第八十四話
第八十四話
予選を通過した九人が壇上に並び立ち、決勝戦に挑む十人が揃った。そして十人が紹介されてイベントが終了したが、終了と同時にカイトの周りには大勢の人が集まった。そばにいたメリンダが何とか人の波を防ごうとしてくれたが、あまりの多さに何もできないでいた。
やって来た人の顔ぶれを見ると、半分ぐらいは知り合いだが、残り半分は全く知らない人たちだった。
彼らは予選通過の快挙を喜んでいたが、カイトは全く喜べなかった。自分が決勝の大舞台に立つ事は未だ信じられない。何より自分を激しく睨む者たち、東クロッカ王国の貴族や関係者がいたからだ。
無邪気な期待と針のような悪意をどう受け止めていいかわからず、カイトは対応に困っていると助け舟がやってきてくれた。
「はい、どいて下さい。道を開けて」
手を叩いて群がる人たちの注意を引いてくれたのは、赤いドレスを脱ぎ捨てて、ディーラーファッションに身を包んだ灰塵の魔女ことアルタイル嬢だった。傍らには、同じく白のシャツに蝶ネクタイを締めた剣豪シグルドがいる。
二人ともスタイルがいいので、何を着ても似合う。
アルタイル嬢とシグルドは、人の波を押しとどめカイトとメリンダを特設会場の控え室に避難させてくれた。
「思わぬ結末になったわね」
何とか一息付けたカイトに、アルタイル嬢は笑いながら言う。その背後に立つシグルドもどこか人ごとだ。
「笑い事ではありませんよ、東クロッカ王国に恨まれる」
「気にしない気にしない。大体、自分たちは決勝に残れると油断していた王国が悪い。予選通過のボーダーラインはコイン一千万枚と以前から言われていた。用意しなかった方が怠慢よ」
アルタイル嬢は脱落した国家を非難した。
「東クロッカ王国がそう思ってくれれば良いのですが」
「それに教会関係者が二人、決勝に残るという話は世界各国も了承していた。予定外に残ったのは勇者サイトウの方でしょう。その勇者にしたって、同じルールで争ったのだから文句を言われる筋合いもない」
アルタイル嬢は負けた方が悪いと言い切る。
「それよりも、カイト。決勝のほうは大丈夫?」
「大丈夫も何も、やれることをやるだけです」
「それでいい。ホテルはいい部屋を用意してある。ルームサービスも自由にしていい。護衛に四人つけるから安心して。奥さんと一緒にゆっくりしたら?」
アルタイル嬢が、カイトの傍らにいるメリンダを見る。
確かにメリンダには無理をしてもらったから、たまには贅沢をしてもらおう。それに明日の決勝のことを考えると二人でいたい。
「そうさせてもらいます」
カイト好意に甘え、早々にホテルに引き下がった。
そして翌日。ついに決勝戦が始まってしまった。
一晩経って、カイトの気分は少し晴れていた。
昨夜はメリンダと甘い夜を過ごした。メリンダは別に勝つ必要はないのだと元気づけてくれた。実際、自分のやることは妨害と援護が主だ。
マダラメと勇者サイトウ。そして教会圏外の国家が勝利するのを阻めばいい。そのためには自分は別に決勝で脱落していいのだし、その分では気楽と言える。
十人の選手が決勝戦のテーブルにつき、手持ちのコインが渡される。
手持ちのコインは、予選通過時に獲得したものがそのまま手持ちとなる。ただしシード選手であったダンジョンマスターマダラメは、予選を通過していないため、手持ちのコインは予選通過者の平均が手持ちとなる。
この時点で一位通過のジードが一歩有利となっているが、十分に挽回が可能な範囲内だろう。
「では、決勝戦のディーラーは、私クリスタニアが務めさせてもらいます」
聖女クリスタニア様がディーラーファッションに身を包み、テーブルに着く。
その背後では優勝賞品である神剣ミーオンが飾られていた。ミーオンの両脇には剣豪シグルドと暗殺者夜霧が警備につき、神剣を守っている。そしてさらにその横には、交代のディーラーとしてアルタイル嬢が控えていた。
そして決勝戦が開始される。
決勝の種目はテキサス・ホールデムだ。
テキサスって何だと思うが、これもカジノでは人気の遊びだ。
ポーカーの一種なのだが、チェンジ有り、五枚の手札で役を競い合うファイブカード・ドローよりもシンプルだ。だが単純であっても、駆け引きの度合いは大きく、冒険者の間ではポーカーの王様とも呼ばれている。
聖女クリスタニア様がなかなか様になっている手つきでカードを操り、参加者全員に二枚ずつトランプを配る。
この二枚が、参加者に与えられる手札のすべてだ。チェンジをして手札を変えることもできない。
もちろんこれで手役などできないため、場には段階的に五枚のカードが共通カードとして示される。
そして参加者は手札の二枚と、共通カード五枚を組み合わせて、最も強い手役を作った者が勝つというゲームだ。
チェンジがないため完全な運勝負となるが、それ故に駆け引きが存在する。
「では、ベットラウンドに入ります」
二枚のカードが配られた時点で、掛け金を賭ける順番となる。
もちろんたった二枚しか配られていないのだから、手役も何もない。だがこの時点ですでに手役の強弱がある程度決まっている。
七枚を使って一番強い組み合わせを決めるのだが、チェンジが存在しないため手役を作ること自体がまず難しいのだ。多くの者が役無しになることも多い。だが同じ役無しでも、手札によって強弱が存在する。
ポーカーでは同じ役になった場合、数字の大きい方が勝利する決まりだ。
たとえ役無しであってもAやKなどが手札にあれば、それだけで勝率が高くなる。それにたった二枚でもワンペアは作れる。強い手札があれば勝てると踏んで、掛け金を引き上げることはできるし、たとえ弱くても強いふりをして相手をゲームから降ろして勝つこともできる。
手札が限られているからこそ、この読み合いが難しく悩ましい。
まずは序盤。参加者たちは様子見として最低金額である一万コインをベット(賭け)する。皆がそれに追従してレイズ(上乗せ)やドロップ(降りる)をせず、コール(同じ金額を賭ける)していく。
この後、皆のベットが終われば、場に共通カードの三枚が提示される。そして二度目のベットラウンドがあり。その次に四枚目のカードが提示されて、三度目のベットラウンド。最後に五枚目のカードが明らかとなり、四度目のベットラウンドを経て勝負が決する。
カイトも最初はおとなしくしているつもりだった。だがカイトの横に座る勇者サイトウが突如として声を上げた。
「レイズ。百」
勇者は序盤から掛け金を吊り上げ始めた。
いつも感想やブックマーク、評価や誤字脱字の指摘などありがとうございます。
ロメリア戦記の書籍化が決定しました。
小学館ガガガブックス様より六月十八日発売予定です。
よろしくお願いします。




