第二十四話 グランドエイト査問会
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第二十四話
翌日、召喚状に同封された転移札を起動して、査問会場へと転移した。転移して現れた場所は、そのまま裁判所の被告席だった。
周囲を木製の手すりに囲まれ、乗り越えないと出られない。しかも手すりにはなにやら文字が刻まれているため、何らかの魔法がかかっていることが分かった。
さらに周囲の一段高いところから、八人が逆光を背にしてこちらを高圧的に見降ろしていた。
「それではこれより査問会を始める。罪人は名前を述べよ」
正面から白い鎧を身にまとった、褐色の肌の女が朗々と述べる。ケラマから聞いてグランドエイトの予備知識はある。おそらくこいつが獲得ポイントランキング、堂々の第一位。白銀のダンジョンの主、シルヴァーナだろう。
シルヴァーナに目を向けた後、俺は周囲を見回した。
「罪人ははやく名前を述べよ!」
シルヴァーナが、いらだたしげに叫ぶが、俺は答えない。左を見ると背の高い眼鏡をかけた男と目があった。
「罪人って誰だ? おまえか?」
気軽に尋ねてみると、シルヴァーナの綺麗な顔に亀裂が走った。
「お前に決まっているだろうが、ダンジョンマスターマダラメ」
なんだ、名前知ってるじゃん。
しかし心外だ。
「そんな事を言われても、答えることは出来ない。俺は罪人じゃないからな」
「ふざけているのか」「無礼な」「即刻首をはねろ」「我らを前にしていい度胸だ」
周囲から声が飛ぶが、俺は無視する。
「ここは査問会だろ? 罪を裁く場所ではなく、罪があったかどうかを調べる場所のはずだ」
俺が道理を示すと、さらに周囲からは怒りの声が飛ぶが、これも無視する。
この程度のことは予想の範囲内。向こうも自分たちがしていることの矛盾を分かっているはずだ。
敢えて最初から俺を罪人と呼び、認めさせたことで査問会を自分たちのペースで押し切ろうとしたのだろう。周囲を取り囲む配置や、逆光を背にして一段上から見下ろしているのも、全ては状況の雰囲気で、こちらの気勢をそぎペースを握るための演出だ。
まるで裁判官のように振る舞い、絶対王者のように見下ろしているが、実際のところ彼らと俺の立場は同等同格だ。
ただ俺より先輩で多くのポイントを得ていると言うだけにすぎない。本来ならこんなふうに、俺を呼びつけることだって出来ないのだ。
「そもそも、何のために査問会が開かれ、呼びつけられたのかもわからない。俺はダンジョンルールを順守している」
「ふざけるな、高額の金を支払わなければ扉を開かないようにするなど、ダンジョンの理念に反する」
やはりというか、争点になるところはあそこだったようだ。
「まったくだ、あのようなイカサマ、認められない」「即刻中止しろ」「それに聞けば、こいつのダンジョンはまだ誰も冒険者を殺していないと言うではないか」「ありえない」
またしても非難が飛び交うが、お笑い草だ。
「なにを言っている。ダンジョンルールは破ることが出来ない法だ」
どう考えてもバカみたいなダンジョンルールだが、これが決して破ることが出来ないのだ。破ろうとしても、そのダンジョンは設置できない。設置できたと言うことは、つまりそれは通ったと言うこと。
「しかし我らは認めない」
先ほど目が合った眼鏡の男が宣言する。俺はきっぱりと言い返した。
「認めてもらわなくて結構」
会場がざわめく中、左から烈火のごとき声が響く。
「貴様! 我らグランドエイトを敵に回して、やっていけると思っているのか!」
竜の様な鱗に覆われたダンジョンマスターが、蜥蜴の様な口で叫ぶ。
確かこの竜の様な奴は、武闘派ダンジョンと名高い黒竜のダンジョンの主ドゴスガラか。
「確かに、ソサエティを牛耳るあなたたちを敵に回しては、ソサエティで生きていくのは難しそうだな」
本来同等のダンジョンマスター同士だが、グランドエイトには偉そうにするだけの権限がある。彼らはダンジョンマスターの交流の場として設けられているソサエティを、実質支配している管理者たちだ。
ソサエティの警備や商取引、娯楽施設の元締めであり、マスター同士のポイントの貸し借り、銀行業なども行っている。
彼らに目をつけられては、ここではやっていけない。しかし俺は別だ。
「どうやら身の程はわきまえているようだな」
確かに、ソサエティで強いのは彼らだ。
「ああ、だから金輪際ここを利用しないよ。このまま利用せず、自分のダンジョンに引きこもっている。百億ポイントをためるその日まで」
俺の言葉に、八人はありえないと引いていた。
たぶん他のダンジョンマスターが見ても同じ意見となるのだろうが、俺は別だ。俺はここを何も知らない。たとえ二度とここに来られなくなったとしても問題ない。
彼らは動くのが早すぎたのだ。査問を開くのはもう少し待ち、俺がソサエティにどっぷりとつかり、ここをなくてはならない場所と感じるようになってから査問を開けば、俺もここまで強気に出られなかったのに、楽しむ間もなくこんなところに呼び出されては、二度と来ようとは思わない。
八人は動揺して視線を迷わす。新人相手にこれまで反抗されたことがなかったのだろう。
ある程度会話の内容を予想していなければ、俺も後手に回っていただろう。
「強気も結構だが、ここから無事に出られると思っているのか?」
ドゴスガラが立ち上がる。
「ダンジョンマスター同士で争うつもりですか? そもそもダンジョンマスターは不死身では?」
ダンジョンマスターは基本不死身らしい。コアが破壊されない限り死ぬことはなく、ばらばらにされてもくっつくそうだ。けっして試したいとは思わないが。
「油断ですね、確かに私たちは死ぬことはありません。ですが二度と戻れないようにすることは可能ですよ」
先ほど見た眼鏡をかけた男が笑う。確かこの男は毒と罠を好んで使う蟲毒のダンジョンの主、メグワイヤだろう。
「なるほど、監禁ですか?」
「馬鹿を言え、拷問だ」
ドゴスガラが凶悪な形の剣を見せる。
自分たちの意見が通らなければ力づく。しょせん査問会など形だけのものにすぎない。
「別に油断などしていない。この体はパペットだ。遠隔操作しているだけの体だ」
正直に生身でここに来るなどしない。こうなることを予想して二重三重の防御手段を考えて挑んでいる。おかげで休む暇もなかったが。
左から笑声。メグワイヤが愉快そうに体をのけぞらせて笑っていた。
「その程度のことはこちらも予想済みです。その手すりの結界は、憑依解除を無効化する魔法がかけてあります。憑依を解除して体に戻ろうとしても、戻ることはかないませんよ」
メグワイヤが笑うが、俺も笑い返す。
「それはこちらも予想済みだ。憑依対策に何らかの仕掛けがあるだろうと思っていた。だからこれは単純な憑依ではない。わざわざ魔道具を作って遠隔操作している。俺の意識はここにはない」
俺は部屋に設置したモニターを見ながら笑う。
体はケラマに操作してもらい、俺はモニターに向かってしゃべっているだけだ。
「というか、ちゃんとその程度の対策はしてくれて助かった。もしなかったら、全くの無駄骨になるところだった」
「傀儡をよこすとは、この臆病者め」
ドゴスガラが叫ぶが、力づくで解決しようとしていた奴に言われても痛くもかゆくもない。と言いたいところだが、そうでなくても遠隔操作でよかったと思う。焦りや動揺が顔に出ない。正直に言うとモニター越しだというのに、歴戦のマスター相手にビビっているところだ。
とはいえ、状況はすべて俺のペース。そんなことしか言えないのであれば、連中の隠し玉はもうないと言うことだ。
グランドエイトなんて、偉そうな名前を名乗っている割に底が浅い。他にも自爆装置や猛毒の体液などを仕込んできたのに、この分だと使う機会はなさそうだった。
だがこれは好機、相手の反応がこっちを上回るものでないと言うのなら、知恵比べではこっちが勝つ。あの手を使うチャンスだ。
「しかし、なんでも一方的というのもよくないだろう。例の扉を開けるシンボルだが、俺の出す条件を飲むなら、ある程度は緩和してもいい」
俺の突然の譲歩と交渉に、八人の顔色が変わる。
「条件だと! 新参者が我らと同格のつもりか!」
ドゴスガラが叫ぶが、本来同格なのだ。あえて言わないけど。
「一応その条件とやらを聞いてやろう」
シルヴァーナが高みから俺を見る。
俺はモニターの向こうで生唾を飲み込んだ。魔道具越しでの遠隔操作でよかったと本気で思う。ここから先はのるかそるかの大博打となる。下手をすれば俺は死ぬだろう。
だが極大のリスクの向こうに、勝利の栄光がある。
胸が焦げ、のどの奥がひりつく。
火を飲むような興奮。
極上のギャンブルをしても味わえない、最高のスリルだ。
「条件とは、転移陣を設けて、俺のダンジョンと貴方たち八人のダンジョンをつなげることだ」
俺はついにその条件を突きつけた。
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