2日目 - 水瀬 友紀⑤
剣崎「新庄氏、立つではない! 荷台から落ちると一巻の終わりであるぞ」
走行中にも関わらず、いきなり立ち上がった新庄を制止する怜。
今、何て言った? あの量の鬼を潰してくるから車を止めろって?
それは無茶だ。たとえ1体でも勝てないと思う。
「新庄、一旦落ち着こう。追いつかれそうになって焦る気持ちはわかるけど、奴らを相手するのは悪手だ」
そう言って新庄を諭すけど、僕自身もこの軽トラで逃げ切るのに限界を感じている。
もう3回も信号無視をしてしまった…。無免許運転の時点で犯罪だと言うのに。
鬼に追いかけられていると言う理由はあるけど、やっぱりルールを破るのは気が引ける。
逃げるか戦うか以外に何か選択肢はないのか。
もう一度、川まで誘導して“素潜り陰キャ戦法”する手もあるけど、2人の息が持つかわからない。
それにあれから時間もたってる。慶なら水圧の問題を対策してる可能性だって充分にあるんだ。
新庄「気合いで何とかなるって。このまま走っててもどうせ追いつかれるだろ? それに素手でやり合うわけじゃねぇ。この“じいちゃん2世”でぶっ叩く!」
彼はそう言い放ち、鬼の大軍に向かって“じいちゃん2世”と呼んでいる金属バットを翳した。
バチッ
何の音だ? 後方から何かが弾けるような音がする。
新庄「痛ってぇ! なんでこのタイミングで静電気来るんだよ! 持つときだけにしろよ!」
金属バットを左手に持ちかえ、静電気が流れた右手をぶんぶんと振る新庄の姿がバックミラーに映る。
今の静電気なのか? それにしてはかなり大きな音だったけど。
この2人から焦りや不安と言った様子は感じられない。
新庄はさっきの発言といい鬼と戦うことにやけに自信がある。
怜もこんな状況なのに妙に落ち着いていて、無機質に走ってくる鬼たちを見据えている。
「なぁ、2人は昨日どうやって逃げたんだ?」
自信があったり平静にいられたりするのは、昨日、鬼から逃げ切ったから?
もしかしたら、彼らの昨日の行動がこの状況を打開する鍵になるかもしれない。
僕の質問に対し、先に怜が答えた。
剣崎「私は昨日休んでいたため、こうして逃げるのは今日が初めてである。故に黒い彼らとも初対面。休んだ理由を軽く申し上げると、私はいつも朝起きたらすぐに体温を測るのだが昨日は平熱より0.5℃高かったのだ。平熱より低いことはあるが高いことは滅多にない。私自身、咳や鼻炎、倦怠感などの症状はなくいつも通り問題なく動けるがウイルス性の風邪だとみんなにうつってしまうと判断し急遽お休みさせていただいたのである」
軽く申し上げるだって…? いや、とてつもなく長いよ。そんな回りくどいことをどうして噛まずに言えるんだ?
てか、休んだことを必死に正当化しようとしてるけど、誰がどう聞いてもずる休みだよそれ。
彼が話している間に鬼との距離がかなり縮まった気がする。
休んでいる生徒の家には鬼を仕向けなかったのか。学校の関係者以外にはなるべく被害が及ばないようにしている?
もしそうなら、やっぱり慶にも良心がある。あくまでも彼は友達だ。
こんなことをしたのにもちゃんとした理由があってほしい。ただの悪党になってしまったわけじゃないと信じたい。
新庄「さっきも言ったけど気合いだって。グラウンドで2、30体くらいに囲まれたけど死ぬ気でバットぶん回して壊しまくってやったぜ!」
怜の超長い言い訳に続いて、新庄も僕の質問に答えた。
そのバット1本で鬼たちを…? ありえない話だけど、そうでもないと学校にずっといて逃げ切れるはずがない。
1回川で遭遇したっきり鬼が来なかったのはそういうわけか。
ほとんどの生徒が捕まったはずなのに今日こんなに鬼を増やしたのも納得がいく。
そして、そのバットは多分普通のものじゃない。
鬼を破壊できるほどの威力。その金属バットを造ったのは…。
「新庄、多分それは普通の金属バットじゃない」
あの風貌の鬼たちがただの不良高校生の一撃で壊れるとは思えない。
新庄「いや、どう見ても普通のバットだろ! グラウンドに落ちてたんだぞ」
普段持ち歩いているバットじゃないなら尚更だ。どうしてそんなとこに落ちていたかわからないけど。
あ、2世ってそういうこと? じゃあ、前持っていたのは“じいちゃん1世”?
…………なんで、“じいちゃん”?
割と由来が気になるけど、それは後回しだ。
「昨日の放送でも言ってたように銃火器での攻撃すら効かないんだ。だから普通のバットだとしたら、どんなに本気で殴っても傷一つつかないと思う」
新庄「…………へ? 初耳なんだけど。俺、最強じゃん」
バックミラー越しに新庄と目が合った。ちょっと嬉しそうな表情で自身の顔を指差している。
あの放送を聞いてなかったのか。3回鳴ったっていうのに…。
今、僕が言ったことも半分くらい聞いてくれてない気がする。
君じゃなくて、そのバットが最強なんだ。
彼のバットでなら壊せることがわかった。だけど、この数相手じゃ無理がある。
そもそも何体いる? 僕は目を細め、バックミラーで後ろから追ってくる鬼をよく確認する。
奴らの黒で隙間なく埋め尽くされていて道路が見えない。1000体くらいいるんじゃないのか?
それくらいその金属バットが脅威だってことかもしれないな。
多勢に無勢。強い武器を持っていることがわかっても状況は変わらない。
剣崎「この絶望的状況を打開する秘策を思いついた」
さっきから神妙な面もちをして何かを考えている様子の怜が呟いた。
そして、バックミラーを経由して鋭い眼差しを僕に送ってくる。
嬉しそうな新庄と真剣な怜、この2つの顔でバックミラーが埋まった。
後ろ見えなくて困るのと、前方不注意で事故りそうだから止めてほしい。
剣崎「かなりのリスクではあるが…」




