体罰指導 - 文月 慶⑩
僧頭『早速だが小テストを始める。ミスした奴は全員、私の頭で体罰だ』
ホームルームが終わった直後に始まる僧頭の授業。
強い眠気に襲われる中、僕は昨日同様に奴を監視している。意識が朦朧としていて欠伸が止まらない。
ずっと昼夜逆転の生活をしていたんだ。朝起きられたのは奇跡と言っても過言ではない。
僧頭の就任2日目にして、彼らは鉢合わせることになった。
“BREAKERZ”が集められた水瀬のクラス。今日は1限目から歴史の授業があるようだ。
授業開始1番に出た“体罰”という言葉に一部の生徒がザワついている。
運が良いのか悪いのか、昨日ここのクラスに僧頭は来なかった。歴史や公民の授業がなかったからな。
富樫が受けた凄惨な体罰を目の当たりにしトラウマを植え付けられるようなことはなかった反面、小テストの対策はできていない。
いったい何人が奴の頭で炙られる? 下手すれば病院送りになるほどの火傷を負うことになるだろう。
だが、このクラスの連中はまたも運が良い。ここは“BREAKERZ”の巣窟だ。最強の鬼塚もいる。
逆に僕からすれば運が悪い。戦いが始まる前に僕が出ないといけないわけだが…。
いま僕が出て倒してしまったら、皇に降り掛かるであろう災難を解消することになる。
怪訝な表情でハゲた頭を見据える水瀬。
奴をモニター越しに見ながら僕は祈る。衝突は避け、穏便に済ませる方向で行ってくれ。
皇に体罰が下るまでは…。
僧頭『静かにしろ。頭を擦り付けられたいか?』
ザワつく生徒らを制した僧頭は、前の列に小テストの紙を配っていく。
僧頭『3年で習ったところから簡単な問題を5問出す。時間は5分だ』
全体に行き渡ったところで奴はそう言い、5つの問題を黒板に書き連ねた。
さっき配った紙には答えを書くといった具合だろう。
黒板に書かれた問いが難しいのかどうかはわからない。1年弱学校に行ってない僕からすれば、どれも難解に見えるが…。
クラス全体の反応を見る限り、そこまで理不尽な問題は出されていないようだ。
宣言された5分が経過。小テストを回収し教卓の上で採点を始める僧頭。
怯えた様子の生徒が何人か見受けられる。全問正解しているという自信がないのだろう。
そして“BREAKERZ”。奴らの目つきは他の生徒とは違う。敵かどうかを見定めようと、鋭い目つきで僧頭を見据えている。
転送装置の準備をしておくか…? 今にも戦いが始まりそうな雰囲気だ。
コト……
静かに赤ペンを置く僧頭。
採点は終わったようだ。
顔を上げた奴は鬼のような形相でこう言った。
僧頭『半数が不合格。呼ばれた者は私の前に並べ。体罰を決行する』
まぁ、抜き打ちでの小テストだ。満点を取れるのは、真面目に勉強している奴くらいだろう。
全員合格で体罰免除、“BREAKERZ”と僧頭の衝突は杞憂に終わる……なんて理想の展開は有り得ないわけだ。
不合格者の名前を淡々と述べる僧頭。彼らは呼ばれた順に、教卓にいる奴の前へと並んでいく。
「FUMIZUKI、転送装置を起動しておけ。座標は水瀬の教室だ」
“AntiDeity”を試す絶好の機会を潰されるのは御免だ。水瀬らが動き出す前に乱入する。
僧頭『以上だ。お前ら、灼熱の体罰を受ける覚悟はできているか?』
奴は、毛根が死滅しているスキンヘッドを両手で撫でながらそう問いかけた。
真に受けて怯える生徒、何言ってんだと言わんばかりの顔で首を傾げる生徒。
並ばされた不合格者たちは様々な反応を示していた。
そしてクラスの半数ともなると、当然“BREAKERZ”の中にも不合格者が居るわけだ。
無表情で一点を見つめる朧月。
帯刀した刀の柄に手を当て、僧頭を睨む剣崎。
バナナのことで頭がいっぱいなのか、どこか上の空な獅子王。
樹神『体罰て…、時代錯誤にも程がありますがなぁ…』
両手で自身の身体を抱きしめてガクガクと震えている樹神。
的場『へっ、何が灼熱の体罰じゃ! そんなもん皆で受けたら何も怖くない! 昔はそんなん当たり前だったんじゃ!』
1人だけ謎に体操服の的場。両手を腰に当て余裕の態度を見せている。
的場、お前はいつの時代の高校生なんだ?
ざっと列を見た感じ、“BREAKERZ”の中では彼らが不合格だったようだ。
合格していたのは水瀬と鬼塚くらいか。日下部はイボ痔が悪化して入院中。
お前ら、もう少し勉強しろ。
半数は合格しているんだぞ。
彼らは樹神を除けば、他の生徒たちと比べてかなり余裕があるように見える。
的場『体罰言うても頭擦り付けられるだけじゃろ! そんなんハゲが醜態晒すだけじゃ! ハッハッハ~!』
面白おかしく笑い飛ばす的場のお陰か、殺伐とした教室の雰囲気が和らいだ。
良いぞ、的場。もっと和ませろ。このまま行けば衝突を避けられる。
いや、待て。奴の頭は火傷を負うレベルの高熱を発する。この和やかな雰囲気は一時的なものに過ぎない。
的場『先生ぇ。俺、1番乗りで良いっすよ!』
教室が笑いの空気に包まれる中、ノリノリな的場は、眉間にしわを寄せた僧頭の元へ向かう。
的場『この頭を擦り付けるんですよね? ハハハッ!』
バシッ
そして、奴は何の躊躇いもなくスキンヘッドに触れた。
ジューー……
肉が焼けるような音。
的場『ノオオオオォォォォン!』
同時に反響する的場の悲痛な叫び声。
あまりの熱さに手を離す彼を僧頭は見逃さない。
奴は的場の首を掴んで身体を持ち上げ、ジタバタと暴れる彼を後ろの黒板に叩きつけた。
ドンッ!
気を失ったのか起き上がる気配のない的場。
僧頭『言ってなかったな。私の頭は熱したフライパンの如く熱いぞ』
和やかな雰囲気から恐怖のどん底にたたき落とされる生徒たち。
誰もが絶叫しパニック状態に陥る中、“BREAKERZ”はただただ僧頭を見据えていた。
『向かいますか? 転送の準備はできています』
一触即発の雰囲気を悟ったのか、僕にそう問いかける“FUMIZUKI”。
感心だな、空気が読めるのか。
僧頭『その上で私は問いかける。“私の頭は真に熱いか”と…』
そう語りながら、気絶した的場を持ち上げる僧頭。
頭をゆっくりと的場の腹部へ近づける。
『文月、指示をお願いします』
そうだな、向かうとしよう。
皇の件は残念だがもう限界だ。
剣崎たちは水瀬に視線を送り、恐らく指示を待っている。
そして当の水瀬は、真剣な表情をした鬼塚に目を合わせ深くゆっくりと頷いた。
「FUMIZUKI、僕を転送し…!」
鬼塚『先生っ!』
ピシッと手を上げ、席を立つ鬼塚。
的場の腹部に迫る僧頭の頭が静止する。
…………。僕は間に合ってなかったな。
いま挙手じゃなく攻撃していれば、決着がついてしまっていた。向かうならもう少し早めに行くべきだ。
鬼塚『ええと……その……、僕がみんなの分の体罰を受けます…』
若干オロオロとした様子でそう話す鬼塚。
水瀬は正面から戦うのではなく、あくまで穏便に済ます方法を選んだんだ。
アイコンタクトのみで指示を伝える。事前に話し合っていたのかもしれないな。
熱したフライパン程度のハゲ頭、鬼塚にはまず効かない。
頭を長時間擦り付けられるというセクハラ紛いなことに堪えられるかどうかは別問題だが…。
僧頭『ほう。私の頭の熱さがわかっていないようだな』
鬼塚『ぇ……あの……』
奴にそう言われた鬼塚は途端にオドオドとし始め、水瀬の方に視線を送る。
どうした、鬼塚? セクハラが嫌なのか?
ーー
人見知りな鬼塚。ほぼほぼ初対面な僧頭剛義に対し、どう話せば良いかわからなくなっていた。
そして、それを察した水瀬一同は小声で援助する。
ーー
水瀬『いいえ、わかっています。だからこそ、みんなの代わりに僕が受けます』
鬼塚に向かって囁くようにそう話す水瀬。
僕の超高性能な小型カメラじゃなかったら声を拾えなかったかもしれない。
鬼塚『い……いいえ、わかっています! だからこそ、みんなの代わりに僕が受けます!』
水瀬の言葉をそのまま話す鬼塚。
獅子王『僕、ドMなんで大丈夫ですよ』
水瀬に続いて、獅子王が呟く。
鬼塚『僕、ドMなんで大丈夫ですよ! ん…?』
怪訝な顔をする鬼塚に対し、今度はニヤつく樹神がこう告げた。
樹神『ヒヒッ…。僕のお尻にブロッコリーを詰めて、鞭でいっぱい叩いて下さい』
鬼塚『僕のお尻にブロッコリーを詰めて、鞭でいっぱい叩いて下さい……って樹神くぅん?!』
彼はセリフを言い切った後で気づいたようだ。相当ヤバいことを言わされていると…。
どうか、落ち着いて欲しい。樹神に向けた拳をゆっくり下ろすんだ。
僧頭『熱いっ!! 熱いかああぁぁぁ?!!!』
ドンッ!
なんだ…、今の初速は…? 僕の超高性能カメラでは捉えきれなかったぞ。
恐らく、奴は鬼塚の方へ頭を向けて床を蹴り飛ばしたんだ。
床に対して水平になった僧頭の身体は、ミサイルの如く鬼塚に向かって飛んでいったんだが…。
狙いは少し外れ、鬼塚の真横を通過して後ろのロッカーに頭を突っ込んだ。
鬼塚『ちょっと待って。あれ、僕のロッカーじゃん』
ズボッ…
僧頭『詰まらぬものを熱してしまった』
突っ込んで破壊したロッカーから頭を引っこ抜く僧頭。
鬼塚『…………』
死んだ目をした鬼塚は無言で自身のロッカーへ向かい、中を覗き込む。
鬼塚『僕の教科書、丸焦げじゃないですか。困ったな、お父さんに殺される』
僧頭『す、すまない。私が……先生が悪かった』
ふっ、最強の威厳にビビったか。
素直に謝る僧頭に対し、鬼塚は冷ややかな目で奴を見据えた。
鬼塚『僕がどんな体罰も受けます。だから、皆に手は出さないでください』
最強の特質。それをコントロールする完璧な力加減。そして、自己犠牲を厭わないヒーロー精神といったところか。
成長したな。今の君が居れば、僕は神対策やあらゆる研究に専念できる。
水瀬『琉蓮……』
頼もしい姿を見せた鬼塚に感心した様子の水瀬。
生徒たちの視線も彼に集まる。
僧頭『わ、わかった。では改めて…』
2人の間に気まずい空気が流れたのも束の間…。
僧頭『熱いっ! 熱いかぁ?!!』
最強無敵の鬼塚に、僧頭による無意味な体罰が下された。
ーー
鬼塚(え、何これ…?)
自身の腹部に頭を激しく擦りつけてくる僧頭剛義を見下ろす鬼塚。
灼熱を体罰をものともしない、あるいはそのスキンヘッドが高熱だと気づいてすらいないだろう。
クラスメイトの眩しい視線、頭を腹部に擦り付ける新手のセクシャルハラスメント。
彼はたただだ羞恥を覚え、早く終わってくれと願っていた。
ーー
僧頭『!? 熱い? 熱いかぁ!!?』
繰り返し問いかける僧頭が動揺を見せる。
問いに答えず何の反応も示さない直立不動の鬼塚。
大して…、いや全く効いていないことに気づいたか。自慢のハゲ頭が通用しない気分はどうだ?
異能如きが鬼塚に傷を付けられると思うなよ。
そして…、
水瀬『琉蓮、答えてあげて…!』
怪訝な表情を浮かべた僧頭に危険を感じたのか、水瀬はまたも小声で指示を出す。
指示を受けた鬼塚は戸惑いながらも頷き、僧頭の頭を見つめた。
僧頭『あ…、熱い。熱いのかぁ!?』
平然としている鬼塚を見て自信をなくしたのか、奴の語気が少しずつ弱まっていく。
なんて茶番だ。僕はこんなものを見るために監視しているんじゃない。
どうせ何も効かないだろうが…、せめて本気を見せろ。もし、それで本気なら実験台にすらならないぞ。
茶番じみた体罰を退屈に感じる中、“熱いか”という問いかけに鬼塚はこう答えた。
鬼塚『は、はい…! あったかいです!』
僧頭『…………。あったかい?』
腹部に頭を押し付けたままピタリと止まる僧頭。
水瀬『違う、そうじゃない…! もっと苦しんでるような感想を…! 先生はそういうのを求めてるんだ…!』
水瀬は焦った様子で立ち上がり、小声で鬼塚に呼びかけた。
小声とは言ったが、僕のカメラはかなり音を拾っている。僧頭にも聞こえているんじゃないのか?
獅子王『そうそう! だから、迫真の演技で先生に応えないと!』
普通のトーンでそう話す獅子王。こいつは頭がバナナに冒されている。
僧頭『迫真の演技だと…?』
奴は腹部に押し付けていた頭を持ち上げ、獅子王を睨みつけた。
当の本人を除いて殺伐とした空気が教室に浸透する。
あのゴリラめ。一触即発の展開を作りやがったな。そんなに戦いたいのか?
向かうべきか。だが今行けば、間接的に皇を助けることになってしまう。
剣崎『獅子王氏、それは違う。鬼塚氏に演技などをする余裕はないと思われる。熱した熱々のフライパンの如く熱い僧頭殿の眩しき煌びやかなお頭を腹部に擦りつけられているのであるぞ。私たちに心配をかけないよう、鬼塚氏は表情1つ変えることなく灼熱の体罰に堪えているのだ』
本気でそう思っているのか戦いを避けようとして言ったのかはわからないが、堅物の剣崎がフォローに入る。
獅子王『でも、鬼塚くんは最強だし大して効いてないんじゃ…?』
剣崎『獅子王氏…』
空気の読めないゴリラ人間に対し、剣崎は溜め息を吐きながら手で目を覆った。
僧頭『…………』
般若のような凶悪な表情を浮かべ、無言で鬼塚を睨みつける僧頭。
焦りと動揺が見える水瀬から、何かしらの合図を送る様子は窺えない。
まだ様子見で大丈夫だろう。
司令塔が機能していない。
鬼塚は自身を睨みつける僧頭には目もくれず、水瀬や他の“BREAKERZ”に視線を送る。
待て、本当に水瀬が仕切っているのか?
ゆっくりと深く頷く鬼塚。
「FUMIZUKI、僕を送れ!」
合図を送るのが奴とは限らない。
こと戦闘において最強なのは鬼塚だ。敵に王撃を行使するか否かの判断を、彼本人に任せているのだとしたら…。
今のは、“敵を沈める”という鬼塚から水瀬たちへの合図だ。
『かしこまりました。ワームホール型転送装置を起動します』
僕の指示に即答する“FUMIZUKI”。
その直後、目の前に黒ずんだ渦模様の大穴が現れる。
詳しく話している暇はないが、最近発明した転送装置だ。単純な話、この穴を潜ると指定した場所へ瞬時に転送される。
一度テストをしたかったが、急を要するためぶっつけ本番だ。
『座標を設定。転送開始』
「うっ…!」
奴が淡々とそう告げた瞬間、僕の身体は勢い良く黒い穴へと吸い込まれた。
そして、一瞬にして景色が変わる。
刑務所内の薄暗い僕の部屋から、朝日の差す明るい教室へ。
転送は成功した。やはり、僕の創るものに欠陥品など存在しないんだ。テストや動作確認なんてものは必要ない。
さて、戦闘態勢に入った鬼塚を…。
「はい、ここ絶対テストに出るからカチッと! カチッと覚えてね!」
…………。おい、ここは何処だ?
あの四角い顔の男性教師は誰だ?
「集合Aと集合Bがあります。そして…、かつ! または! かつ! または! もうカチッと! カチッとね!」
黒板に円や記号を力強く書き、真剣な眼差しで熱弁する見知らぬ教師。
教室を間違えたか?
奴は僕の知らない新任の教師か?
違う、全部違う。ここは吉波高校じゃない。
「かつ! または! か…!」
同じ記号を描くチョークが止まる。
四角い顔の教師は僕を見るや否や、目を見開きはっと息を呑んだ。
動きがいちいちオーバーだな。
「誰ですか? ここの学生なら授業に戻りなさい。そうじゃないなら不法侵入です。今すぐ出て行きなさい」
奴はそう言って僕を睨みつける。
あぁ、言われなくてもそうする。こんな所に用は無い。さっさと水瀬のクラスに行って、鬼塚を止める。
もう終わっているかもしれないがな…。
「FUMIZUKI、座標が違うぞ。早く送れ」
…………。返事がない。
そういえば、奴のコアは机の上に…。
今、ポケットの中にはスマホだけ。
クソッ! あいつ、僕だけを送りやがったな。しかも、全然違う場所に。無能にも程があるだろ。
「警察呼びますよ?」
僕が1人ぶつぶつと呟いている不審者に見えたんだろう。僕を見る奴の目は、更に細く険しいものになる。
今更警察など怖くはないが、呼ばれると面倒だ。
「ちょっと座標のミスで迷い込んだだけです。そして、帰れなくなった」
僕がそう弁解すると、奴はそっとポケットに手を入れてスマホを取り出した。
疑うな、本当のことだ。
「場所を教えてくれたら出て行きますよ。ここは何処なんですか?」
警戒はしているが、律儀な教師なんだろう。
奴は僕の質問に対し、疑いの目を向けたままこう答えた。
「ここは、吉南高専です。他校の学生ですか…?」
吉南…、漢字、平仮名ともにして1文字違いか。
“FUMIZUKI”め、とんだ勘違いをしてくれたな。
吉波市と吉南市、たった1字の違いだが場所はかけ離れている。
ここから吉波市まで、車を使ったとしても2時間はかかるだろう。手元にはスマホしかなく移動手段は徒歩のみと来た。
仮にいま鬼塚が動かなくとも、僧頭と“BREAKERZ”はいずれ衝突する。
悠長に歩いて帰るほどの猶予はない。はぁ、少しばかり手を汚そうか。
僕は、四角い顔の教師を見据えてこう告げた。
「僕は…、かつて政府に仇なした凶悪なテロリストだ。僕を吉波高校まで送れ。拒否すれば、お前の大事な生徒を攫う」
教室に少しばかりの静寂が訪れる。
「ぶっ…! ちょっと待って。笑ったらダメな状況なんだけど…。先生、吹き出してしまったわ」
四角い顔の教師の反応に釣られ、高専の生徒らが笑い出した。
流石は陰湿な政府の情報統制だ。僕が起こしたテロ行為は、同じ県内であっても誰も知らない。
「まぁ授業もちょうど半分くらいだし、ちょっと休憩挟みましょうか!」
黒板の上にある時計を見て笑いながらそう話す教師。
「じゃあ他校のテロリストさん。攫う方法というか具体的な作戦はあるんかな? いや、みんな笑ってるけど発想って大事だからね! 攫うっていうのは不謹慎だけど、考えがあるなら聞いてみたい」
生徒の笑い声に包まれた教室で、奴は真剣な顔でそう語る。
褒められているわけではないようだが、自分に興味を持たれるのは中々悪くはないな。
「ふっ、では今攫いましょう。実演すれば素人でもわかるだろう」
僕はそう言ってスマホを取り出し、あのアプリを起動する。
技術者の卵である高専生に紹介しよう。
神の力と科学の融合、“RealWorld”。
有効範囲と対象者を設定。
僕は、アプリの画面を先生に見せつけてこう言った。
「このボタンをポチッとだ」
アプリに表示された赤いボタンをタップした瞬間、教室にいた高専生全員が忽然と消える。
「…………え?」
途端に顔が強張る高専教師。
突然の出来事に理解が追いついていないようだな。
「攫ったんだ。生徒はこのアプリの中に隔離した。僕が解除しない限り、彼らは死ぬまで出て来られない」
「アプリの中…? 有り得ない。みんな! 居たら返事しなさい!」
僕の説明を脳死で否定し、誰もいない教室に向かって声を上げる姿は何とも滑稽だ。
「そう、神が居なければこのアプリは有り得なかった。神と科学、双方が存在した結果です。体験してみますか?」
僕はスマホを見せつけ、ゆっくりと歩いて距離を縮めていく。
「ひっ…! 来るな! 生徒を……返しなさい!」
奴が腰を抜かし尻餅を着くさまを見て、思わず笑みが零れた。
我ながら上手く行ったと思う。
これで移動手段確保だ。
そう確信した僕は、情けない教師を見下ろしてこう言った。
「僕を吉波高校へ送れ」




