フクマ - 水瀬 友紀㉚
雲に覆われた仄暗い空。
吹き荒れる暴風に、斜めから降り注ぐ強い雨が僕の意識を刺激する。
ここは…、吉波川の河川敷。
氾濫した川に流される少女を、僕はただただ眺めていた。
幼い僕に“SOS”を教えてくれた彼女だ。
彼女は必死に泳いで、岸に立つ僕の所へ戻ろうとしている。
だけど、荒れ狂う川の流れは凄まじい。
幼い彼女じゃなくても、泳ぎが得意な大人でも無理だろう。
こちらに向かって手足をバタつかせている彼女の動きが見る見る鈍くなっていく。
助けなきゃ…、助けなきゃ…!
僕が川に飛び込んで、彼女を引っ張り上げるんだ。
そんな想いとは裏腹に、雨に打たれる僕の身体は全く動かない。
だって…、無理だよ。
僕は泳げないんだから…。
何もできない僕の前で、彼女は荒ぶる川に呑まれてしまった。
この時、僕は泣くのを忘れた。
あまりのショックに、ただただ膝を着くしかなかったんだ。
地面に着いた幼い自分の手を見て、僕ははっとする。
そうだ…。僕には…、
姉がいたんだった。
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トントントン
ツーツーツー
トントントン
「モールス信号“SOS”、憶えておいてね」
“SOS”のリズムを口ずさむ幼い彼女は、僕の姉だった。
どこかで見たことがある。
誰かに似ている。
そりゃそう感じるに決まってる。
僕らは、普通の家で生まれ育った姉弟だった。
普通なら毎日顔を合わせるし喧嘩もする。
見たことがある。
“誰かに似ている”と思う。
これも当たり前の感覚だ。
母さんや父さん、そして僕に似ている。
幼い姉は、普通で平凡な僕の見た目にそっくりだ。
姉と過ごした記憶がどんどん戻ってくる。そして、その記憶は現実かと疑うほど鮮明になっていった。
彼女の名前は…、水瀬 結河。
結河「友紀見て! 水って凄いんだよ」
当時7才の姉は、5才の僕にそう言った。
自身の勉強机に置いてあった辞書並みに分厚い本を持ってきて、床に広げる。
水の法則とか研究とか…、何か難しいことをいっぱい書いてある論文ってやつだ。
5才の僕はまたかと頭を抱えた。
姉は水のことが大好きだったんだ。
物心ついたときから水に興味を持っていて、熱心に勉強をしていた。
いや、彼女にとっては勉強ではないのかもしれない。
最初はただの絵本だったのが理科の教科書に変わり、今では水に関する最新の論文だ。
結河「ДЫЮЯжзйχГωЁМЖН…」
頭を抱えて半泣きな僕に対し、姉は未知の言語かと錯覚させるような難解なことを話し始めた。
彼女は水のことが大好きだった。
お陰で僕は水に苦手意識を持ってたよ。
そして、姉は水繋がりで水泳にも通っていた。
運動神経も良かったんだろう。
同い年の子たちの中では、泳ぎが誰よりも速かった。
普通の子どもとはほど遠い。
7才にして論文を理解し水泳も得意な彼女は、僕と違って特別な存在だった。
普通で平凡なのは見た目だけだ。
結河「“水は万物の心に呼応する”かぁ。いつか話してみたいなぁ」
ある日、論文を読み終えた姉は分厚い本を閉じてそう呟いた。
「水…、ばんぶつ? こおう…。どういう意味?」
姉とは対照的に、僕は見た目も精神も平均的な5才児だ。
理解できる言葉とできない言葉が混ざった謎のセリフに単純な興味を持った。
結河「う~ん…」
僕の質問に対し、彼女は首を傾けて考える素振りをする。
平凡な5才の僕でもわかるような言葉を考えているのか、彼女自身もあまり理解していないのかはわからない。
ちょっとばかり考えた彼女は、指をぴんと立てて僕にこう言った。
結河「水をね…、操れるようになるかも…! 魔法使いみたいに…!」
水の魔法使い…!
めっちゃカッコいいじゃん!
僕は姉の言葉に…、水に強く惹かれた。
「ぼ、僕、なりたい! 水の魔法使い!」
テンションが上がった僕は、赴くままに声を上げる。
結河「ほんとに…? 水のこと、好きになった?」
水に興味を示した僕を見て、彼女は嬉しそうに笑った。
「うん、好き! 早く水の魔法使いになりたい!」
平均的な5才の僕、魔法使いというワードに興奮が止まらない。
納得したように頷いた彼女は、はしゃぐ僕の足元に論文を置いた。
結河「じゃ、一緒に勉強しよ!」
…………。
「やっぱ水嫌い」
結河「え~…」
平凡な5才の気分は、目まぐるしく切り替わる。
苦笑いしている姉は、少し寂しそうだった。
この国は平和だ。明日も明後日も10年後も100年後も、きっとそれは変わらない。
父さんと母さんに、平凡な僕と特別な姉。
僕ら家族の日常は当たり前のように続いていくと、僕は子どもながらにそう思っていた。
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降り注ぐ強い雨、甲高い音を上げる強風が窓のシャッターに吹きつける。
この日は、台風が上陸していた。
幼稚園や小学校は臨時休校で、僕と姉は休みになった。
だけど、父さんと母さんはいつも通り仕事で家にいない。
“大人って凄いな”と子どもながら思っていた。
幼稚園が休みになって少し嬉しいけど、思ってたより退屈だな。
父さんと母さんはいないから、遊んでくれない。
姉ちゃんは口を開けば水のことばかり。
家の窓のシャッターは全部降ろされている。
外の様子は見れないけど、雨や風の衝撃で家はガタガタと音を立てていた。
水の魔法使いかぁ。
数日前に姉が言っていたことだ。
雨の音を聞きながら、僕はこんなことを考えていた。
水を操れたら、毎日“タイフウ”にできるのかな? 毎日、休みになる?
激しい雨の音も相まってか、僕の心は躍り出す。
「やっぱり…、僕は魔法使いになりたい…!」
気持ちが高まった僕は、思わずそう叫んだ。
いま思い返せば、なんて馬鹿なことをしたんだろうと思うよ。
当時5才の僕は、台風の恐ろしさを知らなかったんだ。
「水は外にいっぱいある。魔法の練習だ!」
僕はそう言って玄関を飛び出した。
風の強さ、降り注ぐ雨の冷たさ、視界の悪さをすぐに実感する。
ここで引き返せば良かったのに…。
水の魔法使いになりたかった僕は、意地でも前に踏み出した。
僕の家の近くには、大きな吉波川がある。
近くと言っても、歩いて行くには少し遠い。だけど、僕は諦めず何度か風に倒されながらもそこに向かったんだ。
時間を掛けてようやく辿り着いた頃には、僕は泥まみれになっていた。
はぁ…、はぁ…、僕は……水の魔法使いになるんだ!
「くわばら! まじゃらく! つるかめ! ちちんぷいぷい!」
激しく流れる吉波川の近くに行った僕は、聞いたことのあるお呪いをひたすら叫んだ。
靴の底が濁った川の水に浸される。
しばらくお呪いを唱えたけれど、何も起こらない。
ムキになった僕は、更に1歩前に進んだ。
川の水が両手に集まってくるイメージを頭に浮かばせる。
そして、お呪いを再び叫ぼうとした時だった。
ごおおおおおぉぉぉぉぉぉ!!
「う、うわああああぁぁぁぁぁ!!」
いきなり発生した突風に押された僕は、バランスを崩して川に飛び込んでしまったんだ。
飛び込んだと言っても浅瀬だ。すぐに立ち上がっていれば…、氾濫してなかったら…、岸に戻れていたと思う。
だけど、今日は台風だ。
5才の僕の小さな身体は、氾濫した川に流された。
泳げない僕はパニックに陥って、無駄に手足をバタつかせる。
そのせいで、どんどん身体が岸から離れていく。
口や耳に濁った茶色い水が入ってきて息ができない…!
水を含んだ服の重みで、僕の身体は川の中へ沈んでいった。
く、苦しい…
誰か…
誰かたす………
ここからは記憶がない。
姉に関する記憶がどんなに鮮明になっても、ここだけは思い出せなかった。
気づいたら僕は岸にいて、姉が川に流されていたんだ。
姉は水泳が得意だった。
運動神経が良くて、水に詳しい特別な人。
そんな彼女ですら、氾濫した川からは戻って来れなかった。
思い出せなくてもわかるよ。
姉は溺れている僕を助けて流された。
僕のせいで彼女は亡くなったんだ。
こんな風に思うのは最低だけど、できればずっと忘れていたかった。
覚えていたら押し潰されそうになるから。
水が好きで…、水の法則を知っていて…、水泳を習っていたのは僕じゃない。
水なんて…、水なんて大っ嫌いだ。
姉を亡くして以来、水に対する苦手意識は完全な嫌悪に変わった。
そして、大嫌いな水に僕は執着したんだ。
いつしか読んでいた絵本は理科の教科書に変わり、気づけば姉が持っていた水の論文を読み漁っていた。
水泳にも通い始めた。
でも、才能がなかったみたいだ。
ただのプールなのに何度も溺れそうになった。
どれだけ教えられても、息継ぎができない。
才能が全くなくても泳げる方法を自分なりに考える。
息継ぎしなくても泳ぎ続けられる呼吸法…、エラ呼吸の模倣だ。
「母さん見て! 水って凄いんだよ」
小学校に上がる頃、僕は分厚い本に書いてある水の論文を見せて母さんにそう言った。
一瞬驚いたような表情を浮かべる母さん。
だけど、すぐ優しい笑顔に変わった。
「ДЫЮЯжзйχГωЁМЖН…」
水について熱く語る僕を、母さんは黙って聞いてくれている。
もうすぐ…、もうすぐ僕は7才だ。
7才か…。
そう思った僕は、水について語りながら内心ホッとしていた。
“あぁ、間に合った”って。
間に合った?
何に…、間に合ったの?
安堵したと同時に浮かんだ言葉に、僕は疑問を持った。
考えたけどわからない。
まぁ、いっか。
普段はどこか寂しそうな両親だけど、僕が水の話をすると優しく笑ってくれた。
水は僕らの心を満たしてくれる。
そんな水のことが、僕は大好きなんだ。
僕は7才になってから今まで、姉を思い出すことはなかった。
姉の死を忘れることで、僕は自分の心を守ったのかもしれない。
あの日家を飛び出した自分や、彼女を連れ去った水が許せなくて、どうにかなりそうだったから。
だから無意識の内に、姉のことを記憶から抹消したんだ。
平凡な僕が生きて、特別な姉が死んだ。
なんで僕なんだ?
平凡な人間には、限界があることを何度も実感した。
あの時、僕が死ねば良かったのに…。
助けになんて来なくて良かったのに…!
ザーーーー!!
激しい雨音。
情景が変わった。
雲に覆われた仄暗い空。
吹き荒れる暴風に、斜めから降り注ぐ多量の雨…、吉波川の河川敷。
氾濫した川に流される姉を、幼い僕はただただ眺めている。
やめろ…、やめてくれ…。
もう思い出すな、忘れていたいんだ…!
才能がないなりに僕は頑張った。
頭が良くて、水が好きで、水泳が得意な姉さんみたいな人に成ろうとしたよ。
結河「友紀…! 助けて…! 苦しい……死にたく……ない」
幼い姉は濁流に揉まれながら、僕に助けを求めてくる。
痛ましい彼女の声に堪えられず、幼い僕は目を閉じて耳を塞いだ。
無理だ…、無理だ…!
「僕は泳げないんだよっ!」
そう叫んだ僕の頬に涙が伝う。
ごめん…、ごめんなさい。
許してほしい。忘れさせてほしい。
何が擬似的なエラ呼吸だ。
今泳げたって意味ないんだよ。
ザーーーー!!
激しい雨音。
また情景が変わった?
いや、景色は同じだ。
目を閉じていたはずなのに、どうしてか氾濫した吉波川が視界に入ってくる。
姉の姿は見当たらない。
僕はいつの間にか、幼い姿から今の姿になっている。
そして、茶色く濁った川の中から小さな何かが這い出てきた。
それは蹌踉めきながら立ち上がり、ふらふらとこちらにやって来る。
あぁ、最悪だ。
「友紀のせいで、こんなになっちゃった」
目の前に来た小さなそれは、僕を見上げてそう言った。
僕の姉だ。声が同じだし、こんな風になってもわかるよ。
ドロドロに汚れた服、腐って変色した肌。
両目は抉れて無くなっている。
流されている内に石か何かに当たったのか…?
大雨の中、僕は腰を抜かして尻餅を着いた。
僕は最低だ。姿形は変わっても、姉であることに変わりはないのに…。
恐くて動けなくなったんだ。
結河「なんであの時、出て行ったの? 危ないってわからなかった?」
彼女は死体のような姿のまま、僕に話を続けた。
結河「私、もっと生きたかった。なんで、特別な私が死んで平凡なお前が生きてるの?」
返す言葉がない。そもそも恐くて声が出るかもわからない。
結河「あーあ、助けるんじゃなかった。お前が死ねば良かったのに。どうせ社会に出ても大したことしないでしょ? お前が死んで私が生きていた方が世のためになった。私は大成していた。頑張って私に成ろうとしていたみたいだけど、凡人には無理よ。そういうのキモいからさっさと死ね」
彼女は僕をまくし立てた。
そりゃそうだよな。
どこかで頑張ったら許されると思ってた。
それで頑張ったけど、そんなのはただの自己満足だ。亡くなった命は返ってこない。
姉が怒っている。涙が止まらない。
「死ねば…、償えますか?」
後悔、哀しみ、恐怖、自分への怒りややるせなさ。
色んな気持ちでぐちゃぐちゃになった僕の言葉に、姉は口が裂けそうなくらい口角を上げてニヤリと嗤った。
結河「えぇ、償えるわ。とりあえず、死んで?」
その言葉を聞いて、僕は安心する。
やっと…、やっと赦されるんだ。
満足そうな彼女は、いつの間にか持っていた鋭利なナイフをゆっくりと振り上げた。
死ぬのが怖いからだろうか。
僕は尻餅を着いたまま目を瞑って項垂れる。
平凡でごめんなさい、才能なくてごめんなさい。
生きててごめんなさい。
もうそっちに逝くから…。
結河「そんなわけないじゃない…」
姉らしき声が聞こえる。
姉の声には変わりないけど、僕はどこか違和感を覚えた。
何だろう? 少し声が大人になった?
結河「私がそんなこと言うわけないじゃない!」
怒りのこもった彼女の声。
その怒りや言葉は、僕に向けられたものではない。
僕は目を開けて、声を荒げた彼女を見上げた。
死体のような風貌の幼い姉の姿はなく、代わりに僕より少し年上と思われる女性がナイフを持って立っている。
「姉さん…?」
その女性を見た僕は、直感的にそう思った。
幼い姉の面影があるし、今の僕と雰囲気が似ている気がする。
結河「私の姿で、勝手なこと言わないで!」
そんな彼女は僕じゃない誰かに訴えるようにそう言って、手に持っていたナイフを投げ捨てた。
そして…、
結河「友紀、大丈夫?」
彼女は僕を案じながら、その手を差し伸べる。
姉さんだ、間違いない。
姿が変わっても僕にはわかる。
だって、姉弟だから。
だとしたら、幼い方の姉は…?
あれは、何だったんだ?
差し伸べられた彼女の手に、僕は手を伸ばす。
「ぼ、僕は大丈夫。ご、ごめん…、あの時僕が飛び出さなかったら…!」
姉さんの手を取ることはできない。
僕が殺したようなものなんだ。
目頭が熱くなるのを感じる。
彼女は優しく首を横に振り、中途半端に伸ばした僕の手をしっかり掴んで引っ張り上げた。
結河「大丈夫。水の勉強、大変だったでしょ?」
僕より少しだけ背の低い姉さんはそう言って、ニコリと微笑む。
そして、氾濫した川の方に振り返った彼女は眉をひそめた。
結河「貴方は何がしたいの? こんなことして…、友紀や皆を傷つけて…!」
川の方に向かって声を上げる姉さん。
少しばかり間を置いてから、彼女は何かに呼びかけるようにある言葉を口にした。
結河「フクマ…!」
ふくま……、フクマ……、フクマ!
その言葉を聞いて、僕ははっとする。
そうだ、僕らはさっきまで謎の敵フクマと戦っていたんだ。
旅行の帰り、新幹線の中で…!
僕は何をしている? ここはどこだ!
フクマとの戦いはどうなったんだっけ?
あの黒いオーラが川の岸辺に集まってきて、フクマの身体を形成する。
姉さんに呼ばれたフクマは、この場に姿を現した。
そして、不服そうな表情を浮かべながら首を不自然に傾ける。
結河「あいつよ。あいつが私の姿を使ってあんなことを言った…」
姉さんはフクマを指さしてそう言った。
そして、僕の方に振り返る。
結河「私はあんなこと言わないし思ってもない。お姉ちゃんはいつでも友紀の味方だよ」
彼女の言葉に、涙を抑えられなかった。
伝う涙を必死に拭うけど止まらない。
「許して…、くれるの?」
涙声でそう聞く僕に、姉さんは少し困惑しているような表情を浮かべる。
結河「許すも何も…、心配だったよ。水の勉強なんて無理にしなくて良いのにって」
そして、嬉しそうに微笑んだ彼女は続けてこう言った。
結河「でも、嬉しかった。水と向き合ってくれてありがとう」
僕は、彼女の答えに救われた。
水泳を習っていて良かった。水の法則を学んで良かった。
エラ呼吸を模倣した呼吸法も…。
全部、決して無駄なことじゃなかったんだ。
「ありがとう、姉さん」
結河「ううん、私の方こそ! 話せて良かったわ」
顔を覆って涙を隠す僕の礼に対し、明るくそう返す姉さん。
結河「フクマくんもありがとう。友紀と話せる機会をくれたことには感謝するわ。だけど、人を傷つけるのは止めて」
彼女がフクマに感謝を述べた矢先だった。
バキッ! バキバキバギ…
雲に覆われた空に大きな亀裂が入って、そこからヒビが入るように広がっていく。
そして、今までで1番険しい表情を浮かべたフクマの身体も崩壊が始まった。
ここは、別の空間か何かだったのか?
「ここは何なんだ?」
結河「ここは、貴方の精神の中よ。思い出したくないものやトラウマ、悪夢を寄せ集めて創られた情景。でも、もうすぐここは崩壊する。現実に帰れるわ」
僕が言葉に漏らした疑問に、彼女は真剣な表情で答えた。
なんで姉さんがそんなことを知ってるんだ?
亡くなった姉さんと、なんでここで話ができたんだ?
その姿は、姉さんが大人になったもの?
色々と聞きたいことはあるけど、悠長に話している暇はなさそうだ。
結河「多分だけど…。フクマは恐怖とか怒りとか辛い気持ちとか、そういう負の感情で強くなるんだと思う。だから、こんな情景を…」
亀裂が広がるこの情景を見渡しながら、姉さんは冷静にそう言った。
やっぱり姉さんは特別だ。
7才で水の論文を簡単に理解していた。
大人の姉さんの知性は計り知れない。
ぼーっと姉さんの横顔を見つける僕に対し、彼女はニコリと笑った。
結河「希望を持って戦って。でも、無理はしないでね」
亀裂が大きく広がるに連れて、僕の意識は朦朧としていく。
視界が暗くなり意識がなくなる瞬間、姉さんはこう言った。
結河「攻撃、すぐに来るから気をつけて」




