なのか、水瀬? 多分、負けるからそんな未来は来ないと思うが。
それに僕がモテた覚えは確かにないが、君と一緒にはしないでほしい。
亜和校長『最後に何か言いたいことはありますか?』
とりあえず、時間を稼ごう。少しでも長く生きられるように…。
皇「おい、早く始めろ! もうポップコーン開けるぞ?」
そう言いながら、ポップコーンの袋を開ける皇。
お前は死にたくなければ帰ったほうがいい。
水瀬と皇を無視して、僕は時間稼ぎに専念した。
『1つ聞きたいことがある。どうして今日、ここに来れたのか。3日前、僕らが襲撃して普通なら戦える状態ではないはずだが?』
そんなこと簡単には教えてくれないかと思いきや、奴は意外と素直に答えた。
亜和校長『あれは囮の生徒です。戦闘に参加しない文化部や帰宅部の生徒たち。私たちはあの日、貴方たちが来るのを事前にわかっていました。なので、戦闘員になる運動部は自宅待機。破壊された武器もほんの一部でしかない。ほとんどの武器は彼らが持ち帰っていたのです。私たちが何故か貴方たちの作戦を知っていて、この優秀な貴方たちのカプセルを所持している。ここまで言えば察しはつきますね?』
つまり、吉波高校側の先生の中で奴らに情報を流した人がいるということか。
僕のカプセル型転送装置をどこかで拾って渡したんだろう。
鬼には1つずつ人質を転送させるためにカプセルを持たせていた。
新庄は数多くの鬼をグラウンドや道路で破壊している。そこに損傷のないカプセルの1つや2つ落ちていてもおかしくはないだろう。
新庄「あの先生、話長ぇな。で、相手めちゃくちゃいるけど勝てんの?」
スマホのゲームをしながら、グラウンドをチラッと見る新庄。
水瀬「うん、勝てると思う。慶、メガホン貸して」
勝てるのかという質問に、水瀬ははっきりと答えた。
その自信はどこから沸いてくるんだ? ただの痩せ我慢か?
よくわからないが、言われるがままにメガホンを水瀬に渡す。
水瀬『3校の校長先生方、さっき6人て言ってましたけど違います』
亜和校長『ん? あぁ、そうですね。ポップコーンの彼を入れたら7人ですね』
1人や2人、増えても変わらないだろう…。相手は数百人の武装集団だ。
それに皇は増援ではなく、ただの野次馬みたいなもの。
水瀬は目を上に動かすといった、頭の中で数えるような素振りをしてからこう答えた。
水瀬『あぁ、皇入れるんだったら……………8人です』
彼が人数を言った直後、何か空気が変わったような気がした。
僕は亜和の校長から一切、目を離していない。
突如、校長の前に1人の人物が現れる。その生気を感じられない人物は現れたと同時に奴の首を掴んでいた。
___朧月 悠。
いったいどこに行っていたんだ? そして、どこから現れた?
これだけ離れていても恐怖を感じる。額から汗が噴き出して足の震えが止まらない。
最初にここで会ったときとは違う彼の明らかな敵意を僕の生存本能が感知してそうなっているのだろうか。
震える身体を動かし、周りを見渡した。
皇は片手にポップコーンを持ち、全身を小刻みに震わせながら口に運んでいる。
的場「あれはぁ……ヤバいなぁ……」
陽気で怖いもの知らずな感じのする的場でさえも大量に汗を掻きながら苦笑い。
僕らやグラウンドにいる奴ら全員が恐怖で硬直し、しばらく辺りは静まり返った。
『こ、校長先生!』
この数秒間に渡る静寂を破ったのは亜和の校長にいた近くの生徒。
水瀬はこちらに来て、両手の指をフェンスにかけて朧月を見据える。
水瀬「彼は怖い。これほどじゃないけど、面接したときもそうだった。そして、突然消えては現れる。だから、彼の特質を僕はこう名づけた」
神出鬼没の____恐霊。




