2日目 - 文月 慶④
「あれは………」
皇「ゴリラだな」
間違いない、ゴリラだ。どこかで見たことあるような…。
ゴリラにしては、かなりデカい。奴はあの3人を背中に乗せこちらへ向かっている。
僕の居場所がバレている? 動物の本能か?
そう言えばニュースでゴリラの通報があったと言っていたな。それがこいつか。
皇「あれもお前の発明品?」
そんなわけないだろう。ゴリラをベースにしたロボットなんてわざわざ造ると思うか?
「違う、あれは本物のゴリラだ。僕があんなダサい見た目のロボットを造るわけがない」
皇「でも、ゴキブリ型よりマシじゃね?」
お前もそう言うのか…。新庄や樹神も言っていた気がするが…。
こいつら、ゴキブリが6本足だと言うことを知らないのか? 二足歩行の時点でベースにしているわけがない。
創造性のないこいつらにはそう見えるのかもしれないな。とても理に適ってる設計だと言うのに。
まぁ良い。このことについては後日、議論することにしよう。
今は奴らに集中する。まさか、わざわざ出向いてくれるとは。
僕がそっちに向かう手間が省けた。その分、より精度の高い対策を打てる。
そのゴリラのスピードではこちらに着くまでに後2、3時間はかかるだろう。
対策を打たれないようになるべく速く走っているように見えるが残念。
僕に1時間以上の猶予を与えた時点で君たちの負けだ。僕が向かうまで待っていた方が良かったな。
皇「で、どうすんの? フッ…お前詰んだんじゃね?」
鬼がいなくなったのを良いことに常に煽り口調な皇。
なんで僕が今、イラついていないかって?
「来たいなら来ればいい。捕まえに行く手間が省けただけだ。後、お前にも人質と同じ牢に入ってもらう」
僕は思わずニヤリと笑い、ポケットに入れていたボタンを取り出す。
そう、これは…、
鬼を呼び出すボタン。
カチッ…
親指でボタンを強く押し込むと同時に、僕の背後から機械の始動音が聞こえた。
その始動音はがしゃがしゃと金属が擦れる足音に変わり、こちらに迫ってくる。
皇「あれ? 鬼は全滅したんじゃ…?」
さっきまで自信に満ちていた皇の表情が途端に強ばった。
お前にしては珍しいな。気味の良い表情だ。
「あぁ、全滅したのは確かだ。だが、それは30分前の話。それだけあれば1体くらい余裕で造り直せる」
確かに最初の1体目を造るときは苦労した。デザイン、性能、耐久性など色々考えないといけないからな。
1体造ってしまえば後は量産するだけ。
ここは僕の秘密基地であり発明品を製造・量産できる工場でもあるんだ。
僕らの前に呼び出した鬼が姿を現した。
「皇 尚人を牢に入れろ」
鬼は僕の指示に従い、皇に近づき肩を掴む。
それに対し、彼は力ずくで振りほどこうとするが鬼はビクともしない。
そう、本来はこうなる。人間の力ではこの鬼をどうにかすることなんで絶対にできないはずなんだ。
あの3人は異常だ。今、学校に来てないあいつも中々の化け物だが…。
皇「おい、離せ! おい、文月、頼む! もうお前を一生煽ったりバカにしたりしない。一生約束する!」
肩を掴まれ、もがきながら声を荒げる皇。
別に殺すわけじゃないのに大げさだな。政府が僕の要求を呑めば、お前を含めた生徒全員を無事に解放する。
それに一生約束するって言って何度破られたことか。彼の言葉の信頼度は、僕の中では限りなく0に近い。
このまま牢に入れておくのが無難だ。計画を提案してくれたのはありがたいが…。
ただの人間のこいつは、あの3人に対して何の戦力にもならない。
奴らとの戦いで変に巻き添え食らって怪我でもされたら面倒だ。
いや、待て……そう言えば……、
「そんなに牢に入れられたくないのか? なら、1つ条件がある」
僕がそう言うと皇は固唾を飲んだ。
大した条件じゃない。でも、“一生の約束”より僕は“それ”が欲しいんだ。
「いい加減、校章を返してくれ」
簡単な条件だ。これで人質になることを逃れられる。逆の立場だったら僕はすぐに校章を返すだろう。
しかし、彼は黙り込み少し考えた様子でこう答えた。
皇「それは無理」
…………。
いや、なんでだよ。
「牢に入れろ」
鬼は騒ぎ立てる皇を引きずりながら人質のいる牢に連れていった。
何やら「他の頼みなら聞く」などのことを叫んでいたが…。
何故そこまで僕の校章に固執するのか理解できない。自分のものを無くしたのなら買えばいい。
300円くらいで買えるはずだ。
家庭が貧困なんじゃないかって? そんなはずはない。
あいつは小学校からずっと一緒だったが、小学生だった奴のサイフには常に万札が入っていた。
貧困な家庭にいる小学生の小遣いが1万円を超えることはないだろう。
それに今、奴はアルバイトをしている。自分で買えないわけがないんだ。
まぁ、こんなことを考えてもしょうがない。あいつの考えは読めなくて当たり前だ。
人質にとった生徒たちはどうしてるだろうか。ついでに見にいってみるとしよう。
皇が連れていかれた方向へ僕も向かった。
細長い通路の奥にある大きな鉄の扉。
ピッ……。
ゴゴゴゴゴ………
その扉の前に立つと、センサーが僕を感知して扉は横へと開いていく。
ここが人質を確保している場所。
1本の細い通路は変わらず、両側に檻があると言った具合だ。
牢って言うから囚人みたいな扱いをしているように思うかもしれないが、そうじゃない。
1つの牢屋につき複数人入れてはいるが、各牢屋には大きな穴があり、地下へと繋がっている。
地下には蟻の巣のように部屋が分かれていて、人質1人1人にユニットバス付きの部屋を与えた。
今はまだ夏休み明けで30℃を超える日も少なくはない。だから、エアコンも完備している。
熱中症で死なれると面倒だからな。電気代の請求は父親へ行くから僕には関係ない。
主犯の僕が現れ、人質たちは騒ぎ始めた。
「おい! テロリスト! ここから出しやがれ!」
「俺たちは囚人なんかじゃねぇ!」
「モヒカッター! モヒカッター!」
悪になると言うのはこういうこと。
批判や暴言しか飛んでこない。当たり前だが、賞賛の声を発している者は1人もいない。
誰も僕を理解しようとしないだろう。僕がこんなことをしている理由には興味を示さない。
「黙れ」
僕の一言で囚人たちは静まり返る。
「君たちには1日3食与えている。トイレも風呂も自由。寝室も1人1人に用意していてエアコンも快調。何が不満だ? 人質にしては良い条件だろ。それにこれが続くのは3日間、明日までだ。宿泊学習とでも思えばいい。政府が僕の要求を呑めばすぐにでも解放してやる」
そう告げると、再び騒ぎ始めた。
皇も人質たちに溶け込んで楽しそうに騒いでいる。
お前はどこまでもふざけた奴だが…。それが今、僕の中では救いになってる気がする。
理解されなくてもいい。この後、まともな高校生活が送れなくなっても構わない。
政府が僕に___
返してくれれば。
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あれから2時間ほど。思った通りの時間だな。
ついにこのときが来たか…。
秘密基地の入口に立つ僕と背後には5体の鬼。僕らと月に照らされた4つの影が対峙する。
その僕らの周りには、秘密基地ごと取り囲むように生えている数多の大木。
新庄「よぉ、テロリスト」
金属バットを担ぎ、顎を突き出す新庄篤史。
水瀬「慶、君と話がしたい。その気がないなら力ずくで止める!」
真剣な顔で僕を見据える水瀬友紀。
剣崎「文月氏、私は君を心の闇から救いたい」
胸に手を当て、訳の分からないことを言う剣崎怜。
ウホ「ホッ! ホッ! ホッ!」
そして、興奮状態の謎ゴリラ。
喧嘩上等の金髪不良。
平凡な高校生。
堅苦しいオタク。
ただのデカいゴリラ。
来るのが遅すぎた。対策は完璧だ。
君らは僕に対し、何もできずに牢に入れられる。
できるだけ長く足掻けることを祈ってやるよ。
僕は両手を広げ、彼らを歓迎した。
「ようこそ、我が牢獄へ」




