2日目 - 剣崎 怜③
新庄氏の持っている金属バットは普通ではないという結論に水瀬氏は至った。
屈強な黒い者たちに対抗できるほどの威力を持つバット。
それに対して私は思った。そのバットはかなり帯電性が高いものなのでは?
先ほど新庄氏がそれを持ったとき、雷鳴と勘違いするほどの大きな音が鳴った。
…………。すまぬ、それは言いすぎた。
彼はそれを静電気と言っていたが…。
つまり、そのバットには常に強い電気エネルギーが宿っている可能性があるのだ。
「この絶望的状況を打開する秘策を思いついた」
“思いついた”と言うより“思いついてしまった”と言った方が正しい。思わずそれを口にしてしまい、私は少しばかり後悔する。
何故なら、この秘策を遂行すると私自身は別の絶望的状況に陥るかもしれないからだ。
「かなりのリスクではあるが…」
そう、私にとってはかなりのリスク。
私は新庄氏と共に運転席の水瀬氏を見据え、彼の反応を伺った。
このまま彼らに追いつかれて八つ裂きにされる肉体的死を選ぶか、秘策を使い2人を助けて社会的死を選ぶか。
無論、私は後者を選ぶ。
先ほど少し後悔したとは言ったが…。2人を死なせたとき、それとは比べものにならないほどの後悔と罪悪感が私に降りかかるであろう。
水瀬「秘策って? 誰かが危ない目に合うようなリスクがあるなら僕は賛成できない」
彼はバックミラーをチラチラと見ながらそう言った。いくら飛び級で運転免許を獲得した者とは言え、安全運転には徹底してほしいものだ。
まぁ、それについては後で注意するとしよう。
水瀬氏とは中学からの付き合い。私の大切な仲間を死なせるわけにはいかない。
新庄「おぉ! 何か面白そうじゃん。どんな作戦だ?」
隣にいる彼は目を輝かせながら、聞いてくる。興味津々で何よりだ。
新庄氏、君がこの秘策を成功させるキーパーソンになってくるからな。
水瀬氏は作戦の内容次第、新庄氏は何であれ乗ってくれるだろう。
そんなことを考えながら、私は秘策について話し始めた。
「私と新庄氏の連携技である。実は私はある特殊な体質を持っている」
私は意を決して、自分の唾液について打ち明けた。
唾液の分泌量が常人よりとてつもなく多いこと。
その唾液をある程度コントロールできること。
そして、今回の秘策の内容を。
彼らは、そんな私を嘲ることなく真摯に話を聞いてくれた。
水瀬「信じていいのか? もし唾液のコントロールが上手くいかなかったら、その時点で僕らは終わる」
嘲るどころか、水瀬氏は自らの命を私の唾液と秘策に託そうとしている。
こんなことは今までにはなかった。私の唾液が頼りにされる日が来るなど誰が考えよう…。
「問題ない。学校で逃げていたときに使いこなせることは確認済みである。ただし、この秘策を遂行するにあたって1つ条件がある」
だが、これだけは釘を刺しておかねば。社会的死のリスクをなるべく回避するために。
「私の唾液については一切の他言を禁止する。もし誰かに知られたら君たち2人は私の唾液に包まれ窒息することになろう。それぐらいの覚悟で条件を守ってほしい」
そんなことをする気は金輪際ないが、私もなるべく平和な高校生活を送りたいのだ。
彼ら2人が私を悪く思わなくとも、私の体質を知って迫害してくる者は少数ではないからな…。
水瀬「わかった。絶対に誰にも言わない」
ありがとう、水瀬氏。そして、脅迫紛いなことを言ってしまって申し訳ない。
新庄「おうよ! 俺はぜってぇ約束だけは破らねぇって決めてるんだ」
確かに君は義理堅そうだが、不安なのは約束自体を忘れそうなところだ。
「ありがとう。では準備ができたら言ってくれ」
私は彼らに礼を言い、無数の黒い者たちの方へ身体を向けた。
水瀬「いつでもいいぞ」
新庄「準備ってよりこういうのはタイミングだな」
私は少しの恐怖と緊張を感じながら、トラックの荷台の後方へと向かう。
正体不明の黒い者たち。これほど悍ましく感じる二足歩行の生物が他にいるだろうか?
水瀬「そうだな。じゃあ、3、2、1で行くぞ」
この秘策が成功するかどうかで私たちの生死が決まる。
私と新庄氏は黙り込み、彼のカウントダウンに耳を傾けた。
3...
鬼たちの足音と水瀬氏の声だけが辺りに響き渡る。
2...
心臓の鼓動が激しくなってくる。失敗は絶対に許されない。
1...
水瀬「いくぞ! 怜!」
そう言い放ち、彼はブレーキを踏み込んだ。




