連続奇襲 - 水瀬 友紀❶
ーー
興禅「あぁ……クソッ……痛ぇじゃねぇか」
腕に重度の火傷、首に深い切り傷を負った興禅は蹌踉めきながら呟いた。
日下部の放屁を利用した粉塵爆発や、朧月による時間を飛ばしての奇襲は、即死とは行かずとも彼に致命傷を与えていた。
故に、彼は直に死に至る。
最強格の神憑に敗れた水瀬たちの連続奇襲は、決して無駄打ちではなかったと言えるだろう。
興禅(何だったんだ、あの人間どもは…。神の力とは違う…)
彼らが興禅の印象に残っているのが何よりの証拠だ。彼に傷を負わせた人間は姫崎雛と“BREAKERZ”一行を除いて居ない。
興禅(あぁ……これ死ぬなぁ。まぁ……良いか……)
意識が徐々に弱まり足取りが覚束無くなっていく。そんな自身の状態に対して死を悟る興禅だが、あまり動じていないようだ。
そして、彼は先ほど光の異能で殺めた水瀬らに対して違和感を覚えた。
何故なら…。
興禅(奴らの死体がない。そういえばあの女も消えたな。死ねば消えるのか? でも、こいつらは消えてない)
姫崎に続いて致命傷を負った水瀬らも、彼の前で忽然と姿を消したからだ。
危険を感じた文月が“RealWorld”で創り出した空間に匿った。
興禅(それに、こいつらとは違って奪った感覚がない)
一命は取り留めたものの、“BREAKERZ”に猶予はなさそうだ。
まだ仕留めきれていないと気づいた興禅。人間に傷を付けられた屈辱を胸に、彼は“BREAKERZ”の虐殺を決意する。
目を瞑っている興禅は視覚以外の五感を研ぎ澄ませ、彼らを捜した。
虐殺の決意から僅か数秒──。
興禅「そんなとこに居たのか…。神に似た力だが、脆弱すぎて気づかなかった」
身体の向きは変えずに1歩、2歩と前に踏み出す興禅。
“RealWorld”で創られた空間に気づいたのだろう。
彼は手を前に組んだまま歩き、何もない場所に向けて巨大な光を放った。
血みどろになった祭りの会場。その風景に亀裂が入り、大きな黒い穴が空く。
黒い穴から興禅を覗く真っ暗な空間。水瀬らを匿っていた世界が、彼を前に剥き出しとなった。
蹌踉めきながらも何処か品のある歩調で、臆することなく暗い空間の中に入っていく。
“死んでしまう前に彼らを仕留めたい”。
そういった想いが強く在るようだ。
興禅(奴らは何処だ?)
暗い空間の中で更に五感を研ぎ澄ませる興禅。
前に進みながら彼らを捜す興禅が見つけたのは──。
興禅「お前も此処にいたのか。さっきの奴らは何処だ?」
うつ伏せに倒れた小さな女子生徒、姫崎雛。
だだっ広い真っ暗な空間に居るのは、倒れている彼女ただ1人。
死んでいるのか気を失っているのか、はたまた死んだふりか…。興禅に姫崎の状態を知る術はない。
興禅「生きているなら答えろ。もう俺には時間がない」
彼女に問いただす興禅は妙なイラ立ちを覚えていた。
自身が誇る光の異能で、いち人間を仕留め切れていないこと。
彼女も自身が手を焼いた数少ない人間であること。
興禅(答え次第、この女も殺してやる)
彼の問いに微動だにしない姫崎。呼吸をしている様子もない。
生死不明な姫崎と、静かな怒りを胸に反応を待つ興禅。
膠着した状態を破って先に動いたのは──。
姫崎「…………。」
スッ……
自身の“気”を完全に殺し、死んだふりをしていた姫崎だった。
彼女はうつ伏せに倒れたまま、右手の中指をぴんと立ててこう告げる。
姫崎「だったら死んどけ、フxxク野郎」
再び訪れる静寂。
興禅「それはどういう意味だ?」
言葉の意味が理解できず首を傾げる興禅。
しかし、“中指を立てるジェスチャー”を彼は彼なりにこう解釈した。
興禅(“上”に居るのか?)
目を瞑ったまま暗い天を見上げる興禅。
彼が見上げた直後、暗黒の空がピカリと光った。
ドオ゛オ゛オオォォォォォォン!!
耳を劈く轟音。
興禅「あ゛あ゛あ゛ぁぁぁぁぁぁががががが!」
暗闇に迸る蒼い稲妻が興禅に襲いかかる。
興禅(な、何が…? 身体………キカナイ………!)
稲妻に打たれた彼の身体は酷く痙攣し、思考もままならない。
その中で感じ取った新たな気配に、彼は気づいた。
姫崎が中指を立てた方向、真上から降ってくる金髪の不良生徒。
興禅(別の………人間…………! 奴が……雷を……!)
真っ赤な目に涙を浮かべながら顔中に青筋を立てている新庄篤史。
彼は金属バット“轟”を振り上げた体勢で痙攣する興禅を見据えていた。
姫崎「目には目を…。光には雷を…!」
うつ伏せのまま誇らしげにそう呟く姫崎だが、近くに居る彼女も感電したのか少しばかり痙攣している。
興禅(クソッ…! クソッ…! クソがあああぁぁぁぁぁ!!)
金属バットを構えて振ってくる新庄に対し、光での迎撃を試みるがどうやら痙攣している状態ではまともに発動できないようだ。
新庄「カミナリ……大根切り゛い゛ぃぃ!!」
ズドオ゛オ゛オオォォォォォォン!!
蒼い稲妻を纏った“轟”を、新庄は興禅の頭を目がけて振り下ろした。
暗い空間に行き渡る稲妻。
反動で大きく吹き飛ぶ姫崎。
“RealWorld”の空間そのものを破壊しかねない絶大な威力を誇る一撃を直に受けた興禅の身体は跡形もなく消し飛んだ。
ーー
「はっ…! ここは!」
身体に大穴を開けられて意識を失った僕が目を覚ましたのは、慶がアプリで創り出した真っ暗な空間……ではなかった。
星が見える夜空、血生臭い祭りの会場。
慶が瀕死になった僕らを呼び戻したんじゃない…? だけど、身体の穴は塞がっている。
文月「目を覚ましたか」
仰向けに倒れた身体を起こすと、慶が背中を向けたまま僕にそう言った。
何がどうなっているのかわからない。
ここは現実なのかアプリの中なのか…。
文月「結論から言えば、君らが戦った興禅立休は新庄がとどめを刺した」
僕が起き上がるや否や、慶はやや急ぎ足で経緯を語り始めた。
僕の要望通りにみんなを転送した慶だったんだけど、彼の独断で“RealWorld”内に残した人も居る。
新庄と雛さんだ。
奴との戦いが一瞬で終わったのもあって、僕は2人が来ていないことに気づいてなかった。
連続で仕掛けた奇襲の最中に瞬殺されたものだと…。
慶は、僕らが興禅に勝てるとは思ってなかったらしい。
彼は彼で奴を仕留める作戦を考えていたんだ。
まず負けた僕らを奴の目の前でアプリ内に転送する。すると、奴はあの空間の存在に気づき入ってくるだろう。
その瞬間に、大本命の奇襲である新庄の金属バットによる強力な一撃を喰らわせる。
それが、慶が考えていた奇襲作戦。
確かに、今いるメンバーの中で1番強い一撃必殺を繰り出せるのは新庄だ。
慶は僕らを囮にし、確実に一撃を当てられる場所へ興禅を誘い込んだんだ。
手負いになって隠れた僕らにとどめを刺す程度の気持ちで入ってきたのなら、当然油断もしていただろう。
そして更に、死んだふりをした雛さんがギリギリまで気を引きつけた。
結果、慶の作戦は成功。
日下部「みんな大好き粉塵爆発も、ただの余興だったというわけさ」
囮にされたのが嫌だったのか、日下部は不服そうにそう話す。
「雛~! 大丈夫だったの?」
姫崎「ちょっとピリッとしたけど大丈夫」
髪の毛がチリチリになって爆発している雛さんを心配そうにハグする彼女の友達。
見事興禅を討ち取ったと言いたいところなんだけど、慶の表情はどこか暗い。
文月「興禅は倒したが、同時に“RealWorld”も使えなくなった。新庄の攻撃で故障したからな」
あぁ、だから僕は現実で目を覚ましたのか。向こうで手当はしたものの、その後の新庄の攻撃でアプリが壊れたんだ。
でも、当の興禅は倒した。
脅威は去ったんだ。
彼が浮かない表情をしているのは、アプリが壊れたから? 大勢の死を悼んでいるから?
そういった風には見えない。
文月「負傷者を匿う場所が無くなった。ここから先、命の保障はない」
ここから先…?
慶は言った。
興禅は倒したと…。
戦いは……まだ終わってないのか。
あれが………あの最強格の神憑がただの雑兵だったなんて考えたくはない。
「慶…、敵はなんだ? 僕らは……何と戦っている?」
そう問いかける僕の額には、自然と汗が滲み出る。
慶はスマホを片手にこちらに振り返り、神妙な面持ちでこう言った。
文月「わからない。会場の至る所で誰かが何かと戦っている」
ーー
水瀬の問いに曖昧に答える文月慶。
現状そう返すほかないだろう。
彼の持つスマートフォンに表示されているのは、神対策アプリ“AntiDeity”。
水瀬ら一行、今の状況を正確に把握している者は1人も居ない。
興禅撃破後、祭りの会場の至る所で計測された異常な神性値。
文月は、夏祭りでの戦いはまだ序盤に過ぎないと予見していた。
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