第百五十二話
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第百五十二話
ようこそと歓迎した女を見て、カンタータは唾を呑んだ。
「なっ、なんだ、お前たちは、人間か? それともモンスターか?」
「人間ではないわね、モンスターのような怪物と一緒にされるのは嫌だけど」
黒髪の女が妖艶に笑う。
人間ではないと言われ、カンタータは剣を持つ手に力がこもる。だが鉄格子があるおかげで、襲われる心配はない。逆を言えばこちらも斬りつけることはできないが。
カンタータは鉄格子の向こうに立つ女を見る。
背は高く赤いドレスから見える脚は長い。だが体重は軽そうであり、カンタータの半分もないだろう。腰は大きくくびれているが、筋肉が付いているようには見えない。豊かな胸は動くにも邪魔だろう。細く長い指には、武器を扱うもの特有のタコが無い。
鎖骨が見える華奢そうな肩は小さく、格闘技の経験が無いことも見て取れた。細い首は今にも折れそうだし、赤く塗られた唇は小さく、噛みつかれる心配もない。物腰からも、戦いの心得は無いように思えた。
カンタータが観察していると、女の長いまつ毛が伏せられた。
「そんなにじろじろ見ないでよ、恥ずかしいわ」
女が胸の前で手を組み、体をよじって視線から逃れようとする。
無遠慮だったと、カンタータは一瞬目をそらした。だが相手はモンスターだとすぐに思い直す。
「さっきここを娼館だと言っていたな。娼館ということは、その、つまりあれか? お前たちが相手をしてくれる、ということか?」
「ええ、そうよ。あなた娼館で遊んだことが無いの?」
戸惑うカンタータに、目の前の黒髪の女が笑う。
「あら、筆おろしかしら。だったら私がお相手したいわ」
後ろにいる金髪の女が、声を上げて笑う。嘲笑が気に障ったが、この程度のことで目くじらを立てては男の器が知れる。笑って済ませることが男の度量である。
カンタータは改めて女を見た。敵として見た場合は、筋肉もなく華奢で相手にならない。しかし女として見た場合、見事なプロポーションと言える。目鼻立ちも整い、街ではお目に掛かれないほどの美女だ。
後ろにいる女たちも、銀髪に金髪。赤毛と色とりどりの髪をしており、顔もやスタイルも全員が美人の部類と言えるだろう。
「お前たちは淫魔なのか?」
カンタータは率直に尋ねた。
男を誘う、淫らな悪魔がいると言う話は聞いたことがある。
「残念ながら、そんな上等なものじゃないわ」
黒髪の女が笑う。カンタータは振り返り魔導士のゲッコーを見た。
ゲッコーは杖を掲げ念じる。女の体内のマナを測定しているのだ。
「マナの総量は一般人と同等です。これでは魔法を使うこともできないでしょう」
ゲッコーが測定結果を教えてくれる。
マナの総量は強さに比例する。マナの量が多すぎる場合は測定できないこともあるが、低いことを偽装することはできない。つまり目の前の女は、肉体的にもマナ的にも普通の女と変わらないということになる。
「それでどう? 遊んでいく?」
黒髪の女が妖艶にほほ笑む。
街でこんな美女に誘われれば、カンタータは間違いなくついていっただろう。しかしここはダンジョンだ。女の色香に迷っていい場所ではない。
「いやだと言ったら?」
「別にどうもしないわ。そのまま帰ってくれればいい」
女は優雅な手つきで、カンタータたちが入って来た扉を指し示す。
「どうする、カンタータ? お前が決めろ」
「やればいいだろ、めっちゃ美人じゃん」
「誘いを受けたらどうなるか、確かめるのも調査だよな」
「しかしモンスターと寝るなど、良いこととは言えません」
ギーグが歩み寄り、キケロがはやし立てる。ゲッコーは理性的だが、僧侶のロッコは生真面目に窘める。ゴゴールは美女を前に頬を染めて顔を掻いていた。
賛成が二で反対が一、保留が二。カンタータの腹は決まった。モンスターを抱いたことはないが、これも仕事だと割り切る。
「いくらだ?」
「何が?」
「値段だ。いくら払えばいい?」
「ここは地上じゃないから。お金はいらない。でも、私を満足させてくれたら、逆にいい物をア・ゲ・ル」
黒髪の女が片眼を閉じ、投げキッスを寄越す。
「わかった、じゃぁ頼む。お前たちはここで待っていろ」
カンタータは仲間に言いつける。
「なんでぇ、お前だけ楽しむつもりかよ」
「馬鹿、何かあった時の備えだ」
キケロが口を尖らせるが、ゲッコーが杖で頭を叩く。
仲間たちのやり取りをカンタータは笑った後、黒髪の女に向き直った。
「それじゃぁ、この鍵を使って、入って二番目の部屋に来て。ああ、一人でお願いね。大勢でやるのは好きじゃないの」
女が鉄格子の隙間から腕を伸ばして鍵を差し出す。カンタータは受け取ると、女は先に待っていると手を振り部屋から出て行った。
「それじゃぁ行ってくる。もし何かあったら助けに来てくれ。油断するなよ」
不満そうなキケロに言い含め、カンタータは右の扉を開けて廊下に出る。いくつもの扉が並んでいるが、言われた通り二番目の部屋に鍵を使って入った。
次回更新は十二月二十四日、クリスマスを予定しています




