表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【書籍化&コミカライズ】お幸せに、婚約者様。私も私で、幸せになりますので。  作者: ごろごろみかん。
三章:寓話の相違

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

82/100

人の事情はそれぞれ

(……そういえば、テオが答えるまでに間があった)


だけど、テオの声は、言葉は、嘘をついているように見えなかった。だから私も、嘘を言ってはいけない、と思ったのだ。

テオの音は、自然に聞こえたし、言い慣れているようにも見えた。するりと出てきた言葉に、嘘だとは思えなかったのだ。


(全くの偽名では、なかった)


それが分かって、ホッとした。


(…………よ、良かった〜〜〜〜!!)


このひとは嘘を吐いてないように見えるから、私も誠実でいなければ!とか思って、私も咄嗟に本名を口にしたのだ。

これでテオの名前が偽名だったら、完全に私だけ分かった気になって、勘違いしているアホ女だった……!!


私の直感が当たっていたことに、とりあえず私は胸をなでおろした。

そうしているうちに、テオはさらさらと文字を書き付けていた。

見ればそれは──


「家系図?」


アルブレヒト三世、と書かれており、その下には線が五本伸びている。


その内の一本に、テオ、と書かれていた。本名はロイのはずだけど、これはこの場ではテオとして説明するらしい。


「もう既にアーロア領を出ている。それにオレも、アルヴェールに着いたら説明するつもりだった。アルヴェールに入ってしまえば、ひとまずどうとでもなる。アーロアで不審者扱いされて捕まる心配性もないしな」


「……………」


ファーレはそれに目を細めていたが、何も答えなかった。

テオの書き付けた文字の中、五本の線が伸びた先には、それぞれ上からゲイル、フレッド、テオ、エルゼ、ルカと書かれている。

テオの他に書かれた名前は、恐らくテオの兄弟姉妹ということなのだろう。

確認するように私は彼に尋ねた。


「ご兄弟?」


「そう。ゲイルは一番上の兄で、王太子。フレッドは二番目、で、三番目がオレだよ」


「ふーん」


王太子の名前は知っていたし、二番目の王子の名前も知っていた。なぜなら、そのふたりは王妃の子だから。

だけど、隣国の王はなかなか好色なのもあり、子供がわんさかいる。婚外子や庶子も含めたら、両手の数では恐らく足らないんじゃないかしら。

相槌を打って聞いていると、ちらりとテオが私を見たのがわかった。

それに、首を傾げた。


「何かしら?」


「興味無さそうだね」


「え゛っ!!」


濁音付きの声が出た。


興味無さそう!?に見えた!?思わず頬に片手をベタッと当てる。


いや別に、つまらないわけじゃないのよ!?


ただ、そう。


ただ──


「そんなことないわよ!ほら、なんて言うのかな。テオにも色々あるんだなーって思って。よく言うじゃない!」


そう、ただちょっと、びっくりしていたのだ。

私は顔を上げて、人差し指を立てた。力説するようにテオに言う。


「一歩外を歩いてみたら、たくさんのひとがいるでしょう?でもみんな順風満帆そうに見えて、それぞれ背負っているものがあるっていう……アレよ!他人の芝生は青く見える……じゃない!垣根の向こうの芝は常に青いって言うやつ。みんな、人それぞれあるんだなって思っていただけ」


「ふぅん。まあいいけど」


それこそ、テオの方が興味なさげに答えた。


いいんかーい。


なんなんだ、このひと。

なんなのよ、このひとたち。


掴みどころのないテオと、恐らく意図して言葉を濁すファーレの相手に、私は疲労感を覚えて、だらんと背もたれにもたれた。


「なんなのよー」


間延びしたちいさな声を出すと、私たちの話を聞いていたファーレが相槌を打つ。


「確かに、街で通り過ぎたひとにもそれぞれの事情があって、それぞれの人生がありますよね。最悪の生活をしているやつもいれば、最高の生活をしてるやつもいる」


何だか噛んで含むような言い方をするファーレに、私はゆっくり身を起こした。


「……まあ、最悪な生活に見えて中身は最高かもしれないし、最高に見えて、蓋を開ければ最悪ってパターンも、あるかもしれないけどね」


「そうですね。で、テオの自己紹介の途中でしたね。続けてください」


話を振られたテオは相変わらず何を考えているか読めない。無表情というか、このひとはあまり表情が変わらない。わかりやすい時もあるけれど、こういう時は本当に、何を考えているか分からない。

ポーカーとか得意そうである。羨ましい。


どうでもいい、取るに足らない話をする私たちに話の腰をおられたテオだったが、変わらず説明を再開することにしたようだ。良かった。話す気が失せたとか言われたらどうしようと思ったのよ。


「あんまりアルヴェール(こっち側)の事情を長々と説明してもエレインも困るでしょ」


「え?そんなことないわよ。むしろ私は有難いけど」


テオは『はぁ?』という顔をした。あ、今のは分かりやすかった。

私は首を傾げると、自身の頬に指を当てて、テオに答えた。


「恩返しできる、チャンスだもの」


「ええー……」


顔にガッツリ『期待してない』と書かれている。


わー、こういう時はわかりやすいのにね!!ほんとに!!


ため息を吐くと、テオは手短に説明した。彼の事情、とやらを。


「オレの目的は、いなくなった妹を探すこと。妹は多分、あなたと同じ賢者だ」


「……………えっ?」


「おおー、そう来ましたか」


それぞれ対象的な反応を返す私とファーレに、テオは続けてベルトポーチから何かを取りだした。筒状に丸められているそれを、テオがおもむろにテーブルの上に広げる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ