協力 - 文月 慶②
♪~
ピロン ピロン。ピロン ピロン。
緊急地震速報です。強い揺れに警戒してください。
~♪
……………。
♪~
ピロン ピロン。ピロン ピロン。
緊急地震そ……
バシッ
危ない、寝過ごすところだった。
この目覚まし音なら一発で起きられると思ったんだが…。
水瀬が特質持ちを引き連れて押しかけてきたのは昨日のこと。今日、僕はここを脱出し、彼らと合流する予定だ。
看守「文月様、地震です! 起きてください!」
僕の大音量の目覚ましを聞いたと思われる看守が駆けつけてきた。
一応、彼は僕の見張り役だが、実質は執事のようなもの。
「違う、これは僕の目覚ましだ。最近、生活リズムが狂ってるから治そうと思ってな」
慌てる看守に対し、僕は冷静に説明する。
こんな秀逸な嘘を咄嗟に思いつくとはな。やはり早起きすると頭が冴えるのか。
彼はホッとしたような顔をしてから、腰に手を当てて溜め息を吐いた。
看守「目覚ましにしては不謹慎でございます。別のものに変えてください。それに今は昼の3時。もっと早く起きないと生活リズムは治りませんよ」
………何? 昼の3時だと? そんなはずはない。
スマホを起動して時間を確認するが…。何度見ても“15”という数字は変わらない。
なぜだ? 確か昼の1時に設定したはず…。
しまった、アラームが15時になっている。普通に13時と15時を間違えてしまった。
まずい、水瀬たちと集合するのは放課後の17時。
急いで造れば間に合うと思うが、看守を出し抜けるかのテストや造った物の点検ができない。
僕は動揺を悟られないように平静を装った。とりあえず、こいつをこの部屋から追い払うのが先決だ。
「そ、そうだな…。忠告ありがとう」
看守「では、また何かあればお呼びください」
看守は僕の部屋を後にした。
この文月特別少年刑務所に監視カメラはない。脱獄しようと思わせない快適さを重視しているからだ。
看守の見回りにさえ気をつければ“BrainCreate”を使って何かを造っていてもバレることはないだろう。
そもそも最近は気を抜いてるのか見回りにすら来ない。
スマホの時計は既に15時30分を指している。
後、1時間半。早く作業に取りかかろう。
“BrainCreate” を起動。
これは開発途中のものだから材料の段階までしか出現させられない。
今回の脱獄に欲しいものは、鬼ごっこで人質を転送する際に使ったカプセル型の転送装置と僕自身の身代わりだ。
脱獄して学校に向かうのには転送装置を使う。
そして僕がここを抜けている間、バレないために僕自身になり得るものをこの部屋に居させなければならない。
身代わりの材料はどうする? とりあえず、昨日食べた“おむすびせんべい”の袋を使うか。
「転送装置と僕の身代わりを造りたい。材料は___」
僕が必要な材料を告げると、ほぼ一瞬にして目の前にそれらが出現した。
今、思うとただの高校生がこんなものを持っているのは確かに怖いだろう。
造ろうと思えば核爆弾だって造れるわけだ。政府が僕からこれを押収した気持ちが少しわかった気がする。
まぁ、そんなことは良い。さっさと造るぞ。
__________________
作業を始めてから1時間と15分くらいか。何とか時間までに完成した。
勉強机の前にある椅子に座った僕の身代わりと、僕の目の前にそびえ立つ2メートルほどのカプセル型転送装置。
おむすびせんべいを使った僕の身代わりはかなり精巧に造られている。
一種のホログラムのようなものだが一見、本物のように見えるだろう。
ちなみに、おむすびせんべいさえあれば僕自身に限らず、様々なホログラムを映し出すことが可能だ。
短所としては、ホログラム自体は微動だにしないことと、おむすびせんべいの位置がズレるとホログラムが消えてしまうこと。
まぁ、あまり見回りに来ないから問題ないだろうが…。
本来、時間があればテストをするつもりだったが、もう行かないと間に合わない。
僕は目の前にある転送装置の中に入り、座標を学校の体育館倉庫に指定した。
さぁ、出発だ。“確定”ボタンを押すと、転送装置は天井を突き破り空高く飛び上がる。
天井をこのままにしておけばすぐにバレるだろう。
僕は転送装置の中に持ち込んだあるものを手にとった。
“おむすびせんべい遠隔操作リモコン”
複数のおむすびせんべいの袋を遠隔操作し、天井の穴を塞いてホログラムで誤魔化すと言った算段だ。
天井の穴は精巧なホログラムで隠され、脱獄は完璧に成功した。2時間寝坊したのにも関わらずだ。
やはり僕には才能があるようだな。テスト? 点検? そんなものは必要ない。
たとえ時間に追われ急ぎで造ったとしても僕はミスをしないということが今回、証明された。
これほどまでの技術力を有する高校生が他にいるのか? 特質ではないが僕にも何か二つ名のような名前があっても良いはずだ。
“神贈”なんてどうだろう? 神からの贈り物。
皇『あぁ、ギフト? ハハッ! お前には“反社”という名前以外合わねぇだろ』
中指を2本立て、笑いながら舌を突き出す皇が何故か脳裏をよぎる。
なんでこいつが今、出てくるんだ。心の中にまで踏み込んでくる図々しい奴め。
それよりも…さっきからこの転送装置ガタガタと音を立てているんだが。
嫌な予感がする。墜落したりしないだろうな。
もうすぐ学校に到着する。それまで持ってくれれば大丈夫だ。
きっとエンジンの音に違いない。そう思うことにしよう。
………あぁ、寝坊するんじゃなかった。
__________________
ーー 一方、水瀬たちは既に体育館倉庫の前に集まっていた。
今回、集められたのは水瀬、皇、剣崎、新庄、日下部の5人。
剣崎「遅い。2分の遅刻である」
剣崎はそわそわしているのか、腕を組み右足を前に出して爪先で軽く地面を叩いている。
水瀬「大丈夫、慶ならきっと脱獄を成功させる」
時間厳守な剣崎を落ち着かせようとする水瀬。
新庄「来たぞ」
そして、金属バット“轟”を持った新庄は空からこちらへ迫ってきているカプセルを指さした。
皇「ハハッ…大胆すぎだろ。着陸してすぐに仕舞わないとバレるぜ」
吉波高校の先生たちは、彼らが特質を持った生徒を集めて他校を封じようとしていることは知っているが、作戦の内容は知らない。
大問題児として認識されている文月を脱獄させたことが先生に知られるのは、彼らにとってはかなり不都合になる。
皇「おいおい、止まる気ねぇだろ」
水瀬「みんな、よけろー!」
新庄「うおぉぉぉぉ!」
剣崎「この程度の速さ、私の目には止まって視える」
日下部「宙屁」
文月を乗せたカプセル型の転送装置は5人がいた場所に爆音と共に豪快な不時着をした。
黒と灰色の煙に包まれたカプセルの中から、待ち合わせの時間に若干遅れた文月が片手で頭を抑えながら登場。
文月「やぁ、お待たせ」




