第六十四話
今日はエイプリルフールですね
何とか気の利いた嘘でもついてみようかなぁ
第六十四話
ダンジョンを破壊し、勇者サイトウは奥へと入っていく。
本来破壊不可能とされているダンジョンを壊すなど、常識の範囲外の力だった。しかし周囲にはその力に巻き込まれ、多くの怪我人が出ている。
カイトは元凶となった勇者の行為に腹が立ったが、かまっている暇はなかった。
「ガンツ。警備隊で班を作って怪我人の救助と治療に当たってくれ、カル君は支部に居るギルド長にこの事を連絡。ロードロックにいる商人連合と貴族の代表に早馬を走らせるように言ってくれ」
カイトはすぐに仲間に指示した。特に上の人間への報告は急がなければならない。確実に自分の手に余る事態だ。ロードロックの代表たちでも手に余るだろうが、とにかく彼らの判断が必要になる。
「メリンダ、カジノにいるロードロックの冒険者を集めろ。ギルド特例法に基づき冒険者を緊急招集する。責任は僕が持つ」
カイトはギルドに所属する冒険者に課せられる、特例法を発動するように言う。今はとにかく人手が必要だった。集めるだけ集める必要がある。
「カイト、大丈夫なの?」
メリンダが問う。
確かに支部長代理補佐に、特例法を発動する権限はない。完全な越権行為だから、あとでクビになるだろう。だが今は目の前の問題に、対処できる態勢を整えることの方が大事だ。
「構わない、それよりもこの後どうなるかわからない。怪我人の救助と合わせて客を避難させよう」
これまでギルドはダンジョンを刺激しない方向で来ていた。何が原因で、ダンジョンが豹変するかわからなかったからだ。
だが勇者が奥へと進み、これでダンジョンが豹変してしまうかもしれない。
最悪、勇者が破壊したあの扉からモンスターがあふれ出す事態もあり得るのだ。
「上の街にも注意を喚起しないと。だがその前に戦力が必要だ。準備が整う前に混乱が起きれば、暴動に発展するかもしれない」
こういう時は何より初動が大事だ。まずは秩序だった行動がとれていることを見せ、混乱を未然に防がないと、最悪の事態に最悪が重なってしまう恐れがある。
「それに、この機に乗じて、盗みや強盗を働く者がいるかもしれない。賊の跳梁に備えろ」
火事場となれば泥棒が出てくるのが世の常だ。このダンジョンではモンスターではなく人間の方が怖いぐらいだ。
モンスターに暴動に強盗。相手をしなければならないものが多すぎる。
「了解。すぐに警備隊を集める」
「ロードロックに早馬を出します」
「わかった。でもクビになる時は一緒よ」
ガンツとカル君。そして愛する妻はそれぞれ言葉を残して走って行く。
「治安の維持は、剣の館の者たちにも手伝わせよう」
四英雄の一人、シグルドが低い声で申し出てくれる。
「シグルド様、ありがとうございます」
カイトは頭を下げる。
剣の館には、名の知られた剣士が何人もそろっている。最低でも下手な冒険者十人分の力を持つ人達ばかりであり、彼らが手を貸してくれれば、暴動が起きても即鎮圧できるだろうし、民衆も彼らの姿を見て安心するだろう。
「すぐに来させよう」
シグルドは手を上げると、入り口近くに立っていた一人の騎士に合図を送る。
冒険者は合図を見てうなずくと、すぐに外に走って行く。
おそらく剣の館のものだ。シグルドは常にカジノに見張りを立てていたのだ。
「「「強盗は起きないから安心しろ」」」
まるで洞窟の中にいるように声が響いたかと思うと、仮面の下で夜霧が怪しげな光を目に宿していた。
夜霧が仮面をカジノの隅に向けると、隅にいた商人風の男がうなずく。商人が立ち上がると、その周りにいた冒険者たちも立ち上がり、一緒に外に出て行く。
「夜霧様、起きないとはどういうことでしょうか?」
いくら最高の暗殺者とはいえ、未来まで予見できないはずだ。
「「「起きないと言ったら起きない。だからそちらは心配するな」」」
夜霧はそれだけ言うと黙った。
カイトはもうそれ以上質問するのをやめた。おそらくそれは事実となる。
先ほど出て行ったのは、夜霧配下の者たちだ。夜霧はすでにこの街の裏社会すべてを握っているのだ。その裏の首領が起きないと言ったのなら、今日はスリひとつ起きないのだ。
「ではカイトさん、怪我人の治療は私たちが見ましょう」
聖女クリスタニア様が申し出てくれる。
「貴方たち、私のことはいいですから怪我人の治療を」
クリスタニア様が言うと、周囲にいた冒険者の四人の男たちがうなずき、周囲の怪我人を治療していく。
ただの冒険者だと思っていたが、聖女様を守護する僧兵たちだったのだ。
さすが聖女様の守護を任されるだけあって、高位神聖魔法の使い手らしく、次々に怪我人を治療していく。
世界の宝ともいえる聖女様に護衛がいるのは当然だが、カイトは驚かずにはいられない。
彼らは聖女様が勇者に絡まれ、自ら刃で顔を傷つけた時も動かなかった。
クリスタニア様の命令には絶対服従、鉄のごとき忠誠心を持っている。
「すごいですね」
カイトが感嘆の息を漏らす。
さすがは四英雄だ。怪我人の治療に街の治安回復、そして犯罪の抑止など、やろうと思っていたことをすべてやられてしまった。
「なに気の抜けた顔してるのよ、しっかりしなさい!」
アルタイル嬢が鋭い目でカイトを見る。
「私たちが出来るのは手伝いまで。ここのまとめ役のあんたがいないと、まとまらないでしょ」
灰塵の魔女の厳しい声が飛び、カイトは慌ててうなずく。
確かに、混乱の中、中心となる組織がないと、混乱するだけだ。
ガンツたちが警備隊の者たちを組織し、怪我人の救出にあたっている。
メリンダが冒険者を招集してきてくれた。
おっつけギルド長もやってくるだろうが、時間がかかる。現場の状況をだれよりも理解している自分が動かなければいけなかった。
カイトは頭の中で段取りをつけ、行動を開始した。
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