西の旅2日目 - 水瀬 友紀㉔
鬼塚「ごめん、みんな! ちょっとトイレに行ってくるから、荷物持ってて欲しい!」
これが琉蓮と交わした最後の言葉だった。
彼は僕らの荷物や背負っていた的場を置いて、慌てるように列を抜けて走り去っていったんだ。
急にお腹が痛くなったんだろう。
よくあることだ。
あまり深くは考えなかった。
多分、皆もそうだと思う。
強いて考えていたとするなら…。
僕らの順番が来る前に早く戻ってきて欲しい。お腹が痛くて乗れないなんて本当に勿体ないから。
まぁ、結構並んでるし20分くらい掛かっても多分大丈夫だろう。
僕は、琉蓮が置いていった自分の荷物を背負いながらそう思う。
しかし…、
「大変お待たせしております。6名様ですね?」
順番が回ってきても、彼が戻ってくることはなかった。
凄く残念な気持ちになったよ。
今日は琉蓮が主役なんだ。彼が1番楽しまないといけないのに…。
絶叫系が苦手な琉蓮でも乗れるこのアトラクションを最後に、“琉蓮ツアー”を締めくくりたかった。
でも、閉園までまだまだ時間はある。
彼がトイレから帰ってきたら、一緒にもう1回並べば良いんだ。
楽観的に考えていた僕は、この後絶望することになる。
アトラクションを乗り終えて余韻に浸っていた僕らは、談笑しながら外に出た。
琉蓮の姿は見当たらない。
まだトイレかな? かなり頑張ってるのかな?
もしかして、入れ違いになった?
的場「ここはどこじゃ? うっ…! 若干の都会…! 若干の吐き気が…!」
肩を組んで自分を運んでくれていた新庄から離れ、手で口を押さえる的場。
やっと意識が戻ったみたいだ。あの放屁の臭いはハンパないからな。
新庄「おぉ、凌…。大丈夫か?」
的場「しかも、この都会、何か臭いぞ!?」
的場は心配する新庄の言葉には耳を傾けず、もう片方の手で鼻をつまむ。
それ、都会の臭いじゃなくて身体に染みこんだ放屁の残り香なんじゃ…。
とにかく意識が戻って良かった。後遺症とかも特になさそうだし。
琉蓮は今、どこにいるんだろう?
とりあえず、連絡してみよう。
僕はポケットからスマホを取り出し、彼の連絡先を探した。
…………。
なんで、忘れていたんだろう?
琉蓮、スマホ持ってないじゃん。
え、ちょっと待って。
スマホ持ってないってことは、いま連絡取れない状態? つまり、どこにいるかわからない状態?
しかも、この超広いテーマパークで…?
つまり、相当ヤバいってことじゃん。
新庄「剣崎? 大丈夫か?」
スマホを持って固まった僕を心配する新庄。
シリウス「違うよ、彼は水瀬だ」
変わらず名前を間違えている彼に、シリウスはすかさず指摘する。
どうしよう? どうやって合流すれば良いんだ?
スマホがなかったら場所とか調べようがないよな。
新庄「悪ぃ、名前何だっけ? お尻マン? ケツ壁?」
シリウス「惜しいね、僕の名前はシリウスだ。ん? もしや、僕の名前は“尻”から来ているのか? もしそうなら、軍法会議ものだね」
不安になる僕の隣で、2人は悠長な話をしていた。
他のみんなもさっき乗ったアトラクションの話とかで盛り上がっている。
「みんな、聞いてくれ!」
みんな口々に話す中、僕は彼らを呼びかけた。
彼らは、僕の方に注目する。
「琉蓮が行方不明になった」
僕の発言に対し、みんな驚いているようだった。
獅子王「え、確かトイレに行ったんじゃ…? まさか誘拐された?」
樹神「いやぁ、こりゃトイレからのパチっすわ」
みんな思うことは色々あるみたいだけど、どこに行ったのかわからないのは事実だ。
「日没までに手分けして捜そう。二手に別れるんだ。テーマパーク内を回る班と、テーマパークの近隣を回る班に。琉蓮だって、きっと僕らを捜してる。遠くには行かないはずだ」
僕は咄嗟に思いついた捜索の段取りを彼らに伝えた。
日が沈んで暗くなると見つけにくくなる。
できれば早めに見つけたい。
そして…。
「シリウス、君は空から捜してくれ」
彼は特別捜索班として動いてもらう。
上空からこの街を見下ろして、琉蓮を見つけてもらうんだ。
僕の指示に対して、シリウスは顔をしかめた。
シリウス「あまり目立つことはしたくないね。普通の人間は空を飛ばないんだろう?」
彼が渋ることは想定内。
だけど、一刻も早く琉蓮を見つけるには彼の助けが必要なんだ。
いま荷物や財布すら持ってない琉蓮は、きっと路頭に迷って不安になっているに違いない。
「いや、人は飛ぶよ。お金を代償に飛行機という技を使うんだ」
シリウス「なるほど…、それは初耳だ。鳥や虫と同様、人間も空を飛ぶんだね」
僕の言葉に、納得したような素振りを見せるシリウス。
ものは言い様だ。
「うん、ヒトの1人や2人飛んでいても何も思わないよ。だから、協力してほしい。琉蓮は、僕の大切な友達なんだ…!」
僕の言葉を聞いたシリウスは、人は自力で空を飛べると思っただろう。人が飛ぶのは当たり前のことで、決して目立つ行動ではないと。
嘘を吐くのは引け目を感じる。でも、そうでもしないと、きっと彼は動いてくれない。
シリウス「友達……か。何だか心地の良い言葉だね」
彼は優しく微笑みながら、うんと頷いた。
シリウス「鬼塚捜しに協力するよ。飛ぶ行為自体は、あまり目立たないようだしね」
ほんと、嘘吐いてごめん。
多分、目立ちまくると思う。未確認飛行物体やUMAとして、新聞の一面を飾ることになるかも…。
でも、琉蓮を放っておく訳にはいかないんだ。
「ありがとう、シリウス…」
罪悪感からか、僕の感謝の言葉は小さく震えたものになった。
「よし、じゃあ二手に分かれよう。見つけたら連絡してくれ。シリウスも頼んだよ」
陽と樹神は、テーマパークの外へ。
僕は仲良しコンビの新庄と的場を連れて、テーマパーク内を捜索する。
シリウス「僕は力の中位神だ。人間1人くらい、すぐに見つけるさ。宙屁」
そして、キザなことを言ったシリウスは、ガスが抜けるような音と共に空へ飛び上がった。
「え、何か人が飛んでるよ?」
「ショーとかイベントじゃない?」
近くにいた人たちは、飛んだ彼を好奇な目で見ながらスマホを向ける。
まずい、早速目立ちまくってるな。
僕らの琉蓮捜索は、シリウスの宙屁を皮切りに始まった。




