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【書籍化&コミカライズ】お幸せに、婚約者様。私も私で、幸せになりますので。  作者: ごろごろみかん。
三章:寓話の相違

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96/100

人生は楽しんだもの勝ちだから(能天気とは違います)

テオは一瞬、ほんのわずかに目を見開いたものの否定しなかった。

代わりに、落ち着いた声で尋ねてくる。


「……何で?」


明確な根拠はなかった。


ただ、テオはそうするだろうな、となぜか思ったのだ。

妹を見つけて、はい終わり、とするとは思えなかった。


私は、自分が手に持った瓶に視線を落としながら、言葉を探す。

どう言葉を選べば、伝わるだろう。そんなことを考えながら。


「根拠はないの。具体的な理由も。……だけどね、テオなら。私の知っている、あなたならそうするだろうな、って思っただけ。このまま、終わらせないだろうなって」


まだ出会って、一週間程度だけど。

それでも、私の知っているテオならきっとこのままでは終わらせない。テオは私の話を聞いてから、確かめるように尋ねてきた。


「つまり、カン?」


「ええ、そうよ。直感。意外とこういう、感覚的な思考は馬鹿にできないもの。胸騒ぎがする時に限って必ず悪いことが起きるあれと同じ」


私の、その通りなのか若干ズレているのか分からない微妙な理論を聞きながらテオは「そっか。なら、正解かもね」答えた。


「正解、って」


「そんな大層なものじゃないけどね。でも、どうにかしたいとは思っているよ。ファーレ(あいつ)が言ってたでしょ。オレはあのひとが嫌いだ。許せないと思った。母も、そしてきっと妹も。望んでいないと知っていても、オレにはオレのやりたいことがある」


そこまで言って、テオはなにか思い出したように顔を上げた。


「ああ、そうか」


「な、何ですか?」


「今、わかったんだよ。きっと、エレインとオレは立場が似ているから」


「……立場?テオも」


全てを捨てたいと、そう思っているんですか?


そう聞こうとしたのに、それを遮るように──いや、聞かれると分かったからか。テオが苦笑する。


「何もかもを捨てて、いちからやり直したい。我慢と妥協の日々が待っているなら、全て捨ててしまいたい。そう言ったのは、あなただったね」


「……そんなことも、言いましたね」


まだあれから一週間しか経過していないのに、ずいぶん昔のことのように感じる。 それは、テオと出会ってから色んなことがあったからだろう。ファーレのこともあるし、ジェームズ・グレイスリーのこともある。


「それを聞いた時さ、なんてことをいう子なんだろうなって思ったんだよ。あなたは妹より年下で、しかもいいところのお嬢さんのようなのに、豪胆で思い切りがいい。きっと、あなたを手放したことを、婚約者の彼は後悔しているだろうなって思った」


「テオ、ずいぶん褒めますね……褒めても何も出ませんよ。あ、飴ならあるけど」


「いらないよ。というかそれ、オレがあげたやつだし」


ごもっともである。

テオは、少しの沈黙の後、出会った時のことを思い出すようにしながら、話を続けた。やっぱり淡々とした、必要以上の感情を感じさせない、静かな声。


「オレも、同じようなものだよ。エルゼ……妹のこともある。母のこともある。あの過去を、オレはなかったことにはできないし、したくない。オレはきっと、あのひとを、実の父を恨んでいるだろうから」


「……ずいぶん、他人事みたいにいうんですね。それは」


それは、テオの一種の予防線みたいなもの、なのだろうか。

そうやって、客観的に見ることで、自身の感情を抑える、ような。私は私で小瓶に視線を落として言葉を続けた。


「テオは、強いですね」


「強い?オレが?」


「少なくとも、私よりは強いですよ。私は、逃げ出しちゃいましたから」


「それは、あなたに守るものがなかったからだよ。もっといえば、執着するものがなかったんだ。だから、捨てられた。断捨離と同じ原理だね」


「断捨離。確かに」


テオの言葉がなんだか面白くて、私は笑った。


「ねえ、テオ。私の知る、テオというひとは、あのウェルランの森で会った、テオというお兄さんは。面倒くさそうにしながらも、突然現れた不審な女の面倒を見てくれた、厄介事に自ら巻き込まれた、お人好しですよ」


「………………」


テオは、なにか言いたげに私を見たけれど、その後大きなため息を吐いた。そして、自身の額に手を当てて、とても心外だ、と言わんばかりにこちらを見る。


「それを、よりによってエレインに言われるとはね……」


「おっと。違うとは言わせませんよ。テオは、面倒事だとわかった上で、私と一緒に行動してくれたんです。見捨てることも、できたでしょう?」


「乗りかかった船だし、そういう中途半端なことはしたくないんだよ。それに、さっきも言ったけど、あなたはエルゼと似てるんだよ。賢者だということもそうだし、性格もね。その、楽観的なところとか」


「いいですね!楽観的!人生は楽しんだの勝ちです。いくら楽しめるかで、全く後味が異なりますからね」


だてに人生二周目ではない。

一周目の最期は、覚えてないけど、前世の記憶を思い返した時、悪い気持ちにはならないから、きっと私は前世の人生を謳歌した。楽しんだのだと思う。

色んなことがあった。腹立つことだって、何なら職場では二日に一回は厄日だ!!!!と思うことはあったけど。人間関係にも悩まされたし、呪ってやろうかと思うひともいたけれど。

それでも、それを含めて充実していたように思う。


「クヨクヨして、悩んで、気に病んで、考え込んで、時間を無駄に浪費するくらいなら、開き直ってパーッと生きちゃう方が、楽しくないですか?」


少なくとも、私はそう思っている。


計画性がないと言われたら確かにその通りなんだけど。だけどそのリスクを取ってでも、私はあの窮屈なファルナー家の部屋から抜け出したかった。

私のあまりの呑気さに、テオは眉を下げる。あ、困った子を見る目だ。保育園で保育士さんが、困った園児を見る目だと思った。


テオは、しみじみとした声で言った。


「なんかさ、エレインを見てると……全部、どうでもよく見えてくるよ。オレの考えていることも、取り巻く環境も全て、取るに足らないことのように思えるから──」


能天気だと言われているのだろうか。

スヤスヤ寝ている飼い猫を見ていると、悩み事がばからしく思えてくる、あの現象だ。


(なんだか、テオが悩んでいたようだから励ましのつもりで言ってみたけど……)


逆効果だったらどうしよう。


『あなたは悩みがなさそうで羨ましいわね〜。悩み事とかないでしょ?(笑)』と言われた前世の過去を思い出す。


私にだって!!悩みはある!!


あまり深く考えない質だからか、寝たらだいたいの怒りは忘れてしまうからか。残念かつアホの子みたいな言われ方をしてきたけれども!!


そう思っていると、テオがふ、と笑った。破顔するように。

取り繕った、いつもの貼り付けた表情ではなく──思わず、零れ落ちた。そんな笑みでテオが笑って言った。


「エレインは、すごいよね」


本編開始からまだ一週間しか経ってないって信じられますか、私は信じられません。そしてPCだとやっぱりめちゃくちゃ書きにくくてスマホに戻ってきました。

PCの誤変換がえげつなく……

「の罹患者」→「乗り感謝」

「目で追い」→「愛で追い」と変換され頭を抱えました。誤字報告大変助かっています、ありがとうございます

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