不穏 - 皇 尚人③
【次の日】
今日は、不穏にはそぐわねぇ快晴だった。
ゴリラがいたら泣いて喜んでるだろうな。
ここに…、いたらな。
単刀直入に言うぜ。
ゴリラが行方不明になった。
昨日、暇で仕方がないはずの自警部にいくつか依頼が届いた。
現状、自警部は御影専属のパシリ。
奴以外からの依頼なんて珍しいどころの話じゃねぇ。そんな天然記念物級の依頼が同時に3つだ。
怪しい臭いしかしなかったぜ。
水瀬、鬼塚、日下部とか…。
能力を持つこいつらとは別のクラスだが、ゴリラ行方不明の情報はすぐに届いた。
そして今…、
美澄「そんな…、獅子王会長が行方不明だなんて…」
自警部本部にて、絶賛緊急会議中だぜぇ♪
今この場には、“BREAKERZ”総動員に加え、副会長の美澄と京極がいる。
総動員って言っても、停学中の新庄や囚人の文月はいねぇがな。
樹神「水瀬はん、嘘はあきませんわぁ。あのブロッコリー、どうしてくれますぅ?」
アフロの樹神は、部屋の隅に寝かせてあるクソデカいブロッコリーを指さしながらそう言った。
依頼主に納品するために自分で埋まって作った2メートルほどのブロッコリーなんだが…。
水瀬「ごめん、樹神…。琉蓮も…。昨日の依頼は偽物だった。陽が受けた猫捜しも多分…」
不機嫌そうな樹神とぶるぶると震える鬼塚に謝る水瀬。
緊急会議の内容や、ここに至るまでの話をまとめるぜ。
昨日来た3つの依頼は、全部誰かのはったりだった。
7メートルのブロッコリーを注文した農家は、納品しに来た樹神に心当たりがないと言って受取拒否をしたらしい。
人よりデカいブロッコリーを見て腰を抜かしたとも聞いたな。
余談だが、樹神が持っていったブロッコリーは2メートル程度。
7メートル級は運ぶのも作るのも面倒くさいということで、5メートルのさばを読んだんだと…。
次に、“引っ越しのお手伝い”を受けた鬼塚。
依頼書には、住宅街を地盤ごと山奥へ引っ越しさせるよう書かれていたらしい。
鬼塚はその依頼書通り、住宅街を地盤ごと持ち上げて山に運んだ。
こいつはバカか? 普通に怪しいだろ。
怪しい以前に冷やかしやイタズラと捉えるのが妥当だと思うが…。
まぁ依頼を受けたのは、“BREAKERZ”最強の鬼塚だ。
こいつにとって、住宅街の持ち運びはピザを配達するような感覚なんだろう。
簡単な配達依頼を怪しむ人間なんてそうそういねぇよな。
鬼塚も樹神同様、心当たりがないと言われた。
言われたっていうより、怒鳴られたんだと。
住宅街に住む大人たちから罵声を浴びたんだ。
すぐ元に戻したのは良いが、最強の鬼塚は今震えてやがる。
怒られてめちゃくちゃ怖かったらしい。
そして、最後にゴリラが受けた“婆さんの猫捜し”。
これも恐らくハッタリだ。
ゴリラが消えた今、憶測でしかないが。
はぁ…、猫もゴリラも行方不明になっちまったぜ。
依頼が偽物だとわかったのは、今日の朝だ。
大人に怒られて半泣きの鬼塚と不機嫌そうな樹神の証言に加えて、ゴリラの消失。
何者かによって、俺らはハメられたんだ。ゴリラの行方やそいつの狙いも今はわからねぇ。
水瀬「ごめん、僕のミスだ。何となく不穏な感じがしてたのに、陽や皆を派遣してしまった」
悔しそうな顔で俺らに謝る水瀬。
美澄「水瀬さんは悪くないわ。ちゃんと依頼に応えようとした。悪いのは、会長を攫った犯人よ」
京極「うん、水瀬くんは悪くない。だけど、会長のことが心配だ」
才色兼備、学年2位の美澄恵璃紗と、陸上部キャプテンの京極が奴を慰める。
ゴリラが行方不明になったことを知っているのは、俺たち“BREAKERZ”と副会長の2人だけだ。
他の生徒や先生に知られるのは良くない。
御影教頭様が喜ぶであろう情報だからなぁ。あいつがこのことを知れば、ヒャクパー難癖つけて来やがるぜ。
ゴリラの消失は他言無用。
それはここにいる俺ら全員の共通認識だ。
だが、黙っていても時間が経てばいずれはバレる。
迅速かつ確実に獅子王を見つけ出す必要があるってことだ。
そしてこの緊急会議は、その方法や作戦を考えるために開かれたんだぁ♪
暇な自警部にしては、中々に面白い展開だろ?
水瀬「今から…、自警部総出で……今日中に捜し出すしかない…!」
絞り出すかのようにそう言った水瀬の顔には、焦りと迷いが見えた。
間違ってはねぇが、良策でもない。
余裕も時間もない状況で仕方なくやる作戦って感じだな。
ゴリラが行方不明になっていることを知っているのは俺たちだけだが…。
昨日から獅子王は家に帰ってねぇ。そして、親は学校に欠席の連絡を入れている。
奴の親と先生方は不審に思っているだろう。
捜索願を出されるのは時間の問題だ。
遅くとも今日帰らねぇとそうなる。
昨日の放課後から奴と連絡が取れてねぇ。それは親や先生も同じだろう。
“今日中に何としてでもゴリラを見つけ出す”。
副部長様の言った作戦は、苦し紛れなんだよ。
水瀬もバカじゃねぇ。本当はわかってるんだろぅ?
「良い作戦だなぁ♪ また1人、仲間が消えるぜぇ?」
その作戦は、ゴリラ密猟者の思うツボだってなぁ♪
これは予想だが、ゴリラは拉致られて何処かに閉じ込められている。
そう仮定すると、密猟者はそれなりのやり手だ。
あのデカいゴリラを捕まえて連行できるってことは、普通のパンピーじゃねぇ。
何かしらの能力を持っていると考えた方が良いだろう。
しかも、何人いるかもわからねぇ。
やり手の密猟者が潜む所へ闇雲に飛び出して、宛てもなくゴリラを捜す。
まさにハイリスク・ローリターン。
密猟者の目的が“BREAKERZ”全員の拉致だとしたら、絶好の機会を与えることになるぜ。
水瀬「無謀なのはわかってるよ。でも余裕もないし、今動くしかない。何より陽が心配だ…」
俺の言葉に対し、水瀬は拳をぐっと握り締めた。
心配なのはわかるぜ。
大事なゴリラだもんな。
だが俺の直感的に、あいつは死んでねぇし拷問されているような気もしねぇ。
昨日感じた不穏なクセに爽やかな風…、何か生温いんだよ。
「安心しろ、ゴリラは無事だ。敵もあんまりガチじゃねぇ。根拠は…、俺の直感だ♪」
俺の言葉に、顔をしかめる水瀬。
水瀬だけじゃねぇ。他の奴らも同じような顔をしてやがる。
こいつら、俺の直感を信じ切ってねぇな。
疑いの目を向けるこいつらを無視して、俺は話を続けた。
「だから、まずは地盤を固めようぜ。焦ったらミスるし、コソコソするのは良くねぇ。秘密ってのは隠そうとすると、反って目立つんだよ」
ゴリラが殺されず衣食住を保証されるという前提なら、苦し紛れの作戦なんて必要ねぇ。
余裕さえあれば、良い作戦なんていくらでも思いつく。
そうだよなぁ、水瀬。
剣崎「確かに皇氏の直感には目を見張るものがあるが、良いのであるか? 直感を全面的に信じて…」
堅物オタクの剣崎が顎に手を当てて思案している。
良くわかってるじゃねぇか♪
俺の直感ってのは、そこらの科学的根拠より信憑性があるんだぜぇ♪
日下部「うーん、そうだね。悔しいけど、人望皆無と名高い部長とはいえ直感は素晴らしい。“直感”は……ね。でも、獅子王が安全だと証明できる根拠がない」
このクソメガネ……、じゃなくてクソコンタクト。
いちいちムカつく野郎だぜ。
「おい、話を聞いてなかったのかぁ? 俺の直感が揺るぎない根拠だって言っただろぉ?」
日下部「あ、いたのかい? 裸眼の人間は存在感がないね。伊達メガネでも良いから掛けたらどうだい?」
こいつなりの煽りかぁ? ていうか、前に俺が言ったことを根に持ってやがるぜ♪
「あぁ? 逆に、この俺の存在感に気づかねぇのか? お前のコンタクト、伊達じゃねぇよな? それとも自分のオナラで目ぇ腐っちまったのか?」
水瀬•京極「「2人ともそんなことで言い合いしてる場合じゃない!」」
重なる2人の声が俺と日下部に割って入る。
副会長に副部長。
“副”が着く者同士、気が合うみてぇだな。
京極「何か…、彼らをまとめるのは大変そうだな」
水瀬「うん、まぁ…。でも、もう慣れたかな?」
京極は生徒指導室内を見回しながら、水瀬を労った。
確かに、俺らにまとまりはねぇかもな。
鬼塚と朧月は突っ立ったまま、基本は喋らねぇ。
剣崎はまだ話す方だが、今は1人でぶつぶつ言ってやがる。
日下部は喋ってもウゼぇだけだ。
そして…、
♪~
的場は、サッカーボールを抱きかかえて眠っている。
近くにオルゴールを置いてな。
不知火も一応連れてきたが、こいつもボーッと突っ立ってるかうろうろしているだけだ。
水瀬「皇…、君の直感を信じて良いんだな?」
真剣な表情で俺を窺う水瀬。
「当たり前だぜ。俺を信じねぇことには始まんねぇよ♪」
奴は俺の言葉を聞いて、深く頷いた。
水瀬「わかった、信じるよ。それで、ここからどうする? 地盤を固めるって言ってたけど」
ハハッ、よくぞ聞いてくれましたぁ♪
やっと本題に入れるぜ。こいつら、信じるまでのくだりが長すぎるんだよ。
これだから、理解と忠誠心のねぇ部員どもは…。
まぁ良いぜ、部長の深い懐で許してやるよ。
気分の良くなった俺の口角は釣り上がる。
「俺に奇策がある」
意図せず出た笑みと共に、俺はそう言った。
美澄「あの…、やっぱり先生に言った方が良いんじゃないかな? また部活動を続けられなくなるのは辛いかもしれないけど…。人が行方不明になっているし、はっきり言ってこれは事件よ。大人に任せるべき案件だと私は思う」
才色兼備の美澄恵璃紗が、俺や水瀬の顔を見てそう言う。
育ちが良いなぁ、真面目すぎだぜ。
もっともな意見だが、誰も首を縦には振らない。
自警部は簡単に諦められる代物じゃねぇってことだ。
それにゴリラ消失事件は、異能に備える部活動の本領発揮の機会なんだぜぇ♪
「安心してください、お嬢さん。ゴリラ会長は、必ず俺たちの手で保護致しますぜ♪」
不安そうな美澄と、こくりと頷く京極。
少し考えてから、彼女はこう言った。
美澄「で、では自警部の皆さんに依頼します…! 獅子王会長を見つけてください」
京極「そして、犯人を捕まえてくれ…!」
ヒャハハッ♪ ついに来たぜ!
これが俺の思い描く、自警部本来の部活動だ。
「あぁ、任せろ。良い依頼をありがとな♪」
2人に礼を言ってから、俺は水瀬らに向き直る。
「今から俺の奇策を話すぜ。作戦開始はこの後すぐだ」
俺はゴリラ捜索の依頼を快諾し、作戦会議を始めた。




