第七十九話
第七十九話
一ヵ月の大会準備期間を経て、ついにギャンブルキング大会が開催される日となった。
カジノには世界中から様々な人が集まり、一万人を超す参加者が名前を連ねている。
ロードロックの冒険者カイトもそのうちの一人だ。国家間の思惑や、海千山千の勝負師が集うこの大会。ただの冒険者でしかない自分が、どこまでできるかわからない。だがこの一ヵ月準備はしてきた。やれるだけの事はやってやるつもりだ。
大会を主催する特設会場では、数万人の観客が詰めかけている。彼らは大会の開会式が始まるのを、今か今かと待っていた。
観客の目当ては、もちろん優勝賞品である神剣ミーオンだが、もう一つの目玉もあった。カイトがここに来ているのもそれを見るのが目的だ。
開会を待っていると、特設会場に設けられた舞台の下にいる楽団たちが、音楽を奏でだした。その音が大会開始の合図となり、それまで騒いでいた観客たち話すのをやめて会場を見つめると、舞台の袖から一人の男が現れた。
絹でできた黒のローブに身を纏ったその男は、初めて見る顔だった。
カイトだけではなく。この会場の誰もが初めて見る顔だ。
だがこの男を、知らない者はいない。なぜならこのカジノダンジョンは彼の物だから。
男が舞台の中央に作られた台の上に立ち、音声を増幅する魔道具に向かって話しかけた。
「はじめまして、皆さん。当カジノダンジョンのダンジョンマスター、マダラメです」
ただ名前を名乗っただけだが、その一言は大きな衝撃を会場全体に与えた。
今までダンジョンマスターは、スケルトンを操ってこちらと接触していた。
しかし今回、ついにその素顔を現したのだ。
もちろん素顔を現した、と言うのは語弊がある。今目の前にいるダンジョンマスターは本体ではなく、姿を似せて作った偽物だ。
しかし初めて見るダンジョンマスターの顔に、誰もが驚いていた。
「本日は、私が催した大会に参加していただき、ありがとうございます。ここで長々と演説の一つでもしたいところでありますが、皆さんは大会の開始を待ちきれないでしょうから、今日のところはやめにして、皆さんお待ちかねの優勝賞品に登場してもらいましょう。ご覧ください。今大会優勝賞品、神剣ミーオンの登場です!」
ダンジョンマスターの言葉とともに、四英雄が舞台の袖から現れた。
四英雄は普段のドレスや鎧姿ではなく、白いシャツに黒いズボン、緑と黒のチェック柄のベストを身に付けていた。
現れたアルタイル嬢、聖女クリスタニア様、夜霧は手ぶらだったが、剣豪シグルドは車輪がついた台座を押していた。
台座を押すシグルドと、他の英雄達が舞台の前に出る。
そしてシグルド、アルタイル嬢、夜霧が周囲を固めた後、聖女クリスタニアが進み出て、台の上に置かれていた物を取り上げた。
神々しいまでの輝きを放つ、神剣ミーオンである。
神剣の登場に、会場にいた観客が一斉に息を呑んだ。
「さて皆さま」
会場が静まるのを待って、ダンジョンマスターマダラメが話し始めた。
「これぞ今大会の優勝賞品、神剣ミーオンです。私を含めて参加者総数一万百五十九人。その頂点に立った者の栄光と偉業をたたえて、神剣ミーオンを与える。ここにギャンブルキング大会の開催を宣言します」
ダンジョンマスターマダラメの言葉は、万雷の拍手と歓声を持って讃えられた。
大会の開催が宣言されると、参加選手たちは一斉にカジノへと走り出した。
気持ちはわかる。何せこの予選は時間との戦いだ。丸一日後のちょうどこの時間まで、どれだけ多く、手持ちのコインを増やせるかにかかっている。
優勝を夢見る者たちは、我先にと走り出したが、カイトはその中には加わらなかった。
そしてカイトと同じように、急がない者たちがいた。それはカイト達を含めて、十のグループに分かれていた。
うち七つは国家の支援を受けた者たちだ。
彼らは自分たちが勝つと分かっている。だから急がない。
もう一つは救済教会の代表選手だ。彼らも大勢の信者を従えているためまず負ける事は無い。
そして最後の一つが、勇者サイトウのグループだ。
カイトははじめ、勇者は教会の派閥に入るものと思っていた。だが勇者サイトウは派閥には入らず、自分で人を集めて独自のグループを作った。
しかし集めた人数は三十人ほどと少なく、とても大会を勝ち抜けるとは思えなかった。
何せ世界各国の代表は、十数人の勝負師を集め、脇を固めるサポーターを百人以上も揃えている。他にも商人たちや冒険者組合等とも協力し、大会参加者の半数以上は国家の息がかかっている。
たかが三十人のグループで、一万人からなる予選を勝ち抜けるとは思えなかった。
もっともそれはカイトも同じだ。
カイトも知り合いや仲間を募り、四十人のグループを作って参加している。
だがカイト自身は、この予選を勝ち抜くつもりはない。ある程度コインを稼いだ後は、教会関係者の勝負師にわざと負けるつもりだ。
そのためカイトは幾分気楽だった。
そして余裕を持ってカジノに到着した。
カジノでは、既に多くの参加者がギャンブルに挑んでいた。ポーカーやバカラ。ルーレットなどを、皆が食いつくように挑んでいる。
予選のルールではカジノの全てを貸し切りとし、どのゲームを選んでもいいことになっている。その中には、カイトが好きなスロットもあったが、スロット台の前をカイトは素通りした。
スロットは好きだが、今日は勝てるとは思えなかった。
今日のカジノは大会のため、全て貸切られていていつもとは違う。
そもそもこのカジノは、配当からして少しおかしく、プレイヤー側に大幅に有利となっている。だが今回は大会であるため、そういった優遇措置は是正されていた。
特にスロットやルーレットなど、確率が決め手となる遊びは、配当が大きく変動しており大当たりが出る確率もだいぶ下がっている。
参加者の中には、一発逆転を狙って百枚スロットに挑戦している者もいるがまず出ないだろう。
カジノの間を通り抜けて一通見て回り、カイトはブラックジャックが行われている区画に来た。
そこでは三十個のテーブルが置かれ、ディーラースケルトンがカードを配り、参加者が一喜一憂していた。
カイトはその一つ中でテーブルに注目した。先に二人の参加者がプレイしている。参加者のうち一人は冒険者風の男で、やる気を見せており、腕まくりをしていた。
カイトはこのテーブルを選び、席に着こうとしたが、同時に席に着く男の姿があった。
顔を見合わせると驚いた。席に着いたのは勇者サイトウだった。
意外な顔合わせとなったが、互いに何も言わずに席に着いた。
そしてそのまま、普通にゲームを始めた。
しばらく観察したが、勇者サイトウのプレイは至って普通だった。初めて会った時のような暴力も暴言もなく、それどころか感情を見せない。ただ淡々とゲームをしている。その姿勢は大人しいとさえ言えるものだった。
だがサイトウは勝っていた。
サイトウのプレイは水際立っており、連戦連勝。最初は皆が千枚しかコインを持っていないはずなのに、どんどんコインが積みあがっていった。これには周りの参加者も、急がなければならないことを忘れて見入るほどだった。
「デックがなくなりました」
ディーラースケルトンが、トランプが尽きたことを宣言した。
デックとはトランプを数組合わせたものだ。一組のトランプではすぐにカードが足りなくなるため、複数のトランプを組み合わせて、シャッフルして使用している。
このカジノでは、四組のトランプでデックを作りゲームを行っている。
スケルトンが新たなデックを開けて、トランプを補充したが、このタイミングでカイトは席を立った。同時に勇者も席に立つ。
「勝ちましたね」
席を立った勇者に、カイトは一言かけた。勇者のことは好きではないが、大した勝率だった。
すると勇者はつまらなそうに、カイトが座っていた椅子の前をみる。そこにもコインが集まっていた。
「お前もな」
サイトウはそれだけを言うと、去っていった。
カイトも勝ち取ったコインをまとめ、次のテーブルを探した。
また、二人の選手が先に着いているテーブルを見つけ、席に着こうとすると、また同時に席に着こうとする人がいた。顔を見ると、先ほど別れたばかりの勇者サイトウがいた。しかしカイトは驚くよりも納得した。
対する勇者も同じ顔をしていた。
サイトウはため息をついたが、カイトは座りかけた椅子を立った。
「いえ、ここは私が引きましょう。ただし、この次は早いもの勝ち。後から来た者が譲る。それでいいですか?」
カイトは勇者に提案する。
「いいだろう」
サイトウは提案を飲み、カイトはテーブルから離れた。
まさか勇者サイトウと被るとは思わなかった。
どうやら勇者サイトウも、カイトと同じことをしているようだった。
一緒になったのは偶然ではない。勇者サイトウはトランプの数を数えているのだ。
カイトはずっとこのカジノに入り浸っていることで、ブラックジャックの必勝法を見つけ出した。
それがトランプの絵札を数える方法だ。
ブラックジャックは、絵柄の枚数が勝率を左右する。
デックの中に残された絵柄の多寡が分かれば、かなり高い確率で勝てるのだ。
カイトは独自にその方法を発見し、ブラックジャックのテーブルに仲間を配置して、絵札の枚数を数えさせている。
そして一定以上の有利な状況になれば、仲間が合図して知らせてくれる手筈となっている。
今回の場合、そのサインは腕まくりだ。そして先ほどはその方法を使って勝ったわけだが、同じことを勇者サイトウもやっているようだった。
とはいえ、よくよく考えればこれは当然だ。勇者サイトウはダンジョンマスターマダラメと同郷。このブラックジャックが生まれた世界の出身者だ。カイトが思いついた必勝法ぐらい、すでに発見されているのだろう。
そう考えると、勇者サイトウには有利な勝負と言えるのかも知れなかった。
この大会予選。意外に荒れるかもしれなかった。
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