襲来 - 文月 慶⑥
水瀬を筆頭に、内申点を渇望している特質持ちたちが屋上へやってきた。
これで来れる奴は全員、集まったか。
まさか、水瀬から借りていたモバイルバッテリーを無くして充電を切らしてしまうとは…。
教室に顔を出すとまずいのは重々わかっていたが、そうするしかなかった。
水瀬「とりあえず、来れる人全員集めたよ!」
この緊急事態を前にして、目を輝かせる水瀬。
何でこんなに上機嫌なんだ? 実は戦闘狂だったのか?
水瀬の他に集まったのは、剣崎、新庄、日下部。後、知らない奴が2人。
獅子王は一般生徒たちを僕が現れたということを名目に学校外へ避難させている。
今は日中…。何かあっても“唖毅羅”に変身し生徒たちを守れるだろう。
そして僕の知らないこの2人は、どんな特質を持っているのかわからない。
知らないとは言っても水瀬が大勢を引き連れて刑務所に来たときに一度会ってはいるが…。
1人は……何と言うか……覇気がない。
身長180センチくらいで細長い体型をしている彼からは、生物が発する暖かみというものが感じられない。
そして、まだ9月で夏の暑さが残る時期だというのに彼は長袖だ。
同級生たちを人質にした僕が言うのもあれだが、彼には冷酷なオーラが漂っている。
目が合っただけで額に汗が滲み、喉元にナイフを突きつけられるような感覚に襲われた。
そして、もう1人は真反対。ぱっと見、明るくハキハキしていて陽気な性格だと言うのがわかる。
髪型は横を刈り上げた短髪で身長は170センチくらいか。僕より少しだけ背が低い。
そして、全員が制服の中、彼だけ明るめの青が基調の半袖の体操服を着ている。
彼は俗に言う陽キャラだろう。まさに陰と陽の対になる2人。
これ以上、考えるのは止めておこう…。もし、背の高い方が心を読む系の特質だったら命の保証はない。
「おぉ~う! 新庄! 久しぶりじゃのう」
短髪の陽キャラは、金属バット“轟”を担いで座り込んでいる新庄に向かって手を上げた。
こいつと知り合いなのか。さすがは陽キャラ。不良とも分け隔てなく接している。
至急、彼ら特質持ちを集めた理由。お察しの通り、奴ら3校の襲撃だ。
僕は彼らに身体を向けたまま、グラウンドを横目で確認した。グラウンドの奥には3つの丸くて巨大な物体が並んでいる。
まだ猶予はありそうだな。
「色々と思うことはあるだろうが…。まずはそこの2人、初対面の人も多いだろうから自己紹介してくれ」
僕がそう言うと、すかさず剣崎が1歩前へ出た。
剣崎「文月氏、そのような余裕はないと思われる。あそこにある3つの巨大な丸い物質は得体が知れない。文月氏の転送装置にも似ているが…。いきなり爆発でもされたら一巻の終わりであるぞ」
「安心しろ。あれは爆発なんかしない。得体の知れないものでもない。あれは____」
紛れもない僕のカプセル型転送装置だ。どこで手に入れたのか知らないが…。
カプセル型転送装置は転送する物体に応じて大きさを変えることができる。
あれだけ大きくなっているんだ。かなりの数の生徒が入っているだろう。
先にこちら側が仕掛けて、来れなくしたはずなのに何故だ?
まぁ、問題はない。水瀬たちはこうなったときのためにできる限り多くの特質持ちを確保した。
5人しか集まらないのに規律の無さが感じられるが、それも今回はさほど問題にはならない。
正直、日下部1人で充分だろう。僕を倒した時みたいに死ぬほど臭いあのオナラをグラウンドにばら撒けば一瞬で終わる。
僕が2人の特質を知りたいのは作戦を立てるためじゃない。ただの興味本位だ。
「__と言うわけだ。どのみち、奴らがカプセルから出てくるまではすることがない。その間にお互い理解したほうが良いだろ? 2人とも名前と特質を言ってくれ。じゃあ、まずは……そちらの……涼しげな方から……お願いします」
僕は背の高い覇気がない方に手の平を向けて自己紹介するよう促すと、彼は冷徹な目で僕を見据えた。
そんな目で見るなよ。恐いだろ…。何か僕に怨みでもあるのか?
あ、あるにはあるか…。初対面でうっかりしてたが、彼も吉波高校の生徒。
人質にして牢に入れた1人だ。
彼は僕を見つめたまま、今にも掻き消されそうな声で答えた。
「……………朧月………悠…………僕の力は……」
いつ死んでもおかしくないか細い声だな。恐いのは見かけだけなのか。
「てか、おめぇ、あのときのテロリストやんけ! 道理で前科持ちみてぇな顔しとう思っとったんじゃ」
朧月と名乗った彼と僕の間に突然入りこんでくる陽キャラ。僕を指さして大きな声を上げる。
こいつ、肝心な特質を言う前に遮りやがって…。
まさか陽キャラにも怨まれるとはな。全てを笑って水に流すような種族にまで僕は嫌悪されるのか…。
「おめぇが拉致ってくれたけん、部活サボれたわ! また生徒、拉致ろうぜ! ハッハッハ」
彼は両手を腰に手を当て、上に向かって大きく笑う。
この陽キャラは僕に怒っていないのか。むしろ感謝している。
あらゆる事に感謝ができる彼は、陽キャラ中の陽キャラ。
まさに陽キャラの鑑。彼の特質も気になるところだ。
朧月の特質は後で聞くとしよう。
「まさか鬼ごっこで感謝されるとは…。君とは気が合いそうだ。特質と名前を教えてくれ」
彼は腰に両手を当てたまま、胸を張ってハキハキと大きな声で答えた。
「俺の名前は、的場 凌! 高校2年生! 17歳! 特技はサッカーじゃ! 俺のシュートは誰にも止められねぇ!」
……………。こいつ、絶対ハズレだろ…。
拍子抜けだ。的場 凌と名乗るこの男は、ただ元気が取り柄のうるさい奴でしかない。
それにサッカー部か。
大砲型転送装置を造っていたとき、1つ水瀬に頼まれたものがある。
どんなに蹴っても持ち主の足元に帰ってくるサッカーボール。
これは、こいつのおもちゃだったわけだ。
僕は2人から水瀬の方へ目を移す。
「水瀬、お前は騙されている。的場はただのサッカー部だ。特質なんて持っていない。そして朧月の方も大して期待はできないだろう」
水瀬「違う! 彼らは説明が下手なだけなんだ。面接した僕から説明する。彼らの特質は………」
ウィーン……
彼が特質について話し出そうとしたと同時に、グラウンドの方から機械の作動音が聞こえてきた。
最悪のタイミングだ。グラウンドにある3つの転送装置の扉が開いていく。
彼らの特質について、非常に気になるところだが、もう話している暇はなさそうだ。
さっさと日下部に終わらせて貰うとしよう。
彼らの特質を聞き出すのはその後だ。
僕は集まった5人の特質持ちと水瀬に背を向け、グラウンド側のフェンスへ近づいた。
「全員、敵襲に備えろ」




