ラストスパート - 姫崎 雛②
うちがトラックに立つのは2度目。
外身ムキムキ、中身は豆腐の鬼塚が急に走れんとか言いだして、代わりに走ったのが1回目やった。
そして2回目はリレーで1番重要なポジション、アンカーや。
日下部「行くよ、シリウス。更に速い放屁のお披露目といこうじゃないか」
剣崎「今回は……負けない」
不知火「早く食べたいなぁ」
的場「雛たん、アンカー一緒だお/// 雛たんの体臭、凄く刺激的。もしかして、ワキガ? 凌ちん興奮しちゃう♡」
アンカーでまともなんは、うちだけや。
全員、変なオーラ放っとる。
だけど油断はできへん。こいつら皆、“BREAKERZ”とかいう超能力的なん持ってる奴らや。
文月関連の奴らってこともあって、顔も名前も割と知ってる。
うちの脚で順当に勝てるかは正直ビミョい。
それと緑色のハチマキ巻いててやたら求愛してくるやつ…、後でシメる。
今は手出したらあかん。
暴力で失格になってまうから。
アホみたいな求愛するなら、もうちょい顔面の火力上げた方が良いと思う。
1番前を走る黄組に次いで、赤組のランナーがバトンを持って戻ってくる。
姫咲「はぁ……はぁ……! 姫崎雛! 勝たなきゃ、ただじゃおかないから!」
アンカーのうちにバトンを渡したのはロベリアの女、姫咲紫苑。
普段の上から目線とは違って、必死な様子のこいつに嫌悪感はない。
「勝つのは当たり前。負ける気や毛頭ないわ」
息の荒い彼女からバトンを取ったうちは、前を見据えて深呼吸。
「気功靭脚」
精神統一で脚の気をむっちゃ高める。
勝手に集中力も上がったうちには、わざわざ見んでもわかった。
うちがバトンを持って走り出した直後、隣に居たあいつらもバトンを受け取ったってこと。
全員の“気”が変わった。
各チームの超能力者たちも出陣する。
ダッ!
「ふんふんふんふんふんふんふんふんっ!!」
だけど、うちは一歩先にスタートしとる。
自分で言うのも何だけど気功靭脚中のうちは、むっちゃ足速いと思う。
うちが先にバトンを貰った時点で、普通なら勝敗は決まったも同然。
もう1回言う。うちの後ろから追い上げようとしてくるあいつらは普通やない。
全員、超能力を持った変質者や。
日下部「宙屁・新幹腺」
日下部の声、直後に轟く爆発音…? あいつの“気”に特に変化は感じられへん。
的場「雛……たん……。キキキ………キレイなオネエサン」
ロケットの発射音みたいなんも聞こえてくる。
不知火「成体変化・趨豹跳虎」
この声は…、あの紫組の小っこいの。うちも小さいけど、あいつには身長負けてへん……たぶん。
こいつは何か…、オーラが変わった?
「ふんふんふんふんふん!」
振り返ることなく、脚の気を高めて全力ダッシュ。
気にしたらあかん。
後ろを気にしたら負けや。
前だけ見て全力で走って、ゴールテープを切れば1位を取れるんや。
でも、あかん…。深呼吸からの精神統一してるのに、気になってまう。
全く気にせずスルーするにはあまりにも騒々しい。
ちょっとだけ…、ちょっとだけなら良いやろう。うちの脚では敵わんほどバチクソ速かったら、そもそも勝ち目とかないし。
ほんの少し、ほんの少しだけチラッと見ようとしただけやった。
うちは高めた脚の気に集中しつつ、首を少しだけ動かして後方を確認した。
「イイィィィ!?!」
タコみたいな口で変な声出してしもたやないかい。
上空で超高速かつ順応無尽に飛びまくってる日下部と、それにシンクロするように大量の鼻血を噴き出しながら宙を舞う的場。
なんやこのギャグマンガ的な超常現象は…。“超能力”の一言で片付けて良いもんちゃうやろ。
そして──。
水瀬「風の理、追い風全開!!」
青組のアンカーも少し遅れて参戦する。
ザザァ──!
文月の番に成り得るハーフ系オタクイケメン、剣崎。
暴風レベルの追い風を背負って、追い上げようとしている。
ちょっとビビって変な声出してしまったけど、うちは一瞬で態勢を立て直して前だけを見た。
ざっと見た感じ、全員うちより速い。
単純なスピードでは絶対勝たれへん。
けど、このリレーの最終局面に置いてあいつらの超能力は大した脅威にならないと思う。
まず1番速そうな日下部と的場。
日下部「ちょっとシリウス?! 何をやってるんだい? コントロールできてないじゃないか。ていうか、イボ痔が……切れて……痛いッ!」
的場「雛たん……、キレイなオネエサン……ドコ?」
“気”が乱れまくり。能力のコントロールができてない。
ちゃんとまっすぐ飛べてたら、もうとっくにゴールしてる速さや。
あんまり使ったことない能力なんか?
現状、うちがそのまま走ればこいつらよりは先にゴールできる。
次に、後方から追い上げてくる番の剣崎。
上空でアホいきに飛んどる2人よりは要警戒かもしれんけど、こいつもコントロールしきれてない。
こいつもバチクソ速い。やたらかっこ付けたがる日下部との超能力者対決を見た奴ならわかるやろう。
ただでさえ速かったのに、今は暴風並の追い風を受けての猛ダッシュ。
スピード自体は対決の時を大幅に上回っとるはず。やけど、風に振られてトラックのカーブを曲がり切れてへん。
1番前を走るうちに追いつくんは時間の問題やけど、その頃にはうちはゴールしとる。
いける、このまま普通に走りきったら良いだけや。
ちょっとビックリしただけ。アホが鼻血ぶちまけながら飛んだり、イケメンがもの凄い形相で迫ってきてるから…。
でも、他の女子ならもっとビビってると思う。
絶賛パパ活中のキャピキャピ女、姫咲紫苑やったら怖すぎてオシッコ漏らしとんちゃうか?
んで夜にキモいおっさんとイケないことしながら、“今日は怖かったぁ”とか言うてぶりっ子してんねやろ。
「フヒヒ…」
あかん、キモい声が漏れた。
集中しろ集中…! 自分の脚のことだけ考えとけ。
未だ上空でシンクロ体操しとるあいつらはともかく、ちゃんとせな剣崎は追いついて来る。
イケない妄想はゴールテープを切った後、教室の隅っこでこっそりやったら良い。
あ、でも割とバレとんやった…。
あかん、あかん…! 今後の学校生活考えるんも後や後!
今はとにかく走ることに集中して…。
サッ──!
まずい、追いつかれてしもた。
剣崎…? いや、違う。
あいつのスピードなら、うちに追いついた時点でそのままぶち抜かれとる。
うちと並走しとるこいつは…。
うちが首を動かさず横目でチラリと確認すると、風になびく紫色のハチマキが視界に入った。
紫組…、あの小っこいのか。
いや、心なしか走り出す前よりデカくなっとる?
それに奇抜な走り方やな。四つん這いで動物みたいに。
そんで、追いついたってことはうちより速いってこと。
どないする? このままやと追い抜かれる。破門覚悟でまた足止めする?
うちと同じようなことを、こいつも考えとったんかもしれん。
不知火「う~ん、邪魔♪」
邪魔? 誰が? 何が?
小っこいのの発言に疑問が浮かんだのも束の間──。
シャッ……!
「ぬおっ!?」
前方からもの凄い速さで5本の刃物みたいなんが飛んできた。
それを間一髪、イナバウアー的な感じで回避して即座に体勢を立て直す。
ビビる暇も考える暇もない。今はとにかくゴールを…。
前を見て再び走り出そうとしたうちの前に小っこいのが立ちはだかっていた。
さっきのは何処からともなく刃物が飛んできたんやない。
左右に開いて構える奴の両腕を見て確信した。
不知火「成体変化・鉤爪」
うちのダッシュを遮ったんは、奴の両手の鋭い鉤爪や。
何考えとんや、こいつ。
うちを殺す気か?
まぁ、あれも身体を変化させる超能力的なもんなんやろうけど。
うちは前で構える小っこいのに対し、走るのを止めなかった。
うちが目指すのはゴールだけ。
それを邪魔してくるなら蹴散らせば良いと思う。
そのまま走るうちに対して、向こうは無邪気に笑っている。
全員殺してからゴールしようって腹ならぶっとんでんな。
殺る気で来るなら、こっちも骨の1本くらいは貰うで。
こっちは全力ダッシュしてんのに、向こうはそれを回り込んで待ち構えてる。
スピードは明らかにあっちが上。
そのままゴールに向かわんのは、ある意味こっちとしても好都合。
「走れん程度にシバいたる」
不知火「アハハ♪ 言われた通り、殺す気で行くね!」
ダッ…! シャッ……!
奴は地面を蹴った瞬間、目の前に現れて鉤爪を振り下ろしてくる。
距離を詰めてから攻撃に至るまでの速さが尋常じゃない。
ほなけど、うちはその攻撃を受け止めた。
手首を完全に鷲掴み。
奴が持つ“気”の流れや変化から、行動を先読み。むっちゃわかりやすい奴やな。
「バレバレや、小っこい殺人鬼」
そして、そのまま攻撃に転じる。
ピキ……バキ…!
掴んだ手首からうちの“気”を流し込み、鉤爪を破壊。鋭くて細い分、丈夫ではなかった。
耐久性が大してないから、受けたついでに壊せる。
もう片方の爪も同じように破壊。
自慢の超能力はなくなったで。
後はぶっ飛ばすだけやな。
脚へ集中させた“気”を少しばかり拳に移す。
鬼炎拳の基本技──。
「気功鉄拳」
精神統一、高めた“気”を拳に集中させて放つ突き技。
簡単な話、素手のに鈍器やメリケンサック着けて殴るくらいの威力が出るってことや。
その状態で、小っこい殺人鬼の顎を目がけて拳を打ち上げた。
宙を舞う奴の身体。気絶だけで済めば良いけど、顎の骨は粉々だと思う。
ちなみに、この一連の流れをうちは走りながらやった。師範は破門にするんじゃなく、うちを褒めるべきだと思う。
剣崎もまだ追いついてない。
変態とかっこ付けも上空でシンクロ体操を継続中。紫組はいま沈めた。
後はゴールだけ…。
ん? なんや? 小っこいのの“気”がまた変わった?
気絶してる状態での変化やない。
“気”の流れ的に上から何かしらの攻撃が来る。
どういうことや、なんでピンピンしとる? けっこう本気で殴ったで? 無傷やいうことはありえへん。
あぁ、それも超能力ってことか。
うちが走りながら空を見上げると、奴は丸くそして大きく膨張した赤黒い拳を振り上げて、上から降ってきていた。
不知火「成体変化・巨礫鎚」
その赤黒い拳をうちに向かって思い切り振り下ろす。
喰らえばグチャグチャのスクランブル。
うちは身を捻って身体を上に向け、巨大で血生臭い拳と正対した。
そして、右手の中指でその拳につんと触れる。
「ちゃんと走れ、フxxク野郎」
中指で触れた巨大な拳は跡形もなく砕け散った。血や肉片のような気持ち悪い何かが辺りに飛び散る。
不知火「あれ? なんd…」
ドゴォ!!
すかさず鳩尾目がけて、後ろ回し蹴り。
奴の身体は吹き飛び、防球ネットに叩きつけられた。
紫組は戦線離脱も同然。いや、奴なら起き上がってくるかもしれん。だけど、その時にはうちはゴールしている。
邪魔は居なくなった。後はそのまま走りきれば…。
ダンッ…!
うちに並んだのは、剣崎怜…!
いや、並んだんはマジのこの一瞬。
マッハかっていうくらいのスピードで置き去りにされるやろう。
小っこいのが反則ちゃうなら…。
ガシッ!
剣崎「ぬっ、何を…!」
うちも同じようにしたる。
一瞬でうちを追い抜こうとした奴の肩を“気”もクソもなく思い切り掴んだ。
振り払おうとしてくるけど、うちの手は離れへん。
うちの二の腕は女子に大人気のもちもちお肌。やけど、こう見えてうちは鍛えてんねん。
鬼炎拳でも何でもない。
剣崎「振り解けない…! 離すのだ! 進路妨害は反則であるぞ!」
うちの素の腕力、舐めて貰ったら困る。
反則だ何だの訴えてくる女々しい残念イケメン。
そのスピードでうちをゴールまで連れていけ。ゴールテープ手前で蹴り飛ばして、うちが1位を取る!
正直、追い風を受けた剣崎はクソ速かった。
鍛えた腕力を以てしても振り落とされそうになるほどに。
相対的に前から来る突風のせいで息ができへん。それでも何とか堪えた。
ゴールは一瞬にして目前に。後はこいつをぶっ飛ばせば、うちの単独1位が確定する。
そう思った矢先のことだった。
振り向かんでもわかる。
全く気にしてなかったあいつらの…。
シンクロ体操組の“気”が整った。
日下部「ふぅ…。土壇場での新技披露というものには、どうしてもリスクが付き物だね」
的場「見失ッタ雛タン……イマ見ツケタヨ」
まずい、豪速球2人組のお出ましや。
いや、実際の速さ知らんけど流れ的にこのイケメンより速いんやろ?
日下部「不幸中の幸いだ。まだ誰もゴールをしていない。仕切り直しだ、もう一度言おう。迅翼を凌ぐ超速の放屁、その名も__宙屁・新幹腺」
シューーーーゥン!
的場「俺モ今ソッチニ行クネ──」
ブフオォォーーー!!
ミサイル並の速さで上空から迫ってくる2人組。
剣崎「君が離れないというのなら、君諸共ゴール致そう!」
うちはかなり焦っていた。
バシ
剣崎「うっ…!」
とりあえず、隙だらけの剣崎の首に手刀を加えて失神させる。
まさか小突かれるとは思ってなかったんやろう。
彼はゴールを目前に、うつ伏せの状態で倒れ込んだ。
ゴールテープは手の届く距離にある。
それでも…、それでも後ろのあいつらがうちより……速い!
負ける……負ける……。
変態とかっこ付けに抜かれて3位とかいう何とも言えん順位で終わる。
そしたらあのキャピキャピ女、絶対ウザいこと言ってくるやん。
的場「雛タン……来タオ///」
日下部「ごめんね、姫崎さん。今ばかりはマイセルフファーストで行かせてもらうよ」
変態とかっこ付けがうちの両脇に来て、そう言ってくる。
一言いってから追い抜くくらい余裕ってことなんか…。
妨害しようにも両方同時は無理や。
負け………る…………!
ドクン
心臓の鼓動に妙な違和感を覚えた。
負けて悔しいから? そういうんじゃない。
一気に脚への集中が解けてしまった。
解けたというより、頭ん中がそれどころではなくなったんや。
足が完全に止まる。
それは…。
日下部「…………。」
的場「…………。」
うちだけじゃなかった。
こいつら2人もゴールを目の前にして、無言で浮遊している。
そして、2人は後ろに振り返って一点を見つめていた。
何かが居る? うちも彼らにつられて振り返る。
今のうちにゴールに向かうなんて気も起こらずに…。
「はぁ……はぁ……」
動悸がする。
それどころではない何かに、うちは駆られている。
「もう~、アタシのこと置いていかないでよ~」
聞き覚えのあるぶりっ子口調。
そういや、そうやった。
リレーは6チーム。
完全に忘れていた。他の奴らが全員超能力を使っていたから。
黄組の存在を…。いや、認識はしてたけど眼中になかったんや。
ただのぶりっ子やと思ってたから。
黄組のアンカーは、沼倉陶香。ロベリアの1人。
姫咲紫苑に纏わり付く金魚のフン。
高鳴る鼓動、高揚する気持ち。
沼倉「最後、みんな男の子で良かったわ。リレーで2位なら黄組の優勝だから」
こいつの声を聞けば聞くほど、気持ちがおかしくなってくる。
手が震えて、胸が締め付けられる。
何処かで感じたことのある感覚。
青組の剣崎、うちの手刀で失神。
橙組の日下部と緑組の的場、無言で沼倉を見つめている。
紫組の小っこいのは…。
不知火「あれぇ? 元に戻っちゃった」
意識はあるけど元の大きさに戻ってて、もう超能力的なのは使えなさそうや。
そんな中、黄組の沼倉はゴールに向かって余裕そうに歩いてくる。
そして、うちと目が合うや否や…。
沼倉「あら! 雛ちゃんも、もしかして沼ってる?」
裏がありそうな感じで微笑んでそう言った。
ドクン……ドクン……ドクン……。
奴の声を聞く度に心臓の鼓動が早くなる。
顔が……身体が……熱い。
何や……何やこれは……。
妙に見覚えのある感覚…。
とにかく、動こうにも動かれへん。
ゴールなんかよりも、こいつのことが気になっておれん。
日下部や的場も同じ気持ちなんやろか?
沼倉「やっぱり女の子でも沼るんだね。でも不思議。今はフェーズ2なのに、雛ちゃんはフェーズ1の時くらい?」
彼女は顎に手を当てて、考える素振りをする。
何言ってんのかようわからんけど、あかん……これ以上喋ったらあかん!
クソ、何でや。なんでこんな奴のことで頭いっぱいになってしまうんや。
沼倉「ふふっ…アタシ、嬉しいよ。雛ちゃんみたいな強い女の子、大好き。アタシのこと守ってくれる? 守ってくれるならアタシ、雛ちゃんの彼女になってあげる♪ ん? この場合は彼氏…? どっちだろうね! 面白いね~!」
鼓動が高まるうちのことはそっちのけに、沼倉は話を続けて…。
クイ
動けないうちの顎をくいっと持ち上げた。
顎クイやめぃ…!
壁ドンに次ぐ王道展開やめぃ!
何を考えてんねや…。
うちは今、必死に平常心を取り戻そうとしてるのに…。なんで、そっちはそんな余裕なんや。
ガシ
そんなことを考えてたら、失神していたはずの剣崎が沼倉の足首を掴んだ。
沼倉「あら? 何かしら? 男は黙ってアタシを見てなさい。今は本来フェーズ2なのだから。アタシは雛ちゃんと大事な話をしているの」
剣崎「………じて……ない」
冷たく言い放つ沼倉に対し、足を掴んだ剣崎は言葉を絞り出した。
剣崎「私欲で利用する目的で彼女と付き合うなど…。そんなもの王道の百合展開では…………断じてない!」
百合…、ボーイズラブの女版…。
恋愛……要素……。
恋愛………愛………恋?
あかん、考えたらあかん。
この感情は文月に……文月だけに感じるもの。
こんな……こんな金魚のフンみたいな奴に感じるはずがない。
怒りに近い感情に伴って、鼓動はより早く身体はより熱くなる。
沼倉「雛ちゃん、ゴールの向こうで話そっか。アタシが1番で、アナタは2番」
「違うと思う」
沼倉「え?」
ガシ
うちは怒りの赴くままに、沼倉の首を掴んでいた。
そして、そのまま奴の身体を持ち上げる。
沼倉「ちょ……苦しいよ雛ちゃん! アタシのこと好きでしょ? まさか……ヤンデレ気質…? まずい、ヤンデレ気質はこの効力では扱いきれない…!」
好きを前提に話すこいつに対して、怒りのボルテージは更に上がった。
「こんなの……、恋とは…!」
うちは首を掴んだ奴を、前方目かげて…。
ドゴォ!!
「違うと思う!!」
地面に思い切り叩きつけた。
その瞬間、謎めいた感情や動悸が治まり、ようやくゴールに意識が向いた。
そして、それは…。
的場「雛たん…! 危ナアアァァァイッ!!」
日下部「新幹腺は急には止まれない!」
うちだけではなかったみたいや。
ゴッ!
「あ゛っ…!」
変態とかっこ付けの頭がうちの背中にぶっささる。
リレーのラストスパート。
ただ走るだけじゃなく色々あったけど、うちは一応2位という形でゴールインした。
衝動的に沼倉をゴールに向かって投げたんは、渾身のミスやったと反省はしてる。
ーー
体育祭、最終プログラム“チーム対抗リレー”の結果。
1位、黄組(アンカー:沼倉 陶香)
2位、赤組(アンカー:姫崎 雛)
3位、橙組(アンカー:日下部 雅)
4位、緑組(アンカー:的場 凌)
5位、青組(アンカー:剣崎 怜)
6位、紫組(アンカー:不知火 真羽)
【体育祭優勝チーム:黄組】
途中変更はあったものの、全プログラムが予定通りに終了した。
勝ち点の合計により黄組の優勝が決定。閉会式にて、リレーを1位で締め括った沼倉陶香が朝礼台に上がってトロフィーを受け取った。
奇しくも“BREAKERZ”の居ない黄組が優勝を飾ることになったが…。
水瀬を筆頭に最後は全力で戦ったためか、体育祭終了後に彼らが酷評されることはなかった。
「やればできるじゃん、ブレイカーズ」
「見応えあったな、最後止まったのはよくわかんねぇけど」
「もう最初からやってくれよ!」
むしろ、最後は彼らに対する前向きな言葉が飛び交っていたと言えるだろう。
周りの悪くない反応を見て、水瀬はホッと胸を撫で下ろす。
生徒たちの支持で存続しているとも言える自警部は当分廃部にならなくて済みそうだ……と。
惜しくも負けてしまった青組だったが、水瀬や剣崎の顔は晴れていた。
他のメンバーも例外なく。
僧頭剛義の一件で、開催が遅れた体育祭。
その後には、期末テストが迫っていた。
すぐにやって来るテストに絶望する生徒もいる中、水瀬は明るい表情で拳を握り締めた。
水瀬(体育祭は何とか終わった! 後は期末テストを乗り越えたら、夏休みだ!)
【 自警部•体育祭編 ー 完結 ー 】
【 自警部•夏祭り編 】
始動。
__________________
“お盆”。
その言葉を知った興禅 立休という男は口が裂けんばかりに悍ましく嗤った。
興禅「死者が現世に帰る時期ねぇ。逆だ、今宵は現世から生者が還ることになる♪」




