表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【書籍化&コミカライズ】お幸せに、婚約者様。私も私で、幸せになりますので。  作者: ごろごろみかん。
三章:寓話の相違

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

89/100

一方、テール ④


そして──五日後。

本来、王都からセドアの街まで十日かかることを踏まえれば、恐らく軍馬をかっ飛ばしてきたのだろう。王都で顔を合わせて以来だが、アレクサンダーは疲れているようだった。

ジェームズ・グレイスリーの地下洞窟で何が起きたのは未だはっきりしていない。それどころかジェームズ・グレイスリー本人が黙秘を貫いているのもあり、調査は難航していると聞いている。

ともあれ、ジェームズ・グレイスリーが不穏な動きをしていたのなら地方司令官が気が付かないはずがない。恐らくライラック・ハワードも共犯だろうということで逃げられる前にと、既に彼は拘束されている。


不在になった司令官の代わりに指揮を執るのは、テールである。


全くの偶然ではあるが、今セドアで指揮をとれるだけの人間が彼以外いなかったのだ。また、テールは近衛騎士であり、かつ侯爵令息であることから代理を務めるには不足ないということで、ジェームズ・グレイスリーならびライラック・ハワードの尋問調査の指揮を執ることとなった。


姿を見せたアレクサンダーの髪や肩には雪が付着していた。


王都でも雪が降り始め、山間部では既にばかにならないほどの積雪量となっていると聞く。

馬を飛ばしてきた様子から見るに、アレクサンダーは最短ルートでこのセドアまでやってきたのだろう。最短ルートには、悪路もあったはずだ。

それこそ、山道を突っ切るような道のりもあったはず。


(それで、このやつれ具合か……)


なんて思っていると、アレクサンダーと目が合った。

彼は、ひとつため息を吐いて呼吸を整えると、確かめるようにテールに言った。


「僕が何を言いたいか、わかるよね?」


アレクサンダーは形ばかりの笑みを浮かべているものの、その目は全く笑っていない。

それに、テールは真っ向から言葉を返した。


「すべて、承知の上です」


「きみはさ、父上から待機命令が出ていたよね?」


「はい」


言い訳ひとつせずに認めるテールに、アレクサンダーは呆れたように肩を竦めた。


「それじゃあ何で、王都にいるはずのきみがここにいるのかな」


「それは──」


「命令違反だよ、テール・トリアム。罰則は覚悟している?」


「……は」


短く言葉を返すテールに、アレクサンダーはつまらなそうに彼を見る。それから、興味が失せたように言った。


「まあいいや。そんなことより、僕が派遣されたのはこの騒ぎの始末をつけるため。魔法協会の統括責任者としてやってきたわけだけど……それより、まずはエレインだ。彼女の目撃証言があったって聞いたんだけど、それはほんとうなのかな」


「それは事実です。エレイン・ファルナーという名前を聞いたと、住民から報告が入っています。それと──」


一緒に行動しているとみられる赤髪の男、エレインは足を負傷しているらしいと報告を付け加えると、アレクサンダーは難しい顔になった。


「その赤髪の男だけど──」


「はい」


「長髪だった?」


考え込むようなアレクサンダーの質問に、テールは目を見開いた。


「……その通りです」


「じゃ、そっちは無視していいよ。僕の手のものだ」


「は……」


唖然とするテールに、アレクサンダーが含みのある笑みを見せる。

出た、とテールは思った。この、何考えているのか分からない、だけど腹に一物あるようなこの笑みが、テールは非常に苦手だ。

というか彼は、裏表のある人間自体が苦手である。

アレクサンダーはその手のタイプの代表と言っていい。


アレクサンダーは続けて、テールに言った。


「報告書、ある?」


今更ながら着てきた外套を脱ぐと、アレクサンダーは近くにあった皮張りの椅子にかける。問われたテールは瞬きを繰り返しながらも、頷いて答えた。




まとめておいた報告書にざっと視線を走らせると、アレクサンダーが言った。


「ねえ、きみ」


「はい」


「お前がセドアに来たのはあの子を探すためだよね?それならこの一週間、何もしていなかったはずがないよね」


流石にそんな無能じゃないだろ、という言外のメッセージが聞こえてくるようである。


テールは悟った。

アレクサンダーは恐らく性格が悪い。


いや、王子だから、だろうか。

生まれた時からひとの上に立つことを定められた人間だからこそ、ひとに命令しなれている。当然だ。それでいて、本心を見せないように振る舞っているから、テールとしてはやりにくいことこの上ない。

王女とはまた別のベクトルで癖があると思った(不敬なので決して口には出さないが)。


テールはハワードから受け取った目撃情報を集めたリストをアレクサンダーに渡した。


それから、エレインの目撃証言を得てからずっと考えていた推測を口にする。


「エレインは……彼女は、攫われたのでは?」


いつもスマホで書いているのですが急に書きにくくなって、めちゃくちゃ久しぶりにPCで書いています。

テールsideのお話は④までで、次からアレクサンダーのお話になります。

書籍1巻は12/26発売、コミカライズは既にパルシィから連載開始しています。

よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ