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【書籍化&コミカライズ】お幸せに、婚約者様。私も私で、幸せになりますので。  作者: ごろごろみかん。
三章:寓話の相違

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つまり、ピンチです



現時刻:四時五十分


「ベースさえちゃんとしてれば何とかなる!!こういう時に大切なのは焦らない精神よ!!」


そう言いながら私は、化粧水を手にファーレの顔にそれを塗たくっていた。目下一番、早急に支度を整えなければならないのはファーレと私である。


(私の方は、髪の色を変えれば済むだけの話だけど……!)


問題は工程数の多いファーレである。

しかも今は、昼のように化粧にかける時間が無い。時短メイクで整えることにした私は、ファーレの化粧水が馴染むまでの間。私も自身の髪を染めることにした。

染粉を手にしながら、私はふと思いついたことを口にする。


「そういえば、さっきのことだけど」


「何ですか?」


待ち時間のため、手持ち無沙汰なのだろう。

ファーレはテオと同じように荷物の確認をしながら聞き返してくる。

それに、私は口元に指を当てると彼に尋ねた。


「あなたが言いかけてた言葉って結局、何だったの?」


「…………いつの、どのタイミングでの話です?」


それを言わなきゃ分かんねーよ、とでも言いたげにこちらを見る。確かにその通りなので、私は補足するように言った。


「ほら。『いやもう現時点でかなりの騒ぎになってますし』の後の言葉よ」


そう言うと、その時のことを思い出したのだろう。ファーレは「あー」と言いながら顔を上げた。


「それなら、あれですね。確か

『そもそも騒ぎを前提としてるので今更ですよ』

……みたいなことを言おうと思ってたんですよ』


「ああ、あの爆弾?」


「それもあります」


それ、も?

ハッキリとしない回答だけど、ひとまずその辺りの話は後で、無事船に乗れたらでいいか、と考える。

私はファーレを手招きすると、肌の様子を確認した。


「……よし。いい感じに馴染んだわね!次は下地と白粉ね。時間もないし、薄化粧でいいかしら」


クリームを手に取りながら尋ねると、ファーレが思い出すように言った。


「そういえば昼間のあれ。時間がかかった割には、厚化粧に見えませんでしたね」


ファーレに言葉に、私は深く頷く。


ナチュラルメイク(薄化粧)に見せるのって、すっごい手間暇がかかるものなのよ……」


下手に色々塗ると厚化粧の出来上がりである。

そのため、ピンポイントで使用すること、そしてとにかく、肌との密着具合、つまり馴染ませることが大切だ……と、私は思っている。

今世こそ貴族の生まれだけど、前世は一般家庭出身だったので、前世ではもちろん、化粧を自身で施していた。


(……冬はとにかく乾燥するのよね。化粧前にどれだけ化粧水と保湿を仕込むかで出来が全く違ってくるのよ)


冬は乾燥、夏は発汗で苦労させられるのよね〜〜!!

つまり、ほぼほぼ年中苦労していた。


だけど、それでもお化粧は魔法のようでやっぱり楽しい。工程を踏む度に、少しずつ変化があって、トレンドを追うのも楽しかった。


……今世でも、化粧品を収集したいし、流行りのトレンドメイクを研究したりしたい。

ふと思いついたことに、私はため息を吐いた。


(……どちらにせよ、そういうのは落ち着いたら!の話ね)


ひとまずは亡命が最優先だ。そのため、やりたいこと、したいことを考えるのは後。

そう考えた私は、白粉でファーレの顔を白くしていった。




現時刻:五時


「……よし!出ましょう!!」


急いで身支度を整え、(主にテオが)荷物を纏め、準備完了だ。

懐中時計を確認すると、五時を回っていた。


(ものすごいギリギリ!!)


ここから港まで、十分程で到着する予定だけど、道中何があるか分からない。

こういう焦ってる時に限って、トラブルは起きるものなのよ……!!


例えば、定期を忘れたり、スマホを忘れたりね!!

これは私の前世の体験談だけど!!


(思い出すわ……!)


主に、朝の通勤電車に遅刻しそうな記憶を……!!


(朝の1分でってめちゃくちゃ時の流れが早いと思うのよね!)


朝の一分は夜の十分に相当すると思う。


テレビで時間を確認しながら、バタバタ家の中を走り回り


「火の元……よし!ヘアアイロン……よし!定期……持ってる!スマホ……ある!」


と声をかけしていた日々が懐かしい。


(結局、猛ダッシュをキメる羽目になって……駅まで走ったせいで口の中が血の味になるまでがワンセットなのよね……)


懐かしい日々だが、思い出したくない記憶でもある。

あっ、(全速力で走ったことによる)脇腹の痛みまで思い出してきた。

学生の時の長距離走も嫌だったわ〜〜!!


嫌なフラッシュバックを体験していると、その時、階下から足音が聞こえた。



「──」


その音に、反射的に顔を上げる。

なぜなら、その足音、というのは(二階のここまで聞こえてくるのだからとうぜんだけど)コツコツ、とかそういう静かなものでは無かったからだ。

むしろ、ドタドタドタ、という物々しい足音。


そう。まるで、誰かが階段を駆け上がっているような──。


見れば、テオは鋭い視線を扉の外へと向けていた。

ファーレもまた、静かに扉を見つめている。


足音はどこを目指しているのだろう。


(もしかして……)


この部屋!?


警察は早朝にやってくるって聞いたことあるもの!!


そこで、私はゆっくり首を傾げた。

染めた髪がさらりと肩から滑り落ちる。


私は、へらりと乾いた笑みを浮かべた。

もはや笑うしかない。


「えーと。……もしかして、ピンチ?……ってやつかしら?」


にっこり笑う私に、テオがこちらに視線を向ける。

それから、ゆっくり彼は頷いて答えた。


(Oh!!No!!)


フラグ??フラグ回収完了ってことなのこれは!?

でも私の懸念したトラブルって、こういうのじゃなくて忘れ物とかそういうので、つまりこれは完全に予想外!!


私は思わず天を仰いだ。



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