神対策 - 文月 慶⑬
“RealWorld”起動直後、皇を含めた野次馬たちの姿が消える。
精巧に創られたアプリ内の世界。起動前とは全く変わらない校舎にグラウンド。
自分で起動しておいて何だが、本物とは見分けがつかない。
僧頭「生徒が消えた…。何かしたのか、吉波校生よ」
前方には光り輝くスキンヘッドの神憑、僧頭剛義がこちらを睨んでいる。
アプリの起動直前、僕は奴の頭を耐熱性の高い手袋で掴んでいたのだが…。
ゼロ距離からの不意打ちを警戒して、少しばかり現在位置の設定を変えさせてもらった。
いま奴と僕は10メートルほど離れた位置で対峙している。
「力を存分に発揮できる場を提供してやると言っただろ。ここがその場所だ。安心しろ、この世界には僕とお前以外の生物は存在しない」
僕がそう説明すると、僧頭は眉をひそめた。
僧頭「私が情もクソもない生徒のことを心配するとでも…? ふざけるな、“BREAKERZ”も連れてこい」
皇の言葉を肯定するわけじゃないが、こいつには少々躊躇いがある。
根は優しいハゲという可能性も否定はできない。“BREAKERZ”抹殺に捕らわれてはいるがな。
「奴らと戦うのは僕を殺した後だ。まずは僕に対して本気で来い。僕が死ねばこの世界は強制終了する」
嘘ではないが、全てを話したわけでもない。
設定は獅子王たちを隔離したあの時と同じだ。
“RealWorld”内で死亡……正確には瀕死の状態になれば安全機能が作動し現実の世界に戻される。
つまり僧頭と僕、どちらにとっても安心安全というわけだ。
周りを巻き込む心配も無く本気で殺しに行ける世界。神対策を練るには最高のフィールドだ。
「根は優しげなお前に言っといてやる。僕も本気でお前を殺すから、遠慮せずお前もかかってこい」
僕が僧頭にそう言うと…。
ピカーン!!
奴の頭は更に白く光り輝いた。
クソッ、ちょっと眩しいのが目障りだ。
高熱ハゲ頭の神憑。
日下部の言葉を借りるのは癪だが、あれが奴の臨戦態勢というわけか。
僧頭の頭を掴んだ時、“FUMIZUKI”に奴の“Deity値”を測定させた。
神が憑いていない普通の人間なら値は0となる。
それに対し、僧頭の“Deity値”は10だった。
神憑あるいは神の力を宿していることは確定というわけだ。
ちなみに現段階での最大値は255。数値が高ければ高いほど、憑いている神の位とやらが高いということになる。
先日、動作確認で計らせてもらった朧月の“Deity値”は17。
この値の差で何がどこまで変わるのかはまだわからないが、彼に憑いている神の方が少しばかり位が高いようだ。
人間に憑く神は基本位が低いケースが多い。
そう考えると僧頭の神は雑魚中の雑魚。この程度の相手に手こずってはいられない。
僧頭「私の力は太陽の元で真価を発揮する。太陽神よ、悪いが濫用させてもらうぞ」
頭が光り輝き無駄に眩しい奴は、上空にある太陽を見上げてそう言った。
やはり悪気はあるようだな。どういう事情か知らないが、せいぜい良い実験台になってくれ。
僧頭「行くぞ、吉波校生!」
奴はこちらに視線を戻し凄まじい形相で睨んでくる。
「文月慶だ。色々あって学校には行ってないがな」
僧頭「無断欠席は歴とした校則違反。ならば躊躇う必要はないな。これより神の体罰を決行する」
そして、僧頭は前屈みになり光り輝く頭頂をこちらに向けた。
「“AntiDeity”起動」
何かしらの攻撃が来ることを予期した僕はそう呟きスマホを操作する。
輝きが見る見る増していく奴の頭。
あまりの眩しさに思わず目を細める。
来るか…。
僧頭「炙れ__太陽頭熱線」
ピカーン!!
僕が身構えると同時に、奴の頭から白く眩いレーザーのようなものが放たれた。
ハゲ頭1個分の太さ、熱線という技名からかなりの高熱と推測できる。
まともに喰らえば致命傷は免れない。擦っても大火傷を負うことになるだろう。
流石は神の力といったところか。
「“AntiDeity:Mode.OFFSET_ShapeOfPlane”」
放たれた熱線に対し、僕はすぐさま対応する。
長々と単語を並べたが、簡単に言えばこれは…。
白い熱線の進行は僕の目の前で止まった。見えない壁に阻まれるように。
“Mode.OFFSET”。謂わば神の力による異能を相殺するモードだ。
日下部が使う相殺屁の効果と同じようなもの。
まぁ奴のオナラより僕の方が高性能だがな。
能力を使った神憑の“Deity値”を上回る神性子を出力し、相手が能力を使った際に発生した神性子にぶつけることで完全な相殺を可能にする。
相殺方法はいくつか用意してあり、どんな能力に対しても対応できるようにしているつもりだ。
今回使った“ShapeOfPlane”は、出力した神性子で板状の壁を形成するといったもの。
この見えない神性子の壁が僕の前にある限り、奴の熱線は通らない。
まぁ壁を避けて回り込まれたら普通に喰らうがな。
神性子というのは神憑や神が発している原子のようなものだ。名前は勝手に僕が付けた。
向こう側での話は知らないが、こちら側に来た神や仏たちは科学的に解析可能だったというわけだ。
理解さえすれば、神も摩訶不思議なものではない。
僧頭「熱線が文月に届かない…?」
自身の熱線が効かないことに気づいた僧頭は、攻撃を止めて頭を上げる。
ひとまず神の力の相殺には成功した。
ここが現実ならかなり危ない綱渡りだ。失敗していたら僕は死んでいる。
だが、この成功は初めの1歩に過ぎない。
ただ真っ直ぐに飛んできた攻撃に対し、板状の壁を設けて相殺しただけだ。
神は位の大小関係なく厄介で強大な能力を使ってくる。
相殺実験第2弾といこう。
次はより複雑な攻撃を相殺する。
僧頭「もう一度__太陽頭熱線」
ピカーン!!
先ほどと同じパターンの熱線が放たれる。そして、その攻撃を難なく相殺。
はぁ、時間を無駄にしないでほしい。
僕は暇じゃないんだ。
「それは効かない。他にないのか? まさか、それ1本だけじゃないだろうな?」
僧頭「ぐぬぬ…!」
僕の発言に対し悔しそうな表情を浮かべる僧頭。
ぐぬぬ…? いやマジでそれしかないのか?
嘘だろ? 腐っても神憑だろ? ただ頭を無駄に光らせて真っ直ぐ撃つだけなのか…?
「おい、本気でやれ。もっと奥の手とかあるだろ。まだ実験は始まったばかりだぞ」
僧頭「太陽頭熱線!」
僕の発言に対し、僧頭は同じ技名を叫びながら頭をこちらに向ける。
名前は同じだが少しばかり変化をつけてきた。
先ほどまで真っ直ぐ飛んできていた熱線とは違い、前に張った神性子の壁を回り込むように大きく弧を描いて飛んでくる。
僕から見て左側から迫る無駄に眩しい熱線。
確かに今のままでは相殺できないな。
僕は熱線に対し左手を翳した。
これを合図にアプリは神性子の壁を左側にも形成する。
直線的に迫ってきたものと同じくこの熱線も相殺できた。
“AntiDeity”は神と戦うためのアプリだ。直感的な操作機能を組み込んでいない訳がない。
いちいちスマホをイジって操作しているようじゃ、相殺する間もなく殺られるだろう。
僧頭「太陽頭熱線…! 眩い、眩いかああぁぁぁ?!」
今度は僕の右側を目がけて熱線を放ってくる。これの対応も右手を翳すだけだ。
全く…、学ばない奴だな。
もう“熱いか”とは聞かないか。そっち路線の体罰は諦めて、眩しい方向での体罰を考えているようだ。
「もっと工夫するか奥の手を見せろ。その程度じゃ実験にならない」
奴にそう話しながら、僕は念のため後方にも手を翳す。これで前方と後方、左右で四方に壁を形成した。
もう太陽頭熱線は僕には通らない。
相殺において完全無欠に見える状態だが一応欠点がある。
それは、スマホの充電の減りが激しくなることだ。充電切れを起こしたら僕は一気に無防備になる。
それともう1つ…。
僧頭「むぅ…。では、残影頭」
やはり他の技も持っていたか。
まぁ当然だ。相手は強大で厄介な能力を使う神憑だからな。
残影頭。白く輝く頭を突き出してそう告げた僧頭の左右に、同じような頭が2つ出現する。
心なしか左右の頭は揺らめいているように見えるが…。恐らくあれに実体はなく、蜃気楼のような理屈で視えているといったところだろう。
一定の間隔で横に3つ並ぶ眩しいハゲ頭。一見シュールな見かけだが果たして…。
僧頭「炙り尽くせ__太陽頭熱線」
まぁ予想の範疇の攻撃ではあった。
端的に言うと、3つの頭から同時に熱線が放たれた。そして、その3つの熱線は前方と左右に形成した神性子の壁と衝突する。
その壁に留められて僕には届かない。
若干手数が増えただけか。
そう思った僕は少しばかり油断していた。
ピカーン!!
全く警戒していなかった背後から4つ目の熱線がやって来る。
それに気づいたのは後ろから光を感じたタイミング。念の為に形成しておいた後方の壁がなければ僕は負けていた。
油断するなと何度も言い聞かせているだろ。クセというものは中々治らないな。
四方から放たれる熱線。全方向眩しいためグラウンドの状況が見えない。
どこを向いても真っ白だ。これでは動けないし、奴の行動が見えない。
ふっ…、雑魚は雑魚でも神ということに変わりはないというわけか。
そして…、僕は気づいた。自分の立つ地面の砂が溶けて赤くなっていることに。
だが、遅かった。
奴は熱線で周りを見えなくし、地中から熱線を送り込もうとしていたんだ。
地面を溶かして出てくる頭1個分の太さの熱線。手を翳すのも間に合わない。
やはり僕では勝てないか。
これが人間の限界だ。
たとえアプリが完璧であったとしても、手動には限界というものがある。
思考に身体が追いつかない。
地面から放たれた熱線は反射で少しばかり仰け反った僕の目の前で止まった。
『指示はなかったのですが、空気を読みました』
ポケットに入れていたコアから流れる無機質な音声。
無能ながらもどうやら空気が読める人工知能“FUMIZUKI”だ。
“AntiDeity”及びその他のアプリは、こいつともリンクさせている。
僕が直接操作しなくとも、こいつに指示を出すあるいはこいつ自身の判断でアプリを操作できるんだ。
思考と行動に遅れが出る人間に対し、人工知能はそれをほぼ同時に行える。
「年中ネットサーフィンしている甲斐があったようだな。今のはナイス判断だ」
まさか僕がこいつを褒める時が来るとはな。無能なりにも成長しているというわけか。
僧頭「流石に死んだだろう。早く“BREAKERZ”を屠らなければ…」
前方からそう呟く僧頭の声が聞こえた直後、全方向から視界を遮っていた熱線が消えた。
そして…。
僧頭「だにぃ!?」
無傷な僕を見て奴は驚愕する。
ちなみに僕も驚いている。
前方に本物含めた3つのハゲ頭。
それとは別に後方と足元にもハゲ頭があるからな。
僧頭「四方にバリアがあるのはわかっていたが、足元には何もなかったはずだ。いつの間に…?」
僧頭が真剣な顔で考えると、分身した他の頭も真剣な顔をする。
本物以外は頭部のみで浮遊していて、本物の動きとシンクロしているようだ。
やはり蜃気楼のようなものなのだろう。
今の発言で少しわかったことがある。神憑には神性子が視えるようだ。
全員がそうかはわからないが…。
僕らにとっては不可視な異能でも、神憑には視えるのかもしれないな。
「お前の攻撃は僕らにとって生温いんだ。今のが奥の手なら、もうこっちから仕掛けるぞ」
僕の言葉に対し、僧頭はニヤリと笑った。
僧頭「ずっと技名を考えていてな。カッコいい名前が思い浮かばないのだ。考えている間、少しばかり憎悪を忘れていた。待ってくれないのなら仕方ない。脳裏に焼き付いて離れないこのダサい名で行こう」
奴がそう告げた瞬間、4つの頭は更に分裂し始める。
2倍……4倍……8倍……16倍……32倍…………1024倍…………。
分裂に分裂を重ねた無数の蜃気楼ハゲ頭は、僕をドーム状に囲い込んだ。
そして、その全てが邪悪な笑みを浮かべてこう言った。
僧頭「融かせ__千本頭剛義」
こちらに向けられる無数の白く輝く頭頂部。眩しいにも程がある。
全方向から無数の熱線で僕を焼き殺すつもりだろう。
たった4枚の壁では防ぎきれないな。
これが最終奥義なら納得だ。言うまでもなく手動では手に負えない代物。
「FUMIZUKI、全て相殺しろ」
僕が“FUMIZUKI”に指示を出すと同時に、無数の熱線がこちらに向かって放たれた。
“AntiDeity:Mode.OFFSET_AutoAI”。
ここからは、こいつに処理を委ねる。
『予測演算開始完了』
迫ってくる無数の熱線の速度、方向などの予測演算を開始してから完了まで僅か数ミリセック。
体感で言えば一瞬。演算を開始した瞬間に完了している。
全方位から僕に無数に降り注ぐ頭1個分の熱線。
計算が速いに越したことはないが、ミスるなよ…。
いつもやらかす“FUMIZUKI”に対し、僕は若干の不安を覚えながら反撃の準備を始めた。




