第六十三話
第六十三話
互いに名前を呼び合うダンジョンマスターと勇者を見て、カイトは驚きを隠せなかった。
ここのダンジョンマスターの名前が分かったこともそうだが、この二人、知り合いなのか?
勇者は神により別の世界から来たとされている。そしてダンジョンマスターは、その出自が明らかになっておらず、どこの誰なのか分かっていなかった。
推測として、ダンジョンマスターも勇者と同じ別の世界の人間ではないかといわれていたが、今その推測が正しかったことが証明された。
「お前がこっちに来るとはな、サイトウ」
燕尾服を着たスケルトンが勇者を見る。
「それはこっちの台詞だよ、マダラメ。てっきり借金取りに殺されたと思っていたのに、こんなところに逃げていたとはね」
勇者サイトウがダンジョンマスターマダラメを見て笑う。
「逃げたつもりはない。気がついたらここにいただけだ。そういうお前は? 死んだのか?」
スケルトンが気さくに問い返す。やはり二人とも親しい中のようだ。もっとも言葉尻には棘があり、仲良しというわけでもなさそうだった。
「まさか、死んではいないよ。気がついたらこの世界にいた。あと神様みたいな声が聞こえてきて、ダンジョンマスターを倒せってさ」
勇者は事もなげに話したが、それは衝撃的な事実だった。
神の声を聞き、言葉を預かる。それはつまり預言者であると言うことだ。
もし真実だと証明されれば、聖人認定間違いなしの奇跡である。
聖女クリスタニア様を見ると、複雑な顔をしていた。カイトや周りのみんなも同感だった。
何故神はこんな男に自らの言葉を預けたのか。
カイト達の苦悩をよそに、勇者とスケルトンが話す。
「サイトウ、お前は顔も見たことの無い相手の、言う事を聞くつもりなのか?」
カイトたちにとっては衝撃の事実を、ダンジョンマスターは白けた顔で言葉を返した。
「まぁね。本当に神かはともかく、実際この世界に連れてこられているから、その力は本物だろう。いろいろ力ももらったし、一つや二つぐらい頼みを聞いてあげてもいいと思ってね」
勇者もダンジョンマスターも、神に対する畏敬の念がない。
同じ国の人間だからかもしれないが、改めて二人はこの世界の者では無いのだと理解する。
「あと、神はこうも言っていた。現在最大級のダンジョンのマスターは僕の知り合いだと。すぐに君のことだとピンときたよ」
「ああ、なるほど。俺の相手として、お前が選ばれたのか」
勇者の言葉にダンジョンマスターがスケルトンの頭蓋骨を頷かせる。
これにはカイトも納得した。
勇者サイトウを始め、過去の勇者は問題児ばかりだった。なぜ神はこんな人選をしたのかと思っていたが、これですべて理解できた。
勇者は人格や能力ではなく、ダンジョンマスターと縁の深い人間が選ばれていたのだ。それもただの知り合いではない。特別な感情を持った人間が選抜されている。
「そうだよ、マダラメ。君を殺すためにね」
勇者は暗い笑みを見せる。
カイトは目を伏せて瞑目した。
やはりダンジョンマスターを憎んでいる人間が選ばれている。
過去の記録を紐解けば、勇者が現れるときは、決まって強大なダンジョンが生まれた時期でもあった。それらのダンジョンが今残っていないのは、勇者がダンジョンを攻略したからだ。
恐らく神は巨大なダンジョンに対抗する措置として、勇者を召喚しているのだろう。
そして勇者に確実にダンジョンを攻略させるために、ダンジョンマスターと縁が深い、言ってしまえば深い恨みを持っている人選をしているのだ。
合理的ではあるが、最悪の方法でもある。胸に恨みを飲んだ者に、力を与えて解き放てばどうなるかわかりそうなものを。いやそれとも、それほどまでにダンジョンとは危険なのか?
カイトの中で神に対する疑念が渦巻いていると、勇者とダンジョンマスターの間で緊張が高まる。
「そんなに俺を殺したければ、ダンジョンの奥まで来い」
知り合い故か、ダンジョンマスターマダラメは普段見せない挑発の言葉を吐く。
「もちろん、そうさせてもらう」
勇者サイトウは言いながら、ダンジョンの奥に続く扉を見る。
あの扉は二つのシンボルがなければ開かない。
しかし現在その前提は形骸化しつつある。
四英雄から始まり、ダンジョンマスターが許可した者はシンボルなしで通過できる。カイト自身、シンボルを使わず下に降りている。
「この扉を通るには、二つのシンボルが必要だが、知り合いのよしみだ、通してやるよ」
支配人スケルトンが奥に続く扉に歩み寄る。
「いらないよ」
だが勇者はダンジョンマスターの好意を断った。
背中に背負った神剣ミーオンを抜き構える。
「伏せろ!」
剣豪シグルドが警告の声を発したが、その声は轟音にかき消された。
神剣ミーオンを振るう勇者の一撃は、雷鳴の如き爆音を伴い空間ごとダンジョンを切り裂いた。
カイトは咄嗟にメリンダにおおいかぶさった。直後、衝撃が全身を襲いいくつもの破片がふりそそぐ。
背中にいくつもの破片が当たったが、鎧を着ていたため耐えることが出来た。
「メリンダ! 無事か?」
衝撃と振動が収まり、カイトはすぐに体に隠した妻の安否を確認する。
「う、うん。でも」
メリンダの顔は青ざめ、驚きの顔でダンジョンの奥を見ていた。
カイトも顔を上げて周囲を見ると、ダンジョンが一変していた。
奥に続く扉が消え去り、大きな穴が開いていた。
穴が開いていたのは扉だけではない。天井か床にかけて、大きな太刀傷がダンジョンに刻まれていた。
扉の前にいた支配人スケルトンなど、跡形もなく消し飛んでいる。
「なんて威力だ」
さすが神剣ミーオン、さすが勇者。まさに神の一撃と言うにふさわしい。
だがカイトはその一撃を放った勇者に対して、怒りの目で見た。
カジノのあちこちでは、悲鳴や呻き声が上がっていた。
神剣の威力の余波が周囲を襲い、衝撃波で人が倒れ飛んできた破片が当たり、カジノにいた客に被害が出ている。
「見たか、この力。こんなダンジョン今すぐ攻略してくれる」
だが当の勇者は周りの被害が見えていない。笑いながら開いた穴からダンジョンの奥に入っていった。
いつも感想やブックマーク、評価や誤字脱字の指摘などありがとうござい。
ロメリア戦記の方も更新していますので、そちらもよろしくお願いします。
次回更新は四月一日水曜日の零時を予定しています。(エイプリルフールだし、何か嘘でもつこうかなぁ
これからもよろしくお願いします。




