第九十一話
第九十一話
神剣ミーオンを賭けたギャンブル大会。その決勝戦のテーブルは、四人の参加者によって支配されていた。
優勝候補のジード、ダンジョンマスターマダラメ、冒険者のカイト。そして教会が擁立した候補者であるユーリスだった。
「ベット、五十枚」
エクストが五十枚のコインをかける。
「……コール」
ユーリスが応じる。しかしこのコールはユーリスの意思ではなかった。事前に決めておいたサインでユーリスにコールするようカイトが指示したのだ。
エクストがカイトを見る。先ほどからカイトがサインを出している事には、ほかの参加者も気づいていた。しかしエクストは、カイトが手札を見抜いている理由までは気づいていない。
エクストの視線はカイトから離れ、自分の隣に座るワイズマンを見る。そして反対側のタブリスが座っていた席を見た。
すでにタブリスは全てのコインを失い、決勝戦から脱落している。エクストも手元に残っているコインは百枚ほど。ワイズマンも二百枚を切っている。
一方、ジードの手元には二千枚以上のコインがあり、マダラメの手元にも二千枚ほど。カイトの手元にも二千枚近いコインがあった。そしてユーリスの手元にも千五百枚以上のコインが集まっており、決勝戦はこれに勇者サイトウを加えた五人に絞られつつあった。
最後の共通カードが明らかとなり、エクストは小さく息をついた。
「オールイン」
エクストが手元のコインを全て前に出す。カイトはユーリスにコールするように指示した。
「コ、コール」
ユーリスが同額を差し出し、全てのカードが明らかとなる。
結果はユーリスが勝ち、エクストは脱落した。
エクストは敗北に息を吐いたが、醜態はさらさず、席を立った。
これで脱落者は四人。カイトの視線は自然とワイズマンに向かった。自身の敗北を予期しているワイズマンは、静かにカイトの視線を受けた。
ワイズマンもまた、なぜジードやマダラメ、そしてカイトが手札を見抜けるのかわかっていなかった。
すでにワイズマンはジード、マダラメと大勝負を仕掛け敗北している。二人に大敗し、多くのコインを失ったワイズマンは、最後の相手としてカイトを選んだようだった。
「レイズ、十枚」
「コール」
新たなカードが配られ、ワンペアが手役に入ったカイトは、十枚のコインを差し出す。他の参加者が降りる中、ワイズマンが応じた。
カイトは改めてワイズマンを見た。
素晴らしい勝負師だ。カイトは目の前の勝負師を無条件に称賛した。
カイトはすでに自分の手札が、相手より上回っていることを知っている。一方ワイズマンの手札はそろっていない。全てはハッタリだ。しかしワイズマンの表情や仕草からは、何も読み取れなかった。
ワイズマンはカイト達から見れば二世代は上の勝負師だ。かつては最高峰の勝負師として鳴らしていたが、すでに第一線からは退いており、ジードやエクストといった若い才能に席を譲っている。
だがその技術は確かで、ほんのわずかな癖や精神的な動揺もない。まさに一流だ。自分などイカサマが無ければ相手にもならなかっただろう。
「オールイン」
最期のカードが明らかとなり。ワイズマンが全額を賭けてくる。
「コール」
カイトは無論応じた。
カードが明らかとなり、カイトが勝ち、ワイズマンは破れた。
「やれやれ、私もこれで引退だな。若い者には勝てん」
ワイズマンは席を立ちながら自嘲する。
「私は何も勝っていませんよ」
カイトは敬意から言葉を返した。
「そうかい? すべての癖を消したつもりだが、君には見抜かれていたようだが」
ワイズマンは敗北の理由が分からず、自分の癖を見抜かれていたと思っているようだ。だがそれは違う。カイトが勝ったのは、ある意味イカサマ。別の癖を見抜いていたからに過ぎない。
「私は何も見抜いていませんよ。貴方に僕が見抜ける様な癖は何一つなかった。ただ、別の人の癖を見抜いていただけです」
カイトはもうばらしてしまってもいいと考え、勇者サイトウを見た。
視線を受けて、勇者サイトウは不思議そうな顔をしていた。だがカイトの視線の意味に、ワイズマンとユーリスが同時に気づく。
「そ、そうか」
ワイズマンが小さく漏らして、勇者サイトウを見た。ワイズマンの視線を受けて、勇者サイトウもようやく勝利のカラクリに気づき目を見開く。
「お前たち、俺を見て勝負をしていたんだな!」
勇者サイトウがカイトと、そしてジードとマダラメを見た。
そう、全ては勇者サイトウなのだ。彼の持つ透視能力が全ての鍵だった。
勇者サイトウは連続して敗北して以降、ほとんどゲームに参加していなかった。だが存在感がなかったとはいえ、ゲームに参加していることは間違いない。そしてその間も、透視能力を発動し、誰が勝つかを見ていたのだ。
ならば注目すべきは対戦相手ではなく、勇者サイトウだ。彼を見ていれば誰が強い手札を持っているかが判明する。
「そんなこと、か」
ワイズマンは瞑目する。言われて見れば単純なことだった。気づきさえすればワイズマンなら、カイトよりもうまくやっただろう。
カイトは勇者サイトウの癖を全て見抜けてはいない。それに勇者サイトウの癖も、彼自身が勝負に参加していないため、変化の幅が少なく見抜きにくかった。結果としてジードやマダラメに水をあけられてしまった。
「いや、やはり歳だな。気づくべきことに気付けなかった」
ワイズマンは首を振り、自らの不覚を語り去っていった。
これで空いた席は五つ。決勝に残った参加者は五人にまで絞られた。
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