エピローグ - 文月 慶⑦
僕が捕まってから数日。裁判を終え、言うまでもなく有罪で刑務所に収監された。
僕の弁護士になったのは皇。プロの弁護士を雇うことはできなかった。
てか、プロでもない顔見知りの奴が弁護できるのが不思議でならないんだが…。
プロを雇えなかった理由は、僕の両親がぶち切れてお金を出してくれなかったからだ。
家から盗ってきたテレビが徒になってしまった。
僕が捕まって、あの場所にあったものは全て政府が回収したらしい。もちろんテレビも…。
どうやら、あのテレビは僕が鬼ごっこを始めた日に父さんが買ってきたもので、超高機能な10万円くらいする代物だったようだ。
僕はしばらく家出していて、ずっと鬼の設計をあの場所で考えていたからな。そんな高いテレビだと知っていたら盗りはしなかっただろう。
「結局、政府は僕の全てを奪ったんだ。平凡な高校生活、家族との絆、友人関係さえもな」
皇「いや、その3つは全部お前が悪い。まぁ提案したのは俺だがなぁ♪」
今、皇と1枚のガラスを挟んで面会している。
確かに彼の言う通り僕が悪い。何を捨ててもあれを取り戻したかった。
僕の秘密基地は差し押さえられ、今はもう何も造れない。
そして、こいつは弁護する立場のはずなのに“どう頑張っても有罪だ”と開き直って僕を法廷で笑いながらディスりまくった。
結果、どうなったかと言うと…
皇「まさか、法廷でディスりまくると刑が重くなるとはな! 最初3ヶ月だったのが1億年にまで伸びるなんてことあるかぁ? 世界記録だろハハハッ♪」
こうなった。
僕は1億年、少年刑務所に入れられるわけだ。
ふと気になったんだが、成人になる頃には青年刑務所、40を過ぎると中年刑務所になるのか?
皇は自分のせいで刑期が伸びたと思っているようだが、恐らくそれはないだろう。多少伸びることはあったとしてもこれはあまりにも長い。
“あまりにも”どころではない。法廷チートを使ったのは誰だ! まぁ、そんなもんないだろうが…。
恐らく政府は、僕を二度と社会に出したくないのだろう。
まぁ、こんなところすぐに脱獄してやる。今は何も造れない状況だが刑期は腐るほどあるんだ。
それにここは特別な刑務所で割と快適な囚人生活を送れている。
“文月特別少年刑務所”というらしい。自分の名前が使われた僕にとって不名誉な刑務所。
ここには僕以外の囚人はいない。
さっきも言ったが快適だ。エアコンは自由に使えるし、過酷な肉体労働やスケジュールもない。
好きなときに好きなものを頼むことができ、欲しいゲームなども申請すれば無料で与えられる。
その代わり刑務所からは一切出られない。
僕が機嫌を損ねて脱獄を考えないように作られた刑務所なんだろう。
下手すると自宅より良い場所だ。考えようでは頼めば何でも与えられる天国。
皇「てか、政府に何を要求してたんだ?」
皇は目を細め、腕を組んだ状態で首を傾げた。興味があるのか、珍しく真剣な表情だ。
そういえば言ってなかったな。計画を提案したのはこいつだが…。
あれは確か数日前の放課後だ。政府にそれを奪われて間もない頃。
怒りや喪失感を抱えながら学校生活を送っていた僕に皇はいつものように声を掛けてきた。
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皇「どうした? お前、目死んでるぜぇ♪」
自分の制服に着けている僕の校章を見せつけながら話しかけてきたが、相手にする気にはならない。
「うるさい…。僕は今怒っている」
彼に身体や顔を向けることなく廊下を歩き、正面玄関へ向かいながら返事をする。
皇「え、誰に?」
「全てだ! この国全体、世の中……政府にだ!」
思わず熱くなった僕に対し、皇はきょとんとした顔をした。
皇「じゃあさ、俺らの学校の生徒を人質にして国に訴えかければいいんじゃね?」
「は?」
皇「国民の命が危ないってなれば、国も話ぐらいは聞いてくれると思うぜ」
短絡的で非現実的な発想だと一瞬思ったが…。
僕が今まで積み重ねてきた経験や技術があればできるかもしれない。
僕は立ち止まり、顎に手を当てて思案する。
「ふっ…、確かに。みんなをどこか一カ所に集めて政府に人質と言えば信じるかもな。でも、どうやってみんなに協力してもらう?」
僕の問いかけに皇は即答した。
皇「ゲームだよ。『鬼ごっこしまーす! 捕まったら人質でーす!』みたいなこと言って人質ごっこを楽しんでもらう。学校規模の鬼ごっこなんて誰もやったことないから盛りあがると思うぜぇ♪」
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最初はこんな感じだったからな。僕が何を要求したのかは知らなくてもおかしくない。
隠しているわけではないから、聞かれたら答えるつもりだった。
つられたわけじゃないが、僕も腕と足を組み、椅子にもたれ掛かって彼の目を見据える。
「政府に僕が要求したのは、元々は僕が造ったものだった。“BrainCreate”の完成版。スマホのアプリだ。これを政府が僕から押収した」
皇「へぇ、なんで?」
これは普通のアプリじゃない。これを高校生の僕が所有していることを政府は危険とみなしたんだ。
簡単に言うと、このアプリは“脳で考えたものを即時に創りだせるもの”。
例えば、僕が今回造った鬼たち。あれもこのアプリを使えば思うだけで何万体でも造りだせる。
ただ、何もない場所から生産している訳ではない。
仕組みを説明するとこうだ。
①創りたい物を考える【THINKING(思考)】
②それに必要な原子を地球上から目の前に集めてくる【GATHERING(収集)】
③集まってきた原子を結合させ必要な材料や資源、器具などを造る【SETTING(構築)】
④材料、資源などを使い考えた物を造り出す【MODELING(製造)】
ただ、これは完成版の話。
僕が鬼を造っていたとき、既に政府は僕からこれを取り上げていて③までしかできない開発途中のアプリを使った。
決戦のとき、水瀬がそんな短時間でできるはずがないと疑問に思っていたのは妥当だ。
これを使っていた僕は材料を調達する手間が省ける。だから通常じゃありえない早さで新型を造ることができたんだ。
【MODELING(製造)】は自分でするため5体が精いっぱいだったが。
ちなみに鬼を量産したり、秘密基地や生徒全員を収容できる牢も開発途中のこのアプリを使って造った。
最初に鬼数体を造り、その鬼たちに建築作業をさせると言った感じだ。
文月「大切なものを奪われ、どんな手を使ってでも取り返そうとする僕の気持ちがわかったか? まぁ、人の校章を躊躇いなく奪える君には理解できないかもしれないが…」
皇「……………」
反応がない…。彼は腕を組んだままうなだれている。
寝てしまったのか? どこまで聞いてた? つい話に夢中になって、こいつが寝ていることに気づかなかった。
こいつにとって、この話は面白くなかったのか。自分では世紀の大発明をしたと思っているんだが…。
話の仕方に問題があるのか? まぁいい。とりあえず起こそう。
皇に直接触れることができない僕は、ガラスを軽くノックした。
コンコン
「おい、起きろ」
皇「………。はっ! 今、何時? やべっ! バイト遅れる」
奴は面会室の壁にかけてあった時計を確認し、急ぎ足で面会室から出ていった。
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あれから、また数日。ここの生活にもだいぶ慣れてきたな。
僕の部屋の何の変哲もない時計は6時を指している。そろそろ晩ご飯にしよう。
今日は何を頼む? 三ツ星レストランの高級料理とか?
フッ…僕は囚人だぞ。いくら何でも与えられるとは言え、流石に怒られるか。
看守「かしこまりました。料理が届くまでお部屋でお待ちください」
マジかよ、何でもありだな。ずっと思ってたんだが、看守って囚人に対してこんなに腰低いのか?
看守って言うより執事だな。
まぁ冷たく遇われるよりは良い。三つ星レストランの高級料理か。それなりに楽しみではある。
部屋に戻ってテレビを見ながら待つとしよう。
「わかった。部屋で待っている」
僕は看守に背を向け、自分の部屋へ戻る。
今の僕の部屋はかなり殺風景なものだと思う。
ソファとテレビにシングルベッド。そして、勉強机と実験室にあるような鉄製のラックしかない。ちなみにエアコンは快調。
インテリアにあまり興味がないから、このままでも気にはならないが…。
僕は部屋のソファに深く腰を掛け、テレビのリモコンを手に取った。
ピンポーン! ピンポーン!
ちょうどそのタイミングでインターフォンが鳴り、若干イラつく。これは面会室に誰か来たときに鳴る合図。
面会もいつでも自由にできる。はっきり言って外に出ること以外は私生活と同じくらい自由だ。
全く…誰が来たのか。僕は面会室に続くドアを開けた。
ドアの先にいたのは水瀬、その後ろには新庄と剣崎を含む数人の生徒。
見慣れない顔も何人かいるが。
なんだ? 苦情ならお断りだ。
あの鬼ごっこ、最初はみんなに楽しんでもらうように計画していた。
政府のことでいっぱいであまりエンターテイメント性を演出できなかったが、どうだっただろう?
ちょうどいい、みんなに感想を聞いてみるか。
「数日ぶりだな水瀬、あれは僕の完敗だった。そして後ろの生徒たち、鬼ごっこは楽しかったか?」
新庄「は? お前、頭かち割るぞ?」
僕の発言で全員騒ぎだした。もちろん、悪い意味で。楽しいという感情より恐怖のほうが勝ったか。
最初の放送で人質って言わなければ良かったな。
水瀬「みんな! 落ち着け! 文句を言いに来たんじゃない」
彼の一言で静まり返る。意外とリーダーシップあるんだな。
苦情や批判目的じゃないのか? こんなに大勢を連れて僕に何の用だ。
水瀬は振り返り、少し不服そうな顔をしてゆっくり口を開いた。
水瀬「慶、協力してほしい」
協力? 何の? 内申点や成績の改竄なら他をあたってくれ。
彼は表情を強ばらせ、視線を落とし、声を震わせながらこう言った。
水瀬「学校が…吉波高校が____
____なくなるかもしれない」
【鬼ごっこ編 ー 完結 ー 】
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