平凡 - 水瀬 友紀⑦
作戦が成功してから3日。本来なら今日は3校が奇襲を仕掛けてくる日だ。
でも、僕らはそれを阻止。彼らはあの日のうちに奇襲をしないという宣言をした。
樹神もあの後すぐに戻ってこれたんだけど、内申点が上がったのを良いことに更にパチンコ漬けに…。
もう勉強しなくても進学は決まったと張り切っている。
そして、今は普通に授業中。そう、僕は今、普通に授業を受けている。
ようやく平凡な日々が戻ってきた。普通に過ごせるって何て幸せなんだろう!
慶が鬼ごっこを起こして以来、色々と忙しかった。
彼がこの学校にいないこと以外は以前と変わりない学校生活。
少し寂しい気持ちもあるけど…。まぁ、あの刑務所はいつでも遊びに行けるからな。
可哀想なのは新庄だ。
昨日、席替えをして彼とは隣になった。相変わらず机に突っ伏して爆睡してるけど。
新庄は僕らに頼まれて転送装置を破壊したんだけど…。その様子をグラウンドで発狂して金属バットを振り回していると思われてめちゃくちゃ怒られたらしい。
そして鬼ごっこ以降、ずっと言われている金髪問題。
金属バットを振り回したことも相まって、後1週間以内に黒にしないと停学処分にすると言い渡された。
あの金属バットを持ってから絶対に黒に染まらないらしいけど、どうするんだろう?
何か先生を納得させる方法があれば良いけど…。
ずっと寝ている彼自身は停学について何も考えてなさそうだけど大丈夫かな?
新庄「ん、うーん…」
あ、起きた。
眠そうに目を擦る新庄は僕の顔をまじまじと見つめる。
新庄「………。えーっと……。剣崎?」
だから違うって…。永遠に怜と間違えられるんだけど。
席も隣になったことだし、次の席替えまでに覚えてほしい。
そういえば、怜にもお礼を言わないと。一緒に大砲を造っていたとき、彼が1番真摯に取り組んでくれていた。
対して皇は開始5分でサボりだしてみんなにちょっかいをかけてばかり…。
作業に呼ぶんじゃなかったと後悔したよ。
日下部も黙々と作業をこなしている感じだった。
慶とは小学校からの同期らしいけど、あまり仲が良くないのか彼らの間には重々しい空気が流れていた。
事情をよく知らない日下部は慶がほんとにテロリストになってしまったと思っているのかもしれない。
そして、慶はオナラをかけられて気絶させられると言う屈辱を味わっている。
こんな2人の間柄が良くないのも仕方ない。
そう言えば慶は念のため、3校が奇襲する予定だった今日まで体育館倉庫にいるんだっけ。
何かあったらスマホに連絡するって言ってたけど、今のところは何も来てない。
こんなに長い間刑務所にいなくてもバレないのかな? 置いてきた身代わりって言うのがかなり有能なのか。
ガラガラッ!
そんなことを考えながら授業を受けていると、教室のドアが勢いよく開いた。
また村川先生か? 僕じゃないよな? 今日は何もしてないと思うけど…。
先にドアの方を見たクラスメイトたちは硬直している。
きっと先生に違いない。僕もおそるおそる開いたドアに目をやった。
「え、慶……?」
しかし、そこに立っていたのは村川先生ではなく、額に汗を掻いて息を切らした慶だった。
なんで教室に入ってきた? 君がここにいるのはまずい。
君を脱走させたのがバレたら、僕らも新庄と同じ停学になってしまう!
「て、テロリストだ…。また俺たちを捕まえに来たのか?」
「や、やめろ…。やめてくれ。もうあんなところ………うんざりだ!」
突然、現れた慶によって教室はパニックになる。
樹神「黒い……デカい……ゴキブリ? う、うわああぁぁぁぁ!」
鬼に捕まったときのことがフラッシュバックしたのか、頭を抱えて叫ぶ樹神。
いや、君がパニックになるのはおかしい。作戦を打ち合わせたとき、普通に会って話してたじゃないか。
文月「水瀬! それと新庄!」
慶は息を整え、パニック状態になっている教室内を見渡してから声を張り上げる。
それと同時に教室内は静まり返った。怒りや恐怖の感情が静寂の中に渦巻いている。
みんなからすると自分たちを拉致したテロリスト。こうなることは慶も予想できたはず…。
それを踏まえた上で僕らに直接、何かを言いに来た。かなり嫌な予感がする。
教室が静かになったのを確認して、彼は僕らを見据えてこう言った。
文月「緊急事態だ。至急、特質持ちを集めて屋上に来い。僕は先に行っている」
息を整えたのも束の間。彼はそう言い残し、階段のある方へ走っていった。
新庄「え? 俺も?」
名前を呼ばれた新庄は、きょとんとした表情で、自分の顔を指さして首を傾げる。
平凡な毎日はしばらく先になりそうだ。
小林「だ、大丈夫? 今の文月くんだよね?」
黒板の前で授業をしていた小林先生は、心配そうな顔をして僕らの席へ。
慶がやって来るまでに受けていた授業は数学。世界一優しい小林先生が担当の教科だ。
僕は小林先生から、さっき慶が開けたドアへ視線を移す。
「せんせ…、いや、こばちゃん。授業を抜けさせてください」
小林「え…? あぁ、そういうこと…。先生は事情を聞いてるから何となくわかるよ。無理はしないでね」
少し頼りないけど、優しい包容力のある声だ。貴方のお陰で僕は立ち向かう勇気を貰える。
僕は背後に座っている新庄の方へ振り返り、座っている彼に手を差し出した。
「新庄、行こう。みんなを集めるんだ」
新庄「お、おう…」
彼は少し戸惑いながら、机に立てかけていた金属バットを持ってゆっくりと立ち上がる。
僕らは先生やクラスメイトに背を向けたまま歩いて、廊下へ続くドアの前に立った。
そして、振り返ることなく僕はこう言うんだ。
「学校の平穏、守ってきます」
き、決まった…。
僕は渋いセリフを決めて教室を飛びだした。
ふぅ……、言ってやったぞ。いつもはあんなこと絶対言わないから心臓がバクバクしている!
あれはかっこいいよな! これで学校を守れば僕にモテ期が到来するはずだ!
僕らは今、普段は走ってはいけない廊下を駆け抜けている。
新庄「おい、何だよあのセリフ…。マンガじゃねぇんだからよ。さすがにダセぇぞ」
僕の後ろから着いてくる新庄が怪訝な顔をして物申してきた。
モテ期が来そうな僕に嫉妬しているのかな? 君も同じくらい渋いこと言えば良かったのに。
あ、そういえば…。
僕はあることを思いつき、スマホをズボンのポケットから取り出した。
特質を持った人たちに屋上に来るように連絡しておこう。
歩きスマホよりもっと危険な走りスマホだけど、急を要しているから仕方ない。
慶はなんでわざわざ言い来たんだろう? 連絡してくれれば良かったのに。
走りながら連絡を終え、屋上に続く階段を上っていく。屋上に向かう際、職員室を横切るんだけど…。
ちょうど僕らが職員室を通るとき、歴史を担当している羽柴先生が出てきた。
「あ、羽柴先生! 学校の平穏は、僕らにお任せください!」
僕はスマホを持ってない方の手を上げて大きく振る。
新庄「だからそれやめろって! 俺まで恥ずくなるんだよ!」
…………!
先生がこっちに向いたとき、僕は戦慄し背骨を引き抜かれるような感覚に襲われた。
羽柴先生の目から、冷ややかな殺意を感じたんだ。
……………。まぁ、そりゃそうか。いくら注意しても髪を染めない金髪の新庄が悪いと思う。
気を取り直して行こう! 僕は複数の女子からモテている自分の姿を想像しながら屋上へ向かった。




