第七十五話
以前言っていた、話数を削りました。
そのため一話ずれます。
今日は二話更新しましたので、これはその二話分となります。
前話を読んでいない方は、七十四話からお読みください。
お手数をお掛けして申し訳ありません。
第七十五話
支配人スケルトンの説明を聞いたアルタイル嬢は、神剣ミーオンとスケルトンを見比べた後、スケルトンに尋ねた。
「私たちが、ミーオンを奪って返さない。ということは考えないの?」
「ええ、まぁ、そういうこともあるでしょうね。その時はその時で、仕方ないでしょう」
ダンジョンマスターは、奪われることを恐れていないようだった。
「ただし、約束を破った場合。先に信頼を裏切ったのはそちらです。次からはこのような話はないと思っていただきたい」
「次?」
支配人スケルトンの言葉に、アルタイル嬢が短く問いを返す。
「ええ、あの勇者がまたくれば、次もまた奪ってやりますよ。ただし、その時はさすがにもう渡しませんよ?」
ダンジョンマスターの言いようは、勇者をまるで恐れていなかった。それどころか、次に勇者が来たとしても、確実に勝てる自信があるように見えた。
この言葉には、四英雄も視線をさまよわせた。
神剣ミーオンを取り戻せば、当然だが、勇者に返却しなければいけない。
だがあの勇者が頼りないのは、すでに見てきた通り。
約束を曲げて神剣ミーオンを取り戻しても、すぐに奪い返されては目も当てられない。
さすがに二度も同じ手には引っかからないと期待したいが、奪われないという保証はない。
それに、あの勇者に神剣ミーオンを持たせること自体が問題と言えた。
今はおとなしくしているが、神剣を与えれば、また暴れるかもしれない。自分たちで禍の種を作るようなものだった。
カイトの本音を言えば、あの勇者に神剣は相応しくなかった。
もっと相応しい人間がいる。それもすぐそばに。
「私たちが勇者に返さず、自分たちで使うかもしれないわよ?」
カイトと同じことを考えていたアルタイル嬢が、首を回し、背後に立つシグルドを見る。
剣豪シグルドは、世界最高と言ってしまっても間違いない剣士である。彼が神剣ミーオンを操れば、その一刀は神にさえも届くだろう。
この世界の誰よりも、神剣ミーオンを持つに相応しい人物だ。
「確かに、それもありえるでしょうね」
ダンジョンマスターマダラメは、その危険性も考慮しているようだった。
「ですが、それをされますか?」
スケルトンはクリスタニア様を見た。
アンデッドの視線を受け、聖女様は顔を僅かにゆがめる。しかしそれは不浄の目で見られたからではない。
支配人スケルトンの視線を見て、カイトはダンジョンマスターの思考に気づいた。
剣豪シグルドが神剣ミーオンを振るう。
その姿は神話に出てくる英雄のごとき絵となるだろう。だが決してそれは起きないのだ。
「救済教会は、神が定めた勇者が現れるまで、神剣ミーオンを守護するためにあると聞いています」
白い骸骨が、救済教会の教義を語った。
教会は神剣ミーオンを頂き、人類を指導する立場にある。その威光は大陸全土に広がり、国家すら超越している。
そして教会は、勇者以外の者が神剣ミーオンを扱うことを認めていない。たとえ英雄シグルドでも、ミーオンの使用を許可しないだろう。
「もちろんあなた方が教会の教えを無視し、ミーオンを使うことを止めることはできません」
支配人スケルトンはアルタイル嬢を見た後、再度クリスタニア様を見た。
その視線を見て、さらに聖女様が顔をゆがめる。
確かに、許可を求めず、勝手に使ってしまえばいい。それを止めることは誰にもできない。
だが四英雄たちの中には、聖女クリスタニア様がいる。これが問題だった。
彼女がパーティーにいるのであれば、教会が神剣の使用を黙認したことになってしまう。
教会としては、ミーオンの乱用を止めなかった聖女を、許すことはできない。よくて聖女の資格のはく奪。悪ければ破門となる。
「私は……」
クリスタニア様は自分たちの目標と、教義の間で揺れていた。だが揺れつつも、その決意は自分たちの目的完遂へと傾こうとしている。
カイトには聖女様の迷いが痛いほどわかった。
今の聖女様は、先ほどの自分と同じだ。自分の犠牲で事態が好転するならばやるべきであると思い込んでしまっている。
だが外から見ていてわかるが、その決断は誤りだ。仲間に自己犠牲を強いてはいけない。
カイトは止めようとしたが、その前にアルタイル嬢が止めた。
「クリス、やめなさい」
先ほどと同じように今度は右の手を伸ばしてクリスタニア様を制する。
「アルタイル。でも、神剣ミーオンがあれば、このダンジョンを攻略できます」
クリスタニア様は食い下がろうとしたが、アルタイル嬢は一蹴した。
「神剣戦争の引き金となってしまうでしょ?」
灰塵の魔女の言葉に、クリスタニア様も二の句を告げなかった。
教会は何も、神剣を独占したいがために許可を出さないのではない。全ては世界の安定のためだ。
神剣ミーオンは、持つ者に膨大な力を与える。それは国家をも動かす力だ。
もう五百年以上前のことだが、ある国が勇者の残した神剣を使い、征服戦争に乗り出したことがあった。
神剣ミーオンの力はすさまじく、戦火は大陸全土に及び世界戦争となった。その大戦を神剣戦争と呼び、五百年経った今でも語り継がれている。
二度と同じ悲劇を繰り返さないため、神剣戦争の後に救済教会が発足し、勇者以外が使用してはならないという、鉄の掟が課されるようになったのだ。
「神剣の使用に例外を認めれば、悪しき前例となり、教会の神聖性が失われる。今日このダンジョンを潰せても、将来に禍の芽を残すこととなってしまう。それはさすがに出来ないわね」
アルタイル嬢は、神剣を使う危険性を指摘した。
「それに、それでなくても、私たちは神剣ミーオンを使うべきじゃない」
テーブルに置かれた剣を見ながら、アルタイル嬢が使わないことを宣言した。
「神剣ミーオンは確かに素晴らしい。持つ者に絶大なる力を与えてくれる。まさに神が作った剣でしょう」
アルタイル嬢はテーブルに置かれた神剣を見る。そう、この剣を持つことは、世界中の子供たちが一度は夢見ることなのだ。
「でもね、それでもこれはただの棒っ切れよ」
灰塵の魔女アルタイル嬢の言葉は、この部屋にいた全員を驚きで貫いた。
神剣ミーオンをさして、ただの棒と言い切ったのは、間違いなく彼女が最初だろう。
「どれほど力があろうとも、神剣ミーオンはただの道具。神剣があればできる。なければできない。そんなことを考えている者に、大事など成せない」
アルタイル嬢の言葉は、さらに全員の心を打った。
「アルタイル……」
聖女クリスタニア様も、友人を驚きの目で見る。
「クリス。私たちのダンジョン攻略計画に、神剣を使う予定はなかった。あらかじめ決めた計画通りに進めるだけ。ミーオンが無くても私達ならやれる。でしょ? シグ 夜霧」
アルタイル嬢が、背後に立つ二人の英雄を見る。
声を掛けられ、二人の背後で護衛のように立っていたシグルドと夜霧がうなずく。
「剣士として、武具にはこだわりたいところだが、斬れなかった理由を武器のせいにするつもりはない」
剣豪シグルドが、戦士の心構えを話す。
「「「君が斬れと言うなら、どんな敵でも切ってやる」」」
仮面の暗殺者が、聖女様を見ながら言う。
英雄たちの言葉のあと、部屋にカチカチと音が鳴った。
ダンジョンマスターマダラメが操るスケルトンが、拍手をしていたのだ。
「さすがは四英雄。素晴らしいコメントだ」
その言葉には嫌味がなく、本気で感心していたようだった。
だが灰塵の魔女は、拍手するダンジョンマスターに冷ややかな視線を送った。
「そういうあんたこそ。よくもせっかく手に入れた神剣を手放す気になったわね。まぁ、国家を相手にしたくない気持ちはわかるけどね」
アルタイル嬢の言葉に、スケルトンは口を開いた。どうやら笑っているようだ。
スケルトンの笑みを見て、カイトはようやく納得がいった。
ダンジョンマスターは、もはや冒険者ではなく国家を恐れているのだ。
国家とは最強の力を持つ集団だ。世界中から優秀な人物が集められている。
事実優秀な冒険者は国家に引き抜かれることが多い。冒険者がダンジョンに挑むのも、一つ目の理由は金銀財宝のためだが、二つ目の理由は名を上げて、国家に召し抱えてほしいという願望があるからだ。
四英雄のように、名を上げても国家に属さない者たちもいるが、彼らは例外中の例外。優秀な者であればあるほど、国家に集まるのが普通と言えた。
その国家に挑まれては、どれほど巨大なダンジョンも抗いきれない。
とはいえ、ただのダンジョンを国家が攻略したりはしない。よほどのことがない限り、冒険者たちに任せている。
だが神剣ミーオンの存在は、国家をも揺るがす一大事。国家が総力を挙げてダンジョン攻略に挑んだとしてもおかしくはないのだ。
カイトは、自分がまだカジノダンジョンを甘く見ていたのだと実感させられた。
カジノダンジョンはすでに冒険者の手を超え、国家に目を付けられるほどの規模となっているのだ。
「神剣ミーオンは惜しいのですが、貴方の言う通り国家を相手にしたくはありませんからね。仕方がないので、これは貴方たちに預かってもらいます」
スケルトンはテーブルに置いたミーオンを再度こちらへと押し出す。
「仕方ないわね、預かってあげる」
アルタイル嬢は対等の立場で預かるとした。
一人と一体は、互いに神剣ミーオンを手にしながらも、使うことを考えていなかった。
カイトは器の違いをまざまざと感じた。
自分がミーオンを前にすれば、どうやって手に入れるか、そして手に入れた後は何に使うかと、そればかり考えてしまう。
だがこの二人は違う。手に入れてなお使わないという選択をできるのだ。
神剣ミーオンですら、彼らにとってはただの道具であり、心を縛られない。
一体何であれば、彼らが執着するのか。もはやカイトには想像もできなかった。
いつも感想や誤字脱字の指摘、ブックマークや評価などありがとうございます。
今日は話数を調整したので、ちょっと読みにくくなっております。
お手数をおかけしておりますが、これからもよろしくお願いします。




