第四十九話
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第四十九話
ダンジョンソサエティ。
すべてのマスターが集うこの場所は、広大な空間と言えた。
優に十キロ四方はあり、天井も高く空を映し出している。疑似的な太陽が昇り、昼と夜も存在するため、ここに初めてやってきたマスターは、地上に出たと思うほどだ。
この中には千人のマスターが来訪し、さらに施設を運営するための知性化されたモンスターが二万人ほど住みついている。
この広大なソサエティは、公式では四つの区分けがなされている。
何よりの中心は、マスター達が転移してくる転移陣が設置されている中央地区だ。ソサエティのすべてはここから始まったと言っていい。
ただ台座が置かれただけの場所だが、ほぼすべてのマスターは最初にここを通る。
その転移陣を出てまず見えるのは、荘厳なグランドエイト評議場だ。
長く続く巨大な階段に神殿のようなこの建物は、全ダンジョンマスターを集めて新たなダンジョンルールを生み出す立法府である。
威風堂々とした作りは、全てのダンジョンマスターの頂点に立ち、法と秩序を司るのにふさわしいたたずまいと言えた。
その右隣りには、剣のように尖った屋根が天を突く建物が建っていた。ここではマスターの登録や税の徴収、商売の認可や土地の登記記録。特許申請などが行える行政府だ。グランドエイトが生み出した、治安を維持する金の鎧を着た精強無比なモンスター軍団。通称ゴールデンウォールが配備され、無慈悲に法を執行する。
評議場の左隣には、落ち着いた雰囲気の半球状のドームがある。
ここは様々な訴えが持ち込まれる裁判所だ。
傷害や刑事裁判なども扱うが、頻繁に行われる裁判は民事裁判、特に商売上の訴訟が多い。ソサエティは商取引を行う場所だからだ。
この中では高度に知性化された検察に弁護士が、毎日のように唾を飛ばしあっている。
評議場の対面には、グランドエイトが主導するマナ銀行が存在する。主な仕事はマナの預貯金や融資だが、業務はそれだけではない。ソサエティで流通している疑似通貨であるマナ貨の発行と交換も行っている。ここが無ければソサエティの経済は回らない。
さらに左側には不動産会社がソサエティの土地を売り買いし、右隣には証券会社が株取引や債券といった金融商品を扱っている。
この場所こそソサエティの心臓部、立法行政司法。そして金融と商取引の中心と言えた。
中央地区から北地区に向かうと、様々なマスターが営む商業施設が立ち並んでいる。
服飾店に宝石店、バーや劇場などが目抜き通りに店を並べている。ほかにも喫茶店や飲食店を経営するマスターは多い。
特にこの辺りでは美味しいだけでなく、風変わりな料理を楽しめる。様々な世界からやってきたマスター達が故郷の料理を再現しているからだ。
洗練されたフルコースにエキゾチックな民族料理、中には本当に料理かと疑うような飲食物も存在し、グルメガイドも発行されるほどだ。
流行の最先端であり発信地、マスター達の憩いの場だ。
北地区には多くのマスターや知性化されたモンスターが集まり、賑わいを見せている。
ただし北地区は最初に開発が始まった場所でもあり、整備も行き届いており土地代が高い。必然料金も高くなりここで遊ぼうとすると、それなりのマナ貨がかかる。
もう少し安く遊びたい者は東地区に向かう。ここは整備が行き届いた北とは違い、雑多な空気が味わえる場所だ。
小さな個人商店の軒が連なり屋台が並び、中には筵の上に商品を並べただけ、という店もある。
北の気取った雰囲気を嫌うマスターが酒場で安酒をあおり、管を巻くにはうってつけの場所と言えた。
もっとも、ここにいる者の多くは、マスターではなく知性化されたモンスターだ。
知性化されたモンスターは、衣食住を造物主であるマスターに頼っているが、中には給金としてマナ貨をもらっている者もいる。そう言ったモンスターたちはこの東地区で食事や服をそろえ、休日を楽しむ。
また休日にここで働き、自前でマナを稼ぐ者もいる。
さらに一定額のマナ貨をマスターに収めることを条件に、ダンジョンに戻らずここで自分の店を持つモンスターもいる。
やや猥雑ではあるが、北地区とは違った賑わいを見せる場所だ
西地区に向かうと、巨大な卸売市場が広がっている。
もちろん売り買いされるのは肉や魚ではない。ダンジョンマスター達が生み出したモンスターだ。
モンスターの売り買いは、ソサエティでも金融やサービス業と並ぶ一大産業だ
繁殖させたモンスターを売りに出し、競りにかける。ブリーダーとして身を立てるマスターも多く、様々なモンスターが見ることが出来る場所だ。
その近くには闘技場もあり、ここも活気のある場所だ。マスター同士がモンスターを戦わせて賭けを行う。
賃金として得たマナ貨を増やそうと、知性化されたモンスターもここに集まり、粗野ではあるが熱気に満ちた場所だ。
そして五番目の南地区。ただしここは公的には存在しない場所だ。
多くの知性化されたモンスターが住み着いているが、人口としても数えられず、その総数がどれだけいるかも把握されていない。
なぜなら彼らは自らを生み出したマスターが殺され、帰るべきダンジョンが攻略された者たちだからだ。
冒険者が最下層に迫れば、マスターは全てのモンスターを呼び戻すのが普通だ。
マスターが死ぬときは、知性化されたモンスターも共にすることが多い。
しかし様々な要因が重なり、ソサエティで生き残ってしまうモンスターも少なからず存在するのだ。
九死に一生を得たわけだが、決して幸運とは言えない。
主のいないモンスターはつらい。まず北地区や東地区で商売をすることが出来ない。商売をするにはまず行政府の許可がいる。その許可を取り付けることが出来るのは唯一マスターのみであり、また土地代を収めることが出来るのもマスターだけであるため、店を持っていたモンスターもマスターがいなくなればここに逃げるしかなくなる。
行政の目も届かないスラムであるが、一定の需要があり、多くのマスターがやってくる場所でもある。
まず非合法の密売が盛んな場所だ。
ソサエティでは多くのマスターが独自の商品開発を行い、差別化を図っている。
しかしどんな複雑な品物であれ、ダンジョンコアがあれば商品を模倣することはたやすい。ソサエティでは模倣品の販売を禁止する法律があり、よく似た偽物や模倣品の売買は厳しく取り締まりがなされている。
しかし南地区では規制も届かず、違法模造品が格安で取引されている。
また、北地区や東地区では取引に税金がかかるため、搾取を嫌うマスターが闇で取引を行う場所でもある。
そして南地区で忘れてはならないのが、風俗産業だ。
風俗店は北地区や東地区にも存在する。北地区には高級店が、東地区は格安店が並び住み分けがなされている。ただ共通のルールとして、異種族姦は歓迎していない。
様々な姿のマスターやモンスターが集うソサエティ。住んでいる場所が違うだけでも争いが起きるのに、種すら違えば同席することすら難しい。ましてや閨を共にしようものなら、加減がわからず殺してしまうこともある。
それゆえ性風俗では異種族姦は歓迎されず、タブー視される傾向にある。特に北地区の高級店では女側の権利が強く、高額のマナ貨を積み上げても断る者がいるぐらいだ。
しかし性とは多様である。また禁じられているからこそ、よけいに情熱を燃やすものが出てくるのも世の常。
そう言ったマスターの要望を叶えるのが、南地区にある『妙なる鳴き声亭』だ。
非合法であるため看板を掲げているわけでもないのだが、夜ごと人とも獣ともつかぬ声が聞こえてくることから、そう呼ばれている。
ただ、その日は『妙なる鳴き声亭』の近くで、少し奇妙なことが起きていた。
帽子を深くかぶり、口元を布で隠した者が人目を忍ぶように歩いている。
とはいえこれはよくある光景だ。何せ店が店である。出入りする客は、大抵顔を隠すものだからだ。
問題は顔を隠して入った先が娼館ではなく、その隣の建物だったからだ。
そこは一応飯屋で通っているが、くそまずいことで有名であり、好んで入る者はいない。にもかかわらず、すでに朝から十人もの人影がばらばらに入っている。しかも一人も出てきていなかった。
そして今もまた一人、長身の男が人目を気にしながら足早に歩き、吸い込まれるように店の中に入っていった。
店に入った男がまず目にしたのは、半魚人の顔をした店の主だった。
ただしその首は斬り落とされ、まな板の上に自らの頭をのせている。
男は首だけの店主を一瞥して通り過ぎ、店の奥に向かうと、奥では店に入っていった十数人がたむろしていた。皆が武装しており短剣にクロスボウ、縄や手錠などもそろえられている。
明らかに今から襲撃をする準備だった。
「用意はできているようだな」
男が帽子を取り、顔を覆っていた布を外す。かつてはグランドエイトに名を連ね、その名を知らぬものがいないメグワイヤだった。
いつも感想やブックマーク、評価や誤字脱字の指摘などありがとうござい
今日はロメリア戦記の方も更新していますのでよろしくお願いします
活動記録にも書いているのですが、今後毎日更新が出来なくなり、週二回ほどとなってしまいます。
ダンジョンマスター班目を楽しみにしてくれている読者様には申し訳ないのですが、ご理解いただけるとありがたいです。
次回更新日は二月十二日水曜日零時を予定しています
これからもダンジョンマスター斑目とロメリア戦記をよろしくお願いいたします




