第六十六話
第六十六話
「くそっ、やってくれたなサイトウめ」
支配人スケルトンを破壊され、接続が強制的に切断された俺は憑依室で悪態をついた。
憑依体を破壊されただけで痛みもないが、支配人スケルトンには愛着があった。着ていた服も特注で作るのに金がかかったものだから、ちょっとだけ腹が立つ。
だが今は、サイトウへの怒りを楽しんでいる場合ではなかった。
すぐに指示を出すべく、ダンジョンの最下層、ラストフロアの心臓部ともいえる指令室に向かった。
「第十三隔壁門! 突破されました!」「第三層、大広間。火災の延焼が止まりません」「第五層、落盤の可能性あり!」
旧モニタールーム。現在では指令所と名を変えた場所では、知性化されたスケルトンがダンジョンの中を監視し、悲鳴のような報告を上げていた。
壁に取り付けられたいくつものモニターを見ると、破壊の状況がよくわかった。いくつもの画面では炎が舞い、瓦礫が覆い、見えなくなってしまったものもある。
すべて、勇者サイトウが引き起こした破壊の嵐だ。どうやら神剣ミーオンの力を頼りに、あらゆる障害を粉砕して進行しているようだ。
転生勇者は基本能力として、マッピングやアイテムボックス能力を持っているらしいので、神剣ミーオンの力を合わさると馬鹿みたいな力押しが可能となる。
扉を破壊し無補給で活動でき、迷路や罠にもかからない。どんな馬鹿でもダンジョンを攻略できるスペシャルセットだ。
ダンジョンマスターと関係の深い人間を召喚していることも踏まえ、勇者を召喚した神は、どうあってもダンジョンを攻略させるつもりのようだ。
「ゲンジョー。状況はどうなっている?」
俺は指令所の一番上の席で、結跏趺坐する髑髏姿の僧正に声をかける。
「マダラメマスター。現在勇者は第十四層、いえ、十五層に到達しました。このままでは三十層が突破されるのは時間の問題です」
ゲンジョーの報告を聞き、俺はうなずく。なかなかに早いが、もともと上から三十層は謎解き主体の足止め用フロアだ。扉を破壊できるのなら、謎解きは意味をなさない。モンスターもいないので、直進されてしまう。
「マダラメマスター、ここでしたか」
指令所に新たなスケルトンがやってきた。手には黒い毛玉、我が副官ケラマを乗せている。
「先ほどご指示された、アルファスとオーメルガですが、ラストフロアに配備完了しました」
スケルトンの手に鎮座するケラマが、少し前に指示したことをやっておいてくれたようだ
「それと、独断ですがソサエティのモンスターを三万体呼び戻しました」
わが副官が報告する。ソサエティには警備や売却に出したモンスターが多数いた。
どうやら根こそぎ持ってきたようだ。
やや僭越すぎる行為だが、俺はケラマを叱らない。必要な処置だ。というか、俺が指示しておくべきことだった。
「よし、いいぞ。配備にはどれぐらい時間がかかる?」
俺は時間を訊ねた。転移陣で一瞬で移動できるとはいえ、三万もの数を移動させるのにはさすがに時間がかかる。ダンジョンの内部に配備しようとすれば、さらにかかるだろう。
「配備するまで三時間はかかるかと」
ケラマの報告を聞き、俺はうなずく。
「ですが、元からダンジョンにいたモンスター軍団五千はいつでも配備可能です。マスターの命令でいつでも出撃できます」
スケルトンの手の上でケラマが居住まいを正す。
このモンスター軍団は対四英雄用、そしてレンタル用に強化していたモンスターたちだ。緊急事態に備えて、手持ちの戦力を確保しておいてよかった。
「わかった、第三十五層に配備しろ」
俺はケラマに師事すると、我が副官は意外そうな顔をした。
「三十五ですか? 三十一ではなく?」
問い返したケラマの気持ちはわかる。
三十層までは足止め用の謎解きフロアだが、三十一層目からは本格的な戦闘用のダンジョンとなっている。これまでは空白の、何もないダンジョンだったが、四英雄対策に新たにダンジョンを作ったのだ。
ケラマとしては、なぜそこで迎え撃たないのかと不思議なのだろう。
特に三十一層は不意打ちをしやすい迷路となっており、上手くモンスターを配置すれば、相手の死角を突けるようになっている。
「その前の四層で何とかあいつを止めてみるよ。うまく行けば三十四層目の『白の回廊』で止められると思う」
俺としてはモンスターを繰り出すのは、あそこを試してからでいいと思う。
「あそこで、止められますか?」
俺の言葉に、ケラマが懐疑的な声を上げる。
マスターである俺に絶対の忠誠を誓ってくれるケラマだが、今回ばかりは信じられなかったのだろう。
確かに、俺が自ら手掛けた三十四層、通称『白の回廊』はただまっすぐ続くだけの道でしかない。罠らしい罠もなく、一見すると意味のないフロアだ。
ケラマには、あそこで足止めなど不可能に思えるのだろう。
「うまく行けばあそこで止められるだろう。不可能だった場合は、全モンスターの配備のために時間を稼ぐ必要がある。戦力を集めておいてくれ」
ケラマにはモンスターの配備を頼んでおく。
「それよりもゲンジョー。カジノはどうなっている?」
俺は最上部にあるカジノの状況を訊ねた。
サイトウの奴が暴れてくれたおかげで、カジノでは怪我人が出ている。床や天井にも穴が開き、崩落の危険もあった。
「現在冒険者たちが主導して、怪我人の救助と治療にあたっているようです。他にも剣の館の騎士団や夜霧配下の暗部。聖女直属の部隊や、魔女が連れてきた魔法使いなどが多数街に入り込んできています」
髑髏姿の僧正が、街中に四英雄の戦力が入り込んできたことを報告する。
「ダンジョンを攻略する動きは見せているか?」
俺の問いに玄奘は首を振った。
「今のところそれらしい動きはありません。それらの戦力は、現在は街の避難や混乱を抑えるために動いているようです。中核となっているのはロードロックの冒険者ですね」
ゲンジョーがモニターを操作し、カジノで指示を出す冒険者を映し出す。画面ではカイト君があちこちに指示を飛ばしていた。
「カイト君はよくやっているな」
実力は大したことはないが、頑張っている。彼が主導しているのなら、カジノは大丈夫そうだ。
「四英雄はどうなっている? 動きそうか?」
俺はとにかく四英雄の動きを訊ねた。
最悪のシナリオは、サイトウと四英雄が結託してダンジョンに挑んでくることだった。
サイトウが馬鹿だったおかげで同盟案が流れてくれたが、勇者の後を追って四英雄が来るかもしれない。
ケラマが呼び戻したモンスター軍団三万は、サイトウ相手にはいらないが、四英雄が来た場合は必要となる。
サイトウが開けた傷痕に、鍛え上げた手勢を引き連れて四英雄がなだれ込んでくれば、ちょっと馬鹿にならない被害になるだろう。
今のところ四英雄が動く姿勢を見せていないので、このまま動き出さないように対応すべきだろう。
「カジノフロアにもスケルトンを出せ。ダンジョンフロアの復旧は後回しでもいい」
俺はゲンジョーに破壊されたダンジョン部分の復旧を止めさせた。ポイントはかかるが、ダンジョンの修復など後でいくらでもできる。
「それよりもカジノフロアの後始末が重要だ。怪我人の救助に全力で当たれ。あとカジノを一時封鎖するよう通達して、客には帰ってもらえ。ただし冒険者や四英雄は残ってもらっても構わない」
あくまで避難を呼びかける形で行くよう指示する。
「俺もスケルトンを操って対応しよう」
支配人スケルトンは破壊されてしまったが、俺も応対に出るべきだろう。
「あと三十四層に、例のパペットを配備しておいてくれ。四英雄に対する説明が終われば、そっちに移る」
俺はゲンジョーに指示して、憑依室に戻ろうとする。するとスケルトンの手に収まるケラマが問いたそうな目で俺を見ていた。
サイトウとの関係を聞きたいのだろう。だが我が副官は忠誠心を発揮して、自ら問うことをしないでくれている。
「俺とサイトウの関係を聞きたいか?」
ケラマに尋ねると、スケルトンの手に鎮座する副官は否定した。
「いえ、マスターの詮索をするつもりはありません」
毛玉のような外見なのに、我が副官は礼儀正しく節度がある。
「別に教えてもいいけれどね、でも今はだめだ。まずは勇者に対応しないと」
一番の相棒ともいえるケラマには、すべてを話しても構わない。だがさすがに今はその時間がなかった。
「簡単に話しておくと、あいつは俺の影のようなものだ。俺を破滅させた人間でもある」
俺は前の世界では、ギャンブルに負けて多額の借金を背負う結果となった。その原因の一つがやつだ。
「さらに言えば、俺の弟でもある。血は半分しかつながってないんだけどね」
俺が言うと、ケラマは目を丸くしていた。
「どうだい、因縁浅からぬ相手だろ?」
それだけ説明して、俺は憑依室に向かった。
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次回更新は四月八日水曜日の零時を予定しています。
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