部活動 - 水瀬 友紀㉝
連休が明けて2週間。
廃部を免れた僕らは自警部の活動を再開し、着々と依頼をこなしていた。
と言っても…、雑用とか簡単な手伝いがほとんどなんだけど。
怜と朧月くんから強盗を捕まえたって聞いたときはビックリしたよ。
能力持ちとか関係なく、最近なんか物騒だよな。
そして、雑用的な依頼のほとんどは…、
御影「今日は昼休みに校庭の草むしり、放課後は校舎内の廊下全てを雑巾で拭いてちょうだい」
御影教頭によるものだ。
彼女は僕らを下僕のように扱ってくる。
今日も酷な依頼を告げられた僕と皇。
部長の彼は、あからさまにげんなりとした顔を見せる。
すると、御影教頭は決まってこう言うんだ。
御影「出来なければ廃部よ、廃部」
そして、いつも勝ち誇った顔をしてここ生徒指導室を出て行く。
生徒指導室は僕ら自警部の部室として使わせてもらってる。
空きの部屋がないから。
皇「チッ…、無駄に体力とメンタル削って来やがる。俺のデモを根に持ってんのかぁ?」
御影教頭が出て行ったドアを睨んで、顔をしかめる皇。
廃部を取り消したのは彼女自身だ。どういう理由かは聞いてないけど。
嫌がらせやパシリに近い無茶ぶりな依頼を毎日してくる。
廃部を取り消すのは不本意だったのかもしれない。
そして、もう1つ。部活を続けるにあたって、早朝と昼休みに町内をパトロールするという条件も課せられた。
嫌気がさして逃げ出すのを狙っているんだろう。
普通の人なら、きっともう嫌になって辞めているに違いない。
皇「でも、そんなんであいつらが辞めるわけねぇよなぁ♪」
彼の言うとおり、今の僕らが簡単に逃げ出すはずがなかった。
自警部を設立した目的を、みんなちゃんと覚えているから。
自警部は、この町や学校を守るために設立した。
平和な内はボランティア活動に励む。
ただのボランティア活動じゃない。
依頼されたことは何でも引き受ける“何でも屋形式”だ。
なるべく能力を駆使して依頼をこなしていく。
それが僕ら“BREAKERZ”であり、自警部の活動なんだ。
ウインドマスター五十嵐先生の暴走。
謎の存在フクマとの遭遇。
強大な能力を持つ敵の襲来が続いた。
最初はあまりやる気のなかった皆も考え始めた。
自分の力と向き合い、鍛えて、次の敵に備える。
バラバラだった僕らの思いが、少しずつまとまりつつあるんだ。
今の僕らにとって、御影教頭の嫌がらせはただの面倒な依頼。
だけど、自分を向上させる1つの機会だと捉えている。
まぁ、隣で笑う部長は依然変わらないんだけど…。
みんな個人差はあるけど、能力を持つ敵に対する意識は高まっていた。
♪~
制服のポケットに入れていたスマホから通知音が鳴る。
さっき、今日の依頼内容をグループチャットに打ったからな。
それに対する返信か何かだろう。
僕はそう思いながらスマホを取り出し、グループチャットを開いた。
御影教頭の今日の依頼は、校庭の草むしりと廊下全部の雑巾掛けだ。
昼休みと放課後にやるよう彼女は言っていた。
今は朝のホームルームが始まる5分前。
日下部から草むしりを終わらせたというメッセージが来ていた。
早い、もう終わらせたのか? 依頼内容を送ってから、まだ10分も経ってない。
朧月「廊下…………終わり………」
「うわっ!」
日下部の圧倒的仕事の早さに驚いていた僕の前に、朧月くんが現れた。
彼の雰囲気、まだちょっと慣れないな。
廊下、終わり…。
え、校舎全部1人でやったってこと?
それは流石に早すぎる。でも、時間をとばす神憑の彼なら出来そうだ。
だけど、かなり力技なんじゃ…。
“時間をとばす”といっても、朧月くん自身の体感は変わらない。
一瞬で終わったように見えても、彼は自力で校舎全部の廊下を拭いているんだ。
「廊下全部…、1人でやったの? めっちゃ疲れたんじゃない…?」
かなり無茶をしたんじゃないかと心配する僕に、彼はほんの少し口角を上げてこう言った。
朧月「工夫………できたから………そんなに……」
キーン コーン カーン コーン
キーン コーン カーン コーン
彼の声に重なるようにホームルームの開始を知らせるチャイムが鳴る。
まずい…! 遅刻する!
ホームルームに遅れたら、絶対難癖つけてくる。
皇「おいおい、まずいぜ。全力で走るぞ…!」
勘の良い皇が焦っているということは、マジでヤバい。
遅れたら、十中八九廃部にされる。
でも、全力で走っても間に合わ…、
朧月「とばすよ……」
朧月くんは、焦る僕と皇の肩に手を置いた。
次の瞬間、薄暗い生徒指導室に立っていた僕の目に、朝日が差し込む自分の教室が飛び込んでくる。
そして、僕は自分の席に座っていたんだ。
朧月くん、ありがとう。
彼が僕らをとばしてくれたんだ。
きっと、皇も間に合っただろう。
剣崎「間一髪であるな、水瀬氏。お互い遅刻には気をつけよう」
隣の席に座る怜が真剣な表情でそう言ってくる。
「うん、気をつけるよ」
工夫か…。
朧月くんは、依頼を通して自分の力を伸ばしている。
皆も自分なりのやり方で向き合っているはずだ。
水を操る力、水の理。
風を操る力、ウインドパワーもとい風の理。
僕も自分の力をもっと磨かないと…。
より精度を高めて、より強力かつ多彩な技を編み出すんだ。
ある日突然やって来る敵に備えて。
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ーー 同時刻、水瀬らと同じクラスの日下部雅はご満悦な表情でホームルームに臨んでいた。
このクラスは特別だ。
御影教頭が監視しやすいようにと、“BREAKERZ”の能力持ちを作為的に集中させている。
日下部(ふっ、シリウス。あの放屁は中々に便利なものじゃないかい?)
彼は心の声で、後ろにいるシリウスにそう問いかけた。
シリウス「あぁ、触れた草を枯らす若草色の放屁。まさか君が新たな放屁を創り出すとはね」
日下部と同じ姿をしたシリウスは腕を組み、感心した様子で頷く。
神が憑き異能を扱える人間“神憑”。
彼らには前例というものが少なく、その潜在能力は計り知れない。
日下部(この放屁の名前、どうする? 名案はあるかい?)
シリウス「君が編み出した放屁さ。君が名付けると良いよ」
名前の相談を持ちかけた日下部に、シリウスは遠慮がちにそう言った。
すると、日下部はニコリと微笑んでこう答える。
日下部(僕はね、嬉しいんだ。自分の名前にすら興味のなかった君と、今では技の名前を一緒に考えている。僕らは青春ってやつを謳歌しているのさ。だから、名前はいつも一緒に考えたい)
彼の心の声に対し、シリウスは照れ臭くなったのか片手で顔を覆った。
シリウス「全く…。君たち“BREAKERZ”のせいで、僕も随分人間臭くなってしまったよ」
彼らはお互いに感化され、能力的にも内面的にも変化し成長している。
それは同じ神憑である朧月悠も同様だった。
はにかむシリウスに対し、日下部はこれまでとは打って変わり冷徹な表情でこう念じた。
日下部(でも旅行中に身体を乗っ取っていたのと、イボ痔になったのは頂けないね。どう責任取ってくれるんだい? ホームルームという短い時間ですら、碌に座ってられないよ)
シリウス「あれには事情があったんだ。イボ痔は僕だって知らないよ。気づいたらなっていたのさ」
イボ痔を患った原因、それはあの時にある。
熊木駅にて、空から降ってくる鬼塚壮蓮を敵と勘違いしお尻を突き出した時だ。
着地の際に焦った壮蓮は、彼のお尻を軽く手で退かしたつもりだったが…。
日下部をイボ痔にするには、充分すぎる威力になってしまった。
つまり、イボ痔に関してシリウスは関係ない。むしろ、日下部自身に非があると言えるだろう。
そんな彼はシリウスの弁解を無視して、さっと手を上げた。
日下部「松坂先生、保健室に行かせてください。病魔の主張が……じゃなくて、お尻が痛いので…」




