第四十話
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第四十話
四英雄が現れて一ヵ月。その間カイトは悶々とした気分にさいなまれ、ろくに仕事が手につかない状況だった。
ただありがたいことに未だダンジョンは攻略されず、英雄達の攻略は行き詰まりを見せているようだった。
一日で攻略してやると息巻いていたアルタイル嬢は、日増しに機嫌が悪くなっていた。顔にこそ出さないものの、ほかの三英雄も苛立ちを募らせている。
そしてそれはカイトも同じだった。
毎日のように扉をくぐっていく四英雄の背中を見送り、扉の向こうに何があるのか、あの四英雄でさえてこずらせるものとはいったい何なのか? 気になって仕方がなかった。
まさかまっすぐ続く通路が、ずっとあるわけでもないだろう。あれは興味本位で奥を覗いた冒険者を、諦めさせ引き返させるためのものだ。
あの単調なダンジョンを超えた先には、当然冒険者の攻略を拒む様々な仕掛けがいくつもあるはずなのだ。
だがそれを知るのは俺ではない。
なぜ俺ではないのか!
なぜ自分が最初でないのか、納得がいかなかった。
このダンジョンは俺のダンジョンだ!
俺が最初に見つけ、みんなに広めた。それなのに! それなのにどうして俺以外の奴が奥へと進む!
そんな叫びの声が、頭の中で乱反射を繰り返す。
もちろんこれが、見当はずれの言いがかりであることはわかっている。
自分が見つけたからと言って俺の物ではなし、誰が攻略しようと勝手だ。
非難されるべきは、攻略できるのにしようとしなかった自分自身。
だが今更何を言っても遅い。すでに自分には立場がある、代理補佐というあいまいなものでも、任された仕事がある。
無責任に仕事を放りだすことは、信頼を裏切る行為だ。何より、自分についてきてくれたメリンダになんといえばいいのか。
「カイト………」
声がして振り向くとメリンダがいた。
「どうした? 仕事で何か問題があったか? また叔父さんから無茶を言われて、大忙しだよ」
俺は仕事のことを考えて居たふりをしてごまかすと、メリンダが荷物を俺に押し付けるように渡した。
「はい」
「これは?」
渡されたのは小ぶりな背嚢だった。ダンジョン探索に使っていたやつだ。
「水と食料は一日分、傷薬と毒消しは五つ。標準的な日帰り装備にしておいたから」
「ちょっと待って、これはどういう?」
ずっと埃をかぶっていた装備だ。どうして今渡すのか。
「行きたいんでしょう?」
メリンダが、ダンジョンの奥へと続く扉を見る。
「でも、仕事が」
「いいから、仕事の方は任せて。私とほかのみんなでうまくやれるから」
「しかし、でも、同行を許してくれるとは」
四英雄が、俺をお供させてくれるわけがない。
「四英雄の方々が同行を許してくれるかわからないけど、言ってみないと分からないでしょ? あの奥に行く機会なんて、もうこれしかない。やるだけやって見たら?」
メリンダが気軽に試してみろと言う。
促されても、俺はなかなか踏ん切りがつかなかった。
「いいから行きなさい。諦めた男の背中を、じっと見る気はないわよ」
メリンダは俺の横に立ち、文字通り背中を押して一歩を踏み出させてくれる。
「わかった」
俺は全てのしがらみから解放された気がした。
まるで背負っていた重石が、とれたかのように身軽になる。
「メリンダ、この埋め合わせは必ずする」
振り返ってメリンダに約束する。
「はいはい、期待せずに待ってる」
あまり信じていないメリンダが、さっさと行けと手を振ってくれた。
扉の前では、今日も四英雄たちが揃っていた。戦いの前だからか、四人の周囲はピリピリとした緊張に包まれている。皆が英雄たちを見てはいるが、話しかける者もいない。
「あ、あの」
その中で俺は一歩を踏み出し、英雄たちに近づいた。
「何?」
アルタイル嬢は不機嫌な声で返答した。
「お願いがあります。今回の探索に、私も連れて行ってもらえないでしょうか?」
俺は単刀直入に頼み込んだ。
これしかこの向こう側を知る方法はない。
金庫の中にあるシンボルは使えない。ギルド長はたとえ俺であっても例外なんて認めないだろう。スケルトン支配人とは何かと親しくしているが、特別扱いをしてもらえるほどの関係ではない。
「はぁ? なんであんたなんかを一緒に連れて行かなきゃいけないのよ? てか、あんた誰?」
当然のごとく門前払いを受ける。わかっている、俺なんかが四英雄についていっていいわけがない。それでもここしか道はないのだ。
「私はカイト。ロードロックの冒険者です。私を連れて行ってくれれば必ず役に立って見せます」
俺の言葉に、アルタイル嬢がじろじろと俺を見る。その瞳はうっすらと蒼く輝いていた。
ただ見ているだけではない、俺の中のマナを測定しているのだとわかる。
「話にならないわね」
マナを計測して俺の力量を推察したのだろう。取り合ってももらえなかった。
当然だろう。彼らは世界最高の冒険者たちだ。彼らの仲間になりたいという者は大勢いる。中堅どまりの俺が仲間に入れてくれというのはおこがましい。
「ですが俺はこのダンジョンのことをだれよりもよく知っています。きっと役に立てるはずです」
これはうそではない。最初にこのダンジョンを発見し、それからも休むことなくここに通い続けている。
最初はギャンブルにはまっていただけだが、途中からはここの変化が面白くなり、小さな変化や事件も見逃さず、すべて調べている。
このダンジョンのことを、俺より詳しい人間はいない。それだけは確実に断言できる。
俺の熱意に押されたのか、アルタイル嬢が後ろを見てほかの三人に目配せする。視線を向けられた三英雄は、視線を逸らすことで返答を拒否した。
「はぁ……まぁいいけど。足手まといになったら、その時は置いてくからね」
「はい、任せてください」
準備に問題はない。背嚢はメリンダが作ってくれたし、武器や鎧はいつも身に着けている。訓練も率先してやっているので、体も鈍ってはいないはずだ。
しばらく待っていると、燕尾服に身を包んだ支配人スケルトンがやってくる。
「おや、カイトさま。今日はあなたもご一緒されるのですか?」
「はい、どうしてもこの奥が気になってしまって。私が参加してはいけませんか?」
支配人が俺を拒否しても文句は言えない。だがなじみのスケルトンはあっさりと許可した。
「いえ、構いませんよ、数人の付き添いは認めるといいましたので」
どうやら俺の同行は認めてもらえるそうだ。
支配人スケルトンが軽く扉に触れると、それだけで奥へと続く扉が開いていく。
「それでは、お楽しみくださいませ」
支配人スケルトンが、恭しく首を垂れた。
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