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【書籍化&コミカライズ】お幸せに、婚約者様。私も私で、幸せになりますので。  作者: ごろごろみかん。
三章:寓話の相違

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エレインに似てるひと

「地図?」


「そう。賢者の伝承は、各地で異なるけど──。恐らくエルゼは、生贄に捧げられた可能性がある」


「…………ハッ!?」


賢者の伝承。確かアーロアでは王家こそが賢者だった、というもので。アルヴェール……アルヴェールは──


『大昔、賢者と呼ばれる人間がいた。賢者は、各地に生まれ、彼らは国を救う使命を背負わされた。やがて時期が来ると、彼らはその力を人々のために役立て、世界には平和が訪れた』


供物の伝承は、アルヴェールにはなかったはず。


そう思って顔を上げると、テーブルの上には世界地図と、点々と記された✕の印が目に入った。それに、言葉を失う。これはどう見ても。


「わあ、宝の地図みたいですね。王子様の場合、このお宝は妹君ってわけですか」


「アーロアにいたのは、妹を探すためだよ。……で、これでオレへの疑いは晴れた?アンタ、飼い主に報告したんだろ。不法入国者がいる、って」


テオが問い返したのは、ファーレだ。

ファーレは膝を立てて座ると、その上に顎を置き「んー」と唸った。それから私に視線を向ける。


「オレが交わした魔法契約は、エレイン・ファルナーの居場所を密告できない、というものです。まあ、あんなもん、建前(パフォーマンス)で実際のところ効力はないだろ、と思ったんですよー。それが、ですよ?」


「なるほど、ちゃんと魔法契約は発動していたわけね」


あんな中途半端──いや、本当に中途半端もいいところよ!?

テオの正体が明るみになった今、心底そう思う。


「かたや、本名の一部、かたやその場でつけた名前……どう魔法契約が発動するかずっと気になってたのよ。良かったー、ちゃんと発動したのね。さすが私!私が手がけたからこそ、中途半端な情報でも魔法契約が締結されたのね!」


だてにこの十年以上、独学で学んでいない。

さすが私!魔力がなぜか消え失せて魔法を使えなくなっても、培ってきた知識は消えない!!

私は誇らしい気持ちで何度も頷いた。


一方、自画自賛する私に、男性陣はしらーっとしている。

それに構わず、私は話を戻した。


「で、私の居場所に密告は難しいから、テオを?」


「ま、そゆことです」


短くファーレは纏めた。

それから、無造作に足を組むと、手を組んで頭の後ろに回した。完全にくつろぎモードである。


「俺が覚えているってことは、超!重要人物ってことですよ。ここで逃がしたら後から悔やむかもしれないじゃないですか」


「確かに、実際、テオはアルヴェールの王族だったものね……」


確かにファーレの言葉には一理ある。

ふむふむと頷いていると、そうですそうですとでもいいたげにファーレもまた頷く。


「俺、仕事の失敗に繋がりそうな可能性は、芽が出ないうちに摘んでおきたいタイプなんです。死にたくないんでね」


「へえ、意外と慎重なのね」


「だから生き延びてるんですよ。これでも命は惜しいんですよ、仕事終わりの酒は美味いですから」


「生への執着が、まさかの食。気持ちはわかるけど」


インタビュアーと芸能人のようなやり取りを繰り返しながら、私は「それで?」とインタビュアーさながら質問を繰り出した。


「あなたの雇い主には届いたわけ?というか、実際、あなたって今何考えてるの?」


「ええ、それ聞いちゃいます?」


「ええ?聞いちゃだめなの?でも聞くわよ。聞いておいた方が今後のためになるもの」


正直に口にすると、ファーレは「あー」とも「うーん」ともつかない声で悩み始めた。

回答を引き出すまでに時間がかかりそうなので、インタビュアーからリポーターに様変わりした私は、テオに視線を向けた。


「テオは、妹さんを探してるのよね?」


私の質問に、テオが頷いて答えた。

私は口元に指を押し当てて、先程思い浮かんだ疑問──えーと、何だったかしら?


さっき、あら?と思ったんだけど……!


数秒考え込んでから、思い出す。


(そうだわ、確か……)


私は顔を上げてテオに尋ねた。


「賢者を供物にする……っていう伝承は、確か他国に伝わるものよね?アルヴェールでは、ぼかされて──曖昧な内容だったはずよ。それなのにどうして」


私の言葉を引き継ぐようにテオが口を開いた。


「最近、瘴気が妙に広がるようになった、という話は以前したと思う」


「ええ、聞いたわ」


「そっちでも被害が広がっているようだけど……アルヴェールはもうずっと前から、瘴気に汚染されていた。つまり、既に手遅れに近い状況にあるってことだ」


──手遅れ。


思い出すのは、テオのお母様だという第二夫人。


(彼女は魔力欠乏症で亡くなった……エリザベス殿下と同じ、症状)


アーロアより、アルヴェールの方が瘴気の広がりが早く、そのために症状の進行が早まった?


(それなら……瘴気は北から広がってる?)


考え込んでいると、テオが先程の私の質問に答えるように言った。


「今、アルヴェール内で水面下で大問題になっている。あのひとは、何をどうしてもこの問題を片付けたいんだよ。そこで、国内の学者をかき集めて、藁にもすがる思いで賢者と瘴気の伝承を調べさせて──各国に散らばる寓話を手当たり次第に当たることにした」


「まさか」


「そう。エルゼは生まれつき魔力が豊富だった。オリジナル魔法を生み出し、高難易度魔法すらもいとも簡単に使ってみせた。魔法を使う彼女はとても楽しそうで──」


ほんの、少し。

気のせいかと思うほど、僅かにテオの声が柔らかくなる。それに気がついたのは私だけではなかったらしい。静かにテオの話を聞いていたファーレまでもが、目を細めてテオを見ていた。

それに気がついたのか、あるいは今話すことでもないと判断したのか。そこでテオは言葉を止めた。


「いや、とにかく。そういうところが、よく似ている。エレイン、あなたに」

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