樹木種
本日四話目です。
異世界転生93日目の夕方。
俺は迷宮攻略の為の買い物をしている。
とは言っても、何を買うんだ?
「鞄や水筒、干し肉とか持ってるか?」
「もちろん、一般的な物は持ってる。」
「そうか、なら顔料を買えば準備は終わりだ。」
「目印にでも使うのか?」
「そうだ、迷路だからな。
転移部屋に行くにも、目印がないと帰れない。」
「通路が変わるスピードが速いのです。
目印がないと迷いますよ?」
それは怖いな。
やっと転移部屋だと思ったら迷っていたなんて、普通の人間なら先が見えなくなる。
「明日の朝、迷宮前集合でいいか?」
「分かった。準備していく。」
「おう、また明日な!」
俺は魔領域の南西、ドライアドの場所に来ている。
「フィーア、話は聞けたか?」
「我が神よ。当然のことでございます。
彼らは樹木種、木に宿る魔族でございます。」
「俺はジンだ。
お前達は国か?指導者はいるか?」
「ジン様、私たちは眠っております。
起きることが稀なのです。」
「寝ている間に、これほどの森林を築いたのか?」
「そうです。我らは木に宿る身、
木々と共に生き、死んでいくのです。」
なんか、切なくなるフレーズだな。
「起き続けることは出来ないのか?」
「それ程の魔力を、土地から吸い上げる訳には参りません。」
うん、解決策見つかったな。
だが、どの程度の範囲を掌握しているんだろうか。
「土地と言うが、何処までが範囲なんだ?」
「フィーア様から伺っている限り、胞子が舞う全ての土地です。」
「俺に絶対服従を誓うか?」
「もちろんでございます。それ以外に、我らが生き残る術は考えられません。」
フィーアが良い具合に、説得済らしい。
卑屈になり過ぎず、絶妙の手加減だ。
「ならば、お前達に魔力を分け与えよう。
アイン、足りるか?」
「我が神よ。当然のことでございます。」
アインから樹木種に、魔力の譲渡がなされる。
「なんという!なんとうことでしょう!」
狂喜乱舞する樹木種は、キモい。
「俺は帰るから、細部はアインと詰めてくれ。」
樹木種は誰も聞いちゃいない。
異世界転生94日目の朝。
俺は獣公爵領の屋敷で起きた。
皆は既に準備完了で待っているんだが。
「……迷宮攻略か?」
「はい、ご主人様。
ご主人様に負けぬよう、精一杯努力致します。」
「怪我はしないようにな。」
「ジン、私に任せて!」
「ご主人様、このイリンにお任せ下さい。」
「ツヴァイ、よろしく。」
「仰せのままに。」
なんでその手があったか、みたいな顔をしているんだ二人とも。
二人合わせても、ツヴァイには勝てないからな?
異世界転生94日目の朝には遅い時間。
俺は迷宮前にいる。
「ジン、おはよう」
「あぁ、おはようセント。
ダイスはどうした?」
「あいつは寝ぼすけなんだ。
もうすぐ来るから、昼飯でも買ってこい」
「持って来てるからいらないんだ。」
「ダイスを起こしに行くか?」
「ここで待つ。」
なんで男なんて起こさないといけなんだ!
ありがとうございました。




