作戦決行 - 文月 慶④
大砲が発射されてから僅か10秒ほど。まもなく彼らは各学校へと到着する。
ここから先、僕が指示することはない。何かトラブルが起こったときに無線で連絡することならあるかもしれないが…。
モニター越しに見るグラウンドでは3人を送り出した水瀬が寂しそうに佇んでいる。
「お前も見にくるか? そこにいても暇だろ?」
水瀬『いや、君がそこにいるとバレたらまずい。僕も彼らの健闘を見届けたいけどここで待つよ』
まぁ、それもそうだな。あまり用のない体育館倉庫を出入りしていると怪しまれるリスクがある。
そう言っている内に3人とも各校内上空に侵入したようだ。
『おい、あれ何だ? 人が……空を飛んでいる?』
『こっちに向かってきてるぞ!』
『え、ゴリラ?』
『な、なぁ……あの制服………吉波高校……だよな?』
各々、思うことはあるだろう。僕も最初に特質を見たときはそうなった。
目の前で何が起こっているのか理解するのに時間がかかることだろう。
僕の思惑通り、敵は動揺しており攻撃を仕掛けるのが遅れている。今がチャンスだ。この隙に一斉に畳みかければすぐ終わる。
彼らの活躍を1人ずつ見ていこう。
『撃ち墜とせ! あいつは敵だ!』
3校の中で1番早く迎撃しようとしてきたのは亜和高校だった。
1人の生徒が動揺しながらも空を飛ぶ日下部を指さすが、既に手遅れだったみたいだな。
『うっ……。何だ身体が……』
僕自身、何が起こったのか画面越しに見てもわからない。
彼は学校内の上空を飛び回っていた。ただ、それだけで亜和の生徒たちは次々と倒れていく。
グラウンドを見る限り、意識のある生徒は1人もいない。
新手の技か? 僕が喰らったものとは違って激臭に苦しむような様子はなく、まるで眠るように彼らは崩れ落ちていった。
日下部『空襲型・昏睡屁。これで彼らは僕の意思以外では目を覚まさない』
どうやらそのようだ。彼も剣崎の唾液と同じく様々な種類の放屁を繰り出せるのだろう。
今度、どんな性質の屁なのか聞いてみるか。まぁ、僕をテロリストだと思ってるから教えてくれないかもしれないが…。
ーー
【空襲型・昏睡屁】
昏倒劇臭屁と違って即効性はないが、この放屁によって昏睡状態に陥った者は劇臭屁を嗅がない限り目を醒ますことはない。
日下部 雅はこの放屁で亜和の全生徒を眠らせ、吉波への侵攻を不可能にした。
ーー
亜和は問題なく制圧。負傷した生徒は誰もいない。作戦大成功と言ったところだ。
さて残りの2人は大丈夫だろうか。日下部は空中からの攻撃が可能だったが2人は違う。
どちらも地上での戦いになるだろう。
『人が落ちてくるぞ!』
七葉高校の1人の生徒が、頭から落ちてくる樹神を地上で受けとめようと身構えた。
『よせ! あの速度で落ちてくる人間を受けとめるのは無理だ! それにあの制服……』
後ろからやって来たもう1人の生徒が受けとめようとする奴の服を引っ張って制止する。
樹神、この作戦の唯一の不安点。
もし内申点欲しさに嘘をついていたら、作戦は失敗し、彼は拉致されるかその場で殺されてしまうだろう。
樹神『ええと、何だっけなぁ? 技の名前、忘れちまった。ラッキーセブン?』
彼が地上に接触するまで残り100メートル程度。癖毛が伸びて丸く膨らんだ頭をポリポリ掻いている。
一緒に考えたのに忘れるとはどういう了見だ。
ラッキーセブン? 掠りもしていない。
僕は樹神の近くに浮遊していたカメラを経由して奴に話しかけた。
「おい、あんなに響きの良い名前を忘れたのか? お前の特質は……」
樹神『あ! 思い出した!』
「『 緑花王国 』」
ズボッ!
彼の頭は地面に激突し、身体をぴんと張ったような状態で突き刺さった。しかし、何も起こらない。
まさかここまで来て本当に嘘だと言うのか?
「樹神、応答しろ」
僕の声に反応する気配はなく、突き刺さったままぴくりとも動かない。
『死んでる?』
受けとめようとしていた生徒が恐る恐る直立で突き刺さっている樹神に近づいていっている。
……死んでいるのか? 確かにあの速度で頭から地面にぶつかれば普通なら即死するだろう。
この大砲は転送速度に関係なく安全に着地できるように設計しているから問題ないはず。
頭から突っ込む形になったのは樹神が特質を発動させようとしたからだと思うが…。
獅子王『これ事故率どれくらい?』
ふと獅子王の言葉が頭をよぎる。まさか設計ミス…?
いや、これは僕が造ったんだ。そんなことはありえない。
『こいつ、吉波の奴だよな? ざまぁねぇぜ』
別の生徒が嫌味ったらしい顔をして樹神を嘲笑。
それに反応するかのように……、
ニョキッ
そんな音が似合うような生え方だった。突き刺さった彼の頭の近くから生えてきた1つの小さなブロッコリー。
『何これ? ブロッコリー? か、かわいい///』
また別の男子生徒がポケットからスマホを取り出してブロッコリーを撮影し始めた。
かわいいだと? やはり人を殺したいだけはある。こういう人間は元々頭がおかしいんだろうな。
樹神、お前の言っていた王国はそんなちっぽけなものなのか…。
ニョキッ ニョキッ ニョキニョキニョキニョキッ
1つ生えてきたのに続いてどんどん小さなブロッコリーが生えてくる。
『おい……何だこれ? 気持ち悪いぞ』
嘲笑していた生徒が顔を引き攣らせ、何歩か後ずさった。
それが普通の反応だ。
『え、待ってかわいすぎる! これは映えるよ!』
かわいいと言った生徒は目を輝かせながら、あらゆる角度からスマホをかざしている。
奇襲されているとは知らずに呑気に撮影か。
いや、確かにこれでは誰も奇襲とは思わないだろう。標準サイズのブロッコリーが数個生えた程度では何の脅威にもならない。
聞こえているかはわからないが、僕は樹神に問いかけた。
「樹神、そんな矮小なブロッコリーで七葉を墜とす気だったのか? ふざけるな。お前の内申点は上がるどころか0だ。先生に言ってやる。お前は今まで積み重ねてきた点数全てを没収されるだろうな」
ズドオオォォォォォォン!!
よし、これなら大丈夫だろう。僕の扇動は上手くいったようだ。
爆音と共に現れた巨大なブロッコリーの全長はおよそ5メートルほど。
“先生に言ってやる”
吉波高校の大半の生徒は、この言葉に弱い。
“先生”と言うキーワードで村川先生の姿が連想されるからだ。
「それで良い。お前の真の力を奴らに見せてやれ」




