第六十話
第六十話
カル君の報告を聞き、カイトが急いでカジノにとって返すと、カジノでは人だかりができていた。
「どいてくれ」
人だかりを掻き分けて現場に到着すると、そこでは一人の男が聖女クリスタニア様の腕を掴んでいた。
カル君は四英雄と言っていたが、ほかの三人の姿は見えない。だがそれがいいことなのかどうか、カイトにはわからなかった。
カイトは騒ぎの中心である男を見る。
男は黒髪、白いマントを羽織り、背中には剣を背負っている。
二人の周囲には、何人もの男が顔や腹を抱えてうずくまって倒れている。
半分ほどは客の冒険者だが、半分はここの警備隊の人間だ。うち一人は元仲間なガンツだ。
「何をしているのです!」
カイトは歩み寄り、男を問い詰めた。
おそらくクリスタニア様の手をつかむ男か件の勇者サイトウだろう。逆らっていい人間ではないが、クリスタニア様への暴行は許せない。
「なに? 君? 俺勇者だよ? 分かって言ってる」
勇者と名乗った黒髪の男が、不快そうな目で見る。
「勇者サイトウ様ですね、お名前を聞いております。私はこの上にあるギルドの人間です。一体何があったのです」
ひと目見て、何があったかは想像がついたが、憶測で話を進めるわけにはいかない。
カイトの問いかけに勇者は答えなかったが、ガンツが起き上がり話してくれた。
「その男がクリスタニア様を無理矢理連れて行こうとしたんだ、俺たちが止めようとしたら、いきなり殴られた」
どうやら見た通りの状況だったらしい。
「本当ですか? なぜそんなこと? 聖女様の腕を離して、こちらに来てください。」
「なんで?」
黒髪の男が子供のような返事をする。
「とにかく、いちどギルドに来てください。話を聞きます」
「なんで?」
勇者は同じ言葉を繰り返す。
「ここで起きた暴行事件についてです。全員から話を聞きます。あなたも来てください」
カイトは周囲でうずくまる男たちを見た。
被害者であるガンツの証言だけでは完全とは言えない。加害者側の話も公正に聞くべきだ。
「なんで?」
子供のような返事にいい加減苛立ちが募ってくる。
「暴行事件があったのなら、調査して公平な裁判をする。それの何がおかしいのです?」
「いや、おかしいだろう」
勇者は反論してきた。
「ここはダンジョンだろ? ダンジョンに法律はないはずだ。何をしたっていいはずだ。なぜ俺が裁かれなければいけない」
勇者は法律の不備をついてきた。確かにそれは事実だし、俺たちもその部分をうまく使っているので、これは言い返せなかった。
そして同時に、彼が全く信用ならない人物であることもわかった。
ダンジョンでは何をやってもいい。たまに冒険者でもこういう考えのやつがいる。
危険な人間だ。
なぜなら彼らは、自分の内心に法を持たない。
ダンジョンの中には、確かに法律はない。だがだからこそ守らなければならない掟があるのだ。この男にはそれが理解できない。人目が無ければ盗みや暴行も平気でする。
「たとえ法律がなくても、人を殴っていい理由にはなりません。それとも彼らが殴られるようなことをしたのですか?」
もちろんガンツや警備隊の人間がそんなことをするとは思えない。先程の証言の通り、嫌がるクリスタニア様を助けようとしただけだろう。
「彼女を仲間にしようとしたら、関係ないのに文句をつけてきたんだ」
勇者は右手でクリスタニア様の腕を掴んで離さない。聖女様は不満顔だが、手を振り解こうとはしない。嫌がる自分を助けようとした結果、けが人が出てしまったことに心を痛めているのだ。
「聖女様から手を離してください、嫌がる女性を無理矢理連れて行くなど、勇者のすることではありませんよ」
カイトとしては、まずはクリスタニア様をお救いして差し上げたかった。
「なんで? 教会は勇者を支援するためにあるんだろう。その聖女が勇者に従うのは当然のことだ」
勇者は疑問を投げかける。確かに教会は神が遣わした勇者を支援することも目的の一つだ。その一環として神剣ミーオンを管理している。
「それなら他にも人がいたでしょう。クリスタニア様でなくてもいいはずです」
カイトは反論した。
教会には何人もの腕のいい聖職者がいるし、教会を守護する聖堂騎士団も存在する。
「あんな奴ら役に立たない。僕に相応しいのは聖女だけだ。まったく、こんな上玉隠しているなんて連中も人が悪い」
勇者サイトウはクリスタニア様を見て、舌なめずりせんばかりだった。
カイトの中で激しい嫌悪感と怒気が生まれた。
聖女クリスタニア様は確かに美しい顔をされている。だが性の対象にしようなどとは思わない。それは多くの人達の共通認識であり、周りにいた者たちも、嫌悪に顔をしかめる。
本当に最悪の気分だった。まるで母親を性的な目で見られたようだ。
「クリスタニア様をお離しください」
カイトは手を伸ばして掴む腕をほどこうとしたが、その前に勇者サイトウの左手が伸びカイトの喉を掴んだ。
カイトも冒険者として訓練しているが、掴まれるまで反応できなかった。
さらに首に万力のような力が込めて持ち上げられ、カイトの体が宙に浮く。それほど大きな体をしていないのに、すごい怪力だった。
「ぐっつ、がっ」
カイトはもがいたが、勇者の腕はびくともしなかった。
「カイト! 離してください」
メリンダが叫び勇者の手をほどこうとしたが、危険だ。この男は女が相手だからと容赦するような奴じゃない。
「お前、いい加減にしろ」
起き上がったガンツが勇者に詰め寄る。周りにいた冒険者や、集まってきた警備隊も勇者を取り囲んだ。みな剣に手を当てている。
「やめ、おま、にげ」
カイトは何とか逃げるように叫んだ。この男は危険すぎた。
もし先に刃を抜けば、こいつは躊躇なく抜く。そして斬る。
その結果、何人死のうとも気にもしないだろう。
下手をすればここは血の海になる。 最悪の光景がカイトの頭によぎった。
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次回更新は三月二十一日土曜日の零時を予定しています。
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