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BREAKERZ - 奇っ怪な能力で神を討つ  作者: Maw
自警部•夏祭り編
262/271

死屍累々 - 水瀬 友紀㊾

「はっ…!」


目を覚ました僕は、真っ暗な何もない空間で飛び起きた。その直後、自分は仰向けに倒れて居たのだと理解する。


ここは……、どこだ?


いったい何が起こった?


僕は何をしていた?


よくわからないこの場所で意識を失っていたっていうのはわかる。


それ以前に僕は…。


直前に何をしていたのかすぐに思い出せない僕は、上体を起こしたままの姿勢で考えた。




そうだ、さっきまで皆と吉波踊りを見に行っていたんじゃないか。




桟敷席さじきせきでプロの踊りを見て、感動して、そして……確かもう遅いから帰ろうって。


そこから……そこから帰ろうとした時に急に光って……光って………。




「う、うわあああぁぁぁぁ!!」




何もかもを思い出した僕は頭を押さえて叫んだ。


あの光の後…。賑やかで盛大な夏祭りが、阿鼻叫喚の地獄絵図へと変貌したんだ。


祭りの会場に転がる大勢の死体。僕の腹にも穴が空いていて、そこで意識を失った。


ここは、どこなんだ?

僕は死んだのか…?


目を瞑ったまま嗤っていた坊主頭の高校生。彼が……あいつが………あんなことを……?


何が目的だ? 何のために、あんなムゴいことを…。


涙が止まらない。


何をやってんだよ、僕は。

なんで、警戒しなかった…!


人がたくさん……死んだ……。



「あぁ……あ゛あ゛あ゛ぁぁぁぁぁぁ~!!」



何もないこの空間で、僕はただひたすら喚くことしかできなかった。






………ぃ。お…。






「おい! しっかりしろ!」


僕の両肩に手が置かれる。


前後に揺れる身体、僕の身体は彼によって激しく揺すられた。


なびく金色の長髪。新庄しんじょうが必死な表情で、僕に声を掛けている。


安心感を覚えたからか自然と涙は止まった。


新庄しんじょう…、ごめん。みんなを死なせてしまった」


新庄しんじょう「なんでお前が謝んだよ。いきなり人が倒れて、俺もわけわかんねーよ…!」


辛そうにそう話す新庄しんじょう


この空間に居るのは僕だけじゃなかった。

もしかして…。


僕はみんなの安否を知らない。本当に一瞬の出来事だったから。


道を埋め尽くした大勢の死体の中に、あきられいが居てもおかしくはない。


だけど、新庄しんじょうは………新庄しんじょうは生きていた。


他のみんなだって、もしかしたら…!


僕は立ち上がってこの真っ暗な空間を見渡した。



獅子王ししおう友紀ゆうき…」


剣崎けんざき「皆の衆、無事であったか」



ホッとした顔をするれいあきら


よくよく辺りを見ると、近くに彼らは居た。


彼ら2人と新庄しんじょう日下部くさかべ。そして…。


朧月おぼろづき「…………。」


的場まとば「クソッ、何がどうなっとんじゃ」


普段と変わらず無表情で突っ立っている朧月おぼろづきくんと、頭を抱えて今にも泣き出しそうな顔をしている的場まとば


一緒に行動していなかった彼らも居る。


日下部くさかべ「みんな目を覚ましたみたいだし、そろそろ説明してくれないかい?」


そして、片膝を立てて座っている日下部くさかべが前を見据えてそう言った。


その視線の先にはある人物の影が見える。


彼は中学からの友達だ。

動きや仕草だけで誰だかわかる。



文月ふづき「はぁ……はぁ……少し長くなるぞ」



荒い息遣いでそう返すけい


眩い閃光が夏祭りの会場を包んで地獄に変えた、その後の話を彼は語り始めた。


閃光らしき異能で人々を蹂躙じゅうりんしたのは、金糸雀かなりあ色の浴衣を着た坊主頭の高校生で間違いないらしい。


名前は、興禅こうぜん 立休りっきゅう


けいの造った人工知能の“FUMIZUKI(フミヅキ)”が顔を認証してネット上の情報で特定したとのこと。


彼の能力の詳細はわからないけど、神憑かみつきだということは確実だ。


けいが開発した神対策アプリ“AntiDeityアンチディアティ”によって、興禅こうぜんが持つ神の値を計測できたから……らしい。


そして、この真っ暗な空間もけいのアプリ“RealWorldリアルワールド”で生成したもの。


負傷した僕らをけいは此処に匿った。


僕らが一命を取り留めたのも彼の治療のお陰だ。副反応が懸念される万能薬を極限まで薄めたものを僕らに投与したらしい。


みんな致命傷を負ったものの絶命していなかったのが不幸中の幸いだと彼は言っていた。


けいいわく、あの惨状からそう時間は経っていない。


今は的場まとば朧月おぼろづきくんのように、祭りに来ていなかった人や来ていても別行動を取っていた人たちを探している最中らしい。


僕らが助かったのはけい様々って感じなんだけど…。


新庄しんじょう「話はわかったぜ。あいつをぶっ叩くからここから出してくれ」


文月ふづき「却下する。馬鹿も休み休み言ってくれ」


興禅こうぜんと戦おうとする新庄しんじょうの頼みを、けいは即座に断った。


文月ふづき「君たちには無理だ。ここで待て」


ガッ!


そんな彼に対し、新庄しんじょうはもの凄い剣幕で詰め寄って胸ぐらを掴んだ。


新庄しんじょう「出せって言ってんだよ、テロリスト! あいつは大勢を殺した! 放っておいたらもっと人が死ぬ!」


文月ふづき「知った口を利くな。狂った奴の行動原理など誰もわからない。憶測で動いて無駄死になんて真似はやめろ」


至近距離で睨みつけられているけいだけど、全く物怖じせず強い口調で言い返す。


文月ふづき「“待て”と言っているんだ。奴を放置する気は毛頭ない」


新庄しんじょう「だから…! その間にも人が死ぬっつってんだろ!」


相反する互いの主張がぶつかり合い、新庄しんじょうは今にもけいを殴り飛ばしそうな勢いだ。


彼は…、やっぱり凄い。


あんな惨状を目の当たりにして、自分自身も死にかけて、それでもみんなのために戦おうとしている。


僕も頭ではわかっている。


これは、“BREAKERZブレイカーズ”の案件だ。戦ってあいつを止めなくちゃならない。


けいは、興禅こうぜんのことを“狂っているから何をするかはわからない”と。


それに対して新庄しんじょうは、“放っておけるか”と主張している。


僕は新庄しんじょう寄りの意見だよ。


もちろんけいの言うとおり、大勢を嗤いながら殺してしまえる神憑かみつきの心理なんて読めたもんじゃない。


殺しはこれで終わる可能性だってあるんだから、焦って無策で突っ込んで行くのは無謀だと。


だけど…、これは僕の勘なんだけど。


奴はこのままでは終わらないと思うんだ。


大げさに聞こえるかもしれないけど、興禅こうぜんは全人類を虐殺するまで止まらない。


何となくそう思うんだ。


手が震えてる。正直怖い。

けど、あいつは絶対に止めないといけないんだ。一刻も早く…。


「け、けい…。僕も待つことはできないよ。あいつはまだまだ人を殺す。だから早く止めないと…!」


胸ぐらを掴まれているけいはそのままこちらに振り向いて、呆れた様子で溜め息を吐いた。



文月ふづき「君たちが奴に敵わない理由を説明してやる。とりあえず新庄しんじょう、君は手を離せ」



そう言われた新庄しんじょうは不服そうな顔をするも、突き飛ばすように手を離した。


僕らが興禅こうぜんに勝てない理由はいくつかあるとけいは言う。


まず、僕らが此処で目を覚ますまでの間に彼はあることを試みた。


それは、数十体の鬼による興禅こうぜん立体りっきゅうを取り囲んでの大リンチ。


結果は…、鬼たちが瞬殺された。


何体送り込んでも同じだったと言う。


けいが造った屈強な鬼の強さを僕らは嫌というほど知っている。


いま1対1の勝負をしてもあれに勝てるかわからない。こちらの攻撃が一切通らないなんてことも有り得る。


そんな鬼たちを興禅こうぜんは目を瞑ったまま1歩も動かず瞬殺したんだ。


小型カメラで一部始終を見ていたらしいけど、能力の詳細はわからなかった。


ただ鬼たちに幾本の直線的な光が通ったように見えた瞬間、バラバラになったそうだ。


最低限、複数体の鬼を瞬殺できる力がないと確実にやられるとけいは言う。


2つ目は、神対策アプリで計測した奴の神の値、“Deity(ディアティ)値”がカンストしているということ。


Deityディアティ値”というのは、簡単に言うと神の強さを示す数値のようなもの。


神が憑いている人“神憑かみつき”には必ずこの値が測定できるらしい。


日下部くさかべ朧月おぼろづきくんも一定の値を持っているみたいなんだけど。


その神の強さを示す値が、興禅こうぜんはカンストしている。


ただカンストというのはあくまで、現状の“AntiDeityアンチディアティ”で測定できる範囲の数値に収まっていないということ。誰も敵わない無限の強さを有しているということではない。


“神の位の差は絶対”。


日下部くさかべに憑いた神“シリウス”の言葉だ。


神憑かみつき同士の戦いにおいて、位の高い相手との戦いにほぼ勝ち目はない。


少しの差ならまだしも相手はカンストしている圧倒的に格上の神。


日下部くさかべ朧月おぼろづきくんの神由来の能力は、今回全く以て通用しないと思った方が良いとけいは話す。


文月ふづき「最後に、これが地味に厄介なんだが…。奴には死角がない」


そして、3つ目の理由は…。


数十体の鬼を送った話に戻るんだけど、正面からはもちろん背後からの不意打ちや奇襲にも全く動じることなく奴は対応してきたと言う。


目を瞑ってお腹の前で手を組んだまま…。


完全な不意打ちが決まれば勝機は充分に考えられる。


カンストしている神の力を持っていても、発動さえさせなければ生身の人間だ。


仮に神憑かみつきの攻撃が通用しないとしても、特質で奇襲を掛ければ奴を押さえ込めるかもしれない。


だけど…、その弱点を補うかのように奴には死角や隙がない。


そもそも普通の人間ですらないのかも…。目を瞑った状態なんて、普通に考えたら何も見えないんだから。


そして、奴の閃光による攻撃の発動条件もわからない。


例えば…。


日下部くさかべなら、お尻から放屁ファートを出す。


最近、学校に襲来した僧頭そうとう先生は頭から熱線を…。


前に戦った猿渡さわたりは力を使う時に指を鳴らしていた。


こんな感じで何かしらの動作の後に力が発動するのなら、その隙を狙うチャンスも少なからずある。


奴はずっと突っ立ったままだった…。



日下部くさかべ「つまり…。戦うなら隙も死角もないクレイジーな相手に、真っ正面から突っ込んで行くしかないというわけだね」



片膝を立てて座ったままそう語る日下部くさかべ


キザに振る舞っているように見えて、彼の声や足は震えている。


無理もないよ。僕だって怖い。


この空間から外に出れば、次こそは死ぬかもしれない。いやけいを祭りに呼んでいなければ、もう僕らは死んでいる。


文月ふづき「理解してくれたようだな。いま他のメンバーを探している。見つけ次第、ここに匿うつもりだ。他に生存者も居たら避難させて治療する。そして──」


けいはひと呼吸おいて、力強くこう言った。



文月ふづき鬼塚おにづかを見つけて奴を瞬殺させる。だから、君たちは大人しくしていてくれ」



絶望的なこの状況を一転させる言葉だった。


そうだ、僕らには琉蓮りゅうれんが居る。


生きている人たちを匿いつつ、彼を探すとけいは言った。


琉蓮りゅうれんは“BREAKERZブレイカーズ”最強の特質持ち。


うっかり地球を壊しそうになる規格外の力持ち。


あんな最低な奴に、琉蓮りゅうれんが負けるビジョンなんて一切浮かばない。


日下部くさかべ「やるせないけど、それが今できる最善の策だね。僕らが下手に出ても足を引っ張るだけさ…」


新庄しんじょう「何だよ、それ…。お前ら悔しくねぇのかよ!」


淡々とそして哀しそうに話す日下部くさかべに対し、新庄しんじょうは声を荒げた。


剣崎けんざき新庄しんじょう氏、気持ちはわかるが…。鬼塚おにづか氏は私たちより遙かに強い。大悪党興禅(こうぜん)すらも無傷で沈めて見せるだろう。これ以上誰も傷つかずに済む最善の策なのだ」


新庄しんじょう「でもよ…! くそ…!」


堅苦しくも真剣に語るれいに対し、彼は言い返す言葉を失った。


僕ら“BREAKERZブレイカーズ”は、みんな何かしらの能力を持っている。


だけど、現実はマンガとは違う。


みんなで戦って最強最悪のヴィランに打ち勝つなんて展開を再現しようもんなら、全滅する。


だから、戦術“琉蓮(りゅうれん)”で勝つしかないんだ。



『生存者を発見しました』



無機質な音声が真っ暗な空間に木霊こだまする。


恐らくけいが造った人工知能の“FUMIZUKIフミヅキ”だ。


文月ふづき「居たか、生存者。保護して治療しよう。念の為、周囲の状況を映してくれ」


『了解しました』


けいが人工知能にそう言うと、真っ暗な空間に長方形の映像が浮かび上がった。


「うっ…!」


上空から祭りの会場を見下ろしているような角度で映し出された光景に、僕は吐き気を催した。


興善立休こうぜんりっきゅうを中心に転がる大勢の無惨な死体。


道の両脇に並んでいる穴だらけの屋台が返り血で真っ赤に染まっている。


まさに僕らが一度死んだ場所。


文月ふづき「この中に…、生きているやつが居るのか…?」


けいは映像を見ながら顔を引き攣らせて、FUMIZUKIフミヅキに問いかける。


『はい、彼女が生存者です。まだ脈があります』


映像は血塗れで倒れている1人の女性にズームアップしていく。


見るも無惨な状態に思わず目を背けてしまった。


人としての原形は留めているけど、本当に生きているのか?


ダメだ…、ちゃんと見ないと。


ビビって目を逸らしているようじゃ、誰も助けられないだろ。助かるかもしれない命なんだ。


そう自分に言い聞かせて、もう一度映像を見上げる。



『う………うぅ…………』



微かに聞こえる呻き声。


同時に、うつ伏せに倒れている彼女の手がぴくりと動いた。


「生きている…」


文月ふづき「一度、此処へ匿って治療しよう。その後は別のポッド(空間)に移ってもらう。一般人避難用の空間を新たに作成する」


僕がそう呟くと、けいはそう告げた。そんな彼の声は心なしか震えている。


彼もきっと怖いんだ。こんな状況で冷静になれる方がおかしい。


スマホを取り出し、恐らくこの空間を創ったアプリ“RealWorldリアルワールド”を操作し始めるけい


手慣れた様子でスマホを触っていた彼だったんだけど…。



文月ふづき「…………。」



顔をしかめると同時に手が止まった。


操作や設定が終わったんだろうか?


でも、映像に映っている満身創痍の彼女がこちらに転送されてくる気配はない。


新庄しんじょう「あんまよくわからんねぇけど…。あの人をこっちに呼ぶんだよな?」


何となく僕らは不穏な空気を感じ取っていた。


けいがスマホの画面を見つめたまま固まっているから…。


新庄しんじょうの問いかけから、少しばかりの静寂が訪れる。


そして、けいはすっと顔を上げてこう告げた。



文月ふづき「彼女は助けない」



驚愕の回答。


見捨てるって…、言うのか?


新庄しんじょう「ふざけんなよ、テロリストがああぁぁぁ!!」


文月ふづき「敵との距離が近すぎる。奴に此処を悟られる」


勢い余って殴りかかる新庄しんじょうの拳を払いながら答えるけい


ザッ…………ダン!


新庄しんじょう「ぐはっ…!」


彼はその流れで新庄しんじょうの足を払い、真っ黒な床に転倒させた。


悟られる…? 外側(現実側)からこっちがわかるものなのか?


けい、見殺しにはできないよ。それに此処を見破られる確証なんて…」


日下部くさかべ「確証ならあるよ、水瀬みなせ


日下部くさかべは僕の話を遮ってゆっくりと立ち上がる。


日下部くさかべ「この空間には、神の力が使われている。神の力とけいの技術で成り立っているって感じがするけど合ってるかい?」


文月ふづきおおむねそんな感じだ」


けいの答えを聞いた日下部くさかべは深く頷いてから話を続けた。


日下部くさかべ「この空間は…、僕でも破れるよ。使われている神の力は下位神のものだ。僕でも破れるならカンストしている規格外の神なら言うまでもないね」


「君は…、君なら外側からでも探知できるのか…?」


日下部くさかべ「その気になれば恐らくね。そこに空間が在ると思えば探し出せるだろう」


じゃあ、彼女をこっちに匿えば確実にバレるじゃないか。


匿っても匿わなくても、興禅こうぜんに殺意があれば彼女は死ぬ。


文月ふづき「理解してくれて助かっ…」


日下部くさかべ「だから、こっちからおもむけば済む話さ」


文月ふづき「は?」


日下部くさかべの発言には皆、意表を突かれたと思う。


日下部くさかべ「勝つのは難しい。だけど、彼女を担いで逃げるだけならお安い御用さ。逃げ切った先で薬を打てば助けられる」


彼は得意気にお尻を叩いて、いつものように爽やかに微笑んだ。


朧月おぼろづき「僕も………()()()…………だけなら…………」


剣崎けんざき「私も滑走で距離をとるだけならば…」


的場まとば「俺もじゃ! 逃げ足なら日本一じゃ!」


お尻を突き出してキザに笑う日下部くさかべに続いて、彼らは口々にそう話す。


確かに…、彼らは速い。


それを真っ向勝負じゃなく逃げに徹底して使うなら、“RealWorldリアルワールド”を使わなくても助けられるチャンスは充分にあるはずだ。


的場まとばはわからないけど…。


けい、逃げに徹するなら可能性はあるよ。彼女を助けよう!」


文月ふづき「お前ら…」


呆れた様子で溜め息を吐くけい


彼は腕を組んでしばらく考える素振りを見せた。


文月ふづき「わかった、彼女を助けよう。日下部くさかべ朧月おぼろづき剣崎けんざき…、君たちを現実(外側)へ…」



グチャッ…



決心したけいの言葉を遮るかのように、その音は木霊こだました。


柔らかい何かが潰れるような音…。


映像越しに聞こえたはずなのに、その生々しさは拭えない。


引き攣るけい、額に汗を滲ませる日下部くさかべたち。


新庄しんじょう「お、おい……あいつ…!」


映し出されているであろう映像を見て、怒りと絶望を露わにする新庄しんじょう


僕は恐る恐る映像の方に目を向けた。



興禅こうぜん『あぁ……見落としてた』



正円に大きく空いた女性の頭蓋。


絶命は免れない。


彼女の身体が痙攣しているのは脊髄反射というものだろうか。


その痙攣も直後に無くなった。


興禅こうぜんは1歩も動いていない。体勢も変えず淡々とそう呟いた。


死んだ…。僕らが悠長に話している間に…。助けられたかもしれないのに…。



「くそ……くそ……。何にもできなかった……」



そう思うと、自然と涙が溢れてきた。


本気でヤバい……殺意のある相手に、僕は何もできないんじゃないか。


新庄しんじょう「出せ…。ここから出せよ!!」


獅子王ししおう新庄しんじょう、落ち着いて! 冷静に考えよう!」


けいに食ってかかろうとする新庄しんじょうを、あきらは必死になって止めている。


このままじゃ皆がまとまらない。


けい琉蓮りゅうれんや他のみんなを捜すと言っていたけど、いつ見つかるんだ?


たった数分放っておいただけでも、奴は何を仕出かすかわからない。


“見落とした”と言って生きている彼女を殺したということは…。


少なくとも祭りに来た人全員の命を狙っていると考えたほうが良い。


奴は生きている人を見つけ次第、手に掛けるだろう。


こっち側で皆がまとまらない内に、向こう側(現実)では新たな動きがあった。



『はっ……はっ……はっ……!』



荒い息遣いで走る背の小さな女子生徒、ひなさんが興禅こうぜんが居る方向へ走っていく。


よく一緒に居る友達の1人を担いで…。


返り血か自身の出血か、2人とも服や顔が血や泥で汚れていた。


もう1人の友達は…。

あまり考えたくはない。



ザザァ───!!



そして、彼女は眼前に迫る興禅こうぜんは急ブレーキを掛けて止まった。


興禅こうぜん『ん?』


靴底と道路の擦れる音が響き、奴は目を瞑ったまま微動だにせず反応する。


興禅こうぜん『お前、振り切ったのか』


姫崎ひめさき『はぁ……はぁ……はぁ……!』


友達を背負ったまま後ろを確認するひなさん。すぐさま前に向き直り、奴を睨みつけた。


ひな……逃げて………。私はたぶん……もうながくないから』


弱々しい声で彼女はひなさんに訴える。


姫崎ひめさき『弱音は吐かない。病院着いたら絶対治るから…。生きていれば治ると思うから』


『空いた穴から………血が止まらないの。ひなは強いから………1人なら逃げられるでしょ。お願いだから……私を置いて…』


友達の目から映像越しにでもわかるくらいの涙が零れた。


けい…、頼む。2人をこっちに…。君なら治せるんだろ?」


彼は僕の言葉に返事をせずぐっと拳を握り締めて、ただただ辛そうに彼女たちを見ている。


興禅こうぜん『楽観的だなぁ。人間は頭を打っただけで植物状態になるんだぞ♪』


何がおかしいのかニヤリと嗤う興禅こうぜん


姫崎ひめさき『ちょっと待っとって。あいつ、退けてくる』


ひなさんはそう言って、背負っている友達を優しく下ろした。


『戦っちゃダメ…!』


泣きながらひなさんを必死に止める友達。



姫崎ひめさき『すぅーっ…………はぁーー…………』



彼女は何度か深く呼吸をしてから振り返り、鋭い目つきで興禅こうぜんの元へ駆け出した。



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