第八十話
第八十話
大会の開始が告げられて、そろそろ十二時間が経とうとしていた。
カイトは、新設された休憩所の長椅子で横になり体を休めていた。
何せ丸一日の長丁場である、休息は必須だった。
カジノでは少しでもコインを稼ごうと、多くの参加者がわき目も振らずにゲームに夢中になっている。だが休みはちゃんととるべきだとカイトは思う。
すでに千人がコインを失い脱落している。半日が過ぎて折り返し地点を迎え、これからさらに脱落者が増えるだろう。戦いは激しさを増してくる。疲弊した頭では必ず判断を誤る。適度な休憩こそが勝利への鍵だ。
カイトが長椅子で休んでいると、カジノがにわかに騒がしくなった。喧噪がうるさくて休んでいられずに体を起こすと、すぐ横にメリンダがいた。
「メリンダ、来ていたのか。起こしてくれればいいのに」
「起こしたら悪いと思って」
どうやらメリンダは気を使ってくれたようだ。
「別にいいのに。ところで、騒がしいけど、何かあった?」
「ああ、またイカサマみたい。カードを袖に隠していたみたいよ」
カイトが喧騒の理由を尋ねると、メリンダが答えてくれた。
このギャンブル大会。当然だがその手のイカサマ対策はばっちりだ。
スケルトンはあらゆるところに配置されていて目を光らせているし、そもそもダンジョンの内部はダンジョンマスター腹の中だ。中で起きているすべてを見ていると言っていい。簡単なイカサマやすり替えなどは通用しない。
「やるならもっとうまくやればいいのに」
カイトとしては呆れるしかない。
すり替えなどは厳しく監視されているが、一方でカードの数を数えたり、わざと負けてコインを譲渡したりは可能なので、抜け道はいくつもある。おそらくダンジョンマスターが、わざと抜け道を残しているのだろう。
カイトが思うに、ここのダンジョンマスターは根っからのギャンブラーだ。わざと抜け道を残した理由は、抜け目ないギャンブラーが勝ち残ることを望んでいるからだろう。
自分はイカサマをしないと言っていたが、相手がイカサマをしてくることを望んでいるのだ。
生粋のギャンブラー。どうしようもない人種だと言える。
「そうか。ところで、状況はどうなってる? 仲間内で脱落者は出たか?」
カイトは仲間のことを尋ねた。メリンダにはチーム間でのコイン数の調整や、情報の統括を任せている。
「今のところ一人も出てない。平均で二万枚ほどのコインを持ってる。チーム全体だとカイトのコインを合わせて百万枚くらいかな」
「順調だね、予定通り」
カイトは大いにうなずいた。
この日のために仲間には、トランプの数え方を特訓してブラックジャックに特化した訓練を施してきた。よほどのことがない限り負けることはない。
「でもそれ以上に勇者サイトウの方が勝ってる。多分だけど向こうは百六十万枚ぐらいになってるはず」
「さすがに一日の長があるな」
メリンダは不安げだったが、カイトとしては織り込み済みのことだった。
カイトはブラックジャックを研究し、必勝法を編み出したが、勇者サイトウの手管はさらに洗練されていた。ブラックジャックでは一歩も二歩も先を行かれている。
「あまり気にするな、俺たちのやることに変わりはない」
メリンダに落ち着くように促した。
自分たちの仕事は、ある程度コインを稼いで、教会派閥の関係者を決勝に進ませることだ。勇者サイトウに勝つ必要はない。
「それに勇者サイトウがこのままのペースで勝ち進んでも、決勝には出られないよ」
カイトは、サイトウが決して決勝に上がれないことが分かっていた。
決勝に確実に駒を進めるには、一千万枚はコインが必要だと言われている。少なくとも各国代表はそれぐらい揃えてくるだろうと予想されており、カイトはその一助を担う存在だ。勇者サイトウがどれだけ勝とうが、個人ではたかが知れている。
「それより、そろそろ中間結果が出るはずだ。そっちが気になる」
カイトは休憩所に掲げられた掲示板を見た。
そこには一位から十位のランキングが書かれていた。しかし名前の欄は空白で、まだ埋まっていない。
開始から十二時間後、中間発表として保有コインのランキングが提示される手筈になっている。そこからさらに六時間後に、もう一度ランキングが明らかになる。そして予選終了後、獲得コインが一番多かった上位九名が決勝に進めるのだ。
何かをするにしても、ランキングを見てから行動すべきだ。
カイトはメリンダと共に待っていると、掲示板の周りにスケルトンたちがやってきてランキングを張り出し始める。その姿に、ギャンブルに熱中していた参加者も手を止めてランキングに見入っていた。
一位 ジード 153万4287枚
二位 ワイズマン 144万1120枚
三位 エクスト 139万3094枚
四位 ダブリス 132万0034枚
五位 ヴォイド 125万1936枚
六位 ユーリス 117万7318枚
七位 トクワン 110万2009枚
八位 スカルト 105万0287枚
九位 サイトウ 101万1582枚
十位 リーベ 89万7139枚
カイトは上位十名を見て納得した。
一位から八位までは、七国と教会派閥の後援を受けた勝負師たちだ。
そして十位のリーベ氏が、カイトが押しているもう一人の教会関係者だ。
勇者サイトウの奮戦とランキング入りは驚きだが、それでもぎりぎり残っているだけである。あとでカイトたちがリーベ氏にわざと負けてコインを譲渡すれば、一気に逆転できる範囲だ。
もちろん世界各国も、これからコインを集め始めるだろうから、油断はできない。六時間後にある最後の中間報告までが勝負だ。
「よし、おおむね予定通りだ。俺たちはこのまま行こう。予定通りに進めば、六時間後には百五十まではいくはずだ。ギリギリまで粘れば二百。これだけあればリーベ氏を押し上げることが出来るかもしれない」
「わかった、皆にも伝えてくるね」
メリンダはうなずいてから、仲間たちの元に連絡に走ってくれた。
カイトも立ち上がり、ブラックジャックのテーブルに向かう。
あと十二時間。戦い抜かなければならなかった。
そしてカイトがギャンブルに挑み、さらに五時間が経過した。
カイトは順調に勝利を重ね、コインを増やしていた。すでに当初のノルマであった百五十万枚は達成されている。
まだ予選は終わっていないが、カイトとしてはすでにやり切った感があった。だがそこにメリンダが飛び込んでくる。
「カイト、大変よ! リーベさんが脱落したって」
「なんだって!」
突然の急報にカイトは声を荒げた。
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