第三十六話 四英雄の挑戦
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第三十六話
「どうやらお困りのようですね」
身をちぎられるような困難、いや、拷問のさなか、話に割って入る影があった。白い白骨を光らせるスケルトンだ。
モンスターの姿に四英雄が身構え、瞬時に戦闘態勢を整える。
「待って下さい、これは支配人スケルトンと呼ばれている、特別なスケルトンです」
黒い燕尾服を着こなすスケルトンを、守るように体で遮る。
「支配人? このスケルトンがダンジョンマスターなの?」
アルタイル嬢が首をかしげる。
「いえ、このスケルトンは……」
俺が説明しようとすると、支配人が代わりに話してくれた。
「私は確かにダンジョンマスターです。しかし本体ではありません。操っているだけです」
ダンジョンマスターが我々に依頼をするときに、このスケルトンが使われている。
これまで見分けなどつかなかったが、最近は服装で判別できるようになった。
「傀儡とはいえ、ダンジョンマスターが私の前に姿を現すとはいい度胸ね」
アルタイル嬢の周囲の空気が揺らめき、熱波が頬を打つ。同時にシグルドからは獅子のごとき闘気が、クリスタニア様からは神々しい光が、夜霧からは凍える様な殺気が放たれる。
凝縮された力が同時に四つも渦巻き、空間が歪んでいるようにすら見える。
だがこれほどの力を前にしても、この場にいない強みか、支配人スケルトンの態度は余裕そのものであった。
それどころか、懐から小さな片眼鏡を取り出し、くぼんだ眼窩に装着すると歓声を上げた。
「これは素晴らしい、さすがは四英雄です。人の身でありながら、これほど膨大なマナを内包されているとは」
眼鏡を通して英雄たちを見て喜んでいる。
「それは魔道具ですか?」
「ええ、マナを測定する効果があります」
マナは生命力であり、その強さを示す指標にもなる。
「素晴らしいですよ、そこのシグルド様は百十万マナ、次に夜霧様は百万マナ、クリスタニア様は九十八万マナ。アルタイル様に至っては百十五万もありますよ」
その数値を聞いて、カイトも驚く。
王国や教会、ギルドにもマナを測定する魔道具がある。最後にカイトが自身のマナを調べたときは一万三千ほどだった。これは平均より少し上といったぐらいだ。つまり四英雄と自分とでは百倍近い差があるということだ。
「素晴らしい、さすがその名も高き四英雄。このような英雄に来訪していただけるとは、我がダンジョンの格も上がったものです。そこで四英雄に敬意を表して、我がダンジョンの次の間にご招待差し上げたい」
「ちょ、それは」
俺は青ざめた。こっちが止めようとしていたのに、ダンジョンマスターがなぜ自ら!
「へぇ、私たちを奥に進ませてくれるっていうの?」
「本来ならシンボルを二つ入手し、扉にはめ込んでもらうのですが、ここは特別に例外、といたしましょう」
「その代り?」
ヴァーミリオン嬢が続きを受け取るように話すと、表情筋が無いはずのスケルトンが一瞬笑ったように見えた。
「いくつか条件はあります。一つは門を開けるのは一日に一度だけ。四英雄の方々は、同時に門をくぐってもらうことになります」
別々の攻略は認めないと言うことだろう。
「私は構わない。でもだからと言って協力するつもりもないわよ。ソロでやるつもりだったし、早い者勝ちでも構わないわよね?」
アルタイル嬢の挑発的な言葉に、三人は頷く。
「次に人数制限。物見遊山で来られても困りますので、扉を超えていいのは、四英雄のかたがたと、そのほか数人程度にしていただきたい」
こんな遊び場を作っておいてなにを言うか、と思うが、人海戦術で攻略されたくないのだろう。
「もともと一人だし問題ない。それで、三つ目は?」
灰燼の魔女が続きを問うたが、支配人スケルトンは首をかしげた。
「三つ目はありません。守っていただきたい条件はこの二つだけです」
「はぁ? それ何の意味があるのよ。あんたに得が無いでしょ?」
「ああ、そうでした、一つ言い忘れていました」
ヴァーミリオン嬢の言葉を無視して、スケルトンが手を打つ。
「攻略に失敗した場合、あの小部屋に転移される手筈になっています。言うのを忘れていました」
支配人スケルトンが、扉のわきに作られた、小さな扉を指さす。
あれは一方通行の扉で、こちらから開けることはできない。時折スケルトンが出てくることから、おそらく奥につながる転送陣があるのだろうと言われていたが、そんな機能も兼ねていたらしい。
「へぇ、失敗して転移されたらどうなるの?」
「別に、どうもいたしません。また後日挑戦してください」
スケルトンは表情のない顔で、しれっと言い放った。何かしら罰則があると考えていたアルタイル嬢は肩透かしを食らい、憤慨していた。
「まったく何なのよ!」
沸点が低いのか、アルタイル嬢は時間の無駄とばかりに扉の前に立つ。
「今すぐ行くわよ! こんなダンジョン。一瞬で攻略してあげるわ」
勝手に怒り出すアルタイル嬢に連れられる形で、他の三人も扉の前に立つ。
「では」
支配人スケルトンが手を上げると、これまでほとんど開かれることのなかった門が開く。
そして四人は扉の向こう側へと消えて行った。
その日、俺は気もそぞろとなり、仕事にも手がつかなかった。そして一時間後、例の小部屋から四人が姿を現した。
四人は怪我をした様子もなかったが、不機嫌さは体からにじみ出ていた。
「一体何なのよ! このダンジョンは!」
アルタイル嬢は歯をかみ砕かんばかりに悔しがっていたが、扉の向こうでなにがあったのかだけは、決して語ろうとはしなかった。
いつも感想やブックマーク、誤字脱字の指摘などありがとうござい
すみません、明日の更新はできないかもしれません
ちょっとゴタゴタがありまして、明後日は更新できると思います




