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BREAKERZ - 奇っ怪な能力で神を討つ  作者: Maw
RESET Project編
141/271

凶敵 - 文月 慶⑬

僕の目の前で、1カ所に集まった増殖体の群れが大爆発を起こして焼失した。


どういう訳か生きていた獅子王ししおうと、剣崎けんざきたちの連携によって成せたことだろう。


だが、Undead(アンデッド)のコアはまだ2つある。


1つは剣崎けんざきが命懸けで破壊できたものの、もう1つは彼らにとって想定外だった。


破壊し損ねたコアを中心に奴の身体は完全に再生。


新庄しんじょうは右半身の広範囲に火傷を負って、仰向けに倒れていた。


剣崎けんざきも受け身は取れたが、もう唾液は使えず体力も消耗していてすぐには動けそうにない。


そして、男虎おのとら先生が着用していた灰色のジャージはひらひらと宙を舞って地面に落ちてきていた。


奴のコアが1つになったと言えど、主力が満身創痍で絶望的な状況だったんだが…。


奴はそんな彼らを無視し、謎の言葉を発しながらこちらに向かって走ってきたんだ。


奴の成体変化はかなり厄介だ。それをどう対処しようと考えたのは束の間だった。



ドオオオオオォォォォォォン!!



Destroy(デストロイ)が奴を破壊した。


理由はよくわからない。奴の発言がきっかけになったのか?


よって現在、EvilRoid(エビルロイド)Destroy(デストロイ)のみとなった。


増殖体の群れでこちらからは見えなかったが、Plant(プラント)新庄しんじょうたちの手によって撃破に成功したようだ。


まだ黒いブロッコリーは、グラウンドを囲って生えているが機能はしていない。


謎の仲間割れで残り1体となったが、あまり良い状況ではないな。


相手はEvilRoid(エビルロイド)の中で最強の存在。鬼塚おにづかの特質を使ってくる。



D『さて、任務を終わらせましょうか』



そう言って、膝を抱えてうずくまっている鬼塚おにづかに奴は身体を向けた。


先に強い者から始末しようという魂胆か。奴が1番最初に目を付けたのが鬼塚おにづかで良かった。


鬼塚おにづかDestroy(デストロイ)はついさっきまで戦っていたんだ。


鬼塚おにづかの攻撃は全てかわされていて、何度もカウンターを喰らっていたが、Destroy(デストロイ)側の攻撃も彼にとっては脅威ではなかったように思えた。


何発喰らっても全く怯んでなかったからな。


逆を言えば、Destroy(デストロイ)が彼の攻撃を躱し続けていたということは、1発でも当たれば決定打になるかもしれないということ。


鬼塚おにづかうずくまっているのは傷を負ったからじゃない。いつものようにただ落ち込んでいるだけだ。


ボロボロになった軽自動車の近くで倒れている真っ黒に焦げたすめらぎ。恐らく力加減をミスってあいつをあんな風にしてしまったからだろう。


だが、あいつは生きているし恐らく無傷だ。地球を破壊しかねない鬼塚おにづかからすれば、これはケアレスミスのようなもので落ち込む必要はない。


僕らが思っているより意外と人間の身体は丈夫にできている。学生大戦時、乗っていた軽トラの爆発に巻き込まれた村川むらかわ先生も無事だったからな。



D『結局、私以外のEvilRoid(エビルロイド)は誰も抹殺することができませんでした。彼らの存在意義は皆無に等しい』



苦言を呈しながら、落ち込んでいて戦えそうにない鬼塚おにづかの元へ向かうDestroy(デストロイ)


とりあえず、これは放置しておいて問題ないだろう。Destroy(デストロイ)の攻撃が彼に大して効かないことは既にわかっている。


もっと優先すべきことがあるんだ。


僕はイヤホンに手を当てて、獅子王ししおうの近くにいる朧月おぼろづきに声を掛けた。



朧月おぼろづき新庄しんじょうを助けてやってくれ。見つかり次第、生きていたら男虎おのとら先生も…」



僕の指示を聞いた彼は、重度の火傷を負って倒れている新庄しんじょうの元へ行き、ポケットから注射器を取り出して額に突き立てる。


火傷を負った部分は見る見る再生していき、朦朧としていた新庄しんじょうはむくりと上体を起こして辺りを見渡した。


簡易版の万能薬だ。朧月おぼろづきPlant(プラント)の毒にやられて取りに来たとき、持てるだけ持たせておいた。


瞬殺されない限り、傷を負った者には彼が即座にあれを投与するから、誰かがDestroy(デストロイ)に致命傷を負わされても基本的に死にはしないだろう。


一応、万能薬も作ろうと思えばいくらでも作れるが…。


まぁ、その時はその時だ。万物を創りだせたとしても、命は再現できないからな。


今のところ、投薬が必要なのは新庄しんじょうだけだったか。


剣崎けんざきはコアを斬った後、上手く受け身をとって着地したから問題なさそうだ。


ただ、もう特質は使えず刀も刃こぼれしている。場合によってはDestroy(デストロイ)に掛かっていきそうだが、そんな切羽詰まった状況には絶対にしない。


ここから僕が的確な指示を出し……いや、的確に鬼塚おにづかを説得して奴を破壊させる。


彼が再び立ち上がれば、もう誰も戦わずに済むんだ。



D『戦意喪失ですか。無理もないでしょう』



うずくまって微動だにしない鬼塚おにづかの目の前に立って見下ろすDestroy(デストロイ)


D「EvilRoid(エビルロイド)は例外なく、オリジナルの特質持ちより強く造られています。Fluid(フルイド)Plant(プラント)も、数人かがりでようやく勝負になるくらいでしたね。Undead(アンデッド)に関しては、どうしても動力源にコアが必要なため破壊されたら再生しないという完全な不死身ではありませんが、それでも殺傷力はオリジナルを凌駕していました」


単に落ち込んでいるだけの鬼塚おにづかに得意気に何やら話しているようだが…。


こいつ、バグでも起こしたのか?


お前が鬼塚おにづかを超えている? 力の差に圧倒されて戦意を失っているとでも…?


BREAKERZ(ブレイカーズ)の王と打ち合って本当にそう感じたのなら、模造な上に欠陥品というわけだ。


束の間の優越感に浸っていろ。鬼塚おにづかが再び拳を振るえば、お前は今度こそ終わりだ。


僕はイヤホンに手を持っていきながら考えた。


さて…、どう声を掛ければやる気になってくれるだろうか?




ザッ……


新庄しんじょう『おい、弱いものイジメは止めろ』




マジかよ…。回復して早々、死ぬ気か。


僕の薬によって回復した新庄しんじょうは、金属バット“とどろき”を片手に、Destroy(デストロイ)の背後に立った。


恐らくあいつは、鬼塚おにづかDestroy(デストロイ)の強さを理解していない。


鬼塚おにづかのことを雰囲気だけで勝手に弱いと判断したんだろう。そして、脳筋不良に敵が格上かどうかは関係ない。


時が止まったかのようにグラウンドにいた彼らは静止した。緊迫した空気がこちらまで流れてくる。


誰も動けないのは当たり前だ。相手は鬼塚おにづかの特質を持った“EvilRoid(エビルロイド)”。


恐怖で足がすくんでも不思議じゃない。


「お、おい……。下がれ、新庄しんじょう


戦場グラウンドに立っていない僕ですら、辛うじて声を出せるくらいだ。


Destroy(デストロイ)はゆっくりと振り返り、新庄しんじょうの目を見つめる。


引き下がろうとする様子がない新庄しんじょう


僕の声が聞こえなかったのか? それとも、あまりの威圧感に身体が動かない…?


そして……、奴は恐らく抹殺対象者と認識し、無言で拳を軽く後ろに引いた。


D『貴方も抹殺し……』



ドゴオオォォォン!



………どういうことだ?


鈍器で殴ったような鈍い音と雷鳴のような音が大きく反響し、僕は目を疑った。


この音はDestroy(デストロイ)が突きを繰り出した際に発したものではない。


新庄しんじょうが“とどろき”を振り切り、奴の身体を地面に叩きつけた音だ。


ドンッ…!


叩きつけられた奴の身体はうつ伏せの状態でグラウンドに倒れ込み、奴を中心に地面には深い亀裂が入った。


いくら“とどろき”の威力が絶大とはいえ、ただの不良がDestroy(デストロイ)を吹き飛ばすことなど…。



バチ……バチ……バチ……。



よく耳を澄ますと、グラウンドに配置している小型カメラからイヤホンを通じて、微かに弾けるような音が聞こえてくる。


1つだけ……考えられるとすれば……。


今の一撃で奴に決定的な損傷を与えた様子はない。


奴の銀色の装甲には傷1つついていないのにも関わらず、立ち上がるのに苦労しているようだ。思ったように腕に力が入らないといった様子で。


とどろき”は莫大な電気によって破壊力を引き出している。


EvilRoid(エビルロイド)”はコアを動力源とした機械。コアから流れる電気によって作動しているのだとすれば、“とどろき”に流れている莫大な電気は奴の機能を阻害できるのか。


D『その金属バット、想定以上に凄まじい威力のようですね』


だが、奴にとっては1度怯まされただけに過ぎない。莫大な電気による機能の阻害も一時的なものだったようだ。


奴はうつ伏せになった身体を起こした流れで身を捻り、背後にいた新庄しんじょうに突きを繰り出した。


ドドドドオオォォォン!!


前々から思うところはあったが、あいつの身体能力や喧嘩に対する機転には目を見張るものがある。


Destroy(デストロイ)が立ち上がろうとしたときには既に、新庄しんじょうはバッターのような構えをとっていた。


そして、奴が拳を振り抜くより先に、バットを頭に向けて振り切ったんだ。


その際、一瞬だけ見えた新庄しんじょうの身体をはしる蒼い稲妻。それと同時に、Destroy(デストロイ)の身体は吹き飛び地面を抉った。


すぐに殴ってくることを先読みしていたんだろう。ただイキがっているだけの不良にはできない芸当だ。


あいつは恐らく、これまでに喧嘩という死線を何度もくぐり抜けて来ている。その経験が今の戦いに活きているに違いない。


30体の鬼や、神憑かみつき羽柴はしばと戦ったときもそうだ。


いくら僕の造った金属バットが有能だからといって、火力全開の鬼30体が生身の人間に指1本触れられないことなんてありえない。




奴は生粋の喧嘩番長だ。




新庄しんじょうは遠くに飛んでいったDestroy(デストロイ)に向かって駆けだした。


仰向けに倒れていたDestroy(デストロイ)は起き上がろうとしている。


「深追いはやめろ、新庄しんじょう! 僕が鬼塚おにづかを…」


新庄しんじょう『心配ありがとよ、じいちゃん。でも、誰かがやんなきゃいけねぇんだ! あいつは強い。そんなことはわかってんだよ!』


僕の言うことに聞く耳を持たず、奴へ迫っていく新庄しんじょう


じいちゃん…?



ーー 新庄しんじょう篤史あつしは、小型カメラを通じて聞こえてくる文月ふづきけいの声を、亡くなった自身の祖父のものと認識していた。



D『まさか、鬼塚おにづか家以外でここまで強い人間がいたとは…。面白い、私も全力で応じましょう』


完全に立ち上がったDestroy(デストロイ)は、一直線に走ってくる新庄しんじょうを見据えて右手に拳を作る。


「おい、マジで退け! 奴の本気の突きは隕石をも砕く…!」


新庄しんじょう『じいちゃん、見ててくれぇ!』


ダメだこいつ、いっさい話を聞かない。


新庄しんじょうは奴を跳び越えそうなくらい高さまで飛躍し、バットを頭上に振り上げた。


バチバチバチバチ!


弾けるような音を立てながら、またも稲妻が彼の身体やバットの表面を巡っている。


とどろき”にそんな機能を付けた覚えはないんだが…。


あいつの特質らしきものが相まって本来以上の威力を引き出そうとしているのか?


まさかとは思うが、打ち勝てる?


新庄しんじょう『う゛お゛ぉぉっ…! カミナリ大根切りいぃ!』


新庄しんじょうは自身の身体に流れる稲妻のせいか、若干苦しそうにしながらも、身体の落下とともに奴へ目がけてバットを振り下ろした。


D『凶撃シオン・ビート


金属バットと共に上空から迫る新庄しんじょうに対し、奴は拳を突き出した。



ガキンッ! ドオオオオオォォォォォォン!!



金属バットと拳がかち合い、雷鳴と爆発が入り交じった音と共に、彼らの周りの地面には大きく亀裂が入る。


ほんの2,3秒、そのまま膠着こうちゃくした後で……、



ドゴオォ…!



Destroy(デストロイ)の拳は金属バットに押し返され、バランスを崩した奴の身体はうつ伏せに倒れ込んだ。


そして、倒れ込んだ奴に間髪入れず新庄しんじょうは何度もバットを振り下ろす。


奴の身体に金属バットが直撃するたびに、大きな雷鳴が鳴り響いた。


グラウンドにいる奴ら全員、歓声を上げることはないが、恐らく勝てると思って見届けようとしているだろう。


だが…、


Destroy(デストロイ)の装甲の損傷率0%。新庄しんじょう篤史あつしによる攻撃によって怯みはしているものの、有効ではありません』


イヤホンを介して聞こえてくる“FUMIZUKI(フミヅキ)”の音声。


あぁ、僕も薄々気づいていたが、“とどろき”で奴を破壊するのは不可能だ。


ガチャッ……


Destroy(デストロイ)はうつ伏せになったまま、肘だけを曲げて拳を上に突き上げた。



ドオォォン!


新庄しんじょう『うおっ!?』



新庄しんじょう自身に命中はしなかったものの、彼の身体は風圧で吹き飛び地面を転がる。


意地でもバットは手放さなかったようだ。


彼は片膝を着いて立ち上がろうとするが…、



新庄しんじょう『ゲホッ……ゲホッ……!』



みぞおち辺りを押さえて咳き込む新庄しんじょう。吐血はしなかったものの、透明の胃液のようなものが彼の口から滴り落ちた。


風圧で押し飛ばされた上に、受け身も取れていない。生身の人間がそんな目に遭ってその程度で済んでいるのは運が良い。


当たり所が悪ければ、複雑骨折でもしていただろう。


D『見かけ以上に貴方の身体はガタが来ているようですが、私に対して構えをとる辺り、まだ勝てると思っているようですね』


起き上がった無傷のDestroy(デストロイ)と、バットを構えた新庄しんじょうが対峙している。


新庄しんじょう『ちょっと咽せたくらいで大げさなんだよ。勝てる勝てないじゃねぇ。ここでみんなを捨てて逃げたら、じいちゃんに顔向けできねぇだろ』


今、僕のするべきことは鬼塚おにづかを説得すること。同時に新庄しんじょうを避難させることだ。


どちらも難しいように思うが、新庄しんじょうに関しては良い方法を見つけてしまった。


僕は少し躊躇ちゅうちょしながら、イヤホンに手を当てる。




篤史あつし、僕……じいちゃんはそうは思っていない。黙って戦いを放棄しろ。これは僕……じゃなくてじいちゃんからお前への命令だ」




これで新庄しんじょうは言うことを聞くだろう。


あいつは小型カメラを介して聞こえてくる僕の声を自身の祖父のものだと思っている。


その尊敬している祖父が逃げろと言えば、きっと喜んで逃げるだろう。



新庄しんじょう『お前……、じいちゃんじゃねぇだろ? じいちゃんはそんなこと言わねぇ』



都合の悪すぎる解釈……、マジで止めてくれ。


お前ではDestroy(デストロイ)を倒せない。無駄死にするから退けと言っているんだ。



ダッ……!



Destroy(デストロイ)新庄しんじょうに向かって駆けだし……、



新庄しんじょう『来いよ、銀色マッチョ!』



彼がそれに応じたことで、戦いは再開されてしまった。


金属バットと金属質な拳がかち合う音が何度も響く。


莫大な電気と相性が悪いからといってどんなに怯ませられたとしても、いずれは新庄しんじょうの体力が尽きて殺されるのがオチだ。


新庄しんじょうは言うことを聞かない。


その周囲にいる朧月おぼろづき獅子王ししおうが戦いに加わったところで…。あの金属バットですら傷1つつけられない装甲にできることはないだろう。


どうすれば…。できるだけ長く持ってくれることを祈って鬼塚おにづかを必死に説得することしかないのか。


あのうずくまっている鬼塚おにづかは史上最高に落ち込んでいる気がする。


数分の説得で済む気がしない。


そんな訳あり八方塞がりな状況の中、1人の人物が声を上げた。



すめらぎ『おい、揃ってるじゃねぇかぁ♪ 勝ちへの布石がよ』



目を覚ましたか、すめらぎ。真っ黒になったあいつはいつの間にか軽自動車の隣で起き上がっていた。


鬼塚おにづか『す、すめらぎくん……』


奴の声が聞こえたのか、近くにいた鬼塚おにづかは目に涙を浮かべながら顔を上げる。


すめらぎはそんな鬼塚おにづか一瞥いちべつしてから、ニヤリと笑った。


すめらぎ『1つだけ足りなかった布石があった。それは、この俺が生存していることだ』


そして、あいつはいつものように狂気的な笑みを浮かべながら、両手を大きく広げてこう言った。




すめらぎ『聞こえてるんだろぉ、文月ふづきぃ♪ 今から俺の言うとおりに駒を動かせ。王手を取ろうぜぇ♪』




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